一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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これにて、文化祭編は終了です。








第80話 ツゲズニ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩。踊りましょうか」

 

 

陸の目の前で、微笑みながら言う少女。

だが、その少女の瞳は、悲しげに揺れていた。

 

 

 

 

 

 

『ミスの栄冠に輝いたのは、小野寺春さんです!』

 

 

歓声に包まれる会場。

コンテストは、春の優勝という結果で幕を閉じることとなった。

 

すぐに表彰式が行われ、春の手に記念トロフィーが渡される。

 

 

『では続いて、本コンテストの優勝賞品をお渡しします』

 

 

春が持っているトロフィーは飽くまでオマケ。このコンテストに出場する者ほとんどは、集が言った優勝賞品を目当てにしているのだ。

 

そして、その優勝賞品とは─────

 

 

『本コンテストでは毎年お馴染み!一日限りの超ビッグチャンス!本日、夕方から始まる後夜祭のフォークダンスにて!一緒に踊る男性を指名できる券です!!』

 

 

集も言っていたが、実はこの一緒に踊る男性を(ry券は、コンテストを始めるようになってからずっと優勝賞品として受け継がれてきた。

 

 

『毎年数々のロマンスを生み出してきたこの強制指名券!今年は誰が選ばれるのでしょう!?』

 

 

ちなみに、ここで選ばれた男子には拒否権などない。

まあ、これまで拒否した男子はいないのだが…。そんな空気が読めない男子はいなかったのだが。

 

 

『それでは春さん!ご指名ください!』

 

 

『…あー』

 

 

先程まで盛り上がっていた会場内が静まり返る。

春は、一体誰を指名するのか。次に春の口から出てくるその男の名を聞き取ろうと、全神経を両耳に集中させている。

 

 

『それじゃあ…。一条陸先輩、お願いしていいですか?』

 

 

「…え」

 

 

「「「「「ええええええええええええええ!!!?」」」」」

 

 

春の口から出てきたその名に、会場中が衝撃に沸く。

 

 

「え…は?俺!?」

 

 

「は、春…?」

 

 

『な、なんと!春さんが指名したのは、特別審査員の一条陸さんです!まさか…、これは、まさかなのかぁ~!?』

 

 

陸も小咲も、目を見開いて戸惑い、集は面白いものを見たと言わんばかりにニヤつきながら陸の方を見ている。

 

会場にいる一部の男子たちが、一条死ねー、と暴言を吐いて盛り上がる中、春が苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

 

『あの、誤解しないでください。私、あんまり男子の友達とか知り合いがいなくてですね。この学校でちゃんと喋ったことのある一条陸先輩にお願いしたまででして…』

 

 

「「「「「…」」」」」

 

 

『私には特に好きな人とかいませんが…、ここでそんな人を指名したら告白同然ですよ!?私、そんな勇気は持ち合わせてません!』

 

 

春の言葉に、一同呆然と仕掛けたが、その次の言葉で笑い声で沸く。

 

 

「良かった~…。春、陸君と仲良くなってくれたんだね…」

 

 

「そう…なのか…?明らかに、妥協に妥協を重ねてって感じに見えるんだが…」

 

 

会場に拍手が湧き起こる。そんな中、審査員席に座る小咲が感動に涙を流しながら言い、そして陸は苦笑を浮かべながら呟く。

 

何はともあれ、これにて、ミス凡矢理コンテストは閉幕である。

 

 

 

 

 

 

そして今。閉会式も終え、いよいよ後夜祭が始まる所。

陸の許に、春が歩み寄ってくる。

 

 

「えっと…」

 

 

「…先輩、緊張してるんですか?」

 

 

「なっ…、俺、こういうの初めてだし…。こういうイベント、あまり積極的に参加しなかったし…」

 

 

「はいはい。言い訳は良いですから、早く行きましょう」

 

 

春に手首を掴まれ、引っ張られる陸。

向かう先は、たった今点火され、燃え上がるキャンプファイヤーの周り。

フォークダンスに参加する者は、そこでパートナーと共に踊るのだ。

 

 

「なぁ春ちゃん。俺、フォークダンスの踊り方とか分からないんだけど…」

 

 

「…はぁ。なら今から覚えてください。簡単なので、すぐに覚えられますから」

 

 

待機の途中、ちょっとしたトラブルも起きたがBGMが始まる前には解決でき、いよいよ踊り出す。

 

 

「…春ちゃん、本当に良かったのか?」

 

 

「何がです?」

 

 

「その…、俺なんかで…」

 

 

曲に合わせて踊り始めて、少しした時だった。

不意に、陸が口を開き、春にそんなことを問いかけたのは。

 

 

「…仕方ないでしょ?あれって、女子とか選んじゃダメなんですから。私、本当に男子の友達いないんですよ」

 

 

「いや、まぁ…。春ちゃんが良いなら別に俺は何も言わないけど…」

 

 

春は中学は女子校で、男子との付き合いを苦手としている。

そのため、入学してからおよそ半年がたっても未だ、同い年の男子の友達ができていない。

 

唯一、春が他人に男子で友達と言えるのは陸だけである。

兄は…まぁ知り合いとはいえるが、友達とはいいづらい。誤解に対する謝罪はしたが、まだどこか気まずい空気が流れている。

 

 

「…」

 

 

陸との会話が切れてしまった。どちらも特に話し出そうとせず、黙ってダンスを続ける。

周りの男女たちは、楽し気に会話しているのに、陸と春の間だけは気まずい空気が流れる。

 

春は、気づかれない様にちらっと後ろを見上げて陸の顔を見遣る。

陸は踊りながら、じっと燃え上がるキャンプファイヤーを眺めていた。

 

春も、陸の視線を追ってキャンプファイヤーを眺める。

ぱち、ぱち、と木が燃える音が周りの話し声でかき消されながらもここまで届く。

 

 

「…っ」

 

 

そして、春は視線を前に戻しながら唇を噛む。

少し痛いが…、こうでもしなければ、せっかくつけた決心が揺らいでしまいそうだった。

 

 

「先輩っ」

 

 

「お、おぉ?」

 

 

背後で、陸が驚いているのが分かる。

今、陸はどこを向いているだろう。自分の方を向いているだろうか?

 

それとも、まだキャンプファイヤーの方を見ているのだろうか。

だとしたら、それはかなりショックなのだが…。

 

 

「先輩っ…、あのっ…」

 

 

「…」

 

 

「先輩は…、今までずっと、私を助けてくれて…。楽先輩と仲直りしようとした時も…、お姉ちゃんと喧嘩しちゃったときも…、デパートに行った時も…」

 

 

言え。言え。言え。

何度も何度も、自分の心に言い聞かせる。

 

このために、コンテストで優勝したいと思ったのだ。

陸に思いを告げるために、風ちゃんも協力してくれたのだ。

 

 

「だから…だから…っ」

 

 

陸は何も言わない。何も言わずに、春の次の言葉を待っている。

 

そして、春は────

 

 

「…あ、ありがとうございました」

 

 

「へ?」

 

 

告げることは、できなかった。

固めたはずの決心が、何の音も立てず、まるで溶けていくかのように消え去っていく。

 

 

「だから、ありがとうってお礼を言ってるんです!さっさとどう致しましてくらい言ってください!」

 

 

「あ…、え…。ど、どう致しまして…」

 

 

…どうしてこうなったのだろう。

思いを告げると決めたのに。どうして、まるで八つ当たりをするかの如く陸に怒鳴ってしまったのだろう。

 

 

(うぅ…。私のバカバカバカぁ!)

 

 

結局、思いを告げられずにフォークダンスは終わってしまうことになる。

 

思いを寄せる人の傍にいられる心地よさ。

そこから春が抜け出すには、まだまだ時間がかかりそうである。

 

 

 

 

 

 

後夜祭にて、フォークダンスが行われる中。

小咲は、るりと一緒に羽に頼まれた片づけをしていた。

 

 

「…ねえ小咲。本当にあれでよかったの?」

 

 

「え、何が?」

 

 

すると、不意にるりが問いかけてきた。

看板で使われていた、バラバラになった木材を持ち上げて、るりの方に視線を向けて聞き返す小咲。

 

ちなみに、この木材はキャンプファイヤーの燃料として使われるものである。

 

 

「確かにコンテストで優勝した春にはフォークダンスを踊るパートナーを決める権利があった。そして、それには強制になるって舞子君も言った。だけど…、何もしないで、ただ見てるだけで、本当に良かったの?」

 

 

「…」

 

 

今、コンテストで優勝した春は、パートナーとして指名した陸と一緒にフォークダンスを踊っている。

 

もし、陸が春に指名されなかったら…、小咲は陸とフォークダンスを踊りたいと考えていた。

しかし、それはできず。ただ、春に指名された陸を見ていることしかしなかった。

 

 

「…しょうがないよ、あれじゃ。それに、春も陸君の事を見直してるみたいだし、私は嬉しいよ?」

 

 

「…なら、いいけど」

 

 

話はここで途切れる。

 

小咲とるりの二人は、持ち上げた木材をグラウンドへと運び、後は生徒会に任せてその場を離れる。

 

 

「小咲、私飲み物買ってくるけど。あんたも何かいる?」

 

 

「え、なら私も…」

 

 

「いいって。お茶で良い?」

 

 

有無を言わせぬ空気に思わずうなずいてしまう小咲。

るりはさっさと行ってしまい、小咲は仕方なくるりに任せてその場で待つことにする。

 

 

「…はぁ」

 

 

小咲は校舎の壁に体を預けて、ため息を吐く。

 

 

(…何か、疲れたなぁ)

 

 

去年はとても楽しく、疲れる暇もなく終わった文化祭。

今年もとても楽しくはあったが…、文化祭が終わった今、どっと疲れが襲ってくる。

 

 

「小野寺、さん?」

 

 

「え?」

 

 

下に向けていた視線を、上へ上げて空を見上げようとしたその時。

不意に横から誰かの声が聞こえてきた。

 

振り向けば、そこには一人の男子生徒がこちらを見て立っていた。

確か、名前は…

 

 

「上原君…?」

 

 

「お…。俺の名前、知ってたんだ。嬉しいねぇ」

 

 

確か、彼の名前は上原卓実、といったか。

 

上原が、にかっと笑いながらこちらに歩み寄ってくる。

 

 

「てか、小野寺さんは…。あぁ、そうか。一条はコンテストの優勝者に指名されたんだっけ」

 

 

「っ…」

 

 

春と陸が仲良くなってくれて、嬉しいと思っていたはずなのに。

何故か、ちくりと胸が痛む。

 

 

「そっか…。一条は別の人と…」

 

 

「…?」

 

 

胸の痛みはすぐに治まり、いつもの調子に戻る。

ふぅっ、と短く息を吐いてから小咲は、少し離れた所で自分と同じように壁に体重を預けて立つ上原を横目で見遣る。

 

右手を顎に当てて、何かブツブツつぶやく上原を、首を傾げながら見る小咲。

すると、上原はバッ、と小咲の方へと振り向いた。

 

 

「小野寺さんっ」

 

 

「は、はいっ?」

 

 

いきなり振りむき、そして急に張り上げられた声に驚いてしまった小咲。

そんな、驚いた小咲の前で上原が言葉を続けようとする。

 

 

「良かったら、俺と…」

 

 

「小咲ー」

 

 

だが、その言葉は突如割り込んできた小咲を呼ぶ声で止められてしまう。

 

小咲は、その声が聞こえてきた方へと振り向く。

そこには、二本のお茶のペットボトルを持ったるりの姿が。

 

 

「ほら、あんたのお茶」

 

 

「うん、ありがと」

 

 

「…」

 

 

駆け寄ってきたるりにお茶を手渡される小咲。

そして、お茶を受け取ったところで小咲は上原が何かを言いかけていたことを思い出す。

 

 

「あ、上原君。えっと…何かな?」

 

 

「…いや、何でもない。じゃあ、俺はこれで」

 

 

「え…」

 

 

言いかけていたことは何か、問いかけたのだが、上原はグラウンドとは逆の方へと走り去ってしまった。

 

 

「…あの人って確か、上原君、だっけ?何話してたの?」

 

 

「えっと…、何か話す前に行っちゃったっていうか…」

 

 

るりが問いかけてくるが、小咲としても上原が何をしに来たのかよくわからなかった。

 

それをそのまま返すと、るりは一言、ふーんと呟きながらペットボトルの蓋を開ける。

 

 

「…あんたも罪よね」

 

 

「え?るりちゃん、何か言った?」

 

 

「何にも」

 

 

るりが何か言った気がしたのだが。るりは否定し、ペットボトルを呷る。

 

そんなるりを見て、小咲は首を傾げるがこうなったるりは、同じ質問をしても答えてくれないという事はわかっている。

なので、これ以上問いかけることはせず、るりと同じようにペットボトルの蓋を開け、ゆっくりと呷ってお茶を口に含むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




上原…、一体奴は何なんだー(棒)



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