A.ガ〇ダムブレイカーが全部悪いんだ
凡矢理高校修学旅行も、三日目に入っていた。二日目の午前中は映画村、昼食を挟んで午後は東大寺に行った。
そして今日は、京都市、大阪市内でそれぞれの班の自由行動が許されている。
「…ふぅ」
「なぁ一条ー。今日の予定の事なんだけどさ」
洗面台の蛇口から流れる水を止め、タオルを取って顔を拭く陸。すると、背後からこちらに歩み寄ってきた同じ班の生徒が声をかけてきた。
「どうした?」
「今日の一発目、二条城の予定だったけどよ。ちょっと変更しようって話になったんだ」
「変更?どこに?」
声をかけてきた生徒が言う。
陸達のグループは、今日の最初の目的地を二条城と決めていたのだがその予定を変更したいと。
自分が顔を洗っている間にそんな話になっていたのだろうか?
ともかく、その変更する場所を知るために問いかける陸。
「阿波弥大参寺っつー寺なんだけど…」
「…何だよそのいかにも事件が起きそうな寺は」
どうも物騒にしか聞こえない名前の寺が生徒の口から飛び出してきた。
「いやまあ…、別にいいけど。他の奴らとは話したんだよな?」
「あぁ。お前が顔洗ってる間に決めたから」
やはり、自分が顔を洗っている間に話していたようだ。
しかし、その阿波弥大参寺に一体何があるのだろう?そんな急に行きたくなるようなご利益が、その寺にあるのだろうか。
「なぁ。その阿波弥大参寺…だっけ?その寺って…?」
陸がその寺について問いかけようと振り向いた時だった。陸は、グループのメンバーが手にしている物を見る。
ある者はフィギュア。ある者はプラモデル。ある者はアイドルの団扇に、ある者は写真集。
お土産にしても、明らかに京都ならではのものではない。ていうか、どう見ても自分のために手に入れたものにしか見えない。
(…何か企んでるな)
自分の手に握っている物を見て、恍惚としているメンバーたちを見ながらため息を吐く陸。これから行く場所で、何やら波乱が起きそうな気がするのは、どうにも気のせいではなさそうだ。
朝食を食べ、身支度をして荷物をまとめてから旅館を出る。自由行動を終えた後、大阪のホテルに移るというのが今日の予定だ。
さて、旅館を出た陸達は、朝に話した通り阿波弥大参寺へと向かう。
寺へと向かう参拝客に、やけに女性が多い事を不思議に思いながらも陸は寺の境内へと足を踏み入れる。
「…普通の寺だな」
「いやいや、見た目で判断しちゃいけねえ」
「何でも、凄いご利益があるとか…」
「…てか、そのご利益は何なんだ?急に行きたくなるくらいなんだ、相当凄い…」
メンバーと話している内に、この寺のご利益についてが気になった陸は問いかけようとする。だがその時、陸の言葉を遮って聞き慣れた声が耳へと届いた。
「楽様ー!じっとしてくださいまし~!」
「うぉおおおおおおおおお!だからちょっと待てって~!」
(…?)
陸の言葉は中断され、代わりに奇妙な光景がその目に飛び込んできた。
弓を持った万里花が、必死に逃げる楽を追いかけながら矢を射っている。その光景に戸惑いながら、陸は疑問符を浮かべた。
「何だこれ…、矢じゃない…?てか、あいつらどこ行った?」
万里花が撃った矢が足元に落ちていることに気付き、陸はしゃがみ込んでそれを確認する。
そこで、陸はそれが矢ではない事に気が付くと同時に、いつの間にかメンバーがこの場からいなくなっていることにも気が付く。
(偶然、あいつらがこの寺に行きたいと言い出し、この寺に着いたら偶然追いかけっこしてる楽と橘がいた。…あほか、偶然じゃねえだろこれ)
明らかに重なりすぎている。これを偶然で片づけるほど陸はバカではない。どう考えても、グループのメンバーと誰か…というか万里花だろう。それらが結託して企み、自分をここに連れてきたに違いない。
(でも、理由が分かんねえな…)
この場に楽がいるという事は、楽も同じグループメンバーに連れてこられたのだろう。自分と同じように。
そして、その理由は今行っている追いかけっこにあるのだろう。だが自分は何故ここに連れてこられたのだろう。万里花が好きなのは楽のはずだ。それを考えれば、ここに連れてくるのは楽だけで十分なはずだが…。
(あぁ…。ここは縁結びの寺か)
そこまで考えた所で、この寺にどんなご利益があるのかに気づく。恐らく、今目の前でやってる追いかけっこも何らかの縁結びに関係しているのだろう。
だとしたらますます謎だ。どうしてここに自分が連れてこられたのか。
「こらー、万里花ー!勝手は許さな…?」
「…?」
深まる謎について考えていると、聞き覚えのある声が万里花を止めようとする。だが、その言葉は途中で止められ、疑問符が浮かんでいるのが目に見えてわかる。
声が聞こえてきた方へと目を向けると、追いかけっこを行う楽と万里花を目を点にして眺める千棘と鶫の姿が。
「…て、あいつらも参加するのか」
二人をじっと見ていると、神主さんが歩み寄り、二人に弓と矢を渡す。
そして、千棘はあっという間に楽を追いかけていく。鶫は何やら葛藤しているが…、まあ、そう時間が経たない内にあの輪に加わるだろう。
(さて、俺はどうしようか…。てか、あいつらはあっさり俺を見捨てていきやがって…)
楽たちの事は放っておいて、これからどうしようか考える陸。
一番いい方法は教師に連絡することだろう。というか連絡するしかない。全て話し、あいつらには強烈な折檻を受けてもらう事にしよう。
早速、陸はほくそ笑みながら携帯を取り出し、電話帳から教師の番号を出す。しかしそこで、陸は再び聞き覚えのある声を耳にし、動きを止めるのだった。
「り、陸君!?」
「え、小咲?」
いつの間にやら小咲までここにやって来ていた。ていうか、よく考えたら同じ班である万里花を追いかけてここに来るのは当たり前のことだ。
「ど、どうして陸君がここに…」
「…罠にかけられた」
「…何言ってんの?」
声をかけられた陸はこちらに駆け寄ってくる小咲、一緒に来た集とるりに返事を返す。三人はその意味がよくわからず、首を傾げているが。
「てか、何が起こってんだこれ。意味わかんねえ」
「あー…。万里花ちゃんがまたやらかしたみたいなんだよねー」
「…やっぱり橘か」
やはり万里花の差し金だったようだ。陸は呆れのため息を吐き、もう一度口を開いた。
「けど、楽はわかるけど…。何で俺までここに連れてこられたんだか。間違いなく、橘の仕業だとは思うんだけど」
「あー…。うん、なるほどねー…」
「…」
「え?何だよ二人共、わかるのか?」
「?」
ふと口にした呟きを聞いた集とるりが、まるで何かを悟ったかのように頷き始める。どうやら、万里花の目的がわかっているようなのだが、問いかけても真面目に答えてくれない。
「何だよおい。おしえt…」
答えが気になる陸が何度も問いかけていると、眼前を矢が横切っていった。あわや、横っ面に当たる所だった。
「…」
「…」
「…」
「…ふぅ」
小咲、集、るりが黙り込んだ陸を見つめる。三人が見つめる中、陸は一つ息を吐いてまわりを見回す。
千棘と万里花が撃った矢がそこら中に散乱している。鶫も千棘に協力しているようで矢こそ撃っていないものの追いかけっこに参加はしている。
「きゃっ!」
「うおっ、あぶねっ!」
さらに千棘と万里花が撃った矢を楽がかわすため、周りの参拝客に矢が当たりそうになっている。どこからどう見ても、営業妨害。最早犯罪の域にまで達しそうだ。
「…てめぇらぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
そして陸も、危ない目に遭った。自分の不注意でもあるため、そこは置いておくが…、周りの参拝客にまで迷惑がかかるのは看過できない。
「いい加減に、しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「「「!!?」」」」
陸の怒声に、楽たち四人は驚き、動きを止める。
そこを見逃さず、陸は続けた。
「てめぇら、ちとこっち来い」
「え…あ、陸?」
「こっち来いっつってるだろーが!」
「「「「は、はい!」」」」
楽や千棘に万里花、さらに鶫でさえ気圧され、陸の前まで行き、特に言われてもいないのに正座までする始末。
「…てめぇら、説教の時間だ」
周りに迷惑をかけまくった四人に、裁きが下される。
「ったく…。じゃあ何だ?お前らは橘に買収されたと」
「はいその通りです。申し訳ありませんでした」
陽も沈み、夕食も済ませた後、割り当てられた部屋へ向かった陸は同じ班のメンバーを全員正座させ、事情を聴いていた。
やはり陸が睨んだ通り、メンバーは万里花に買収されていた。
「まっ、俺からは特にねえけどさ。…先生には伝えておいたから。きっちり説教受けて来い」
「「「「「ち、ちくしょーーーーーーーーーーー!!」」」」」
悔しさに満ちた叫びをあげるメンバーを置きざりに、陸はあくびをしながら部屋を出る。
部屋の外にまで叫び声が聞こえてくるが、無視してエレベーターがある方へと足を向ける陸。
京都の旅館にも売店はあったが、この大阪のホテルにも売店はある。何か大阪ならではの面白い商品があるのではないかと考え、足を向けたのだ。
二十五階から二十階へ。このホテルには一階、十階、二十階に売店があり、陸の部屋がある階層から一番近いのが二十階の売店なのだ。
エレベーターから降りると、陸は売店へと足を踏み入れる。
棚に置かれている商品を見回しながら、売店を歩いていると見覚えのある背中が陸の視界に入ってきた。
「小咲」
「あ、陸君」
小咲もまた、この売店に来ていたようだ。小咲の班の千棘に鶫、万里花と別の班の楽の四人もまた、陸の班のメンバーと同じように説教を受けているため暇なのだろう。
「宮本は?」
「るりちゃんは今、シャワー浴びてるから。何かお菓子と飲み物を買いに来たんだ」
「そうか。…俺も、今はもう部屋に誰もいないからさー。暇だから来た」
「あ…はは…」
会話の内容に、小咲が苦笑を浮かべる。小咲もまた、あの寺にいたため陸の班のメンバーがしでかした事を知っている。小咲が浮かべている苦笑の中に、疲労の色も含まれているのは決して気のせいではないだろう。
「…修学旅行も、折り返しだね」
「だな。あっという間だよなー。…特に今日は」
再び苦笑を浮かべる小咲。だが反論しないあたり、心のどこかではその通りだと感じているのだろう。
「でも…、もうすぐ二学期も終わりだね」
「…何だよ急に」
「ううん、何でもないけど…。ただ、もうすぐ三年生だなって」
「…そうだな」
商品を見て歩きながら話す二人。
確かに、修学旅行が終わればすぐに二学期が終わり冬休みに入る。三学期に入れば、あっという間に三年生になるだろう。残された高校生活は、あと半分なのだという事実をここに来て強く実感させられる。
「…ん?」
少し物思いに耽った所で、陸の携帯の着信音が鳴り響く。
「ちょっと出てくるわ」
「あ、うん」
小咲に一言かけてから、陸は売店を出て電話に出る。
「竜…?…もしもし」
画面を見ると、着信先は竜と書かれていた。すぐに着信ボタンを押して声をかける。
『坊ちゃんですかい!?すぐに出てくれて助かりやす!』
「何だよ、そんな慌てて…。何かあったのか?」
ここ最近、見たことがないほど慌てた様子で竜が電話を掛けてきているらしい。声の様子ですぐにわかる。陸は、竜に何をそんなに慌てているのか問いかけた。
『大変です!おやっさんが…』
「…親父がどうした?」
『おやっさんが、急に倒れられて…!』
「っ…!」
こつん、と携帯が床へと落ちた音が耳に聞こえた気がした
本当は、映画村の所も描くつもりだったのですが…。少しでも早く話を進めるために飛ばしました。
ていうか、ぶっちゃけ、早く終わらせて他の小説、そして今、懐で暖めている新しい小説を書きたいというのが本音です。
そして、父が倒れたという事で…クライマックスが近づいてます。
大体、後十話くらいで終わらせるつもりです。(理想は百話で完結)