待ちきれずにこちらで出してしまいましたが…。
春が襲われたという事件の翌日。その日も普通に普段通りに学校では授業が行われる。
勿論、陸も例外ではなく、教室で特に面白みもない授業を受けていた。
「じゃあ、全員気を付けて帰ろよー。部活の人も怪我なくな」
そして今、帰りのホームルームを終え、掃除をするグループのために全員がそれぞれの机と椅子を後方へと下げる。
「さて、と…。…いた」
陸も自分の机と椅子を下げて、カバンを肩に下げて教室から出ると辺りを見回した。
そうして陸は友人と話している目的の人物へ歩み寄る。
「小咲」
「あ…、陸君?」
陸が探していた人物は小咲の事だった。
小咲の隣にはるりがいて、二人で何を話していたのか気にならないわけではないが、ここでそれを聞くほど陸はKYではない。
「あのさ、えっと…。春ちゃんの事なんだけどさ…」
「あ…。うん、ちょっと待ってて?」
春の名を口にするだけで、陸が何を話そうとしているのかを察する小咲。
るりに、少し外すと伝えてから陸の隣まで来て、二人は少し離れた所まで行く。
「…で、早速だけどさ。春ちゃんはどうしてる?大丈夫なのか?」
単刀直入に、気になっていることを問いかける陸。
昨日、警察に事情を話している途中からずっと気になっていた。春は今、どうしているのだろうと。
「うん…。平気そうにはしてるけど…、ちょっと無理してるみたい。今日は無理やり学校を休ませたの」
「…そっか」
どうやら、春は大事をとって今日の学校を休んだようだ。
まぁ昨日あんな事に巻き込まれてしまったのだから、当然と言えば当然なのだろう。
「…なぁ、帰りに小咲の家に寄っていっていいか?」
「え!?え…、ど、どうして?」
「ほら、春ちゃんのこと気になるし。…小咲や小咲の母さんはああ言ってくれたけど、それでも春ちゃんには謝らなきゃいけないから」
陸が家に寄りたいと言うと、小咲の顔が真っ赤になる。
どうした、と気にはなったが、理由を問われた陸は今の自分の心境を正直に答えた。
すると、紅潮していた小咲の頬がすぐに色は収まり、表情も締まる。
「あれは陸君のせいじゃ…」
「いや、そう言ってくれるのは嬉しいし、一番悪いのはあのくそ野郎だってこともわかってる。それでもさ、春ちゃんには一言謝るべきだと思うんだ」
陸は悪くないと言い続けていた小咲が口を噤む。
他が何を言っても、自身がそうと決めたのならどうすることもできない。
特に陸はそういう所は頑固だ。それを、小咲はよくわかっていた。
「…わかった。ちょっと待ってて。すぐに鞄持ってくるね?」
「あ、いや。そんなに急がなくても…」
小咲が急いで、教室の前廊下の壁際に置いていった鞄を急いで取りに行く、
陸からしたら別にすぐに行きたいという訳ではなく、少し顔を出すだけのつもりだった。
陸は急がなくても良いと伝えようとしたのだが、小咲はすぐさま鞄の所まで行ってしまい、それを伝えることができなかった。
小咲はるりに何か一言かけ、返事を受けてから陸の方へ戻ってくる。
「お待たせっ、じゃあ行こっ?」
「…あぁ」
何か学校でやりたかったことはないのか。
友人とまだ話し足りなかったりしないのか。
少し気になった陸だったが、特に小咲に未練があるようなそういう様子は見られない。
もし小咲が何かやり残したことがあるという未練があったとしたらその事を言ってくれるだろうし、それを隠していたとしても隠し事が苦手な小咲の事だ。すぐにわかる。
そうして、校舎の外に出た陸と小咲。
…生徒玄関に行く途中、「そこのべっぴんさん!おいの女にならんと!?」という騒がしい声が聞こえてきたが、気にしない。
小咲が微妙に汗をかいていたような気がするが、それは気のせいだろう。
「陸君、あれから帰りは何時頃になったの?」
「んー…。家に着いたのは九時ちょっと前位かな…。思ったよりも早く解放されたしな」
昨日の帰宅した時間を小咲に問われて答える陸。
昨日はあれから、警察に交番に連れてかれ、話を聞かれた、
しかし、陸は関係こそあるものの加害者でも被害者でもなく、どちらかというと目撃者という立場に近かった。
なので、発端はよくわからず、それでも予測をして店内の監視カメラに映っているのではないかと警察官に言った。
それから、警察が店内の監視カメラの映像を調べる時間があり、その間陸はずっと椅子に座ったまま待ち続け…、待つこと一時間、証拠の映像を手に入れたという事でようやく解放されたのだ。
「そんなに…。ご、ゴメンね。本当は私たちが何とかしなきゃいけないことだったのに…」
「いや、小咲は春ちゃんの傍にいなきゃダメだっただろ。あれは俺が行くのが一番正解だったって」
何で小咲が謝ってくるのか。
確かに被害者である春と小咲は血縁関係にあるものの、事件に関しては全く関係はない。
口にはしないが、あそこで小咲が警察についていっても逆に困ることになっていただろう。
陸も言っていたが、あそこは陸が行くのが一番正解だったのだ。
「もう過ぎたことだしさ。俺の事は気にすんなって。小咲が気にするべきなのは、俺の事じゃないだろ?」
「…うん」
そう。小咲が気にするべきことは、心配するべきことはこんな事ではない。
もっと気に病んで、傷ついている人を、家族が小咲にはいるのだから。
「ただいまー」
「お邪魔します」
そこからは他愛ない会話をして、気づけば小咲の家の前に着いていた。
まず小咲が鍵を開けて扉を開き、陸を中に招く。
陸が初めに玄関に入り、続いて入ってきた小咲が扉の鍵を閉める。
陸は履いていた靴を脱ぎ、向きを整えてから小咲が来るのを待つ。
小咲も靴を脱いで床に上がり、陸の一歩先に出て会談へと足を向ける。
「あ、お帰り小咲」
すると、廊下の奥。お店がある方から男性の声が聞こえてきた。
二人がその方向に顔を向けると、そこには優し気な面持ちをした男性が立っていた。
「あれ…。その人は?」
「この人は一条陸君。中学からの友達なの。あ、陸君。こちらは私のお父さん」
「おとう…さん?」
小咲母とはまた違った顔立ち。
先程も描いたが、この男性は優し気な顔立ちをしている。
少し吊り眼で、きつめの印象を与える小咲母とは対称的といえる。
小咲、春姉妹の顔立ちはどちらかというと小咲母に似ているが、小咲の優し気な雰囲気と性格は父親に似たのだろう。
「一条…。あ、えっと…、小咲の父です」
「あぁ…と…。一条陸です。いつも小咲さんにはお世話になっております」
うん。この初めて会った人に何て挨拶をすればいいのか困っている仕草なんか小咲とかなり似ている。
何はともあれ、陸と小咲父は挨拶を交わす。
「そっかー。小咲にも下の名前で呼び合う仲のいい男の子ができたのかー。…成長したね」
「お、お父さん!?」
うん。この何か微笑ましく眺めている時の表情も小咲と似通っている。
この二人、かなり親子なんだなと実感する陸。
「えっと、一条君…だっけ?菜々子から聞いてるよ。たまに家に手伝いに来てくれてるんだって?」
「あ…、はい」
「そうか…、すまないね。菜々子は君の事を相当気に入ってるみたいだ。これからも菜々子が君を引っ張り込もうとするだろうけど…、気を悪くしないでくれると嬉しい」
「い、いえ…。そんな事はないので、ご心配なく…」
どうやら陸の事は小咲母から聞いていたようだ。
そして、小咲母の強引さに頭を抱えているようだ…。
それを見越して謝罪をする小咲父に、返事を返す陸。
「ちょっとー!電池まだ見つからないのー!?」
「おっと…、早く行かないと菜々子に怒られる…。じゃあ、またいつかゆっくり話そうね。後…、君が来ていることは奈々子に内緒にしておくよ」
「は、ははは…」
店の方から、小咲母が小咲父を呼ぶ声が聞こえてくる。
小咲父は最後に陸に二言かけてから、店の方へと去っていった。
「…お母さんとは対称的だな」
「娘の私が言うのもあれだけど…、ホントそうだよね…」
小咲もそう感じていたらしい。
別に嫌いだとかそういう訳ではないのだが…、話していて疲れることがあるのが少し困る。
逆に小咲父とは話していると、癒されるというのは変だが…、何というか、不満を飲み込んでくれそうな気がする。
小咲母は愚痴を言うと持っている不満を助長させそうで怖い。
「春ー、入るよー」
小咲の部屋の隣。そこが春の部屋なのだろう。
扉をノックしてから小咲はドアノブを捻って扉を開ける。
「あれ、お姉ちゃん?もう帰って来たんだ」
「ちょっと春?ベッドの上でお菓子なんか食べて…」
小咲の背中に遮られて見えないが、どうやら春はベッドの上で何かで退屈を凌いでいたようだ。
それと、自分が来ているのに気づいていないようなので、陸は春に姿が見えるように体の位置をずらす。
「…なっ!?」
「おっす」
春の目が大きく見開かれ、口がパクパクと開閉している。
何で?という感情がありありと顔に書かれているのが分かる。
「いや、何というか…。心配してたけど、元気そうで良かったわ」
「…っ!?」
今、春はピンク色の可愛らしいパジャマを着て、ベッドに寝そべりながらお菓子を食べていた。
前日、あんなことがあったから塞ぎ込んでいないかと心配していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「ちょっ…、一条先輩、出てってください!変態!スケベ!」
「いや何でだよ…」
本当に元気そうで、何よりだ…。
「コラ、春?陸君は春の事を心配して来たんだよ?そんな言い方しないの」
「う…、で、でも…」
「小咲、俺も来るタイミングが悪かったし。うん、でも本当に元気そうで良かった。この調子なら、すぐに学校に行けるようになるな」
タイミングも何も、春が今、何をしてるかわからない時点で陸にはどうしようもないのだが…。
でもこういう時は男が謝るべきなのだという事を陸はわかっていた。
春に謝った後、笑みを浮かべながら声をかける陸。
「た、確かに怖かったですけど…。ちゃんとカーテンを閉めておけば回避できたことですから…」
(これは…、本当に元気そうか?)
自分で割り切っているのか、春は思ったよりもショックを受けていないように見える。
見えるだけで、内心ではどう思っているのかはわからないが…、ともかくそういう風に見えるように振る舞えるという事が分かっただけでも収穫か。
「そっか…。なら良かった。じゃあ、春ちゃんが元気だってこともわかったし、俺はもう帰るよ」
「え?もう帰っちゃうの?」
元々、ちょっと春の様子を覗いたらすぐに帰るつもりだったため、陸はここでお暇しようとする。
小咲が目を丸くして呼び止めてくるが、ここは空気が読める男陸。
というか、昨日の事もある今この状況で、長い間居座る事などできない。
「すぐ帰るつもりだったし、それにもうすぐ夕飯の準備もしなきゃだろ?邪魔するわけにはいかないだろ」
「そっか…」
陸が帰ると言うのなら止めることは出来ない。
少し残念そうな顔をするが、すぐに笑みを浮かべて陸と向き合う。
「じゃあな春ちゃん。ゆっくり休めよ」
「あ…」
春に手を振りながら一言かけて、陸は足を扉へと向ける。
そして、ドアノブに手をかけ、回そうとした。
「待ってください!」
そこで、背後から春が陸を呼び止める声がした。
陸は動きを止めて振り返る。そこには、やや俯き気味で、僅かにもじもじしている春。
春は少しの間、そうして視線を彷徨わせていたが、不意に陸をまっすぐ見据えて、口を開いた。
「あの…。昨日は、助けてくれてありがとうございました」
「…え?」
「き、昨日はちゃんとお礼を言えなかったですから…。その…」
そういえば、昨日はそんな場合じゃなかったし、お礼を言われてなかったなと思い出す陸。
正直、そんなことは気にしていなかったし、そのまま何も言われなくても全く気にならなかっただろう。
「…何ですか」
「いや…。春ちゃんが素直にお礼を言ってくるとは…」
春がお礼を言ってきたというまさかの事態に、驚いた陸。
だからだろう、つい余計な一言を口にしてしまった。
「危ない所を助けてくれた人に、普通はお礼を言うでしょ!?そんな当たり前のことができない人だと思ってたんですか!?」
「あ、いや、そういう訳じゃ…。ごめん、ごめん!」
これは完全に自分の非である。陸はすぐに両手を合わせ、頭を下げて春に謝る。
「ふんっ」
「…」
すっかり機嫌を損ねてしまった春。どうすればいいか…。
「えっと…」
「何してるんですか?もう帰るんじゃないんですか?ていうか、さっさと帰ってください」
「はい。そうさせてもらいますごめんなさいでした」
これはもうこれ以上ここにいてはいけない。そう悟った陸は、流れるような動作で回れ右。
そしてドアノブを捻って扉を開け、再び流れるような動作で外に出て扉を閉めて行った。
「もう…、?」
陸が出て行った扉を少しの間眺めてから、呆れたような目で春を見る小咲。
だがそこで、小咲が見た春の表情。
「…」
春は、部屋の扉をじっと見つめながら、確かに微笑んでいたのだ。
おまけ
「ご、ごめん!さっき菜々子から聞いたんだ!昨日、春を助けてくれたのは一条君だって…。これ、お礼なんだけど、受け取ってほしい!」
「え?あ、いや、昨日は当然の事をしただけですし…。そんなたくさんもらえませんよ」
「そう言わずに!じゃないとこちらの気が済まないんだ!」
「えぇ…」
玄関に行き、陸が靴を履こうとした時に起きた、小咲父との一幕である。
ていうことで、小咲父の登場です。
そして、春の様子にも変化が…?
あ、B連打しないでくださいお願いします。