一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第54話 プールデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プール掃除?」

 

 

「あぁ。明日なんだけどよ…、キョーコ先生に頼まれちまって」

 

 

すっかり夜は更け、陸は寝間着に着替えて寝る気満々の格好で布団の上で楽の話を聞いていた。

 

何やらキョーコ先生に頼まれ事をされたみたいで、ホームルームで彼女がその事についていう事は忘れていたらしく、丁度最後まで教室に残っていた楽にそれについて頼んだらしい。

 

 

「なるほど…。それで俺に泣きついてきたと」

 

 

「なきつっ…、いやまぁ手伝ってほしいのは本当だけどよ…」

 

 

「で?他に声かけた奴は?」

 

 

「…」

 

 

「…おい、まさか」

 

 

少し楽と言葉を交わした後、陸は自分以外の誰に声をかけたのかを楽に問いかけた。

だが、返ってくるのは沈黙。

 

 

「集…」

 

 

「…だけ?」

 

 

そして沈黙の後、楽の口から出たのは集の名前。

陸は他に人はいないか問いかけるが、楽は無言で頷く。

 

どうやら楽が呼べたのは陸と集だけのようだ。

 

 

「何で…」

 

 

「ほ、他の奴らにも声はかけたんだ!でも…、めんどくさいって…」

 

 

「…はぁ」

 

 

楽にはあまり人望がない様だ。

陸はため息を吐き出しながらその事を実感する。

 

 

「俺と楽、集の三人じゃ大変だろ。とりあえず片っ端から知り合いに連絡とるぞ」

 

 

「し、知り合いって…」

 

 

「小咲とか千棘とか…、そこら辺の奴らに手伝ってもらえるか聞くんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、困り切って私に泣きついてきたと」

 

 

「…どっかで聞いたことのあるセリフだな」

 

 

暖かい陽の光が射す中、プールサイドには髪を二つに結い、水着の上にパーカーを羽織った千棘が腰を下ろしていた。

 

 

「でも、プール掃除って何かワクワクするわね…!」

 

 

「前向きだなおい…」

 

 

「それで?私の他には誰に声かけたの?」

 

 

これまたどこかで聞いたことのある問いかけを千棘がしてくる。

 

 

「とりあえずお前の他のいつものメンバー。後、男子中心に呼びかけたんだがこいつら以外軒並み断られてな…」

 

 

「あんた、人望ないわね」

 

 

千棘の呆れた目の先には、楽の他に陸と集の二人が立っていた。

 

 

「いやー、女子の面子を教えてやればみんな集まったろうに…」

 

 

「人の事ダシに使えるかよ…」

 

 

集が、間違いなく大勢の男子が集まるだろう提案をするのだが楽はそれは出来ないと否定する。

 

陸は内心で集の言う通りにすれば皆集まるだろうと確信するが、他のメンバーをダシに使わなかった楽を褒めていた。

 

 

「陸君!」

 

 

すると直後、更衣室の扉がある方から陸を呼ぶ声が聞こえてきた。

陸たちが振り返ると、小咲が、春が、るりと風ちゃんが、それぞれに似合った水着の上にパーカーを羽織ってこちらに向かってきた。

 

特に、小咲と春の手にはバスケットが握られている。

恐らくその中には、小咲が買って出て、そして春が作ったお昼ご飯が入っているのだろう。

 

 

「お待たせ!今日はよろしくね?」

 

 

「悪いな、昨日は遅くに電話かけて」

 

 

「ううん、困ったときはお互い様でしょ?」

 

 

陸と小咲が挨拶を交わしている中…、陸はこちらを目を細めて睨みつけている春に勿論気が付いていた。

…いや、睨みつけているというより何か品定めをしているような、そんな眼だ。

 

 

(何だ…、何か気持ちに変化でもあったのか?)

 

 

先日までの春だったら問答無用で陸と小咲を引き離しにかかっていただろう。

しかし今日の春はそれをしない。ただ、陸を見つめ続けるだけ。

 

そしてこうしている間にも、陸と楽が呼んだメンバーが次々にプールサイドにやって来た。

鶫、万里花。そして鶫が呼んだのだろう、ポーラ・マッコイ。

万里花が到着した時、彼女と千棘に軽く一悶着はあったが、楽が取り直して皆で早速プール掃除を始める。

 

まずプールに足首が沈む程度の量の水を浸し、楽と集が持ってきたブラシでプールの床をゴシゴシと擦る。

 

その時、陸と楽が洗剤をプールの床にばら撒く。

一通り床全体に洗剤を塗ると、二人はすぐにブラシを握って皆と同じように床を擦り始める。

 

 

「…この光景、ビデオにして売り出せば儲かると思うんだ」

 

 

「止めとけ、敵に回すと恐ろしい奴ばかりだぞ」

 

 

いつの間にか、気づけば女子達は掃除を止めて遊び始めていた。

何故だろう、女子達のまわりが輝いて見えるその光景に、集がぽつりと呟き楽が即座にツッコミを入れる。

 

 

「おーい、遊んでないで掃除しろー。さっさと終わらせてみんなで泳ぎたいだろー?」

 

 

楽と集の会話を聞きながら、陸は遊んでいる女子達に呼びかける。

すると女子達は直後、はっ、と目を瞠らせて先程までの楽しげな雰囲気から一変。プール掃除に少し行き過ぎじゃないかと思えるほど集中し始める。

 

しかし、掃除をしながらという変化はあったものの楽しげな雰囲気を取り戻すにはそう時間はかからなかった。

 

それから数十分ほどかかり、午後を回った頃。プールの床にあった汚れは消え、掃除が終わったという事で昼食を摂ることになった。

 

ブルーシートを敷き、その中に一人を除いて全員が腰を下ろして小野寺姉妹が用意した昼食を堪能する。

 

 

「おいっしぃいいい!これ全部春ちゃんが作ったの!?」

 

 

「盛り付けはお姉ちゃんに任せたんです。そしたら、普通のお弁当だったはずがいつの間にか高級幕の内に…」

 

 

最初に料理を口に入れた千棘が感嘆の声を漏らす。

手放しで褒められた春が僅かに頬を赤くしながら、姉である小咲も弁当製作を手伝ってくれたことを話す。

 

その際、普通に作ったはずの弁当から高級感あふれる幕の内弁当になったことも添えて。

 

 

「…錬金術」

 

 

「そ、そんなんじゃないよ!もぉ~…」

 

 

無意識の内に内心を呟いていたのだろう。頬を染めた小咲が陸の肩をポコポコ叩きながら反論する。

全く痛くもないし、本気で怒っているようにも見えないのだが…。そんな小咲の様子を可愛く思えてしまうのは自分が何かおかしくなったせいなのか?

 

 

「ポーラさん!一緒に食べないのー!?」

 

 

すると、陸の視界の端で春が立ち上がり、皆の輪に加わらず木の上に登り、腰を下ろしていたポーラに声をかけた。

 

だがポーラは春の呼びかけに応えず、一瞬だけ視線を向けてからすぐにそっぽを向いてしまった。

 

 

「少し分けてもらっていいかな…。後で私が渡そう」

 

 

鶫の言う通り、彼女がポーラに昼食を渡せば恐らく素直にポーラは昼食を口にするだろう。

だが…、春はそれでは納得しないようで。

 

昼食を食べ終え、皆がプールで遊び始めてから春はポーラが登った木に近づいていった。

 

 

(…頑張れ)

 

 

春は、ポーラの心を開こうとしているのだろう。ポーラと友人になりたいのだろう。

 

それには険しい道のりになりそうだが、きっと春ならやり遂げる。

陸はそう小さく確信しながら、心の中で春にエールを送ってから足元に置いてあったホースを持ち、少し離れた所にあった水道の蛇口を開き、水が出たことを確認してからホースの口を楽へと向ける。

 

 

「ぶふぉっ!?り、りくてめっ…なっにを…やめっ…!」

 

 

「はははっ!」

 

 

ホースから勢いよく放たれる水が、楽の顔面に容赦なくぶつけられる光景を見ながら陸は遠慮なしに爆笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

小咲の視線の先には、水を止めたホースを置いてプールの中に入ってきた陸と集が上手くコントロールしてビニールでできたボールを楽にぶつけて遊んでいる光景があった。

 

陸と集はもちろん、ぶつけられている楽も本気で嫌がっているようには見えず、時折三人の笑い声がこちらにも聞こえてきていた。

 

 

「何やってんのよ小咲」

 

 

「ひぃあっ!?る、るりちゃん?」

 

 

楽しげな陸の様子を眺めていた小咲だったが、突然背後から聞こえてきた声で振り返った。

背後にはるりが眉間にしわを寄せながら小咲を見上げており、いかにも不機嫌ですと言う表情を浮かべていた。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「どうしたのじゃないでしょ。何であんたは一条弟君の所に行かないのよ」

 

 

るりが両手を腰に当てて小咲に言う。

 

 

「だ、だって…。陸君、あんなに楽しそうだし…。邪魔したくないし…」

 

 

「あら、それは大丈夫みたいよ。見ての通り、橘さんがもう突っ込んでいってるから」

 

 

「え?」

 

 

るりの言う通り、先程陸たちがはしゃいでいた場所では、万里花に抱き付かれて楽がおぼれかけているのが見える。

そして、陸と集が万里花を必死に止めようとしている光景も。

 

 

「で、でも…。急に陸君の所に行ったって、陸君が変に思うだけだよぉ…!」

 

 

「そんなことないわよ。その成長したあんたを存分に見せつければいいじゃない」

 

 

「…成長?」

 

 

手を掴み、自分を陸の元へ連れて行こうとするるりのある一言に疑問を持つ小咲。

 

成長…とは、一体何のことなのだろうか?

 

 

「あら、違うの?その水着、大きくなったから去年と違うのを買い替えたんでしょ?」

 

 

「…っ!!!?」

 

 

小咲の頬が、まるで爆発したかのように一瞬で真っ赤に染まった。

 

 

「お、お、大きく!?」

 

 

「違うのかしら?」

 

 

「ち、ちがっ…くはない、けど…」

 

 

いや、るりの言う通りではあるのだが…。

最近、ふと水着を着てみると胸の所がきつく感じ、母の買い物に着いていくついでに新しいのを買ったのだが。

 

そんなはっきりと、誰かに聞かれるかもしれないこんな場所で言わないでほしい。

 

 

「ともかく、あんたはその成長した武器で一条弟君を魅了してきなさい」

 

 

「る、るりちゃん!待ってってばー!」

 

 

もう、るりは何も言わない。小咲の言葉にも耳を貸さず、引っ張って陸の元へと行く。

 

 

「一条弟君、小咲が混ぜてほしいって」

 

 

「宮本?ま、混ぜるって、何に?」

 

 

「るりちゃぁん…!」

 

 

陸は今まさに溺れかけていた楽を救出したところで、るりの言葉の意味が良く読み取れていなかった。

 

 

「いいから、さっさと行け」

 

 

「え?きゃぁっ!」

 

 

るりの暴走をただ見ていることしかできなかった小咲は、突如自分の背後に回り込んだるりの意図がわからなかった。

 

だから、直後のるりの行動には本当に驚愕することになる。

 

小咲の背後に回ったるりは、小咲を力一杯押したのだ。

 

陸に向かって。

 

 

「え…、うぉっ」

 

 

「ふぇっ?」

 

 

さらに、ただるりに押されただけではなく踏ん張ろうと力を込めた足が滑ってしまう。

結果、小咲の体は傾いて…、陸の胸に丁度良くぽすりと収まることになったのだ。

 

 

「だ、大丈夫か?」

 

 

「ふぁ…、ふぁぁぁぁっ…」

 

 

顔が真っ赤になるどころではない。頭からは煙が上り、小咲の思考が全く働かなくなってしまう。

 

唯一出来たことは、陸の顔を見上げることだけ。

しかも、見上げたは良いものの陸の顔を至近距離で目にすることになってしまい、頭の中が真っ白になる小咲。

 

 

「小咲…?おい、小咲!?」

 

 

ここで陸も小咲の異変に気が付く。

小咲の目の焦点が合っていない。顔が真っ赤になり、そっと手を小咲のおでこに当てれば尋常じゃない熱が伝わってくる。

 

 

「お姉ちゃんに何してるんですかあなたはぁあああああああああああああ!!!」

 

 

「え?ぐほぉっ!?」

 

 

誰かに助けを求めようとした直後、ドスの効いた叫び声と共に強烈な衝撃が背中に奔った。

さらにその叫び声の主は陸の腕の中にいた小咲を掻っ攫って凄まじい速度で陸から距離を取っていく。

 

 

「最低最低最低ですっ!お姉ちゃんにセクハラするなんて、ホント最低です!」

 

 

「え、ちが…」

 

 

「こっちに来ないでください!お姉ちゃんに近づかないでください!」

 

 

先程の叫び声の主は春だった。もちろん、小咲を連れて行ったのも春だ。

 

また、大きな勘違いをされてしまった陸は春の説得を試みる。

そして陸と共にるりも協力を…というより、小咲がこうなった原因は彼女なのだから当然なのだが。

 

ともかく、二人で話した結果誤解は解けた。

 

陸の言うことはあまり効果はなかったようだが、るりは信用しているのだろう。

原因は自分にあるとるりが詳しく話すと、あっさりと納得してくれた。

 

様に見えたのだが、るりにそう見えるようにしているだけのようで、るりが視線を春から外すと突如陸の方を睨んできた春。

 

 

「ま、まぁ…。春ちゃんは遊んできなよ。小咲は俺が見ておくから」

 

 

「何言ってるんですか。お姉ちゃんは私が見ます。あなたなんかに任せられません」

 

 

「いや、だけど…。あの子、放っておいていいのか?」

 

 

「え?」

 

 

陸は、るりと共に春の説得をしている途中、パーカーを脱いで水着姿になったポーラに気づいていた。

春と話している内、ポーラは春に対してまだ少しのようだが心を開いたらしい。

 

どこか不安げな目を春に向けて、その姿は助けを求めているように見える。

 

 

「友達になりたいなら今がチャンスだぞ?」

 

 

「…わかりました。でも、もし変なことをしたら承知しませんから!」

 

 

そう言い残し、春はポーラの元へと駆け寄り、手を掴んでプールの中へと二人で飛び込んでいった。

 

だが…、ポーラは泳げなかったらしく、ジャバジャバと必死にもがいているのが見える。

 

 

(…チョット狡い言い方しちまったけど、良かったな春ちゃん)

 

 

先程の不機嫌そうな顔とは打って変わって、ポーラと手を繋いでいる今の春の表情は輝いていた。

 

 

(あ、怒った)

 

 

だが、他の人と一緒に春に近づこうとする楽を見た瞬間また表情が逆戻りしてしまった。

まだまだ、春が一条兄弟に心を開くようになるのは先になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

ちなみに、小咲が目を覚ましたのは日が傾き始めた頃だったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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