一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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陸君がぶち切れます。








第72話 ブチキレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は?あの新しく入ってきた先生が、お前の幼馴染?』

 

 

友人たちの呆然とした表情が、鮮明に頭に浮かび上がる。それに、ぶっちゃけ自分も友人たちと同じ表情をしていたと思う。

 

ていうか、どうやって教師になれたのだろう?教員資格とかいつ取ったのだろう?

 

 

(…まさか、叉焼会の力でごり押ししたとかないよな)

 

 

ありそうで怖い。羽の頼みなら叉焼会全体が働きそうで怖い。

 

陸はこれ以上恐ろしい予想をしないように努めながら、肩からずり落ちそうになった鞄の位置を直して歩き出す。

 

すでに帰りのホームルームは終わり、ほとんどの生徒が教室から出て廊下にたむろったり帰ろうと玄関に向かったりしている。

 

陸は後者の方で、初めは楽と羽を誘って帰ろうとしたのだがすでに二人の姿はなく。

それどころか他の、小咲や集たちの姿もなかったためほんの少ししょんぼりしながら階段を降りていた。

 

まあ、羽に関しては教師だし、色々とやらなければいけないこともあるだろうし仕方ないのだろうが。

…楽は少しくらい待っててくれたっていいじゃないか。

 

 

「陸君!」

 

 

怒り(楽に対して限定)すらも湧いてきた時、陸は靴を履き替えていたのだが生徒玄関の扉の方から陸を呼ぶ声が聞こえてきた。

目を向ければ、そこにはこちらに手を振る小咲の姿があった。

 

 

「良かった…。まだ学校にいたんだね」

 

 

「…待ってたのか?俺が来るの」

 

 

安堵のため息を吐く小咲に、キョトンとしながら問いかける陸。

すると、小咲は笑顔を浮かべて、陸を見上げながらこくりと頷いた。

 

うわ、やっぱり小咲優しいわー。どっかの薄情な糞兄貴とは雲泥の差だわー。

 

等々しみじみと感動する陸だったが、すぐに我に返る。

 

 

「っと…、待ってた…て、どうしたんだ?」

 

 

「え?え…っと…」

 

 

ホームルームが終わり、教室から出て見てわかったのだが、それなりに早く小咲たちのクラスのホームルームは終わっていたはずだ。

千棘やるりたちと一緒に帰ればいいものを、こうして自分を待っていたのだから何か理由があるはずだ。

なので、陸は小咲にその理由を問いかける。

 

 

「えっと…、陸君に聞きたいことがあって…」

 

 

「聞きたいこと?」

 

 

「ち、ちょっとここじゃ聞きづらいからっ、歩きながら話そう!?」

 

 

何故か慌てふためく小咲を見て疑問符を浮かべる陸。

ともかく、小咲の言う通りに、玄関、校門を出て歩道を歩き始める。

 

それでも話し始めない小咲。

相当、話しづらい事なのだろうと考えた陸は小咲が口を開くまで黙って待ち続ける。

 

歩道へ出て五分ほど経っただろうか、校門前ではたくさんいた生徒の数も減ってきた所。

不意に小咲が口を開いた。

 

 

「あの、陸君…。さっき言った、聞きたいことなんだけど…」

 

 

「…ん」

 

 

学校からここまで離れるまで小咲は一言も話さなかったのだ。

自分が考えているよりも、難しい事なのかもしれない。

 

陸は、顔を俯かせる小咲を見つめながら次の言葉を待つ。

 

そして、小咲は顔を上げて陸の目をしっかり見据えて口を開いた。

 

 

「…っ。陸君と羽先生って、どんな関係なのかな~って…」

 

 

「…は?」

 

 

思わぬ内容に、呆気にとられた。

 

どんな相談事だろう。どんな悩みなのだろう。ちゃんと小咲のためになるように話に乗らなければ。

そんな事ばかり考えていた陸の目がまさに言葉の通り点になる。

 

 

「羽先生って…、奏倉羽…?」

 

 

「そう…です…」

 

 

どうやら陸の考え通り、小咲の言った羽先生とはあの羽の事らしい。

 

 

「羽姉との関係っつっても…、幼なじみとしか…。てか、そっか。キョーコ先生の後釜に就いたんだ、羽姉は」

 

 

「ほん…とう?」

 

 

「…え、何?」

 

 

羽は小咲たちの担任に就いたようだ。…楽が何かぼろを出して男子たちに叩かれている光景が目に浮かぶ。

だが、それよりも気になるのは未だどこか悲しげに瞳を揺らす小咲である。

 

 

「あの…。羽先生が言ってたんだけど…、日本にいる間、陸君の家に居候するって…」

 

 

「…は?」

 

 

およそ一分足らず。陸は二度目の衝撃を受けた。

 

 

「え…え?はい?何それ、俺何も聞いてないんだけど?」

 

 

「え?」

 

 

今度は小咲が目を点にする番だった。

 

 

「で、でも、一条君が陸君は知ってて黙ってるかもしれないって…」

 

 

「いやいやいや、さっき小咲に聞いた時はむしろ楽が知ってて黙ってたって思ったんだけど…。あいつ、さっさと帰ったみたいだから…」

 

 

「あ…、一条君、お父さんに問い詰めるって急いで帰っちゃって…」

 

 

なるほど、色々と合点がいった。

多分、千棘や万里花、鶫は羽のカミングアウトにショックを受けて一人で帰ってしまったのだろう。

集とるりは…まあ、それぞれマイペースに面白がって帰ったのだろう。

そして小咲は、玄関前で自分を待っていたと。

 

 

「…あの糞親父。羽姉が来た時も俺には知らせてくれなかったんだ。絶対一発ぶん殴る」

 

 

「て、手加減してあげてね…?」

 

 

何やら暗いオーラを醸し出しながら呟く陸に、苦笑しながら小咲が言う。

 

ここでやめろと言わない辺りが、だいぶ陸の事を理解してきたように感じられる小咲であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい糞親父ぃ!羽姉が家に居候するたぁどういう事だぁ!?何で俺に知らせなかったんだ、ぁあ!?」

 

 

竜に一征の居場所を聞き出し、すぐさま応接室へと向かった陸。

乱暴に障子を開けながら叫ぶ陸の視界に、上座に座る一征と、並んで座布団に座る楽と羽の姿が飛び込んできた。

 

 

「おう、陸、帰って来たか」

 

 

「おう、陸、帰って来たか、じゃねえんだ糞親父。羽姉が来た時も詳しい日時が分かったら俺に知らせるとか言っときながら何も連絡くれなかったなぁ。こちとらいい加減ぶちぎれっぞ」

 

 

楽はガタガタと震え、羽も蟀谷に一筋の汗を垂らす。

そんな中、一征だけがケラケラ笑いながら陸に返した。

 

 

「居候も黙ってるのも羽の希望よ。お前ら二人を驚かせてぇっつってな」

 

 

「…そうなのか?」

 

 

一征の言葉が本当なのかを、陸は羽に確かめる。

 

 

「うん。…昨日の事もそうだけど、ごめんね?気分悪くしちゃったよね…」

 

 

陸の問いかけに頷く羽。そしてその後、落ち込んで俯いてしまう羽。

 

 

「い、いや、別にそういうわけじゃ…。ゆ、羽姉がそう言ったんなら俺はもう何も言わねえ」

 

 

「…ありがとう、陸ちゃん」

 

 

羽がそう望んだのなら文句を言うつもりはない。

久しぶりの再会なのだから、相手を驚かせたいという気持ちはよくわかる。

 

 

「おっと、そうだ陸。羽の部屋はおめぇの隣の部屋を使わせるつもりだ。色々と面倒見てやってやんな」

 

 

「おい待て親父どういうことだゴラ」

 

 

怒りを収めようとした陸だったが、次の一征の言葉に怒りが再燃してしまう。

 

 

「何でわざわざ隣の部屋を?空いてる部屋なら他にもあるだろーが」

 

 

「急いで準備できるのがその部屋しかなくてよ。思春期の少年君には悪ぃが、我慢してくんな」

 

 

「…」

 

 

挑発だ。ただの挑発だ。ここは我慢だ我慢。

 

 

「気ぃ付けろよ陸。欲望が爆発して、羽を襲わねぇようにな!」

 

 

「…」

 

 

がはははと笑う一征。それに対して陸は…、切れてはいけない一本の糸が切れてしまった。

 

 

「…親父。いつだったか言ってたよな?『男が生きている内には、絶対に殴らなきゃなんねえ相手が目の前に出てくる』って」

 

 

「…言ったなぁ」

 

 

「その意味がようやく分かったよ…。俺が殴らなきゃなんねえのは。あんただ糞親父ぃいいいいいいい!!」

 

 

呟いている内に、すでに立ち上がっていた一征へと飛び込んでいく陸。

その陸を見て、一征はまるで獲物を狙う肉食獣のごとくにやりと笑みを浮かべた。

 

 

「はっ、いいぜ陸、かかってきな!」

 

 

陸の右ストレートを首を傾けるだけでかわしながら一征が言う。

 

そこからはもう、常人では見ることすらできない領域の展開の速さだった。

 

ジャブ、フック、ストレートと入り混じった殴り合いが二人の間で行われる。

だが、殴り合いといっても二人の攻撃は互いには全く当たらず、部屋の中にはひっきりなしに空気を切る音が響くだけ。

 

 

「うわぁ…、久しぶりだな、陸と親父の喧嘩は…。今回はずいぶん間隔長かったなぁ…」

 

 

「ら、楽ちゃん、止めないの…?」

 

 

「いや、俺なんかじゃ止めらんねえし…。てか、もう見慣れたし…。あぁ、障子が…」

 

 

羽が心配そうに陸と一征の交錯を見つめる。

一方の楽は、それよりも二人の喧嘩によって倒れてしまった障子が心配のようだ。

 

楽の様子を見ていると、どれほど二人の喧嘩が日常茶飯事かを思わせる。

 

 

「あのなぁ糞親父!前々から言おう言おうと思ってたけどよぉ!いくら冗談でも言っていい事とそうでない事の判別ぐらい出来ねえのかよ、あぁ!?」

 

 

「わかんねえなぁ!んなことよりも、こんな程度の事で怒るてめぇの器の方がしれてらぁ!!」

 

 

「こっの…!」

 

 

別にこのくらいの言い合いはいつもの事だ。互いの挑発には乗らない二人。

だが…、陸は内心で苛立っていた。

 

 

(余裕かよ…、糞親父!)

 

 

その理由は、目の前で余裕の笑みを浮かべている一征である。

割と本気で打ち込んでいるというのに、全く余裕の笑みを崩さない一征。

 

現在どれ程差が開いているのかを、否応なしに思い知らされる。

 

 

「…腕上げたな、陸よぉ」

 

 

「…余裕そうに笑いやがって、信用できねえっての!」

 

 

ニヤリと笑みを深める一征の右肩に向かって、拳を突き込もうとする陸。

それに対して一征は腰を捻り、体の角度を変えることで回避する。

 

 

(これで…どうだ!)

 

 

これまでの二人の戦いは、全て両手のみで行われていた。

というのも、互いに素手とはいえ何でもありでやってしまったら部屋が滅茶苦茶になってしまうため、暗黙のルールの上で行われているのだが。

 

しかし陸は、その暗黙のルールを破る。

 

体の角度を変える時にできた勢いに任せ、陸の横へと回り込んだ一征に向かって突き出す左足。

 

卑怯とは言わせない。本気で戦う時は、どんな汚い手を使ってでも勝てと教えてきたのは一征なのだから。

 

 

「お?」

 

 

これには一征も不意を突かれたようで、目を丸くしていた。

だが、陸は一征の不意を突いただけで、一征の反応速度を超えることは出来なかった。

 

 

「っと…」

 

 

「なっ…!?」

 

 

一征は体を回転させながら陸の蹴りをかわすと、さらに突き出された陸の足首を両手で掴む。

 

そして、合気道の技、本来ならば相手の手首を掴んでやる技なのだが、それを応用して一征は陸の体を反らして床に叩きつけたのだった。

 

 

「…マジ?」

 

 

「あそこで蹴りを入れて来るとは思わなかったわ。ま、それでもまだまだ俺には及ばんっつうこった」

 

 

もう、喧嘩を始める前に抱いていた怒りは何処かへ去ってしまった。

ただ今感じているのは、不意を突いたはずの自分をあっさり捌いてしまった一征への敬意。

 

やはり、まだまだ親の背中は遠い。

 

 

 

 

 

あの後、唖然としていた羽と楽を起こして羽の部屋の整理を行った。

そこで楽が色々とラッキーなハプニングを起こしてしまったが…、割愛する。知りたい人は…、想像にお任せする。

 

それと、羽がこちらを見ながらやけにニコニコしていたのだが…、あれは何だったのだろうか?

…ニコニコというよりも、ニヤニヤの方が近いかもしれない。

改めて考えてそう思う陸だった。

 

その後は特に変わりはなく、陸は風呂に入って、ご飯を食べてゲームをして。

ただ、一つだけ変わったのは風呂以外のそれらをしている時に、隣に羽がいたという事だけ。

 

 

(…やけにゲーム強かったな羽姉。結構焦らされた場面もあったし)

 

 

羽とゲームをしていた時の事を陸が思い返していた時、すでに十一時を越していた。

セーブをしてゲーム機の電源を切った陸は、歯を磨いてから部屋に布団を敷く。

 

鞄に明日の授業で使う教科書や資料、ノートを入れてから電気を消し、タオルケットの中に潜る。

 

羽がいるという事で、やはり少し興奮していたのか、眠気はすぐにやってきた。

それに抵抗することも無く、陸は眠りへと落ちていく…。

 

 

「っ」

 

 

ふと目が覚めたのは、大体四時くらいだろうか。

誰かがこの部屋の障子を開けた音で陸は目を開けた。

 

何故ここまで接近されるまで気が付かなかったのだろうか。

その理由に気が付いたのは、みしりと畳が踏まれる音が耳に届いてからだった。

 

部屋に入ってきた相手から、全く殺気が感じられないのである。

 

これができるということは相手は相当な手練れだ。

しかし、一征もいるこの家に侵入してくるとは…。

 

 

「…」

 

 

どくんどくんと心臓の鼓動がうるさい。

 

狙いは何だ?この部屋に来たという事はやはり自分か。

 

しかし何故?ここまで完璧に殺気を消せるのならば、自分よりも先に一征を狙った方が早いはずだ。

 

 

(…そういえば、前もこんな事があったような)

 

 

そこまで考えた時、何故かこの事態に既視感を感じる陸。

 

…そうだ、あれは自分が小学生の頃。それも、まだ羽が家にいた時の事。

 

 

(あれは確か、羽姉が…)

 

 

どさり、と何かが倒れ込む音が自分の背後から聞こえる。

 

 

(…おい、まさか)

 

 

色々考えている内に、全てを察した陸はそれが正しいかを確かめるために、視線を背後へと向ける。

 

そこには─────

 

 

「ん…、りくちゃん…」

 

 

「…」

 

 

気持ちよさそうに眠る、羽の顔が間近にあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




親子喧嘩、勃・発!

まあ、軍配は当然一征に上がりましたけどね。ww

元々、陸君がキレることは考えていたのですが、書いてる最中に…
<あれ?そういえば一征ってまだ戦ってないよね?陸君の戦闘力は一征の教育の賜物だし…、そろそろ描写しておいた方が良いんじゃ…>
と、割と本気で悩みまして。ああいう形で親子喧嘩を挟みました。

あぁ、陸君も下らない挑発に乗っちゃって。ww
まだまだ未熟ものですね。ww(お前が言うなこの駄作者がww)
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