一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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すぐに消えてしまいましたが、日間ランキングに、それもかなり上位の方に入っていました。
読者が少しでも、楽しんでいただければという気持ちは変わりませんがたくさんの人に評価されているとわかると、とても嬉しいですね。

これからも応援、よろしくお願いします。


第73話 ムカシハ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ…、あれ、陸坊ちゃん…。今日は早いんすね」

 

 

「ん?まぁ…うん、今日は珍しく早く目が覚めた」

 

 

一条家の敷地内にある、十坪はあろうかという巨大な道場の中。

四時に目が覚めてから、陸はずっとここで木刀を持って素振りをして汗を流していた。

 

そんな事をしておよそ二時間、陸からすればあっという間だった時間。

そろそろシャワーを浴びて学校へ行く支度をしなければと思ったのが六時ちょっと前。

 

道場にあくびをしながら竜が入ってきた。

 

 

「お前、毎日朝ここに来てるよな。ホントよくやるわ…」

 

 

「でも、坊ちゃんも中学生になるまでは毎朝鍛錬に来てたじゃないすか」

 

 

陸が生まれる前から、竜は毎朝の鍛錬が日課になっているという。

それに対して自分は…、竜の言う通り中学に入るまでは毎日の朝と夜に道場で鍛錬を行っていた。

だが、それも中学に入ってから回数が減っていき、そして高校に入ってからはもう週に一度行けば多い方になってしまうほどになっている。

 

 

(授業が難しいから復習と…、何よりゲームだよなぁ。親父は何も言ってこないけど、これからの事を考えると…)

 

 

「それより坊ちゃん、そろそろ風呂行ってきた方が良いんじゃないすか?学校、遅刻しちまいますよー」

 

 

話している内に考え込んでしまっていた陸は、竜の声で我に返る。

 

そうだ、こうしている間にいつの間にか六時を過ぎてしまっている。

早くシャワーを浴びて汗を流さなければ。

 

 

「っと、そうだな。竜も、朝飯には遅れんなよ」

 

 

「了解しやしたー!」

 

 

竜に一言かけてから、陸は木刀を元の場所に戻して道場を出る。

家の中に入ってからはまっすぐ風呂場へと行き、汗を流す。

 

風呂から上がり、体を拭いて新しい寝間着に着替えた時には六時半を過ぎていた。

しかし、この時間はいつも陸が起きている時間。もう少し遅くても全然間に合う時間なのでかなり余裕を持てている。

 

 

(さて、と…。時間余っちまったけど、さっさと制服に着替えるか)

 

 

髪をドライヤーで乾かしてから、陸は自室へと向かう。

 

 

「…ん?」

 

 

角を曲がり、自室まであと少し歩けばという所。

自室の障子が開いている。

 

 

(羽姉が起きたのか?)

 

 

一瞬、足を止めた陸はすぐに歩き出す。

そして自室の前に立って…、開いた障子の向こう、つまり部屋の中を見て固まってしまった。

 

 

「…何やってんだ、楽?」

 

 

「え?」

 

 

部屋の中には、楽と羽の姿があった。

どうやらまだ羽は寝ていたようだが…、問題はそこではない。楽の体勢が問題だった。

 

楽は四つん這いで羽の傍らに座っており、彼の片手は羽の胸元で止まっていたのだ。

 

 

「…通報します」

 

 

「待て待て待て待て!待ってくれ陸!違う、違うんだぁああああああああああああ!!!」

 

 

てくてくてくと、テーブルまで歩み寄ってそこに置いてある携帯を取る。

そして容赦なく、一一〇番を押す陸を止めようと、楽が飛びついてきた。

 

 

「へぶっ」

 

 

勿論かわされ、楽は顔面から障子にダイブしたのだが。

 

 

「んぅ…、あれ…、ここは…?」

 

 

先程の楽の大声で目が覚めたのだろう、ゆっくりと羽の体が起き上がり、シパシパとする目で陸の部屋を見回している。

 

 

「…私の部屋じゃ、ない?」

 

 

「おはよう羽姉。ここは俺の部屋だ」

 

 

「り、陸ちゃん?楽ちゃんも…」

 

 

寝ぼけ眼だった羽の目が、陸の姿を見てから大きく見開かれる。

 

 

「…はっ!二人共もしかして、私が寝ている間に…」

 

 

「違うわ!!」

 

 

「はぁ…。羽姉が寝ぼけて部屋の中に入って来たんだよ。まだあの癖、治ってなかったんだな」

 

 

ボケ…なのか?羽にツッコむ楽と冷静に状況を説明する陸。

 

 

「あ…、そうなんだ」

 

 

「…」

 

 

何でしょんぼりしているように見えるのだろう。疑問符を浮かべる陸をよそに、楽が口を開いた。

 

 

「それより、姉ちゃんに聞きたいことがあるんだけどさ…。その胸の鍵、一体何なんだ?」

 

 

「え?」

 

 

羽と陸の目が丸くなる。二人が見ている中、楽が懐からあのペンダントを取り出す。

 

 

「…そうか。楽は羽姉の胸を触ろうとしていたわけじゃなかったんだな」

 

 

「んなわけねえだろうが!お前、家族を信用できねえのか!?」

 

 

「いやだって昨日のあれがあったから…」

 

 

「うぐっ…、と、ともかく!今はその鍵の事だ!」

 

 

話を逸らして、陸から視線もそらして、楽は羽に問いかける。

 

 

「俺も陸も、よく覚えてねえんだけど…。俺達と姉ちゃん、十年前に一月くらい旅行に行ったことねえか?そんで、旅行の先でした約束について…、何か思い当ることはねえか?」

 

 

「旅行?何だ?楽、そのペンダントと旅行の何が関係してるんだよ」

 

 

「お前は黙ってろ」

 

 

ひでぇ。

楽はその約束についていろいろと調べてるから知ってるんだろうけど、ぶっちゃけ関係ないと思っている陸は約束については全く知らないに等しい。

 

 

「どうしても思い出したい事があるんだ。姉ちゃん、何か覚えてねぇか…?」

 

 

「…それ、まだ大事に持ってたんだね。じゃあ、他の子達もそうなのかな?」

 

 

楽のペンダントを眺めてから、体を伸ばしながら羽が言う。

 

 

「他の子達…!?まさかそれって…!」

 

 

「もう少し様子を見てからにって思ってたけど…、昼休みくらいに皆とお話ししようかな?」

 

 

「…」

 

 

陸は全く話に付いていけない。いや、その話というのは楽がした約束についてという事はわかるのだが。

多分、羽の言う他の子達というのが鍵を持っている小咲たちという事も予想できるのだが。

 

 

(まぁ、俺には関係ないし…。そろそろ飯もできただろうから食堂に…)

 

 

「あ、陸ちゃんも昼休みに屋上に来てねー」

 

 

「解せぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前に行われる授業が終わり、昼休み。

陸は鞄から弁当を取り出そうと手を伸ばして…、止めた。

 

朝の事について思い出したのだ。羽が言っていた事を。

 

 

(確かに、俺も楽が言ってた旅行ってのに付いていったんだろうし、全く関わっていないとは言いづらいけど…、それでも約束したのは楽だろうに…。何で俺まで呼び出すのかねぇ)

 

 

手を戻し、席から立ち上がって教室を出る陸。そのまま足を階段の方へ向け、屋上へと行った陸を待ってたのは、自身を呼んだ羽に、楽と千棘、小咲、万里花、それと鍵は持っていないはずの鶫。

 

 

「おい、遅いぞ陸」

 

 

「悪かったな。ちょっと忘れてたんだよ」

 

 

そのままお弁当を食べていたかもしれない。

まあその時は、この中の誰かが自分を呼びに来たのだろうが。

 

二人が一言交わしてから、早速楽と羽が朝に判明したことの説明を始める。

もちろん、説明するのは今朝に判明したこと。

 

 

「…うそ。10年前。奏倉先生もあの場所にいて、鍵まで持ってるなんて…」

 

 

説明を終えた羽の掌に載っている鍵を、呆然と眺める他の女子達四人。

 

 

「私の方こそ、昨日は凄くびっくりしたんだよ~?あの時に会った皆が勢揃いしてるんだもん」

 

 

「皆の事、覚えてるんですか…?」

 

 

羽の言いぶりから、今いる全員の事を覚えているようだ。

小咲が、その事について問いかけ、羽が頷く。

 

 

「千棘ちゃん。小咲ちゃん。万里花ちゃんに、鶫ちゃんとも会ったわね」

 

 

「え?先生、鶫のことまで知ってるの!?」

 

 

どうやら、羽は鍵を持っていない鶫とも会っているらしい。

いや、羽が会っているという事は、羽だけでなく陸たち全員が会っているという事になる。

 

 

「お嬢から聞きました。どこかで見た覚えがあると思っていましたが、まさか叉焼会の首領であらせられたとは…」

 

 

「今はただの先生よ。よろしくね、鶫ちゃん?」

 

 

鶫と言葉を交わしてから、どこか感激した様子を見せながら羽が皆を見回す。

 

 

「それにしても、凄い偶然だよね…。皆、お互いの事を覚えてないのに集まるなんてね…」

 

 

自分たちが覚えていないことを、羽は色々と覚えている。

ということは、もしかしたら。その事を察した千棘が羽に向かって口を開いた。

 

 

「あの、先生は昔の約束の事を、何か覚えてるんですか?」

 

 

「え?」

 

 

問われた羽が、千棘の方に視線を向ける。

 

 

「私たち皆、十年前に楽と何か約束をしたらしくて…。でも、それについてなにも思い出せないんです。先生は何か覚えてませんか?」

 

 

(俺は違うぞ千棘よ)

 

 

言葉には出さないが、これだけは絶対だという事にツッコミを入れる陸。

 

そんな中でも、羽と千棘のやり取りは続いていて。

 

 

「あー…、約束…ね…」

 

 

拳を口元に当て、視線を虚空にやる羽。

皆が緊張して喉を鳴らす中、陸だけは他の皆とは全く違う事を考えていた。

 

 

(あ…、この仕草、どうやって誤魔化そうか考えてる時の羽姉の癖だ)

 

 

ふと思い出す陸。

そして、その癖が出ているという事は─────

 

 

「ごめん、全然覚えてない」

 

 

こういう事である。

陸は苦笑を漏らし、楽や小咲たちはずこーっと崩れ落ち、万里花だけは変わらず澄まして立っている。

 

 

「…?」

 

 

だが、他の皆が起き上がる中ふと万里花に視線を向けた陸は違和感を感じる。

 

楽たちが騒いでいる中、視線を落とし、俯いている万里花。

まるで、何か心苦しい事を隠しているかのように…。

 

 

「約束の事は覚えてないけど…、それ以外で良ければ、少しは覚えてることもあるよ?」

 

 

「わ!聞きたい聞きたい!」

 

 

約束の事はともかく、何かしら昔の事について教えてくれるという羽。

聞きたいという千棘の要望に従って、早速羽が口を開く。

 

 

「二人は覚えてないって言ってたけど、千棘ちゃんと小咲ちゃんはすっごく仲が良くてね?何をするのもいつも一緒で、凄く微笑ましかったわ」

 

 

何となく、羽が言うこともわかるというか、納得できる。

現在の千棘と小咲は、もう親友同士という言葉を体現している感じで、大の仲良しである。

 

今も、羽の説明を聞いた千棘と小咲は喜びあって、両手を繋いではしゃいでいる。

 

 

「それと、万里花ちゃんは体が弱くてあんまり外に出られなかったけど…、千棘ちゃんや小咲ちゃんとも遊んだ事があるのよ?」

 

 

「え!?私、あんたとも会ってたの?」

 

 

「覚えてませんわね」

 

 

楽と陸は、万里花と遊んだ事を覚えていたのだが千棘たちは覚えていなかった。

なので、万里花は千棘たちとは会っていないと考えていたのだがそうではなかったようだ。

 

 

「やっぱり、私の事も覚えてない?あの時、私が一番長く万里花ちゃんと一緒にいたんだけど…」

 

 

「全く。申し訳ありませんけど」

 

 

(…橘、嘘が見え見えだぞ)

 

 

唇の端を吊り上げ、わざとらしく強調しながら言う万里花。

…何か羽といざこざでもあったのだろうか?羽を見ている限りそんな感じではないのだが。

 

 

「そっかー…、残念だなー…。昔はあんなに仲が良かったのに…」

 

 

残念そうに言う羽。

 

 

「昔は、ここにいる皆でお風呂にも入ったこともあるのに…」

 

 

さらに続ける羽。

 

一瞬、間が空いて…ほとんど全員が飛び上がった。

 

 

「ちょちょちょ…その話はぁ~~~~~~!!!」

 

 

「あれ?何か思い出した?」

 

 

その中でも一番反応が激しかったのは万里花だった。

…うん、やっぱり何かあったらしい。

 

 

「「「「み…、皆でお風呂…?」」」」

 

 

「そうだよー。だけど、すぐに万里花ちゃんがのぼせちゃってね。その時…」

 

 

「ふんぎょわぁーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

ただでさえ巨大爆弾を投下したというのに、羽はさらに爆弾を投下しようとする。

それは、万里花が寸での所で食い止めたが。

 

 

「あー。完全に思い出しました。そういえば私、あなたが大嫌いでした」

 

 

「えー!?私は大好きなのにー!」

 

 

…本当に、何があったのだろう。

 

 

「と、ともかく!結局、約束の事はわからないままか…」

 

 

「ごめんね…?何も覚えてなくて…」

 

 

とりあえず、この流れのままでは万里花が参ってしまいそうだ。

それを察した楽が話を変える。

 

 

「…そういえば、先生今、あんた達の所に居候してるんでしょ?変なことしてないでしょうね」

 

 

さらに、千棘がさらに先程の話から遠ざけていく。

だがその問いかけは、その事を意識しての物ではなく本心から出た質問なのだろうが。

 

 

「し、してねーよそんなの」

 

 

「…未遂だったけどな」

 

 

じと目で楽の方を見る千棘と、強い口調で否定する楽。

そして、にやりと笑みを浮かべながらぼそりと呟く陸。

 

その呟きは、地獄耳の千棘にはしっかり聞き取れていたようで。

 

 

「…楽?」

 

 

「ひぃっ!?ち、違うんだ!あの時は…」

 

 

般若のごとく怒る千棘に、顔全体に汗を流しながら後退する楽。

 

夫婦喧嘩は放っておこう。

自分が蒔いた種の癖に、そういう方針を決め込んだ陸がそろそろ帰っていいかを聞くために口を開こうとした。

 

しかしその前に、羽が再び爆弾を投下することを知らずに。

 

 

「でも、昨日の陸ちゃんの布団は寝心地良かったなぁ。今夜も寝ちゃおうかな?」

 

 

「「「「「「…」」」」」」

 

 

陸は勿論、小咲に千棘、楽、鶫、万里花でさえも一瞬にして固まってしまう。

 

 

「あ、あの…、陸君…。先生と一緒に…寝たの…?」

 

 

「っ!?ち、違う!違うんだ!一緒には寝てない!寝てないから!」

 

 

陸の方を見て問いかける小咲。必死に弁解する陸。

 

その姿は、先程の楽と千棘の二人に重なるものがあるが、一つ違うのは小咲の目に涙が浮かんでいる所である。

怒るのではなく、悲しんでいる。男の身としては心にグサグサと刺さるものがあり、堪ったものではない。

 

 

「陸君…」

 

 

「ゆ、羽姉は昔から他人の布団に潜りこむ癖があって…。羽姉が部屋に入ってきた時にはもう起きてたから!布団に倒れ込んでからはすぐに布団から出たから!だから泣かないでくれぇーーー!!」

 

 

途中、何で自分はこんなに必死になって弁明しているのだろうと疑問を感じた陸だったが、ともかく今は小咲の誤解を解かなければ。

 

 

「…」

 

 

ただ、その事に必死だったせいか。

陸は羽にじっ、と見つめられていることに気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後一話、もしくは二話ほど羽との絡み中心の話が続きます。
小咲とのイチャイチャを楽しみにしている方は、もう少しお待ちください…。
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