一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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これで、取りあえず羽との絡みは一段落。
もう少しかかるかなと思っていましたが、一話で収めることができました。


第74話 カゾクヲ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱりか」

 

 

昨日と同じ、早朝の四時。障子が開く音、そして背後でどさりと何かが倒れるような音。

見れば、気持ち良さそうに寝ている羽の姿があった。

 

これを警戒して、陸は昨日。早めに布団に入っていたのだがそれは正解だった。

ちょっと注意したくらいで癖を直そうとする羽じゃないのは陸が一番分かっている。

 

 

「ったく…、そうだ。今日は確か、数学の小テストがあったな」

 

 

一昨日、数学Ⅱの授業の終わり、担当の教師が次の授業で小テストを行うと口にしていた。

せっかく早起きしたのだから、その勉強をすることにする。それに、数学Ⅱの授業は一時間目なのだし。

 

ということで、朝からゲームというちょっと駄目な欲望を抑え込んで、陸は勉強机に着く。

 

教科書を開き、テスト範囲のページを確かめ、板書を取ったノートを見直す。

公式を見直してから、学校で配布された問題集で演習する。

 

 

「…もう六時か」

 

 

気付けば、小テストの範囲も超えて問題を解き進めていた陸。

集中し出したら止まらなくなる陸は、二時間も経っていたことに気が付いた。

 

 

「おい羽姉、起きろ。もう六時だぞ」

 

 

椅子から降り、開いた教科書、ノート、問題集を鞄に入れてから布団ですやすや寝ている羽の体を揺する。

 

 

「…ふわ…、おはよう…りくちゃん…」

 

 

「おはようじゃない。前からそうだけど、何でいつも俺の布団に潜り込んでくるんだよ…」

 

 

「だって、気づいたら移動してるんだも~ん」

 

 

全く悪びれていない。人の布団に入って、勝手に気持ちよさそうに寝て…。

本当の主である自分は、朝早くから勉強という今まででは考えられない事をしていたというのに。

 

 

「それにしても陸ちゃん、いつも私より早く起きてるみたいだけど…、何してるの?」

 

 

「…今日は珍しく勉強してました」

 

 

「あらえらい!」

 

 

いつも早く起きていることに気が付いているのなら、少しは注意してほしいのだが。

 

と、心の中で呟く陸。だが、言っても無駄なのはわかっているのでそれは口にすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

小テストの手ごたえは抜群。朝に勉強した所が思い切りテストに出たため、ぶっちゃけ計算間違いさえしていなければ満点確実である。

 

という感じでテストも終わり、その後の授業も済ませて今は昼休みである。

生徒たちは教室内で、席を移動して昼食を食べ始めるのだが、陸が鞄から取り出した弁当箱は何故か二つ。

しかも片方は、可愛らしいピンク色の包みで包まれた物。

 

 

「おいおい一条…、お前そんな趣味が…」

 

 

「断じて違う」

 

 

陸の前の席に腰を下ろした上原が、カバンから出した二つの弁当箱、その一方を見て、じとりとした目でこちらを見てくる。

 

あらぬ疑いを掛けられていることをすぐに悟った陸は即座に否定する。

 

 

「陸ちゃーん!」

 

 

すると、教室の扉の方から陸を呼ぶ元気な女性の声が聞こえてくる。

 

その相手が誰なのかをすぐに察した陸は、可愛らしい方の弁当箱を持って、教室の扉の方へと行く。

 

 

「ほら、羽姉。これだろ」

 

 

「そうそう!ありがとー」

 

 

教師である羽は、陸と楽よりも先に家を出ている。その時、弁当箱を家に忘れて行ったのだ。

普通なら、羽が担任である楽が弁当箱を持っていくべきなのだが、今日は珍しく楽が家を早く出て行ってしまい、羽が弁当箱を忘れて行ったことに気づいたのが、陸が家を出る直前の事だったのだ。

 

陸はこちらに歩み寄ってくる羽に弁当箱を渡す。

そして、自分も昼食を取ろうと席に戻ろうとしたのだが…

 

 

「あ、陸ちゃん」

 

 

「ん?」

 

 

「寝癖ついてる。も~…、昔からそういうとこは無頓着なんだから~…」

 

 

にっこり笑いながら、背伸びして陸の頭を撫でる羽。

 

教室内で見ていた生徒たちに衝撃が奔り、撫でられた陸は僅かに頬を染めて羽の手を払う。

 

 

「ちょっ…、そんなベタベタすんなよ!」

 

 

「えー?」

 

 

頭に乗せられた手を払うと、羽は不満げに頬を膨らませる。

 

 

「大体、俺は生徒だぞ?教師がそんなにベタベタして来たらまずいだろ…」

 

 

「あ、そっか。なら…」

 

 

今の陸と羽は、飽くまで生徒と教師である。

そんな二人が先程の様に、こんな公衆の面前で密着したらまずいだろう。

 

そういう意図を込めて言った陸の言葉は確かに羽は届いていたのだが…、次の瞬間、羽はとんでもない行動に出る。

 

 

「先生モード、解除~♪」

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

眼鏡を外した羽は、陸を椅子に座らせてベタベタ密着してくる。

 

 

「ほら陸ちゃん、じっとしてて~」

 

 

「ちょっ、おまっ…!あんたに理屈は通じないのか!?」

 

 

天然というか、それともただのバカなのか…。

昔感じていたものと同じ疑問が、頭の中に再び蘇る。

 

陸は、羽の手を振り払ってから立ち上がって自分の席に足を向ける。

 

 

「ほら、もう用も済んだだろ。職員室に戻って、弁当食って来いよ」

 

 

「むぅ~…。陸ちゃんのケチ」

 

 

もうケチでも何でもいい。不満げな視線をビシビシ背後から感じるが、無視を決め込む。

ここで羽に構ったらどうなるかは、身に染みて経験しているのだから…。

 

 

「お、おい一条。昨日も気になってたけど、あの先生とどんな関係なんだよ」

 

 

「…」

 

 

今、問いかけてきた上原だけでなく、クラス中の人達が陸の机の周りに集まってくる。

 

 

「別に、ただの幼なじみだけど…」

 

 

「幼なじみだとぉ!?」

 

 

「貴様!やはりあの一条楽の血を分けていたなぁ!!」

 

 

「小野寺小咲に続いてあの奏倉先生…!女の子に囲まれながらもどこか苦労してるように見える一条楽よりも質悪いぞ…!」

 

 

「…」

 

 

本当にただの幼なじみなのだが…。

色々好き勝手言われる陸は、周りの怒声を無視して包みを開けて昼食を食べ始める。

 

 

「「「「「聞いてんのか一条ぉ!!!」」」」」

 

 

「…はぁ」

 

 

初めに卵焼きを口に入れた時、男子たちが突然怒鳴り始める。

卵焼きを咀嚼して、飲み込んでからため息を吐く陸。再び、男子たちが陸へ悪口を言い始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「陸ちゃーん、一緒に帰ろ―」

 

 

「ごめん。ちょっと、友達に委員会の仕事替わってくれって頼まれてんだ」

 

 

この会話が大体五時くらいだっただろうか。今はもう、楽と一緒に家に着いているだろう。

いや、今日は楽が買い物に行くと言っていたし、それに着いていっているかもしれない。

 

空も赤みがかって、暗くなり始めた。

 

 

「ごめんね、一条君。わざわざ手伝ってもらって…」

 

 

「別にいいよ、気にしなくて。それに、あいつの事情を考えればしょうがないんだしさ。さて…、と!終わったことだし、さっさと帰るかな…」

 

 

一緒に仕事をした女子と挨拶を交わしてから、陸はカバンを持ち、図書室から出る。

 

これでわかるように、陸は図書委員の仕事を手伝っていたのだが、本来の図書委員である男子が陸に仕事を替わってほしいと頼んできたのだ。

その男子生徒は、部活の関係で昼休み後に早退していった。その時に、陸に仕事を替わってほしいと頼んできた。

 

その仕事も終わったため、陸は生徒玄関で靴を履き替え、校舎を出て帰路に着く。

 

 

「…どうして、あなたがここにいるんです?」

 

 

いつも陸が通っている道の途中には、公園がある。その公園の傍の道で、陸は不意に立ち止まった。

 

そして、視線を前に向けたまま、誰に向けたのかわからない問いかけをする。

 

 

「夜さん」

 

 

「…やっぱりばれたか。ディアナは欺けないね」

 

 

「何を言ってるんですか。本気で気配を隠そうとしてないくせに」

 

 

直後、公園の木の上から陸の背後に何かが降り立つ。

振り返ると、傍から見れば子供にしか見えない小さな背丈の少女が立っている。

 

陸はその少女を夜(いえ)と呼び、さらに敬語で話しかけている。

 

 

「いいんですか?あなた達の首領の事を見ていなくても」

 

 

「今あれ、集英会の本家にいるね。そんな気を張らなくてもだいじょぶ」

 

 

「そうなんですか?今日の楽の買い物に着いてくって思ってたんだけどな…」

 

 

「あれ、お前を待ってる言てた。弟の方は、部下連れて出てる」

 

 

羽はどうやら家に残っているようだ。てっきり、楽と一緒に買い物に行ってるとばかり思っていたのだが。

 

 

「それで、夜さんはどうしてこんな所にいるんです?まさか、こんな世間話をしに来たわけじゃないでしょう?」

 

 

「そのまさかね。お前とこうして会うのは久しぶりだし、ちょと話したい思ただけね」

 

 

「えぇ…」

 

 

何か大事な話をしに来たのだろうと思っていたのに、まさかのただ話しに来ただけ。

ちょっと拍子抜けしてしまった陸。

 

 

「それよりお前、うちの首領と一緒に寝てるみたいね。朝、お前の部屋から首領が出てくるとこ見たよ」

 

 

「あれは昔からの羽姉の癖でしょ。夜さんも知ってますよね?他人の布団に潜り込んでくる羽姉の癖」

 

 

陸はこの時、夜が知っていてからかっているのだと思っていた。

だが、夜の返答は思いもよらぬものだった。

 

 

「何ソレ。そんな癖ある、聞いたことないよ」

 

 

「え?」

 

 

こちらを見上げながら返事を返してくる夜。

 

 

(あれ?昔からの癖…、今も変わってないし…。あれ?)

 

 

「…どういうことわからないけど、取りあえずささと帰るね」

 

 

思わぬ返事を受けて、考え込む陸に夜が声をかける。

気付けば、陸は足を止めてその場で立ち尽していた。

 

夜に声を掛けられ、陸は止めていた足を再び動かす。

ここから先、特に二人は話すことも無くそのまま一条家へと辿り着く。

 

陸は家の中に入り、夜はふと目を離した瞬間どこかへ行ってしまっていた。

 

 

「あ、陸ちゃんおかえりー」

 

 

「羽姉」

 

 

玄関で靴を脱ごうとした時、玄関の隣の部屋からひょっこり羽が顔を出す。

 

 

「もうすぐ楽ちゃんも帰ってくるから待っててねー。今日のご飯は鍋だよー」

 

 

「こんな夏の日に鍋…」

 

 

どうせ、組の男たちが気まぐれで食べたいとか言い出したのだろう。

鍋の日は必ず戦争になるというのに…、それが夏に起こった時は地獄としか言い表しようがなくなるというのに…。

 

何てことをしてくれるんだあいつらは。ていうか楽は何で止めなかったんだ。

内心で、小さくだが憤慨する陸。

 

羽と挨拶を交わし、靴を脱いで家に上がった陸は着替えるために部屋へと向かう。

 

 

「おう、陸。今日はずいぶん帰りが遅かったじゃねーか」

 

 

「ちょっと、委員会の仕事の手伝い頼まれてな」

 

 

その途中、廊下を歩いていると前から一征が姿を現した。

 

 

「羽姉が、今日は鍋だって言ってたぞ」

 

 

「おっ、鍋か。面白い夕飯になりそうじゃねーの」

 

 

一征に今日の夕食の献立を知らせると、にやりと笑みを浮かべながらそう口にする。

 

 

「けど、まだ楽は帰ってきてねえんだろ?まだかかるんかねぇ…。ちょっと腹減って来たんだがなー…」

 

 

眉を八の字にしながら言う一征。

その時、ふと陸がちょっと前から聞きたいと思っていたことが頭の中に浮かぶ。

 

 

「あのさ親父、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

 

 

「あ?どうしたよ」

 

 

陸とすれ違う形でそのまま立ち去ろうとした一征が足を止める。

 

陸は、振り返ってこちらを見てくる一征に口を開く。

 

 

「羽姉の事なんだけどさ…、何で俺達と一緒の学校に行きたいなんて言い出したんだ?ただでさえ、組織の事で忙しいだろうに…、そんな無理してまでどうして」

 

 

「あら?言ってなかったっけか」

 

 

教師として生徒と関わっている姿を見ていると忘れがちだが、羽は叉焼会の首領である。

叉焼会の規模を考えれば、はっきり言って教師をやっている時間などないように思える。

 

だからこそ、そこまでして何故、自分たちと一緒の学校に行こうとしたのかが分からなかった。

ただでさえ、一つ屋根の下で一緒に暮らしているのに。学校に行っている間はともかく、それ以外ならずっと会うことはできるというのに。

 

その事は勿論、一征にも分かっているはずだ。

だがその一征は、陸の方を見て目を丸くしている。

 

 

「あのなぁ陸。今、羽は天涯孤独の身なんだわ」

 

 

「…え?」

 

 

天涯…孤独?

 

呆然と先程の一征と同じように目を丸くする陸。

 

 

「何年か前に両親が病気で逝っちまってよ。兄弟はいねぇ、頼れる親戚もいねぇ。羽にとっちゃあたとえ血は繋がってなくとも、おめぇらだけが最後の繋がりだったのよ」

 

 

羽の両親の顔を、陸も楽も見たことはない。

ただ、羽はずっと両親を喜ばせたいと言って努力していたのは今でも印象に残っている。

 

羽が、両親の事が大好きだという思いは物凄く感じたことを覚えている。

 

両親が死んで、一人になった羽はその時、どんなことを思ったのだろう。

自分では想像もつかない。

 

 

「おめぇらに会うために、相当無茶やったみてーだぜ?強がっちゃいるが、あいつは元来寂しがり屋だからな」

 

 

知ってる。羽は一人でいることを極端に嫌っていることは、昔から知っている。

 

 

「言ってたぞ。久々に会ったおめぇらがまた、『姉ちゃん』って呼んでくれたのが嬉しかったってよ」

 

 

「…」

 

 

一征はそう言ってから、今度こそその場から立ち去っていった。

陸は一征の背中が見えなくなってから、部屋へと戻って部屋着に着替える。

 

その間、思い浮かぶのは久しぶりに会った時の羽の顔と言葉。

 

涙を目の端に溜めながら、自分たちとの再会を喜んでいた羽。

 

 

(羽姉が叉焼会の首領になった事は知ってた。でも、その裏にそんな事情があったなんて…)

 

 

それも、一征の言い忘れが一番の原因だったのだが、それに対する怒りは全く沸いてこない。

むしろ、どうして羽が首領に着任した時に、もっと事情を調べておかなかったんだと自分を責める陸。

 

その後、夕食を食べている時、何度も羽が話しかけてきたのだが自分でも自覚できるほど上の空で碌な返事ができなかった。

 

 

「…またか」

 

 

そして今。いつもの朝の四時ごろ。

障子が開く音。そして背後で何かが倒れ込むような音。

 

振り向けば、陸の予想通り気持ちよさそうに眠る羽の姿が。

 

 

「…」

 

 

『何ソレ。そんな癖ある、聞いたことないよ』

 

 

日本に来る前は、しっかりしなければと自分を抑え込んでいたのか。

それとも、一人で頑張っていたせいでその相手がいなかったのか。

 

わからないが、どちらにしても羽がずっと寂しがっていた事はわかる。

 

 

「…家族なんだし、一人にするわけにはいかねえよな」

 

 

羽の閉じられた目にかかった前髪を、そっと人差し指でどける。

そして、陸はその掌で羽の頭を一度だけ撫でた。

 

 

(…でも、だからといって一緒に寝るのは違うと思うんだ)

 

 

陸は布団から出て、テレビの前に置かれた座布団に腰を下ろす。

そしてリモコンを手にして、テレビの電源を入れる。

 

さらにゲーム機の電源を入れて、陸はコントローラーを手に握った。

 

 

 

 

 

(今…、陸ちゃん、撫でてくれたよね…)

 

 

ふと目が覚めた時、自分の頭に暖かいものが乗っかっているのが分かった。

目を開けると、その時にはもう陸は布団から出てテレビの電源を点けていた。

 

ゲーム機の電源を入れて、コントローラーを握ってボタンを連打している陸。

そんな陸の背中を見ながら、小さく笑みを零して想う。

 

昔から変わっていない後姿を見ながら、想う。

 

 

(…ずっと好きだったよ、陸ちゃん。…弟としてじゃなく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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