一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第69話 ヤクソク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?恋人の振りぃ?」

 

 

ケータイを耳に当てた楽の素っ頓狂な声に、対戦ゲームをして遊んでいた陸と集が振り返る。

 

未だ夏休みの真っ最中、アポもなしに家へと来た集と、陸と楽はゲームで遊んでいたのだがその途中、楽のケータイにるりから電話が入ったのだ。

 

そのるりと会話をしていた楽だったのだが、思わぬセリフに陸も楽も目を丸くしている。

 

 

「いや、何でそんなことに…、後で説明する?今すぐ準備して凡矢理駅に来い!?え、いやでも…、あ、はい。すぐに行きます」

 

 

るりが何を言ったのかは聞こえないが、楽の返答を聞く限り大体の予想がつく。

 

初めは何らかの頼みごとをるりがしていたのだろうが、恐らくかなり切羽詰まった状況なのだろう。

ドスの利いた声で楽に命令した、といった所か。

 

しかしわからないのは、楽が聞き返していた恋人の振りという言葉である。

…まさか、るりとも付き合ってる振りをするのだろうか。二股か、二股なのか楽は。

 

等々考えている内に、通話が切れたようだ。耳からケータイを離して呆然としている楽。

 

 

「…宮本からだったんだろ?どんな用だったんだよ」

 

 

さっさと、率直に聞きたいことを楽に問いかける陸。

楽は問いかけた陸へとゆっくりと視線を移し、呆然としたままこれまたゆっくりと口を開く。

 

 

「宮本が…、今日、曽おじいさんの家に行くらしいんだ…」

 

 

「…で?」

 

 

「それで…、何か宮本は行きたくなかったみたいで、彼氏がいるって理由をでっちあげて断ろうとしたみたいなんだけど…、その彼氏を連れて来いって言われたらしくて…」

 

 

「…」

 

 

とりあえず、楽は完全に巻き込まれたという事らしい。

さらに、楽が言うには、るりは大量の男子の写真から適当に一枚選び、その人を彼氏という事にして断ろうとしたらしい。

その上、テレビ電話で話していたらしく、写真に写った男子の顔も見せてしまっているという事。

つまり、楽を連れて曽おじいさんの家に行くしかるりには選択肢が残っていないという事なのだ。

 

 

「…ま、どんまい。ゆっくり楽しんで来いよ」

 

 

「おい!そんな他人事みたいに…」

 

 

「だって他人事だし」

 

 

陸からすれば他人事のため、特に感じることも無く。

せっかくの旅行なんだから楽しめば?といった感じである。

 

 

「なぁなぁ楽!俺もついてっていい!?」

 

 

「は?何でだよ?」

 

 

「だって面白そうだし!」

 

 

だが陸と違って、集は楽が巻き込まれている事態を面白そうだと感じたらしく、ついていくと言い張っている。

 

 

「いや、まぁ…いいんじゃね?行くんなら準備しなきゃだけど…」

 

 

「なら俺もう帰るわ!陸、楽しかったぜ!」

 

 

「お、おう…」

 

 

一目散に部屋から出て行く集。

 

 

(そこまで面白そうか?…いや、面白そうだな)

 

 

とはいえ、ついていこうとまでは思わないが。

 

 

「ほら、楽も準備しろよ」

 

 

「…陸は来ないのか?」

 

 

「俺はゲームしてる。ていうかこんな暑い中出て歩きたくねえ」

 

 

「ホント…、俺はお前が引きこもりにならないか心配になるよ…」

 

 

大丈夫だ、それはないと楽に答えながら陸はゲームソフトの入れ替えを始める。

そんな陸を見てため息を吐いてから、楽も部屋から出て行く。

 

さて、これで陸の部屋からは主以外誰もいなくなった。

つまりこれからは陸が完全なる自由を得たことになる。

 

 

「よし、早速期間限定クエストをやりに…」

 

 

ソフトの入れ替えを終え、ゲーム機を起動させるためにスイッチを押そうとする陸。

だがその瞬間…、陸のケータイの着信音が鳴り響いた。

 

 

「…」

 

 

スイッチを押そうと手を伸ばした体勢で陸の動きが止まる。

そんな中でも、ケータイの着信音は鳴り続けている。

 

 

「…くそっ」

 

 

立ち上がり、テーブルの上に載るケータイを取り、通話ボタンを押して耳に当てる。

 

 

「もしもし」

 

 

『あ、陸先輩ですか?小野寺春です』

 

 

電話を掛けてきたのは、春だった。

春はどんな心境の変化があったのか、あの花火大会の日から陸の事を名前で呼ぶようになっていた。

もちろん、先輩を付けてだが。

 

 

『実はですね、今、水族館のチケットを二枚持ってるんですよ。本当は今日、私とお姉ちゃんでいく予定だったんですけど…、私、お母さんにお仕事頼まれちゃいまして…』

 

 

「…話が読めてきたけど、一応続きを聞こう」

 

 

読めたというより、もう確定だろう。次に春の口から出てくる言葉は。

 

 

『先輩、私の代わりにお姉ちゃんと水族館に行ってくれません?』

 

 

『は、春!?』

 

 

何か電話の向こうで小咲が驚いている声が聞こえてきたが、小咲の了承は得ていないのだろうか?

 

 

「あのさ春ちゃん。小咲の驚いてる声が聞こえてきたんだけど…、まさか…」

 

 

『何を言ってるんですか?お姉ちゃんは近くにいませんよ』

 

 

『は、春!何を勝手に…!』

 

 

春は惚けているが、間違いなく電話の向こうで春の近くに小咲はいる。

そして小咲は、自分を水族館に誘おうとしている春を止めようとしている。

 

 

「あのさ春ちゃん、お誘いは嬉しいけど、小咲も嫌がってるみたいだし、俺じゃなくて千棘辺りを…」

 

 

『あぁ~、違いますよ!もう、お姉ちゃんが止めようとするから陸先輩、お姉ちゃんが嫌がってるんだって勘違いしてるよ!?』

 

 

『え、えぇ!?』

 

 

何か言い争いが始まったようだが、大丈夫だろうか。

別に姉妹喧嘩を止めるつもりはないが、自分との電話中ということを少し考えてほしい。

 

 

『あ、あの…陸君?』

 

 

「…小咲?」

 

 

少しすると、今度は春ではなく小咲の声が聞こえてきた。

 

 

『私は、その…。陸君と水族館に行きたいけど…、だめ、かな…?』

 

 

「…」

 

 

もう前から思っていることなのだが、どうして小咲はいつもそんな狡い聞き方をするのだろう。

断る気はさらさらないのだが、たとえあったとしてもそんな気はみるみる消えていくだろう。

 

 

「いや、駄目じゃないけど…。なら、行くか…?」

 

 

『…うん』

 

 

何で…何でこんな微妙な空気になったのだろう。

結局微妙な空気はそのまま変わらず、待ち合わせ場所と時間を決める陸と小咲。

 

場所は現地、時間は十三時という事で決まる。

 

 

(さて、待ち合わせ時間は決まったけど…。十三時か、すぐに準備して家でなきゃ間に合わねえな)

 

 

本当は十四時にしようという話だったのだが、春の横やりによって一時間、時間が早まってしまった。

 

 

(しかし、前までの春ちゃんからは考えられないな…。小咲と水族館に行けなんて…)

 

 

本当に、あの花火大会から春は変わった。一体どんな心境の変化があったのか…。

 

ともかく、そんな戸惑いは心の隅に置き、陸はすぐさま外出の準備を始める。

顔を洗い、歯を磨き、部屋着から外出用の簡単な夏服に着替える。

 

そして組員の一人におにぎりを作らせ、できたそれをラップで包んで袋に入れる。

 

 

「陸坊ちゃん、帰りはどれくらいになるんで?」

 

 

「わからん。まあ、夕飯までには戻るとは思うけど」

 

 

玄関で靴を履きながら竜と話す。

いつ帰れるかはわからないが、さっき言った通り夕飯までには帰れるだろう。

というよりそれまでに帰らないと、小咲の親も心配するだろうしこちらの組員たちも喧しくなる。

 

 

「じゃあ、行ってくるわ」

 

 

「おす!行ってらっしゃいやせ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

水族館前に到着した陸。ここに来るまでに乗った電車の中で腹ごしらえも済ませ、準備万端。

辺りを見回したが、まだ小咲はここに来ていないようだ。

 

 

(時間は…、五分前か。そろそろ来るか?)

 

 

ただ今の時間、十二時五十五分。待ち合わせ時間、一時まで残り五分。

まあ、約束した時刻を考えたら小咲が来るのはギリギリか、それとも遅刻してくるかもしれない。

 

 

「り、陸君!」

 

 

「お?」

 

 

そう思っていたのだが…。陸の予想に反して小咲は五分前にやってきた。

とても慌てた様子で、少し汗が流れている。

 

 

「おい、大丈夫か…?」

 

 

「はぁ…はぁ…、だ、大丈夫」

 

 

陸の元に駆け寄った小咲が、両手を膝について息を荒げている。

 

 

「大丈夫そうには見えないけど…、ちょっと休むか?」

 

 

「はぁ…、大丈夫。せっかく陸君と遊ぶんだもん、こんな所で時間を無駄にしたくないから」

 

 

「っ」

 

 

花が咲いたような、そんな輝かんばかりの笑顔を浮かべて言う小咲に息を呑む陸。

 

さらに今になって気付いたのだが、小咲が着ているのは白いワンピース。そして頭には麦わら帽子。

そう、これは前に陸と小咲、春の三人で買い物に行ったときに小咲が買ったものだった。

今日、小咲はその服装を選んでここに来たのだ。

 

 

「そういえばその服…、前に買ったものだよな」

 

 

「あ…、うん。覚えてたんだ…」

 

 

帽子を撫で、身に着けているワンピースを見下ろしながら頬を染める小咲。

 

 

(あぁもう…、一々仕草が卑怯なんだよな…)

 

 

口には出さないが、そんな事を考える陸。

ただでさえ容姿が整っているというのに、それに加えてその可愛らしい仕草は効果抜群。

 

陸も思わず頬を染め、小咲の顔から視線を逸らしてしまう。

 

 

「…と、とにかく!大丈夫なら、もう館内に入ろう。それにこうして話している間に休めただろうし」

 

 

「あ…、うん!じゃ、行こっか!」

 

 

陸と小咲は頬を染めた赤を収め、笑みを向け合いながら並んで歩き始める。

 

久しぶりの…いや、初めて約束し合ってのデートの行先は、木地里(きっちり)水族館。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




木地里(きっちり)はオリジナルです。
あの水族館は何ていうんでしょうね?
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