一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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ぶっちゃけ、読まなくていい回です。
楽の記憶喪失編自体、この小説にとってそこまで面白みもない話でしたし…。








第61話 ケツマツ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万里花、その本は…」

 

 

千棘が、万里花の手に握られている物を見て呆然と呟いた。

 

 

「ちょっと、その絵本見せてくれる?」

 

 

「はい?」

 

 

そして千棘は、万里花に手を差し出しながら問いかけた。

万里花は、何故?と聞きたげな顔をしながらも特に何も言うことなく絵本を千棘に手渡す。

 

 

「タイトルは…、かすれて読めないわね」

 

 

千棘は本を返し、表紙に書かれているはずのタイトルを読もうとしたが、残念ながら文字がかすれてタイトルが読めなくなってしまっていた。

 

 

「わー、懐かしい!これ、小さい頃からずっと持ってる絵本なんだよ。もう何年も手に取ったことなかったんだけど…」

 

 

小咲が千棘の手に握られている絵本を覗き込みながらそう言った。

どうやらもう何年も前に手に入れた本だったようで、とても小咲は懐かしんでいる。

 

しかし、他の者から見れば初めて見ただけの、ただの絵本。

特に何も思うことなくその絵本の表紙を眺めていた。

 

そんな中、千棘が表紙を開いて一ページ目を目にする。

 

直後、そこに書かれていた文字を見た千棘は大きく目を見開き、信じられない様に唇を震わせる。

 

 

「<ザクシャインラブ>…?」

 

 

この、<ザクシャインラブ>という言葉がどうかしたのだろうか、千棘はその文字から目を決して離さない。

ずっと見つめたまま、動かないでいた。

 

 

「千棘ちゃん?」

 

 

小咲が怪訝に思い、千棘に呼びかけながら肩を叩こうとする。

だが、小咲の手が千棘の肩に触れる前に部屋の扉が開かれた。

 

 

「あの…、小野寺さんのお母様が、飲み物は麦茶でいいかって…、あれ?どうかなさったんですか?」

 

 

部屋に入ってきたのは楽だった。

小咲の母から飲み物を何にするかを聞くように言われたらしい。陸たちに飲み物をどうするか聞こうとして、部屋の中の状態を見て戸惑いを見せる。

 

一冊の絵本を見て、固まる千棘にそんな千棘を心配する陸たち。

正直、気にならないという方がおかしな気もする。

 

 

「…その絵本」

 

 

すると、振り返っていた千棘の手に握られた本を見て、何やら呟く楽。

 

 

「え?これがどうかしたの?」

 

 

「…いえ。何だか、この本を見ていると、何かを思い出しそうで…」

 

 

「「「「えぇっ!?」」」」

 

 

右手で頭を押さえ、少し苦しそうに表情を歪ませながら言う楽。

 

 

「ほ、本当!?楽!」

 

 

「はい…。それと、昨日言いそびれてしまったのですが…」

 

 

目を見開いた千棘が詰め寄ると、楽は絵本から目を逸らし、千棘の方を見ながら口を開いた。

 

昨日、千棘の家で感じた事。その事について、楽は説明を始めた。

 

千棘の家で、自分が持っていたペンダントを見ていると何かを思い出しそうになったこと。

そして、その話を聞いた千棘がそのペンダントの鍵を取り出すと、それもまた楽の中で何か変化を及ぼそうとする。

 

 

「自分でも誰だかわからないんですが、何か…小さな女の子の姿が頭の中を過るんです」

 

 

「それって、十年前に楽が約束したって女の子なんじゃないか?」

 

 

千棘に続いて、小咲と万里花が取り出した鍵。

小咲が鍵を取り出す際、陸が受け取った絵本。楽が首にかけているペンダント。

 

間違いない。楽の記憶を取り戻すためのポイントは十年前の思い出だ。

だが、そうなるとその絵本も十年前の約束に何らかの関係があるという事になる。

 

 

「あのね?実は私、その絵本どこか見覚えがあるのよね…。それに、私のこのリボンって小さい頃呼んでた絵本が切欠だってママが教えてくれだんだけど…、何かその子のと似てない?」

 

 

すると、直後に千棘がそんな事を口にした。

 

確かに、千棘のリボンは絵本に描かれている女の子がしているリボンと酷似している。

 

千棘がリボンをするようになったのは、この絵本の女の子がきっかけになっていると考えるのは少し早とちりになるだろうか…。

 

 

「ねぇ万里花、あんたは何か知らない?」

 

 

「さぁ…、私は何も…。部屋をもっと引っ掻き回せば他にも何か出てくるでしょうか…」

 

 

「もうダメだってば!」

 

 

(…?)

 

 

万里花は千棘や小咲と違って、再会するまで楽のことをしっかり記憶していた。

だからだろう、千棘が万里花に絵本の事について何か知っているかと問いかけるのだが、万里花は何も知らないと答える。

 

 

「…とにかく、これを読めば何かわかるかもしれないわ。もしかしたら記憶を取り戻すヒントだって…」

 

 

言いながら、千棘は小咲や万里花、鶫に目配せした後、四人は同時に頷いた。

 

千棘は、表紙をめくった。

 

内容は、よくあるような話だった。

 

ある二つの国に、それぞれ住む王子と姫の物語。

二人は幼いながらも互いを想い合っており、大きくなったら結婚をしようという約束もしていた。

 

だが、二つの国の間に起こった戦争によって二人は離れ離れになってしまう。

 

別れの日、姫は『ザクシャインラブ』という言葉と、錠を王子に渡す。

そしていつか二人が再会したら、この鍵でその中の物を取り出して幸せに暮らそうと約束したのだ。

 

しかし、想いあっている二人はどうしても会って話したくなってしまう。

遂に、王子は堪らず城を飛び出して駆けだしたのだ。

 

王子は姫がいる城へと走るが、何度も障害が王子の前に立ちふさがる。

その度に、鍵を持った女の子たちが助けに来てくれて、ようやく姫がいる城までもう一息という所まで来る。

 

 

「…あれ!?」

 

 

そこから、物語はどうなるのか。

ページをめくろうとした千棘の手は止まり、代わりに呆けた声が口から洩れる。

次からのページが破れ、先が読めなくなってしまっていたのだ。

 

 

「え、え?この先のページは?」

 

 

「そ、そういえば…続きを失くしたから読まなくなったような…」

 

 

千棘が問いかける先、小咲は額に汗を浮かばせながらぼそぼそと呟いている。

 

 

「うわ、何かもどかしいわね!」

 

 

「確かに気になります。二人は無事に再会できたんでしょうか…」

 

 

「どうだったかな…。ハッピーエンドだったような気もするし、逆だった気もするし…」

 

 

千棘、鶫、小咲がどこかすっきりしなさそうに話す。

 

確かに、エンディングを直前にして続きを読めないというのは少しすっきりしない。

 

 

「…確か、悲しい結末だったような気がします」

 

 

「楽…!?」

 

 

誰も物語の結末が分からないと思われた中、記憶を失っているはずの楽がその結末を口にした。

この場にいる皆が目を見開いて驚きを見せる。

 

 

「楽、お前…。何か思い出したのか?」

 

 

「は、はい。とても断片的なんですけど…。僕がその、頭の中に浮かぶ女の子と初めて会ったのはとても小さい時で…。その子は一人で本を読みながら泣いていたんです。それで、僕が何で泣いているのかと尋ねると、絵本の結末が悲しいって答えました。なので、僕は最後の数ページを描き変えて、ハッピーエンドにしてあげたんです。それが、その事の最初の出会い──────」

 

 

楽は、十年前に約束をした女の子との出会いについてを話し終えると、千棘たちがいる方へと視線を向ける。

 

 

「思い出せたのはこれだけなんですが、何か聞き覚えはありましたか?」

 

 

じっ、と楽の話に耳を傾けていた千棘たちに問いかける楽。

 

 

「…ごくうっすらと?」

 

 

どうやら、覚えてなさそうな小咲に千棘。

うん、進展はしなさそうだ。

 

 

「すみません、こんな事しか思い出せなくて…」

 

 

「いいのいいの、少なくともこれで少し前進したわ!」

 

 

前進したかどうかはわからないが、前進させるためのキーは見つかった。

とにかく、十年前の何かで楽に刺激を与えれば何らかの進展があるだろう。

 

 

「もっと十年前の事で刺激があれば、何か思い出すかもしれない。私、家に同じ本がないか探してみる!」

 

 

「私も、何か手掛かりになりそうなものを探してみるね!」

 

 

それは、この場にいた者全員がわかることだろう。

作戦会議を終え、それぞれの家へと帰るために分かれる千棘たち。

 

 

「おーい、一条のボーヤー。せっかく来たんだから、夕ご飯食べていかない?」

 

 

「お、お母さん!?」

 

 

自宅へ帰ろうと足を向けた時、小咲母がそう言って陸を呼び止めた。

陸が振り返ると、小咲が驚いている様子がよく見える。

 

 

「ううん、むしろ夕ご飯を食べていってほしいのよね~。ボーヤ、よく家に手伝いに来てくれるし、前にひどく吹雪いたときには小咲を泊めてくれたし。お礼したいのよね」

 

 

「いや、それを言うなら台風で帰れなくなった時に僕を泊めてくれたじゃないですか」

 

 

「でも、その時に夕飯を作ってくれたのはボーヤでしょ?小咲が教えてくれたわよ」

 

 

何という事だ。いや、あの時に起こったことを母親に説明をするのは当然のことだとは思うが…、今となってはその事を憎らしく思ってしまう。

別に小咲を責めるつもりは毛頭ないが。

 

 

「いやでも…」

 

 

「ええい!ボーヤは今夜は家で夕飯を食べる!はい決定!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

まさかの強行。これはひどい。

 

 

「ち、ちょっと待ってください!さすがにそれはそちらの迷惑になるんじゃ…」

 

 

「ならないわよ。未来の小咲の旦那と今から交流するのも悪くないしね」

 

 

「お母さんっ!!!」

 

 

小咲の顔がもう真っ赤っ赤になっている。

いや、さすがにさっきの小咲母の言葉はこっちも恥ずかしくなってきたが。

 

 

「えっと…。拒否権は…」

 

 

「ない」

 

 

「…」

 

 

うん、逃げられそうにない。

というより、逃げようとしたら酷い目に遭いそうな気がする。

 

 

「じゃ、じゃぁ…。家に連絡入れときますね…」

 

 

「素直でよろしい♪」

 

 

確かに、この親子の見た目はそっくりだが…。性格は正反対だと改めて気づかされる陸だった。

 

 

「良かったわね小咲」

 

 

「るりちゃぁん…」

 

 

「ふふ…。陸様も春が来ているのですね…」

 

 

「ぷくく…。じゃあな陸。お幸せにー」

 

 

るり、万里花、集は完全に楽しんでいる。

こっちはそんな余裕はないというのに。

 

結局、三人は助けてはくれず。さっさと自宅へと帰っていき、陸は小咲母に首根っこ掴まれ家の中へと拉致されるのだった。

 

ちなみに、家の中に来た陸を見た春が、一騒動引き起こしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

千「楽の記憶が戻った!」

 

 

陸「あ、良かったな」(小咲母に振り回されてグロッキー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




楽の記憶の扱いがひどい?知るか、この小説の主人公とヒロインは陸と小咲なんだよ!

大体、この楽の記憶喪失編で描かなきゃいけなかったのは絵本の発見であり、他はおまけにして良かったんですよ。
たださすがにそれじゃ、あかんでしょという事で丁寧に描写しましたが…。
いやでも、最後に恥ずかしがる小咲を描けただけで楽記憶喪失編を描いた価値はありましたよ…。( ;∀;)
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