一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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お久しぶりです。投稿を再開します。
…といっても、またすぐに実家に帰るのですが。


第55話 シツレン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、ホームルーム終わり!じゃあ、今日も一日頑張れよー」

 

 

チャイムが鳴るその前に、キョーコ先生がホームルームの終わりを告げて教室を出て行く。

そして教師が出た直後に、席に着いていた生徒たちはそれぞれの思う所に足を運び、友人と話し始める。

 

 

「しかし、早いもんだな…。二年になってもう一月経ったぜ?」

 

 

「すっかり慣れちゃったわね」

 

 

もちろん、楽たちも例外ではなく。隣同士で座る楽と千棘のまわりにいつもの面子たちが集まっていた。

 

 

「そうだな。…でも俺としては、同じ教室内に陸がいないってのはまだ慣れないんだよなー」

 

 

「あぁ…。お前、陸とは小学の時からずっと同じクラスだったもんな」

 

 

「おう。だから一年の時、お前らと同じクラスになった時は驚いたわ」

 

 

二年になって一ヶ月。当初は癖になってしまっていたのか、時に一年の教室に足を踏み入れそうになる時もあった。

だが今はもうそんなこともなく。今ある光景が当たり前のこととして受け入れられている。

 

 

「うん…。やっぱり、陸君がいないのは寂しいよね…」

 

 

「そうね。あんたは特にそうでしょうね」

 

 

「るりちゃん!」

 

 

その中で、集がぽつりと口にした陸がクラスにいないというセリフに小咲が反応した。

先程まで浮かべていた笑みは消え、どこか寂しげな表情で俯いてしまう小咲。

そんな小咲に、遠慮なく踏み込んでいったのはるり。

 

るりの吐いたセリフは小咲にとって自身の秘めている気持ちは周りにばれてしまう恐れのあるものだった。

すぐに小咲は真っ赤な表情でるりの追撃を止めにかかる。

 

 

「お~い、今日の日直誰だ~?まだプリント残ってっけど」

 

 

小咲とるりの攻防をある者は暖かく、そしてある者は疑問符を浮かべながら見守っていると、教壇の上に立った男子生徒の声が聞こえてくる。

 

 

「…誰だっけ、今日の日直」

 

 

「「あ」」

 

 

小咲がぽつりと呟き、そしてある二人が同時に短く声を漏らした。

 

黒板に書かれている、日直の名前。

 

一条楽

宮本るり

 

 

「すっかり忘れてたわ。珍しい取り合わせね、一条君」

 

 

「そうだな。何だかんだこんな風に隣で歩くってことはなかったな…」

 

 

プリントを半分ずつ持ち、楽とるりは廊下を歩く。

楽がもっと持つと言ったのだが、るりが断固として譲らなかったため半分ずつという事にしている。

 

 

「それにしても、あなたの悪友はどうにかならないのかしら?あれには節操というものがなさすぎるわ」

 

 

「あいつは昔からああだからな…」

 

 

プリントを運ぶ中、るりがどこかげんなりとした様子の声で言う。

 

こうしてプリントを運ぶ前、集がやらかしてるりに殴られている光景を楽は思い出す。

 

何とかならないかとるりは言うが、集のあの性格は昔からだ。

正直、言って直すとは思えないし、それに楽は…一条兄弟は、集のあの性格に何度も助けられている。

 

 

「あなたも大変ね。まぁ、あのバカに好かれた相手というのも随分お気の毒なことだけど…」

 

 

だから、るりが今ここにいない集に辛辣な言葉を並べる所を楽は苦笑を浮かべて眺めることしかできない。

 

しかしそれも、次のるりの言葉を聞くまでの事だった。

 

 

「そうだ。あなたは知ってるの?舞子君の好きな人」

 

 

「…は?」

 

 

楽の足が止まり、目が丸く見開かれる。

 

 

「何の話だ?」

 

 

「…は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一条家の屋敷。とある一室…と言うか陸の部屋。

 

その主である陸はテレビ画面の前に座り、ゲーム機のコントローラーを操る。

そしてもう一人、この部屋の中にいる人物。楽は座布団を枕にして寝転がりながら、陸の部屋にあった漫画を読んでいた。

 

 

「…なぁ陸」

 

 

「あ?」

 

 

不意に、楽が陸を呼ぶ。

陸はテレビ画面に視線を向けたままで、楽に続きを促す。

 

 

「集の好きな人、知ってるか?」

 

 

「…は?」

 

 

一瞬、だが確かに陸はテレビ画面から視線を外し、楽の方を見た。

 

 

「いや、知らねえよ。ていうか、あいつ好きな人とかいたの?」

 

 

「…だよなぁ。あいつ、自分のそういう事は全く言わねえからなぁ」

 

 

陸はポーズ画面を開き、ゲームを中断して楽に向き直ってから問いかける。

だが楽の答えはどこか煮え切らない。

 

 

「宮本に聞かれたんだよ。集の好きな人は誰だって。何か集が宮本に好きな人がいるって言ったらしいけど…」

 

 

「宮本が?」

 

 

何でもるりから聞いたことらしい。

 

 

「…想像つかねえな。あいつの好きな人なんて」

 

 

「え?ほら、田中さんとかどうだよ。たまに話してるの見かけるぞ?」

 

 

「そんなの普通だろ。あれはただの友達だろうな」

 

 

楽が何故か落ち込んでいるのだが、そこは無視する。

何か「普通…普通…?」と呟いているのだが、知らないと言ったら知らない。

 

 

「…キョーコ先生?」

 

 

「は?」

 

 

「いや、集の奴、キョーコ先生には微妙に態度違くないか?やけに尽くしてるっていうか…」

 

 

「…さすがにそれはねえんじゃね?だって、教師だぞ?」

 

 

「…だよなぁ」

 

 

思いついた瞬間、間違いないという手ごたえを感じた陸だったがさすがにそれはないと考え直す。

 

 

「…でも、屋上でその事について聞いた時に言ってたな。『俺の好きな人は手の届かない高嶺の花だ』って…」

 

 

「…」

 

 

部屋に沈黙が流れる。

ポーズ画面によって音量が抑えられたゲームのBGMだけが寂しく響き渡る。

 

 

「…なわけねえよな!だって教師だぜ教師!」

 

 

「そうだな!まぁとにかく、集の恋を応援しような!」

 

 

ともかく、集の好きな人はキョーコ先生ではない。

そう結論付けた二人は再びそれぞれのやりたいことを再開する。

 

だが、二人は心のどこかで確信していた。集の好きな人が誰なのかを。

それと同時に二人は、そうであってほしくないと願ってもいた。

 

何故なら…、もしそれが正しいのなら、集の恋がどうなるのか。結末は決まっているのだから。

 

 

 

翌日の朝、ホームルームを受けていた陸は隣の教室から聞こえてきた多数の大声に驚いて目を見開いた。

 

 

「な、何だ?」

 

 

「うるせえな…、少しは静かに出来ねえのかよ」

 

 

周りの生徒たちが驚き、ある者は僅かに怒りを滲ませているのがわかる。

 

 

「あぁ…。多分、日原先生が寿退職の件を報せたんだろうな」

 

 

「…は?」

 

 

頬杖を思わず崩してしまう陸。

 

寿退職?え?キョーコ先生が?

 

 

「え、マジで?あの先生結婚すんの?」

 

 

「うわ、マジかよ…。英語の授業楽しみだったのにな~」

 

 

「キョーコ先生、彼氏いたんだー」

 

 

「どんな人だったんだろーねー」

 

 

「…」

 

 

さすがに楽たちのクラス程ではないものの陸のクラスでもざわつき始める。

どれだけキョーコ先生の人気が高かったのか、この光景を見れば窺い知れるだろう。

 

だがそんな中、陸だけは俯いて考え込んでいた。

 

思い出すのは、昨日の楽との会話。集の好きな人について話しあったあの時。

 

昨日は強引に結論を出したのだが、冷静になって考えればますます集の好きな人がキョーコ先生なのだという確信が強くなっていった。

 

 

(集…。今、お前は何を考えてる?)

 

 

もし陸の考えが正しいのなら。集は失恋をしたという事になる。

 

ショックを受けているのだろうか。それとも、いつもの様子で先生の結婚を喜んでいるのだろうか。

 

 

「…」

 

 

ホームルームが終わり、担任の先生が教室を出る。

直後、陸は席から立ち上がって教室を出た。

 

行先は、偶然すぐに見つけることができた。

 

 

「楽!集!」

 

 

前を並んで歩く二人が振り返った。

 

 

 

 

三人がやって来たのは屋上。周りを囲む柵に寄りかかり、陸は二人の会話に耳を傾ける。

 

 

「俺たちもいずれ結婚とかすんのかね?」

 

 

「さぁな~。でも、楽ならその辺大丈夫なんじゃね?お前には可愛い彼女がいるし」

 

 

「はぁ!?ムリムリ!誰があんなゴリラ女と!」

 

 

今この場に千棘がいたら、楽は宇宙にある無数の星の一つになっていただろう。

 

 

「…なぁ集。お前、キョーコ先生の結婚についてどう思ってる?」

 

 

楽がふすー、と興奮を冷ますために大きく息を吐いていると、陸がふと集に問いかける。

集は、彼から見て楽の奥にいる陸を見て、口を開く。

 

 

「どうって、そりゃよかったなって思ってるよ。あのまま行き遅れになったら可哀想だなーって思ってたところだったし」

 

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら答える集。

傍から見れば、いつもの様子と何ら変わらない。なのだが…

 

 

(集…、やっぱり…)

 

 

陸には分かる。そして、陸が分かることは楽にも分かることで。

 

 

「珍しいな…。お前、嘘ついただろ」

 

 

「…ほぇ?」

 

 

呆然と、集が楽の方を見て声を漏らす。

 

 

「…何のことだい、楽?」

 

 

「たまに分かるんだよ。『あ、こいつ今、嘘ついてんな』って」

 

 

集の表情は呆然としたまま変わらない。

今度は、それを見ていた陸が口を開いた。

 

 

「小六ん時、お前の母さんが入院しただろ?その時と同じ顔してたぞ」

 

 

「…」

 

 

陸にもばれていたのか…。

 

まさにそのままの言葉が集の顔に浮かんでいる。

 

珍しく、集の感情が簡単に読める。それほど、今の集は動揺しているのだ。

 

 

「…恐ろしいもんだな、幼なじみって」

 

 

「…マジ?」

 

 

「マジ。大マジでござる」

 

 

結局、昨日陸が言っていた通りだったのだ。

 

 

「え、いや…。いつから?」

 

 

「入学してすぐ。一目惚れみたいなもんだったよ」

 

 

混乱する楽がかろうじて問いかけ、すぐに集が答える。

 

入学してすぐという事は、約一年もの間、集はキョーコ先生に抱く思いを秘め続けていたのだ。

 

 

「告白はしねえの?」

 

 

集の顔を覗き込みながら、陸が問いかける。

 

 

「はは、するわけないよ。相手はもう結婚するんだ。そんな事したって、ただ迷惑にしかならないって」

 

 

笑っている。笑っているのだ、集は。

 

今すぐに叫びたいだろう。今すぐに泣いてしまいたいだろう。

 

それなのに、集は笑っている。

 

 

「いいんだよ。これはこれで良い思い出だろ?俺はこの初恋を青春のほろ苦い一ページとしてそっと心の中にしまうって決めたのさ」

 

 

集の決意は固い。

 

 

「それでいいんだよ」

 

 

いつもは朗らかに見える集の笑顔が、今は寂しげに感じる。

いつもと同じように笑っているのに、今は全く違うように感じる。

 

 

「ほら、そろそろ授業が始まっちまう。戻ろうぜ?」

 

 

流れた沈黙を破ったのは集だった。陸と楽に背を向けて、屋上を出て階段を降りていく。

 

 

「お、おい待てよ集!」

 

 

慌てて、陸と楽も集を追いかける。

二人は集に追いつくと、三人で並んで廊下を歩き始める。

 

 

「じゃあな陸。また放課後な」

 

 

「おう」

 

 

そして、三人は別れ、自分の教室へと入ろうとする。

 

その時、陸の足は止まって…集の方へと振り返った。

 

 

「集!」

 

 

「?」

 

 

集だけではない。並んでいた楽も振り返った。

 

 

「失恋の味、存分に味わっとけよ」

 

 

「…にゃろ!」

 

 

ニヤリと笑みを浮かべながら言い放って、すぐに陸は教室へと逃げ込む。

集の笑顔が引き攣った所までは見えたが、そこからはわからない。

 

きっと今頃、陸の奴はまったくあーだこーだと楽に文句を垂れているだろう。

 

 

「…はぁ」

 

 

先程の悪戯っ気な様子とは打って変わり、陸は教室に入るとすぐにため息を吐いた。

 

 

「どーした一条!何かショック受けることでもあったのか?」

 

 

その様子を見ていた、陸の友人が肩に腕を回して聞いてくる。

陸はすぐに回された腕を解いてから答える。

 

 

「何もねえよ。後、先に言っとくけど宿題は見せねえからな」

 

 

「なっ!?そ、そんな殺生な…。見せてくれよぉ、一条。なぁ~」

 

 

背後から懇願する言葉が聞こえてくるが、すべて無視。

陸は席に着いて、一時間目に使う教科書や資料を机の中から取り出す。

 

それから三分くらいだろうか、宿題見せての猛攻を凌ぎ切った、陸の学校での一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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