六月十四日の朝。陸はタオルケットをどけて体を起き上がらせる。
そして両腕を上げ、思いきり伸びをする。五秒くらいそのままでいると、一気に脱力させる。
陸だけでなく、ほとんどの人は朝起きた直後にこれをして目を覚まさせるだろう。
「ふぁ…。んー…」
陸はあくびをしながら立ち上がり、目をこすりながらふとカレンダーを見る。
今日の曜日を確かめて、頭の中でその曜日に割り当てられた授業の時間割を思い出す。
(今日は数学に生物…、それに変更とかで化学まであるんだっけか。最悪だ…、理数系科目勢揃いじゃねーか…。ん?)
今日の時間割を思い出して、気分が沈んでしまったその時、カレンダーの明日の日付に赤いペンで丸が付けられていることに気付く。
その日に何かあっただろうか?考え込みながら、陸はカレンダーに近づいてその日付に何があるのかを確認する。
「…ぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」
カレンダーに書かれていることを目にした時、ほんの少し残っていた眠気が一気に吹き飛んでしまう。
「ぼ、坊ちゃん!?」
「な、何かあったんですかい!?」
陸の大声に反応した、組の男たちが慌てて部屋に駆け込んでくる。
陸は、カレンダーの前で頭を抱えて立ち尽していた。
そして、陸の視界。赤い丸が付けられていた六月十五日。
そこにはしっかりこう書かれていた。
<小咲の誕生日>と。
「春ちゃん、折り入って頼みがあるんだ」
「お断りします」
昼休み。陸は二階にいた。
先程のセリフで分かる通り、春を探すためだ。
そして、廊下を歩いていた春を見つけて話しかけ、頼みがあると言ったのだが…。
頼みの内容も聞かずに断られてしまった。
「え、内容も聞かずに?」
「どうせろくでもない事でしょう?」
「いや、そんなのじゃないけど…」
本当に、春との距離は少しずつ近づけているとは思うが未だ自分への印象は改善し切れていない。
いやでも、そんなことで諦めるわけにはいかない。
去年は気づいた時には日付は過ぎていて、時間がなく慌てて買いに行ったのだが今年な違う。
気付いたのは前の日。目的を果たすには時間は十二分にある。
「明日、小咲の誕生日だろ?だから、プレゼント選びに来てほしいんだけど…」
「プレゼント選び、ですか?」
何でそんなに拍子抜けしたような顔をするのだろう。
自分が何か鬼畜な頼みごとをするとそんなに思っていたのだろうか。
「そりゃ私も放課後に選びに行く予定でしたけど、それならるりさんに頼めばいいじゃないですか」
「頼みに行ったさ。行ったんだけど…、『小咲と行けばいいじゃない』って意味不明な事を言われて断られた」
あの時は目が点になった。小咲の誕生日プレゼントを選びに行きたいと言っているのに、何で小咲と行けばいいじゃないという答えになるのか。
全くもって意味が分からなかった。
「頼むよ。一人じゃ小咲が喜びそうな物、見当が付かないんだ」
去年は即興でハンカチを買ったが、本当ならもっとしっかりしたものを買いたかった。
今年こそはという思いがある。だから、春には何としても一緒について来てほしいのだが。
「んー…。いや、でもなー…」
手を顎に当て、考え込んでいる春。迷っているのがわかる。
少し前までなら、即答で否定されていただろう。
だがこれならば…、もうひと押しすればいける!
「なぁ、大麻呂デパートって品揃えもよくてプレゼント選びには最適だと思わないか?」
「は?」
春の目が丸くなる。
何を言ってるんだこいつ、という目をしている。
「そういえば、確か今、和菓子フェアというものをやっていたような…」
「っ」
ぴくりと春の体が震える。これは…どうだ?
「待ち合わせはどこにします?」
「現地で」(早ぇなおい…)
和菓子に携わっているから、釣れるとは思っていたが…あまりの即答で頼んだこちらが驚いたほどだ。
陸の想像以上に春の和菓子好きは相当のものだったという事だろう。
(ふぅ…。何とか味方になってもらえたか…。これで、プレゼントについては百人力だな)
何はともあれ、春の協力を得た陸は、理数系科目三連星を乗り越えてから大麻呂デパート前に立っていた。
そう、春との待ち合わせの場所に。
「ぎりぎり間に合ったな…。でも、春ちゃんはまだみたいだな」
待ち合わせに決めた時間は四時半。今、丁度その時間になったのだが春は未だ来ていない。
陸は往来を歩く人たちをぼーっと眺めながら春が来るのを待つ。
「先輩、こっちでーす!」
待ち合わせ時間から五分ほど過ぎたくらいだろうか、スクールバッグを肩にかけた春がこちらに駆けてくるのが見えた。
春は陸の前で立ち止まって、あろうことかこう口にする。
「先輩、五分遅刻です」
「…君がな」
「少し迷いました」
自分が遅刻したかのように言う春だが、遅刻したのはその春である。
その事は忘れないでほしい。
「あの、条件は覚えてますよね?プレゼント選びには協力しますが、プレゼント以外は全部先輩の奢りですからね」
「はいはい、分かってますよ…」
和菓子フェアというイベントを餌にして春という協力者を釣った陸だったが、あの後さらに条件を付けられたのだ。
それが、春が言ったプレゼント以外は全部先輩の奢りというもの。
つまり、イベントで買う和菓子は全て陸がお金を払わなければならない。
まぁそれでも、陸の貯金にはあまり響かないから別に良いのだが。
「小咲ってどんなもの貰うと喜ぶかね?」
「さぁ…。私はいつも自分の好きな物あげてますけど」
「ほう…。春ちゃんは今年何あげるんだ?」
「今年は服を上げようと思ってます。好みの物が見つかるといいんですけど」
春は取りあえずの見当は付けている様だ。
自分は何を買おうか…。まずは雑貨屋に行くことにした。
ぬいぐるみなどが並んでいる棚の前で、良さそうなものを探す。
「あ、先輩。この蛇のおもちゃなんてどうですか?」
「…春ちゃん、真面目にやってくれ」
ついて来てくれたはいいが、あまり協力的じゃない。
あの時のエサに釣られただけで、本当に協力しようと思ってついて来たわけじゃないのはわかるから別に怒りはしないが…、少しくらい協力してくれたっていいじゃないかと文句を垂れそうになってしまう。
「…それにしても、ずいぶん真剣にプレゼントを選びますね」
「え?あぁ、まぁ…。友達のプレゼントだぞ?真剣に選ぶのは当然だろ」
何やら疑わし気な視線を向けながら問いかけてくる春に答える陸。
「ふーん…」
それ以上追及してくることはなかったが、あまり納得していない様子。
だがこういう場合、こちらから何か言うともっと疑わしく思われてしまうのは簡単にわかるから特に何も言わない。
「…さて、大体目は通しましたし、絞り込むのは後にしてお楽しみといきましょう!先輩、ジャンジャン奢ってもらいますから!」
「おう、どんと来い!」
待ち合わせ時間ぎりぎりになってしまったのは理由がある。
陸は大麻呂デパートに行く途中、銀行に寄っていたのだ。もちろん、お金を引き出すために。
春が遠慮しないのは目に見えている。今、陸の財布にはそれなりの金額が入っている。
「…」
ふと見ると、春はたくさんの屋台を目の前にして頬を緩めてウキウキしている。
頭の中で、何から食べに行こうと考えているのが簡単に悟れる。
「おーい、買ってきたぞー」
このまま放っておいたら、どれくらい時間がかかるだろう。
想像がつかないため、春が「うふふふ」と笑いながら悩んでいる中、陸はさっさと春が好きそうなものを売っている屋台に行って菓子を買ってきた。
「あ!何を勝手に…!私にも好みってものがですねぇ…!」
春の文句は、陸が買ってきたものを口にした瞬間に止まった。
「先輩!これはどこで…!」
「あの角の饅頭屋」
「案内してください!」
相当お気に召したらしい。
うん、正直に言おう。後に、ここから先の事を陸は思い出そうとしても思い出すことができなかったという。
「こっちの羊羹もうまいぞ!」
「すぐ行きます!」
「先輩!ここの葛餅どうです!」
「ぬっ、やるじゃないか!」
「春ちゃん、次はこれを!」
「先輩、次はあれを!」
「次は…」
「次は…」
「次は…」
気付けば、フェアをやっているエリアに置いてあるテーブルの上にたくさんの和菓子が並べられ、陸は春と対峙していた。
「ふふ…、やりますね先輩。先輩のおすすめはどれもなかなかどうして…」
「春ちゃんこそ…。君のおすすめはどれも俺の好みを突いてくる…」
まるで、相対する好敵手。
互いに疲労困憊になりながらも、好戦的な表情は崩さず、笑みさえ浮かべながら睨み合う。
…いや、どうしてこうなった?
「しかし、俺と春ちゃんの好みって似てるよな。ホント、笑えて来るくらい」
思わず、笑みを零しながら言う陸。
「なっ…」
それに反して、春の顔色は真っ青に悪くなる。
「似てません!誰が先輩なんかと!」
「そこまで、嫌か…?」
「全力で否定しますっ。さっきとかお店の人になんて言われたと思います?『デートですか?』ですよ?屈辱です!」
「…」
屈辱…。そうか、屈辱ですか…。
何か、悪い印象を持たれていることは自覚しているし、理由も身に覚えがあることなのだが…、屈辱か…。
流石に少しショックだ。
「まぁ、十分堪能させてもらいました。その事だけはお礼を言います。でもそろそろ、プレゼントを決めちゃいましょうよ。私もいつまでもあなたと一緒にいたくありませんし」
「…」
追い打ちを受けた。
さらに、春は陸の返事を待たずにさっさと行ってしまった。
「…あれ?そういえば、春ちゃんは今年は服を買うって…、ちょ、春ちゃん!そっちは服屋と逆方向だぞ!?」
陸も自分の分を探そうかと思ったのだが…、そういえば待ち合わせの時も少し迷ったと言っていたのを思い出す。
まさか春は…、重度の方向音痴なのではないだろうか。
どうやら、別々で選びに行くという事は出来ないらしい。
(まぁでも、俺も服屋で何か選ぶって言う選択肢もあるよな。もちろん、春ちゃんとはジャンルが被らないものを)
春を服屋へと連れて行った後、今度こそ春と別行動に入る。
流石の春も、この狭い範囲で迷うという事はないだろう。
(んー…。何が良いだろ…。ここから選ぶ…いや、もしここで選ぶんだったらまず春ちゃんが何を選ぶかわからないとどうしようもないな…)
ていうか、二人から服を渡されるのも小咲からしたら困るのではないだろうか?
(…やっぱり別の場所で探そう。でもそしたら、方向音痴のはるちゃんを置いてくという事に…)
どうしよう。
…いや、前にも実感したが女の子の買い物は相当長い。
春ちゃんも、プレゼントを決めるまで時間がかかるのではないか。
そう考えた陸は、春に一言声をかけて別行動することに決める。
(春ちゃんは…、ん?)
春を探す陸。だが、その時、陸はある光景を見た。
その光景とは───────
(何で…、何でこんなことになってるんだろ…)
春の目の前には、頭を金髪に染め、両耳にピアス、さらにズボンを腰辺りにまで下げたガラの悪い男が立っていた。
今、春がいる場所は試着室。
良さそうなものを選び、自分を使って小咲に似合うかどうかイメージしようとしたのだが…、試着室のカーテンを閉め忘れるというミスを犯してしまった。
カーテンを開けたまま、春は服を脱いでしまい、さらにそれをガラの悪い男に見られてしまい…。
「なぁ、男を誘ってたんだろぉ?ほら、お望み通り来てやったからさぁ」
「ひっ…」
下卑た視線を向けてくる男に、思わず小さく悲鳴が漏れてしまう。
叫べばきっと、誰か助けに来てくれるのだろうが、背後に回り込んだ男に口を塞がれそれをすることができない。
この光景を誰か見ていないのだろうかと願ってみると、ご丁寧なことにカーテンは閉められている。
「ったく、んだよ嬢ちゃん。自分から誘っときながら、脱がさせようってか?へへっ…、好きだぜそういうの」
「っ!?」
違う。そんな訳ない。誰があんたなんかと。
そう言いたい。言いたいのに…、口が塞がれて言うことができない。
いや…、たとえ口を塞がれていなくてもできなかったかもしれない。
何故なら、今の春は足が震え、両手も震え…、恐怖で口も上手く動かせるような状態じゃないから。
(助けて…)
だから、今の春は願う事しかできない。
(助けてよ…)
誰かが、助けに来てくれることを。
「へへっ…」
(助けてっ)
「人の連れに、何やってんの?」
シャッ、とカーテンが開く音。その直後、ついさっきまでずっと聞いていた、覚えたくもないが覚えてしまった少年の声。
「あぁ!?んだよてめぇは!」
「いや、何だよって。その娘の連れだけど」
「ふざけんな!消えろ!」
「いやいやいや、何言ってんのあんた。頭沸いてんの?」
(この声…)
自分の口を塞いでいる男と言い争っている相手。
(せ、先輩…?)
「あのさ、今あんたがしてることわかってんの?犯罪だよ?今その娘から離れてくれたら黙っててやるからさ」
「はっ、何だよてめぇ。脅してるつもりかよ?」
「脅してるも何も…」
「舐めんじゃねえぞ!?あぁ!?」
「えぇ~…」
全く話が通じない男。
目に見えて呆れている陸。
(…?)
ため息を吐いている陸。だが、よく見ると春の方を見て何かをしている。
唇を開け、閉めた歯を指さしている。
(…あ)
陸の意図を察する春。
確かに、それくらいならできるかもしれない。
「あぁ、もういいからてめぇ消えろ!俺ぁこの彼女と帰るからよ!」
「いやだからその娘は俺の連れだって言ってんじゃん…」
「そんなくだらねえ嘘吐いてんじゃねえぞ!?証拠はあんのか証拠hっ、いてぇ!!」
陸と男が再び言い争い始める中、春は口を塞いでいる男の手に思い切り噛みついた。
叫び声を上げながら、男は手を春の口から離す。
途端、弾かれたように春は男から離れ、陸の方へと突っ込んでいった。
「先輩!」
「おっと…」
陸の胸に飛び込む春。
普段の春ならば絶対にしない行動だが、今の春はそれどころでないほど混乱している。
陸もそれが分かっているからか、何も言わずに胸の中にいる春の頭にそっと掌を置くだけに留める。
「てっめぇ…!もうキレた…。てめぇら二人共、ただじゃおかねえ!」
「へぇ…、ただじゃおかない、ね」
「先輩…?」
陸は何をしているのだろう。
もう、後は店の人達に任せて逃げればいいのに。
男は気づいていないのか、この騒ぎを聞きつけて野次馬が集まってきている。
店の人も、何故か陸の後ろであたふたしている。
「…いい加減にしろよ」
「ひぃっ!?」
「キレたいのはこっちなんだよ。大切なプレゼント選びを邪魔されて、大切な人の妹を泣かせて…。今すぐにでもお前のその顔握りつぶしたいくらいなんだよ」
直後、陸の腕が伸び、その掌は男の顔を掴み、握りしめる。
「あが、あがががががががが」
「でもさ、そんなことしたら俺の手が汚れるじゃん?ただでさえ滅茶苦茶汚れてんのにさ、もっと汚れちゃうじゃん?いや別に汚れるのは良いんだけどさ、お前のきったねぇ血でだけは汚したくないんだよね」
「あががががががががが!!」
相当痛いのだろう。男の両目からは涙が、鼻の両穴からは鼻水が止めどなくあふれ出す。
「どいてくれ!ここを通してくれ!警察だ!」
「…ようやく来たか」
すると、陸と春の背後から騒がしく男の声が聞こえてくる。
振り向けば、そこには警察官が人ごみを掻き分けてこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「ほら、お迎えだ。しっかり逮捕してもらえ」
「ひ、ひゃい…」
先程までの威勢はどこへやら。陸の掌から解放された男は座り込み、陸の言葉に素直に返事を返した。
「さて…。どういう状況かね、これは?」
「えっと…。この娘が被害者です。で、そこに座り込んでるのが加害者。で、加害者を動けなくさせたのが俺です」
「そ、そうか…。と、ともかく君、交番で話を聞かせてもらうよ」
陸から事情を聞いた警察官。加害者と聞いたガラの悪い男がガタガタと震えている理由が気になるのか、ちらりと陸を見遣るがまずは男を立ち上がらせる。
「君たちにも話を聞きたいんだが…、大丈夫かい?」
「…こっちは無理そうです。俺だけじゃダメですか?」
「…まぁ、今日の所は良いだろう。そっちの娘からは後日という事でいいかい?」
「…」
この事態に関わった三人から事情を聞こうと警察官が聞いてくる。
陸はすぐに答え、春も少し間が空いたものの頷いて答える。
「じゃぁ、君も来てくれるかい?」
「待ってください。まずは事態を報せて、家族が来てからでいいですか?さすがに放っておいたまま行けないです」
「…そうだな」
素直な警察官で何よりだ。
ともかく、陸は携帯を取り出して小咲に連絡を入れる。
事情を説明すると、小咲はすぐに小咲母と一緒に迎えに行くと答えてくれた。
「…春ちゃん、今から小咲とお母さんが迎えに来てくれるって」
「…はぃ」
か細く答える春。どれだけの恐怖を感じたのか、容易く察することができる。
小咲と小咲母が来たのは、陸が電話をしてから二十分ほど経った時だった。
二人は息を切らせながら春の元へと駆け寄り、その腕で力一杯春を抱き締める。
「春!春!」
「大丈夫だった?怪我はない?」
「うん…。先輩のおかげで…」
小咲と小咲母がこちらに向かっている間に、春は服を着ていた。
いつまでも下着姿ではさすがに本人としても嫌だろう。
「…お姉ちゃん。…お母さんっ」
春の両目から涙がこぼれる。
家族が来たことで、安堵感に包まれたのだろう。
陸に助けられたことで、一応の警戒は解かれたようだがやっぱり家族というのは違うのだろう。
春の表情から、恐怖が消えたのが分かる。
「坊や…。本当にお礼を言うわ。春を助けてくれてありがとう」
「陸君…!本当にありがとう…!」
春を抱きしめたままだが、小咲と小咲母が陸にお礼を言う。
「いえ、こちらこそ…。春ちゃんから目を離したからこんな事になって…、申し訳ありませんでした」
「そんなことないよ!もし、陸君がいなかったら…、今頃どうなってたか…」
陸からしたら、むしろ春をこんな目に遭わせて責任を感じていたのだが…。
小咲がそんなことないと、本当にありがとうと陸に言う。
「ともかく、早く春ちゃんを家に連れて帰やれ。春ちゃん、凄く疲れてるだろうし」
「うん…。陸君、本当にありがとう」
もうこれで何度目かのお礼を言う小咲。
「坊や。いつか絶対にお礼するわ。楽しみにしててね」
「いや、別にそんな…」
小咲と小咲母が春と手を繋ぎ、春が真ん中になる並びで歩き出す。
「陸君、また明日ね!」
「おう、また明日!」
「…」
陸と小咲が挨拶を交わす中、春はちらりと陸を見遣っていた。
春が見ている中、陸はここまで待っていた警察官と話し、そして春達とは別の方向に歩き出した。
「っ」
陸の背中を目にする春。瞬間、何かが陸の背中と重なった。
(…そんな、こと…、あるわけないよね)
陸の背中が、一体何と重なったのか。
それは、春以外知る由もない事である。
「やれやれ、ようやく終わったか」
とっくに夜も更けた時間。警察官との話を終えた陸は交番から出ていた。
「坊ちゃん!」
「おう、竜。迎えに来てくれたのか」
交番から出る直前に、家に迎えを頼んでおいたのだがまさか竜が来るとは思っていなかった。
竜は陸を迎えに行くために使ったリムジンの扉を開ける。
陸は竜が明けた扉から車内に入り、柔らかな椅子に体を沈める。
(しかし…、本当に春ちゃんが無事でよかった。気づくのが遅れてたら、マジでやばかったな)
リムジンに竜が乗り込み、運転手が車を動かしたのを振動で感じながら内心で安堵する陸。
(後…、俺、ずいぶん恥ずかしいこと口にしちまったなぁ…)
それと同時に、自分が口にしたあることを思い出す陸。
(…やっぱ、そうなのかね?)
ずっと考えていたことなのだが、やっぱりそうなのだろう。
自分には、そんな資格などないというのに。やはり、理屈ではないという事か。
恋というものは。
唐突じゃね、とツッコみたくなる人がいらっしゃるかもしれません。
でも一応、フラグは撒いたつもりだったんですけどね。
あの時とかこの時とかあれとかこれとか。
しかし、陸君が自覚したはいいですが本人はその気持ちを打ち明けるつもりは全くありません。これからも隠し続けます。
なので、小咲ちゃんにはもっと頑張ってもらわねば…!
あ、あと、春ちゃんごめんなさい。m(__)m
でも、原作で見てると何でこうならないんだろうって思ってしまったんです。
前書きにもある通り、後悔はしてません!
うわぁ、これから来るであろう感想が怖いよぅ…。