一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第83話 コンヨク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人で過ごすには少し広すぎる部屋に、綺麗に敷かれた二組の布団がある。それも、並んで、隣同士で。

陸も小咲も、その光景を前に固まっていた。

 

 

「それじゃ、ごゆっくり~♪」

 

 

「待って待っておばさん!」

 

 

固まっている陸と小咲の背後で、さりげなく女将さんがその場から立ち去ろうとする。

もちろん、陸も小咲も振り返り、代表して小咲が慌てて呼び止めた。

 

 

「違うから!私たち、恋人とかじゃないから!」

 

 

「あらあら。そんなに照れなくてもいいのに~」

 

 

小咲が陸との恋人関係について否定するが、女将さんはにまにまと笑みを浮かべたまま聞く耳を持たない。

それどころか、小咲が照れているのだと勘違いまでしている。

 

 

「でももう、今日のバスはなくなっちゃったわよ?」

 

 

「え。で、でもまだあるはずじゃ…」

 

 

「休日は早く終わっちゃうの。ここ、田舎だからねー」

 

 

さらに、女将さんは二人にもうバスはないと告げる。

陸が一応問いかけるが、答えは変わらず。だが確かに、休日はバスの本数が少なくなるのはよくある事だ。

これは休日のバスの本数を確認しなかった陸と小咲のミス。

 

 

「ま、そういう訳だから、楽しんでってちょうだいな。おやすみなさーい」

 

 

そう言い、うふふふふと笑い声を残していって女将さんは去っていった。

ご丁寧に、障子もしっかり閉めてから。さすが、女将の鑑である。

 

 

((…どないひまひょ))

 

 

(いや、確かに俺も小咲も、一回ずつ相手の家に泊まってる。でも…、さすがにこれはないって…)

 

 

(うぅ…。べ、別に陸君さえ構わないなら私は嬉しいけど…。でも…、私たち、ただの友達だし…)

 

 

女将さんが去ってから、ずっと黙ったまま考え込む陸と小咲。

 

しかし、帰りのバスがない以上、今日はここでお世話になるしかない。

やっぱり一部屋は止めてくれと頼んでも、相手の迷惑になるのは目に見えている。

 

 

「…よし、決めた」

 

 

「え?」

 

 

不意に陸が呟き、小咲が呆けた声を漏らしながら丸くなった目を向ける。

 

小咲の視線を受けながら、陸はいそいそと作業を始める。

敷かれた布団の一方を運び、押し入れの中へと入れていく。

 

 

「…陸君、何してるの?」

 

 

「押し入れに布団敷いてる。俺、ここで寝るから」

 

 

「ドラ〇もん!?」

 

 

どこぞの蒼い猫型ロボットの様に、押し入れの中で寝ると言い出す陸。

小咲は一言、鋭いツッコミを入れてからではあるが、慌ててすぐに陸を止めにかかる。

 

 

「い、いいよそんなことしなくても!陸君なら私は安心できるから…。私は別に、ね?」

 

 

「…そう?」

 

 

笑顔を浮かべてそう言ってくれる小咲。

小咲が本気で気にしないのなら、陸もわざわざ押し入れの中で寝たくもないし、ちゃんと部屋の中で寝るのだが。

 

 

(…信頼してくれてるんだろうけど、何か複雑なんだが)

 

 

ちょっと複雑な思いを抱きながら、陸は一方の布団から距離をとった所に布団を運んで敷き直す。

さすがに、当初、この場に敷かれていた距離で寝るわけにはいかない。

いかないったら、いかない。

 

 

「そうだそうだ、二人共~」

 

 

何はともあれ、ここで泊まるという方針は固まった所で、部屋の外から女将さんが二人を呼ぶ声が聞こえてきた。

直後、障子が開かれ、廊下で正座をしてこちらを見る女将さんが言う。

 

 

「先にお風呂入っていらっしゃいな。お客様の入浴時間は過ぎてるから、今ならゆっくり入れるわよ。後片付けもしたいし」

 

 

初め、さすがにこれ以上は世話になるわけにはいかないと思った陸が口を挟もうとした。

だが、最後の言葉で気持ちを改める。

 

この旅館では、お客の入浴時間以外なら従業員も入っていいことになっているのだろう。

そして、陸と小咲はここにバイトをしに来た。少し無理があるが、取りあえず自分たちは従業員という扱いなのだ。

 

 

「じゃあ、頂くとするかね」

 

 

「そうだね。せっかくの温泉だし」

 

 

再び部屋に来た女将さんが去ってから、陸と小咲はお言葉に甘えることに決める。

というより、拒否権はないだろう。陸と小咲が入るまで、後片付けができないと言ったも同然だったのだから。

 

部屋を出て、お風呂道具を借りてから大浴場へと向かう。

男湯と女湯に分かれて更衣室に入る。

 

 

(…色々、予定外の事はあったけど、折角宿泊できるんだ。楽しくするに越したことはないよな)

 

 

服を脱ぎながら、そんな事を考える陸。

 

こんな事になるなら、トランプやらウノやら持ってくるんだった。

いや、この事態を予想するなどできる訳もないのだが。

 

風呂から上がった後、多分あるだろう麻雀盤でも借りるか、などなど考えながら手拭いを持って浴場へと入る陸。

 

体を洗い、じっくり温まってから露天風呂へと足を向ける。

 

 

「さてさて、露天はどうなってるかな?」

 

 

ワクワクしながら外に出る陸。

秋らしい冷たい風に、体を震わせながらそそくさと温水に足を入れていく。

 

 

(あれ…。他に誰か入ってたのか)

 

 

奥へと足を進ませていると、湯気で姿は隠れていたが一人、露天風呂に入っている人がいた。

といっても、まだ来たばかりか、それとも上がろうとしていたのか。その人物は立ち上がっていたのだが。

 

 

「どうも、こんばんはー」

 

 

入浴時間が過ぎているため、お客ではないはず。

ならば、従業員という事で間違いないだろう。

 

バイトで働いている内に、向こうに自分の事が知られているかもしれないと思った陸は、未だ湯気で隠れて姿が見えないその人に挨拶をする。

 

しかし、目の前の人物、やけに細いように感じるのだが…。

 

 

「あ、こんばん…」

 

 

湯気が、風によって晴れた。そして、陸は目にする。目にしてしまう。

 

手拭いで正面が一部隠れている以外はあられもない姿の、先程分かれたはずの小咲を。

 

 

「「…」」

 

 

互いに衝撃が奔る。

 

 

「ここここ、小咲ぃ~~~~~!?」

 

 

「りりりり、陸君!?」

 

 

叫び声を上げながら、二人は傍にあった岩を使い、背中合わせになる事で互いの姿を見えなくなるようにする。

 

 

「なな、何で小咲がここにいるんだよ!?」

 

 

「り、陸君こそ、どうして…」

 

 

「確かに俺達、分かれて脱衣所に入ったよな…。何で中が…あ」

 

 

「…あ」

 

 

混乱しながらも話を進めていく内に、陸も小咲も察した。

そして、ふと二人が目を向けた先に、それが正しいことを決定づける内容の看板が立っていた。

 

 

<ここは混浴です>

 

 

((混浴…))

 

 

何てことでしょう、具多利旅館の温泉は、混浴だったのです。これには匠の遊び心が感じられますね。

…おふざけはここまでにしましょう。

 

 

「小咲はこの事…」

 

 

「…知りませんでした。私、お風呂で働いた事なかったから…」

 

 

まあ、知っていれば教えてくれただろう。まさか知っていて教えてくれないなんてこと、小咲に限ってあるわけもないし。

 

 

「ごめんね、陸君…。私がちゃんと把握してれば…」

 

 

「いや、俺だって気づかずに入っちまったんだ。謝る事ねーよ」

 

 

しかし、さすがにお風呂を一緒にというのはまずいだろう。これは受け入れるわけにはいかない。

陸は立ち上がりながら、口を開いた。

 

 

「俺、もう上がるわ。小咲はゆっくり入れよ」

 

 

「え…、あっ。私は!」

 

 

そのまま上がろうとした陸だったが、小咲の声に立ち止まる。

水の音がしない事で、小咲も陸が立ち止まったことに気付いているだろう。小咲はさらに続ける。

 

 

「私は…、別に、平気だよ…?」

 

 

「…いやいやいや、そんな無理しなくたっt」

 

 

「無理なんてしてないよっ」

 

 

「俺は男子、小咲は女子なんだぞ?俺たちがそういう関係だったらまた別の話になるんだろうけど、そうじゃないんだから、そこら辺は弁えないと」

 

 

「っ」

 

 

陸の言っている事はすべて事実である。だが、その言葉は小咲の心に刺さるもので。

思わず息を呑んでしまう小咲だったが、ここで止まらなかった。

 

 

「陸君なら…、平気だから…」

 

 

何故かはわからない。いつもなら、ここで引き下がっていただろう。

でも今は違った。小咲は、さらに陸の奥へと踏み込んでいく。

 

 

「俺ならって…。あのな小咲、男は皆オオカミだっていうだろ?あれって別に冗談で言われてるわけじゃないんだ。ホントにそういう奴だっているんだぞ?」

 

 

「陸君は、そんな人じゃないもん」

 

 

「あのな、俺は小咲が思ってるほど良い奴じゃないんだぞ?」

 

 

「そんな事…っ」

 

 

思わずといった感じで小咲が振り返る。

今の格好を考えると、振り返ってしまうと色々と危ないはずなのだが、二人の間にある岩のおかげで事なきを得る。

 

しかし、今はその事を気にしている場合ではない。

 

言葉を中断させられた小咲は、今まで見たことはない、悲しげな陸の瞳を目にする。

ずっと楽し気に、時には怒り、いつも明るい陸の見たことのない一面。

 

 

「ともかく俺は上がる。気にしなくても、十分温まったからさ、小咲はゆっくりお湯に浸かっとけよ」

 

 

「あ…」

 

 

悲しげな小咲の声を背に、陸は露天を出ていく。

 

結局そのまま、この時にできた気まずい雰囲気は払拭されることはなく。

 

翌日、始発のバスに乗るため、陸と小咲は朝早くに旅館を出ていった。

 

 

「…すぅ」

 

 

「…はぁ」

 

 

そして今。バスに揺られている内に眠くなったのか、小咲が陸の方に寄りかかってすやすやと寝てしまっている。

 

そんな小咲の寝顔を眺めながら、陸はため息を吐いた。

 

 

(…俺、何であんな事言ったんだろ。小咲が良いって言ったんだから、言葉に甘えて入ればよかったのに)

 

 

思い出すのは昨日の、露天風呂での事。

今になって不思議に思う。どうして、自分はあそこであんな事を言ったのだろう。

 

 

(…嘘、吐きたくなかったのかね)

 

 

おかしな話だが、昨日、自分が何を思ってその言葉を言ったのか、さっぱり覚えていないのだ。

だから、陸が今思ったことは飽くまで想像である。

 

 

(そろそろ、限界なのかもしれない)

 

 

陸は、もう一度、気持ちよさそうに眠る小咲の寝顔を見る。

 

どうして自分がこんなに悩んでいるのか、わかっているのだろうか。

 

 

(お前のせいなんだぞ?…自分勝手な話だけどな)

 

 

そっと、小咲の髪に触れながら心の中で呟く。

 

 

(…ごめんな)

 

 

昨日、あんな気まずくなってしまったのは完全に、全て自分のせいだ。

その事を謝罪してから、陸は髪に触れていた手を、小咲の頭へと持っていく。

 

その手で、一度、二度頭を撫でてから、陸もまた目を閉じ、すぐに襲ってきた眠気に身を任せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からお待ちかね(?)のあの話が始まります。
どの話かは、次回のお楽しみです。ww
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