これで、キャストは揃ったわけです…。
人によっては耳障りに思える音も、今は何故か心地よく感じられる。
周りには黒服を身に着けた男たちや、常人では考えられないほどサイズが小さめの女の子。
そんな周りから見れば怪しさ満点の人達と共に、女性は地面に足を着ける。
「日本…、本当に久しぶり…」
風で揺れる髪を押さえながら、晴れ渡った空を見上げる。
「元気かなぁ…。陸ちゃん…、楽ちゃん…」
「♪」
親しい友人でも、滅多に見ることのない程ご機嫌な様子で陸は外を歩いていた。
その手には、小さなビニール袋。そしてその中には─────
(寝坊しちまった時にはマジで焦ったけど…、ラスト一本!間に合ったぞモンハンZ!)
一本のゲームソフト、超大人気シリーズモンスターハ〇ターの最新作。
朝一に起きて、店に並ぼうと予定していた陸だったが何という不覚、寝坊してしまった。
慌てて、顔を洗ってからご飯も食べずに家を飛び出して…、何軒か回った所で奇跡的に買うことができたのだ。
(もうしばらくできないって覚悟してたけど…、これは運命だ!神様が残り少ない夏休みはゲーム漬けで生活しろって言ってるんだ!)
感動しているのか、ほろりと涙を流しながら心の中で的外れなことを呟く陸。
何かもうワクワクしすぎて落ち着いていられず、そして早くケースを開けてプレーしたいという思いに駆られ、走り出す。
「…?」
もう、ゲーム以外の事は考えられなかった。
だから、家に着いた時の異様な光景を見た時の陸の衝撃は凄まじいものがあった。
(…何であいつらがスーツとか着てんだ)
燃え上がっていた心が冷えていくのが分かる。
そして代わりに頭の中に湧き上がってくる疑問符たち。
「お、陸坊ちゃん!お帰んなせぇ!」
「…竜、何やってんだ」
スーツをしっかり着こなすだけでも普段から考えれば信じられないというのに、さらにぴっしり横一列に並んでいるのだからなお質が悪い。
怪訝そうな目を向けながら竜に問いかける陸。
「あ…、そういや陸坊ちゃんには秘密になってたんでしたね…。今、叉焼会の首領が来てて…あぁっ!坊ちゃん!?」
竜が言葉を言い切る前に、陸は駆けだした。
背後から聞こえてくる竜の声を無視して、陸は玄関の扉を乱暴に開け、玄関で靴を脱ぎ捨てる。
「親父!おいどこだクソ親父!」
廊下をどたどたと鳴らしながら歩く陸から、廊下の端へと並んで道を作る組の男たち。
「…おい、親父はどこにいる」
「へ、へいっ!ぼ…ボスなら今、執務室に…」
不意にぴたりと止まった陸は、すぐ横にいた男に一征の居場所を聞く。
執務室にいるとしっかり聞いた陸は、進路を変更。客室へと向いていた足を回れ右で方向転換し、再び歩き出そうとする。
「…陸ちゃん?」
「え?」
すると、背後から自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
竜の声では止まらなかった陸の足が、その瞬間ぴたりと止まった。
陸が振り返ると、そこにはこちらを目を丸くしながら見つめてくる、綺麗な女性が。
長い髪を腰辺りまで下ろし、カチューシャを着けている。
「陸ちゃん!」
「…え?」
その女性は次の瞬間、笑顔を弾けさせてこちらに駆けてくる。
陸は、ただただその女性を呆然と眺めるだけ。
その間にも、女性は陸の両手を掴んで上下に振りながら話しかけてくる。
「うわぁっ、陸ちゃんも大きくなってる!元気にしてた~!?」
「…羽…姉?」
「うん!そうだよ、陸ちゃん!」
呆然としていた陸の表情も、羽と呼ばれた女性と同じように笑顔へと変わっていく。
「うわぁ!一瞬、誰だか分かんなかった!羽姉こそ大きくなったなぁ!」
「へへへ…、もう六年…七年ぶりかな?本当に久しぶりだもんね?」
「しかし、今日来るとは思ってなかったわ…。親父も近いうちに来るとは教えてくれたんだけど、それ以外は何も言わなかったし…」
羽の姿を見て、話している内に抱いていた怒りは何処かへ去っていったようで。
親父と口にしても怒りが沸くことはなく、羽と会話を続ける陸。
「あ…、ゴメンね?それ、私が秘密にしてほしいって言ったの。ビックリさせたくって」
「…そういえば、竜も俺には秘密とか言ってたな」
意外な人から陸が知りたい答えを聞き、そこで竜も核心に至る言葉を言っていたことを思い出す。
「あ、羽姉、楽とは会ったか?実はさ、楽の奴今彼女いるんだよ…」
「うん、ついさっき会ったよ。今、そこの部屋で桐崎さんと話してたの」
「え、何だ。もう会ってたのかつまらん」
陸は視線を羽から外し、羽が言っていた部屋の中を覗く。
「おう、陸」
「お邪魔してまーす」
座布団に座っていた楽と千棘が、手を上げながら挨拶してくる。
陸は部屋の中へ入り、座布団に座るとその陸の後をついてきた羽も陸の隣に腰を下ろす。
「そっか…。あんたと幼なじみってことは当然、陸とも幼なじみってことよね…」
「今頃気付いたのかよ…」
今まで何を話していたのかは知らないが、千棘が顎に手を当てながら頷き、その横で楽が呆れたような目で千棘を見ている。
陸は疑問符を浮かべて首を傾げ、その隣で羽がくすりと笑っている。
「それにしても…、陸ちゃんは変わったね。昔は全然しゃべらなかったのに、今はこんなにしゃべってる」
「…なぁ、俺ってそんなに変わったか?確かに昔は無口だったなとは思ってるけど」
「「変わったよ」」
「お前には聞いてねえよ楽」
しみじみと変わったねと言う羽に問いかける陸だが、何故かその問いかけに羽と一緒に答えた楽に間髪入れずにツッコミを入れる。
「もう、陸ちゃん覚えてないの?あの頃の陸ちゃんは私が何を話しかけても全然しゃべらなかったんだよ?」
「…そうだっけ」
「そうだよ。頷いたり何かリアクションしたり、返事はしてくれてただけ良かったけど…」
「…」
俺って、そこまで無口だったの?ちょっと大げさに言い過ぎじゃね?
と、内心で呟く陸だが口には出さない。
口に出せば、羽と楽にツッコまれるのが目に見えてるから。
「…この調子じゃ陸ちゃん、あの事も覚えてないでしょ」
「あの事?」
ニコニコと笑顔を浮かべながら陸を見つめて、羽が問いかけてくる。
羽が言うあの事というのに全く思い当る節がなく、陸は羽に問い返す。
すると、羽はニコニコと浮かべていた笑顔をそのまま変えず、口を開く。
「私のファーストキスを奪ったこと」
陸はひっくり返り、楽と千棘は正座をしたまま物理法則を無視して飛び上がる。
「ふぁ、ファースト!?はじ、初め…はいぃ!?」
「あ、やっぱり覚えてないんだ。ひどいな~、大切な初めてだったのに~」
顔を真っ赤にして慌てふためく陸。いや、本当に何も覚えてない。
(え…!?そんな事…あったっけ!?は!?)
外だけでなく、内でも動揺しまくりの陸を、楽と千棘は頬を染めながら眺めている。
「ま、マジか陸…。お前、いつの間に…」
「いや、ホントに覚えてない!て、ていうかウソだろ!?ウソだって言ってくれ!」
「え~?ひどいな~」
信じられないと言わんばかりの目で陸を見ながら言う楽。
そんな楽の言葉を切り捨ててから、懇願するように羽に詰め寄る陸。
そして不満げに頬を膨らませる羽は、頭を抱える陸を見つめながらそっと頬を染める。
「でも…、陸ちゃんは私を…」
((…ん!?))
陸は頭を抱えていたため羽の表情を見ることができず、さらに混乱していたため羽の呟きも聞き取ることができなかった。
だが、楽と千棘は別で。
羽の表情を見れて、呟きも聞き取ることができたため、悟る。
これは、もしかしたら後に大きな嵐が起きるのではないか、と。
「あ…あー…。羽姉ちゃんはいつまで日本にいる予定なんだ?」
「うん?そうね…、実は期間は特に決めてないんだ。しばらくはぶらっとしようかなって思って」
ともかく、堪らずこの空気を変えようと、楽が今までの話題を反らして羽の滞在期間について聞く。
だが、詳しい事は決めていないようで、羽はわからないと答えた。
「あ、そうそう。陸ちゃん、楽ちゃん。実は私、こっちにいる間は二人と同じ高校に通うのよ。これからは毎日会えるねー。明日から新学期だし」
「え、そーなの?」
楽も千棘も目を見開き、陸も復活して驚いた様子を見せる。
「何だよ。わざわざ転校してくんのか?」
「なら、羽姉は俺たちの先輩になるってことか」
「…うふふふふ」
陸と楽が言う。そして、そんな二人を羽は笑みを浮かべながら見つめるのだった。
次の日、羽が言っていた通り新学期の初日。
とはいっても、あるのは始業式や教室の掃除だけで本格的な授業は明日からだ。
そして今は、その始業式が終わり、掃除が始まるまでの休み時間である。
陸は席に着き、机で頬杖をつきながら周りに立っている友人たちと談笑していた。
「お、おい一条…。あの先生が、お前を呼んでくれって」
「は?先生?」
すると、友人たちの輪を分けてやって来たクラスメートが、戸惑いの表情を浮かべて、黒板側の扉を指さしながらそんなことを言ってきた。
友人たちはそのクラスメートが指さす方へと視線を向ける。
その際、僅かに体を動かす者もいて、そのおかげで人と人の間が空き、そこから黒板側の扉を目にすることができた。
「ん?あの人誰だ?」
「あんな人、見たことねえよな」
「制服着てないってことは教師?すっげー美人だな…」
「っ!!!?」
友人たちが何やら話している中、陸の頬杖が崩れ、顔面を机へぶつけてしまう。
その際に響いた音に、友人たちが振り返って陸を気遣うがそれさえも気にならない程今の陸は動揺している。
「な、何で…」
痛む顔面を押さえながら、席から立ち上がった陸はその教師がいる方へと向かう。
「陸ちゃーん、やっと会えたねー!」
「教師かよ!羽姉!」
てっきり、先輩として来るとばかり思っていた。
だって転校って言ってたし、あの時は何も言わなかったし。
だが、そんな陸の予想はあっさり外れ、昨日と違って髪を三つ編みにした羽はにっこり笑いながら目の前に立っている。
「これからはこのクラスの英語を担当します。これからよろしくね?」
本当に、羽が来てからは驚かされてばかりだ。
手で額を押さえながら、天井を仰ぐ陸だった。
この話を読んだ人はわかるでしょう。
さて、改めて聞きます。
ハーレムというタグをつけた方が良いのでしょうか?
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