一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第53話 カンサツ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸が、ふと異様な光景を見たのは昼休みの事だった。

隠れているつもりなのだろうか、草の絵が描かれた段ボールからぴょこっ、顔を出して何かを見つめている二人の少女。

 

それを見た瞬間、陸は立ち止まり、目を点にしてその光景を眺めていた。

 

二人の少女は何やらこそこそと話しているようだが、こちらの方には良く聞こえてこない。

 

 

(…もう一人はわかんねえけど、あの子、春ちゃんだよな?)

 

 

ここで陸は、二人の少女のうち黒髪の少女が春だということに気付く。

 

陸はまだこちらに気づいていない少女たちの後ろまで歩み寄り、しゃがんで顔の位置を合わせてから小声で話しかけた。

 

 

「なぁ、何やってんの?」

 

 

「うひゃぁっ」

 

 

直後、可愛らしい叫び声が春の口から飛び出した。

即座に春は振り返って陸の顔を見る。

 

 

「い、一条先輩…。こんな所で何やってるんですか?」

 

 

「いや、それこっちのセリフ。こんな怪しい格好して、何やってんの」

 

 

春が陸に問いかけるが、それに関しては陸が聞きたいことである。

段ボールなんか持ってきて、何をやっているのか春に聞くが、先程春ともう一人の少女が視線を向けていた方を見ると、そこには小咲と話している楽の姿があった。

 

 

「…あぁ、なるほど」

 

 

察する。春は楽を監視していたのだ。

ただ、どういう経緯でもう一人の少女がここにいるのかはわからないが。

 

 

「…春。今、一条先輩って…」

 

 

「あ、風ちゃん。この人は一条陸先輩。一条楽先輩の双子の弟なの」

 

 

「ふ、双子?」

 

 

(…春ちゃんと会ってから思ってたけど、集英組の息子が双子ってことはあまり知られてないんだな。後、俺よりも巷では楽の方が有名みたいだし)

 

 

陸の思っている通り、現に風ちゃんと呼ばれた少女は目を丸くしてこちらを見てきている。

恐らく、楽の存在は知っていたが、陸については全く知らなかったのだろう。

 

 

「一条陸です。えっと…」

 

 

「あ、私は彩風涼といいます」

 

 

「彩風さん…も、楽が気になってあいつの行動覗いてるの?」

 

 

「風ちゃんって呼んでください。皆にそう呼ばれてますから。…はい、本当に春の言う通りの人なのかなって」

 

 

風ちゃん、本人が良いと言ってくれたため今度からはそう呼ばせてもらおう。

風ちゃんも楽のことが気になったらしい。まぁ、見ている限り春とはかなり仲のいい友人だと思われるため、春が楽に抱いている評価は耳に胼胝ができるほど聞かされているのだろう。

 

 

「って、こんな話してる場合じゃないですっ。あの人を止めないと…!」

 

 

「まぁまぁ、もう少し様子を見ようよ」

 

 

ここで春が、楽に話しかけられている小咲の事を思い出し、楽を止めようと立ち上がろうとする。

だが、そんな春の手を掴んで風ちゃんが宥めている。

 

…この二人の関係性が少しわかった気がする。

 

 

「あ、風ちゃん。あの人だよ、一条先輩の彼女」

 

 

「あの人が…、凄くきれいな人だねぇ…」

 

 

「…」

 

 

そこに、楽に歩み寄ってくる千棘を見た春が風ちゃんに千棘についてを教えているのだが…、春が陸と楽のどちらも一条先輩と呼んでいるせいか、陸の胸に何か大きな違和感がのしかかる。

 

別に、自分には彼女なんていないのだが…。

 

 

「あ、今度は男の人が来たよ?」

 

 

「わっ、誰だろ~。凄いイケメンだね~」

 

 

「…」

 

 

次に来たのは鶫。何かプリントを見せながら楽に話しかけているようだが…、やはり初めて見る人には男と間違われてしまう様だ。後で二人に本当の事を教えてあげよう。

 

 

「あ、また女の人が」

 

 

「げっ、あの人は…!」

 

 

「あ、押し倒された」

 

 

さらにやってくるのは万里花。万里花は勢いよく楽に抱き付き、楽はその衝撃に耐えきれずに倒れてしまう。

 

 

「…何か凄い撃たれてるんだけど」

 

 

「…」

 

 

すると、鶫がすぐさま拳銃を取り出して楽に向かって発砲する。

唖然とする春と風ちゃんだったが、救いなのは鶫が撃っているのが実弾ではないという事である。

 

 

「あ、お姉ちゃんどっか行っちゃった」

 

 

「…」

 

 

風ちゃんは目を点にしてその光景を眺め、春ちゃんはショックを受けているような、呆然としながらその光景を眺めている。

 

風ちゃんはどうかわからないが、春としては楽の本性を暴こうとしていたのだろう。

その結果が、あれである。

 

 

「これ、春が邪魔する必要あるの?」

 

 

「…どうなんだろ」

 

 

春の心の中ではきっと、色んなものがグルグルと回っているのだろう。

楽が色々して、たくさんの女の子を侍らせ居る所を証明しようと出てきた矢先、あれだ。

 

 

「春ちゃん、楽のまわりはいつもあれなんだ。…あの光景を見て、春ちゃんは楽が女の子を侍らせてるって思った?」

 

 

「…いえ。…でも、まだ少し見ただけです!」

 

 

少し春の中で楽への評価が揺らいでいるようだが、やはり先入観が深く刻まれているみたいだ。

陸が春に言い聞かせてみるも、春の気持ちはまだ変わらないようである。

 

 

「あら、春じゃないの。あなた、同じ高校だったのね」

 

 

「あっ、るりさん!お久しぶりです!」

 

 

すると、こちらに歩み寄ってくる少女、るりの声が三人の頭上から聞こえてきた。

るりは春、風ちゃんを目をやって次にるりを見上げる陸の顔を見る。

 

 

「一条弟君?あなた、春と知り合いなの?」

 

 

「知り合ったのはつい最近だけどな。まぁ、少し話す程度の中にはなってるよ」

 

 

少し驚いたように、るりの目が僅かに見開かれる。

小咲の妹である春と、いつの間にか陸が親しくなっていたことに驚いているのだ。

 

 

「るりさん!一条先輩…、一条楽先輩ってどんな人なんですか?教えてほしいんです!」

 

 

「…?」

 

 

「…」

 

 

春が、陸に何か言おうと口を開きかけたるりに問いかける。

るりは視線を春に移してから、再び陸に視線を移す。

 

 

(…私の印象を言っていいのかしら?)

 

 

(おう。どんと言ってやれ)

 

 

二人の間には、アイコンタクトでこういう会話が行われていた。

会話が終わると、るりは春に視線を戻して口を開く。

 

 

「そうね…。一言で言えば、鈍感屑野郎…と言った所かしら」

 

 

「ぶった切ったなおい…」

 

 

確かに思い切り言ってくれと許可は出したが、まさかそこまで弩ストレートにぶちかますとは思わなかった。

 

その結果…、案の定、春の表情が険しくなっていく。

 

 

「…やっぱり悪い人なんだ」

 

 

「でも春、あんたは余計なことしない方が良いわよ。…というか、する必要がないって言った方が正しいか」

 

 

「なっ、何でですか!?だって、お姉ちゃんが…!」

 

 

先程、楽の辛辣な評価を口にしていたるりが突如そんなことを言いだしたのを春は信じられなかったのだろう。

目を見開いてるりを見上げ、その真意を問いかける。

 

 

「あなたは小咲のことを心配している様だけど…、大丈夫。一条兄君はあなたが心配しているようなことは絶対にしない。むしろ…」

 

 

「?」

 

 

…何でるりはこちらを向いているのだろう。

疑問に思いながら陸は首を傾げる。

 

 

「ともかく、一条兄君のことは放っておきなさい」

 

 

「…」

 

 

最後にそう言い残してるりは去っていった。

その時の、るりの後姿を見ていた春の顔が陸の中で印象に残っていた。

 

何度も何度も思わされているが、やはり春は姉のことを…、小咲のことを大好きなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迎えた放課後。特に用事もないため、陸は鞄を持って早く帰ろうとしていた。

楽も小咲も千棘も鶫も万里花もるりも集も、同じクラスにいながらさらにどうやら同じ班になったおうで、今週は掃除当番に割り当てられているらしい。

 

今日はさっさと帰って、ゲームでもするかと、家で何をするかを考えながら廊下を歩いていた陸。

 

 

(…喉渇いた)

 

 

ふと、自分の喉が飲み物を欲していることに気付き、すぐそこに位置していた中庭にある自販機へ向かう。

 

陸は歩きながら鞄から財布を取り出し、百円玉を取って自販機の中に入れる。

 

 

「「あ」」

 

 

その直後、自分と同じように小銭を自販機に入れようとしていた少女の存在に気が付いた。

 

 

「…どうぞ。一条先輩の方が早かったですから」

 

 

「わ、悪いな春ちゃん」

 

 

その少女とは、春。春は少し冷たい口調で陸に言い、陸はその言葉に甘えて何を飲むかを選ばせてもらう。

 

 

(…抹茶ラテにしよう)

 

 

陸は抹茶ラテのボタンを押し、自販機の中から出てきた抹茶ラテのカップを取り出す。

 

そして次は春の番なのだが…、小銭を入れ、ボタンを押そうとしていた春の手が不意に止まった。

陸が不思議に思って見てみると、春の指の先、抹茶ラテのボタンなのだが、陸が買った分で売り切れてしまったのだ。

 

 

「…どうぞ。俺、他の飲むからさ」

 

 

別に絶対に抹茶ラテを飲みたいという訳でもなかったため、躊躇わずに陸は抹茶ラテを春へと差し出す。

 

 

「あ、ありがとうございます…。これ、代金です」

 

 

だが春はどうやら抹茶ラテを飲みたかったようで。陸からカップを受け取り、自販機から取り戻した百円を陸に差し出す。

 

 

「いや、別にいいよ」

 

 

「私がそれじゃ嫌なんです。それに、先輩に借りを作りたくありませんし」

 

 

「…」

 

 

少しは評価は上がっているとは思うが、やはりまだ評価はマイナスの域のようだ。

 

春がそう言うんじゃ仕方ない。こういう時はむしろ受け取らないと逆にさらに相手を嫌がらせてしまうだろう。

陸は春から小銭を受け取り、折角だからここで使わせてもらうことにする。

 

 

(…あ、ファンダ。量は少ないけど、入荷したんだな)

 

 

陸は自販機のボタンを押し、出てきたペットボトルを取り出してキャップを開け、呷る。

口の中で炭酸特有のぱちぱちする感覚を楽しみながら少しずつジュースを飲む。

 

 

「…昨日はごめんな」

 

 

「え?」

 

 

飲み口を口から離し、陸は言った。

 

この謝罪は、先日のバイトについての事である。

 

 

「急に邪魔してさ、驚かせちゃっただろ?…それに、俺が来てなかったら小咲と喧嘩なんかにならなかっただろうし」

 

 

陸の中で特にのしかかっているのは、春と小咲が言い争いになったことである。

あの原因は間違いなく自分。自分が来ていなかったら春と小咲は喧嘩することはなかったと陸は思っているのだ。

 

 

「別に…。あれは私のせいです。お姉ちゃんの気持ちも考えないで、あなたに色々言って…」

 

 

あれ?もしかして、謝ろうとしてる?春ちゃんが?

 

そう思いながら言葉を続ける春の横顔を陸は眺める。

 

 

「…変に優しい人ぶらないでください。確かにあなたのお兄さんよりはマシな人だと認識してますが、まだあなたのことを信用しているわけではないです!」

 

 

(…うん。これもヤクザの宿命なんだよな…、少し凹むけど)

 

 

仕方のない事とはいえ、やっぱり少し凹む。

 

 

「本当に…、世の中は広いですよね。あなたのお兄さんのような最低な人もいれば、私を助けてくれた王子様みたいな素晴らしい人もいて…」

 

 

「王子様?」

 

 

すると不意に、春が奇妙なことを言いだす。

 

王子様?助けてくれた?

 

 

(…あれ?そういえば俺、どっかで春ちゃんを見たことあるような気が…)

 

 

春の言葉を思い返すと、ふと春に既視感を抱く陸。

 

そして、思い出した。

 

 

(あ、そうか。春ちゃんってあの時の子だ)

 

 

この年度に入って最初の授業の日。登校中、女の子を不良から助けた。

その女の子が、春だったのだ。今まですっかり忘れていた。

 

 

「そうだ。もしかしたら先輩が知ってるかもしれませんね…。実は…」

 

 

そこから、春はあの朝のことをとてもこと細やかに説明を始めた。

 

頬を赤らめ、憧憬の念を隠さず曝け出しながら説明する春に、少し陸は恥ずかしくなってしまう。

 

 

「それで私、王子様の手掛かりを持ってるんです」

 

 

「…手がかり?」

 

 

呆然としながら春の説明を聞き流していた陸だったが、その単語に我を取り戻した。

 

手掛かりとは何だ?何か自分が落としたのだろうか?

特に失くしたものはなかったはずなのだが…。

 

 

(…そういえば、楽が騒いでたな。ペンダントを失くしたって)

 

 

「これなんですけど…」

 

 

陸は、春の取り出したものを見て大きく目を見開いた。

 

 

「あああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 

「わっ、何ですかいきなり!」

 

 

全てを思い出す。

 

陸が気を失った春を運んでいる途中、陸よりも遅れて家を出た楽に追いつかれたのだ。

そして陸は楽に自分のカバンを持たせ、楽と一緒に春を保健室へと運んだのだが…、恐らくその時に楽はペンダントを落としたのだろう。

その後、ペンダントは春の手へと渡って…。

 

 

「そ、それ。保健室に落ちてたんだろ」

 

 

「え…、そうですけど…。な、何で知ってるんですか!?」

 

 

「知ってるもなにも、俺が君を助けた王子様なんだよ。楽にも手伝ってもらったんだけど、その時にあいつそのペンダントを落としたみたいで…」

 

 

「はぁ!?」

 

 

春が素っ頓狂な声を大きく漏らす。

 

 

「王子様があなたなはずないでしょう!?嘘つかないでください!王子様は身長は確か百八十センチ以上で、顔はハリウッド俳優風で声も爽やかな声優さんのような人だったんです!私のかすかに残る記憶の中では!」

 

 

(い、イメージが美化されてる!?)

 

 

というか、そんな人がこの世界にいるのだろうか。何かしら一つは要素が欠けていると思うのだが…。

 

 

「あぁ、確かめる方法はある!だからもし俺がその王子様だったら、そのペンダントを渡してくれないか?」

 

 

「…あなたが、王子様だったら?」

 

 

ともかく自分が王子様だという事を証明するしかない。

ペンダントが楽、自分の近しい人の物だとわかれば遠まわしにはなるものの証明になるはず。

 

そう思って、陸は春に言うが…。春の様子がおかしい。

 

 

「もし…、もしそんなもしもが本当だったとしたら…。私は怒りのあまりこのペンダントを粉々にして投げ捨てます!」

 

 

(そ、そこまで!?)

 

 

改めて、何度目かの春の自分への評価の低さを思い知らされる陸。

…少しくらい信じてほしいのだが。

 

 

(けど、どうする?春ちゃんが持ってる楽への評価が地の底まで落ちてる以上、俺が何とかするしか…)

 

 

楽のペンダントなのだから、楽に任せればいいのでは?と一瞬考えた陸だったが、そんなもの結果は見えている。

春の言う通り、ペンダントは粉々に砕かれ投げ捨てられてしまうだろう。

 

どうにかして、自分にペンダントを渡してもらわなければ…。

 

 

「…やっぱり、あなたはそういう人だったんですね。昨日、私を助けてくれた時、少しは良い人なのかもしれないって思ったのに」

 

 

「え…」

 

先程の怒り溢れる様子とは打って変わって、ショックを受け、沈んだ様子で春が言った。

 

 

「もういいです。あなたには頼りません」

 

 

「あっ、ちょっと!」

 

 

最悪だ。評価が落ちるどころか、愛想まで尽かされてしまった。

春は陸に背を向けて去っていってしまう。

 

 

(あぁ、くそ!悪ぃ楽、ちょっと俺じゃどうにもなんねえわ…)

 

 

こうなったら仕方ない。少し狡いが小咲に事情を話して説得してもらおう。

さすがにこればかりは引き下がるわけにはいかないから。

 

 

「…あ」

 

 

陸は、去っていく春の背中を眺めていたのだが、その時春のすぐ横にある足場が不安定になっていることに気付く。

さらにそれだけではなく、不安定になった足場は春の方へゆっくりと傾いていくではないか。

 

 

「おい、あぶねえ!」

 

 

陸は春の方へと駆け出しながら、彼女に襲い掛かろうとする危険を伝える。

 

直後、足場が一気に崩れ、鉄パイプや足場に載っていたバケツなどが春に向かって落ちてくる。

 

春がそれに気づいたのは、その時だった。

呆然と自分に向かって落ちてくる足場を見ることしかできない春。

もう、今から避けようとしても間に合わないだろう。

 

彼女が最後に感じたのは、体全体を包み込むような暖かな感触だった。

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

 

目が、覚める。

赤い空が見える。白い雲が流れているのが見える。

 

 

(そうだ、私…。崩れてきた足場に潰されそうになって…、それで誰かに…)

 

 

「っ!?」

 

 

ここで春は飛び起きた。

 

生きてる。自分は、生きている。

足場に潰されたと思っていたのだが…、一体何が起きたのだろうか?

 

春は、自分に掛けられていた制服が誰の物か疑問に思ったその時。

 

 

「気が付いたか?」

 

 

「え…」

 

 

背後から男の声が聞こえてきた。

呆然としながら、振り返った春の目に見えたのは。

 

 

「一条先輩…」

 

 

先程、別れたはずの陸だった。

 

 

「あの、私…どうなったんですか…?足場に潰されそうになった時、誰かに…」

 

 

そこで、思い出す。

あの時、周りには誰もいなかったことを。

 

そう、今そこにいる陸以外。

 

 

「あ、あの…。先輩が助けてくれたんですか?」

 

 

「え?」

 

 

「…もしかして、やっぱり、先輩が…その…」

 

 

「っ」

 

 

考えられるのは、陸が自分を助けてくれたという事。

そして、先程は全く信じられなかったのだが…。陸が、自分が思っていた王子様なのだろうか?

 

 

「…いや、君を助けてくれたのは例の王子様だ」

 

 

「え!?」

 

 

だが、陸の口から出てきたのは春が考えていなかった答えだった。

 

 

「あっ、あの時の王子様が!?でも、何で先輩が王子様の事を…!」

 

 

「…実はな…。内緒にしてほしいんだけど、実はあいつは…」

 

 

春は問いかける。

あの時の王子様がここに現れたのだろうか。だが、もしそうだとしたら何で陸は王子様の事を知っているのだろうか。

 

陸の口から出てきたのは、とても重い、そして壮絶な王子様の背にのしかかる運命だった。

 

 

「裏の人間に命を狙われていてな(本当)、素性を隠して行動してるんだ(地味に本当)。俺とあいつは唯一無二の親友(というか同一人物)で、今あいつは俺だけが頼りでな。君に奴の事を話せば君にも被害が及ぶと思って(本当)…。そのペンダントもあいつの思い出の品でな。あまり人の目につかないようにしてくれると助かる…」

 

 

陸の本心など露知らぬ春。そんな春は、こんな言葉を…

 

 

「そ、そうだったんですか!?わ、私にも何か手伝えることはないんでしょうか!?」

 

 

(ア、アホの子がおる…)

 

 

簡単に信じてしまった。

陸の呆然とした視線に気づくことも無く、春は王子様の運命を憂い、そしてまた助けてくれたという事に喜びを覚える。

 

 

「そっか…、また助けてくれたんだ…!」

 

 

春はまだ見ぬ王子様を思い、また会えるように願う。

 

だが、そこでふと気づく。

 

 

「そういえば…。先輩、ずっとそこにいたんですか?」

 

 

「え…、あ、あぁ。あいつは君を助けてからまたどっか行っちまったからな」

 

 

やっぱり、自分にかけられた制服は陸の物だった。

 

あの時、まだ空は青く、今は空は赤い。自分が気を失ってから、陸は長い間そこで立ちっぱなしでいてくれたのだ。

 

 

「…制服、ありがとうございます。後…、さっきはあんな事言ってすいませんでした。やっぱり、少しはましな人だったんですね」

 

 

「ん…、まぁ、どういたしまして?」

 

 

制服を返しながらお礼を言い、そして先程ひどいことを言ったことに関する謝罪をする春。

 

 

「…照れないでください。不快です」

 

 

「…」

 

 

そして、照れながら頭を掻く陸に冷たい言葉を投げかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




取りあえず、春との絡みは一段落つきました。
次回からはまた小咲をバンバン出していきますよ!
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