一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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お待たせしました。ちゃんと書けてるか不安ですが、楽しんでもらえると幸いです。








第86話 ホンシン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三年間の高校生活のちょうど半分が過ぎた時期に位置する修学旅行。その修学旅行も終わり、凡矢理高校二年生は学校に通い、いつもの日常を取り戻し始めていた。

 

それは楽や小咲達も例外ではない。クラスで授業を受け、友人と過ごし、放課後に当番であれば掃除を済ませて帰宅する。その日常を繰り返していた。旅行前とは全く変わらない。…ある一点を除いては。

 

 

「一条君、その…。陸君は、まだ…?」

 

 

「…あぁ。俺も何とか話をしようとはしてるんだけど…、あいつ、俺が起きた頃には外出してるみたいで…。しかも夜遅くまで帰って来ねぇし、一日中帰って来ない時もあるみたいだし…」

 

 

放課後、楽や小咲達はいつものメンツで帰路に就いていた。楽と小咲、千棘に鶫に、万里花に集にるりに…。ただ、一人だけ…陸だけが、その場に姿がなかった。

 

陸は修学旅行が終わってから一週間、一度も学校に来ていないのだ。小咲達は勿論、楽ですら陸がどうして休んでいるのかわかっていない。

 

 

「でも楽、あんた言ってたわよね?組の人達は何か知ってるみたいだって」

 

 

「あぁ、俺も竜に聞いてみたさ。けど…、いつもいつもはぐらかされちまう」

 

 

今、楽は家の中で除け者にされている気分だった。その理由は、先程の千棘の問いかけの中にもあった、陸の事である。

 

先程も言ったが、楽は陸がどうして学校を休んでいるのか理由を知らない。だが、何故か組の者達はその理由について何かしら知っている様子が見られるのだ。

当然、楽はその理由を竜や他の誰かにも聞いている。しかし、その度にはぐらかされ…結局、陸が今なにをしているのか、知らないのは楽ともう一人、羽だけという状況だ。

 

 

「でもさ、陸が休んでるのって親父さんの容態を気にしてるからじゃないの?」

 

 

「けどそれじゃ、一日中帰って来ない理由にならないだろ。親父はただの疲労だってわかってるんだから、そこまで神経質になるこたないし…」

 

 

修学旅行中、楽に連絡が入った。父、一征が倒れたと。楽は陸と一緒に、教師の協力も得て旅行途中でも構わずすぐに帰りの新幹線に乗った。

新幹線に乗る前に連絡した通り、駅に迎えに来た竜と一緒に一征が運ばれた病院に急行。

 

まあ結果は先程楽が言った通り、ただの疲労と医者に言われたのだが…。思えばその時から、陸の様子がどこかおかしかったのを覚えている。

表情を引き締め、下唇を噛み締めて、目はどこか決意に満ちていて──────

 

 

「楽様、そんなに悲しい顔をしないでくださいまし…。私が抱き締めて…」

 

 

「やめんか!」

 

 

楽が考え込んでしまう中、万里花が楽に抱き付こうとし、その万里花を千棘が服の襟を掴んで止める。

 

 

「何をするのですか、桐崎さん」

 

 

「何をするのですかじゃないわよ!…少しは楽の気持ちを考えなさい」

 

 

万里花に呟いた千棘の声は、他の者の耳にも届いていて。考え込んで俯く楽を見遣る。

 

 

「…心配?」

 

 

「…うん」

 

 

そんな中、小咲の元に歩み寄ったるりが小さく問いかけた。小咲はその問いかけにこくりと頷く。

 

 

「何だか…嫌な予感がして…」

 

 

楽に向けていた視線を地面に向ける。俯きながら、小咲はもう一度小さく呟いた。

 

 

「このまま…、陸君と離ればなれになっちゃう…。そんな予感がして…」

 

 

小咲の胸中に、暗い予感が募っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指定された場所に指定された回答を記入し終え、蓋をした万年筆をコロコロと机の上に放り投げる。そして腰を掛けた椅子の背もたれに体重を乗せると、背もたれがギギギと音を鳴らす。

 

 

「…ふぃ~」

 

 

天井を仰ぎ見ながら、大きくため息を漏らすのは、本来ならば組長がすべき仕事をこなす陸。長が体調を崩し入院している為、若頭候補である陸が買って出たのだ。

 

が、まだまだ若い陸にはその重さは計り切れず。想像以上の仕事量に初めは思わず目を丸くして呆然としてしまったほどだ。

 

書類仕事は勿論、対象の取引先に出向いたり、どんなに小さな反抗勢力も見逃さないよう目を光らせる。今日は何とも早く、夕方に、それも楽の帰宅よりも早く帰れたが…、処理しなければならない書類がいつも以上に机の上に積み重なっている。

父はそれらをずっとやり続けてきたのだ。子供である自分たちにはこれっぽっちも疲れ等見せず、笑顔を見せながら…ずっと。

 

 

「陸坊ちゃん…」

 

 

「ちょっと楽観視しすぎてたわ。…親父はこんな事をずっとやり続けてきたんだな」

 

 

組が安定してからは荒事にあまり関わらなくなったものの、その代わりと言わんばかりに増えた事務仕事。こなしてもこなしても新たに入ってくる仕事に、嫌気が差してくるほど。

 

 

「坊ちゃん、その…。明日からはアッシ達が!だから、坊ちゃんはいつも通り学校に…」

 

 

「そういう訳にはいかねぇだろ」

 

 

胸を拳でどん、と叩きながら竜が言ってくる。が、陸は苦笑いを浮かべるだけで頷くことはしない。

 

 

「これは、俺がやるべきことだろ?」

 

 

「…」

 

 

「手伝いはともかく、お前らに任せるわけにはいかねぇんだよ」

 

 

竜の気持ちはとても嬉しい。それに、竜の言葉を聞くにその気持ちを抱いているのは竜だけではないのが解る。もしかしたら、親父も自分と同じ事を何度も言われていたのかもしれない。

 

それに反して、陸はどうだ。今という和やかな瞬間に甘えて、一征の疲労に気付こうともしなかった。そんな自分が、部下に甘えるなど、どうしてできようか。

 

 

「…楽はどうしてる?」

 

 

背もたれに掛けていた体を前へと戻し、デスクに右肘を立てて頬杖を突きながら竜へ問いかける。

 

修学旅行が終わってから一週間。陸が学校を休み始めてから五日。その期間、陸は楽とすら接触を避けていたのだが、一昨日から楽がその事に関してうるさくなっている事は知っている。楽だけではない。携帯の着信履歴やメールを見てみれば、集に千棘に、るりに万里花や鶫。そして、小咲。友人達から心配の連絡が寄せられている。着信、メールを合わせれば、二十を超える連絡が来ていたのを、陸は全て無視していた。

 

一つ屋根の下で暮らしている楽からも、痺れを切らしたのか今日、メールが届いていた。そろそろ強引にこちらへ来る頃だろうと思われる。だがそれでも、陸はまだしばらく、楽とも顔を合わせるつもりはなかった。

 

そのため、楽の様子を竜へ問いかけたのだが…

 

 

「よく陸坊ちゃんの様子は聞かれますぜ。けど、最初の頃よりは強引な感じじゃないっすわ」

 

 

「…ふーん」

 

 

陸が考えていたものとは違った答えが竜の口から聞こえてきた。

 

 

「なら、おとなしくしてるんだ」

 

 

「そうっすね」

 

 

何とも意外な報告が聞けた。思ってるよりも、心配されてないのだろうか?…悲しい。

い、いや、きっと信頼されてるんだ。そうだ。どうせすぐに戻ってくると信じてもらえてるんだ。そ…んな訳ないね。

 

それに、携帯に入っている連絡の多さから、心配されていないというのも考えられないし考えたくない。

 

 

(…何か企んでたりしてねぇよな)

 

 

学校帰り、皆を引き連れて家に招くとか、楽が考えそうで怖い。でも、もしそうなったとしても、陸は誰にも会うつもりはない。

 

 

「…あの、坊ちゃん」

 

 

「ん?」

 

 

不意に、竜が話しかけてきた。視線をそちらに向けると、何か思いつめたような、そんな顔をした竜が陸を見ていた。

 

 

「あの話…、本当なんですかい?いや、あっしらとしては嬉しい話っすけど…」

 

 

「…本気だよ。つか、嬉しいならそんな顔すんなや。強面のお前がそんな顔しても似合わねえぞ。てか、気持ち悪ぃ」

 

 

物思いに耽ったようなその表情が、恐ろしいくらい竜に似合わな過ぎて、思わず笑みを零す陸。

 

 

(…そうだ。何を揺らいでるんだ、俺は)

 

 

ひでぇっすよ坊ちゃん、と言いながら豪快に…笑おうとしている竜を見ながら思う。

 

 

(もう、戻れないんだ。戻っちゃいけないんだ、あの場所には)

 

 

頭に浮かぶのは、全員で笑い続けた、あの日常。ずっと終わる気がしなかった、和やかな一時。だが、それはもう終わりを告げようとしている。

 

 

(もうすぐ、俺は────)

 

 

改めて決意を固める陸の脳裏に、一人の少女の寂し気な顔が過った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ」

 

 

静かな自室で、溜め息の声が響く。いつもは隣から聞こえてくる電子音も、ここ最近はめっきり聞いていない。だがそれよりも、ここ一週間、隣の部屋の主と全く会えていない事が、憂鬱で仕方なかった。

 

 

「陸ちゃん…」

 

 

長く伸びた髪が乱れるのも構わず、部屋に敷いてあった布団に勢いよく倒れ込む。

 

 

「ずいぶん寂しそうね、首領」

 

 

「え?あ、い…夜ちゃん!?」

 

 

悲しくて寂しくて、思わず目から涙を零しそうになったその時…。羽に声をかけてきたのは、腹心である夜だった。

 

全く気配を感じさせなかった夜に驚いて目を見開く羽は、飛び上がる様に起き上がる。

 

 

「そんなに、あの坊ちゃんに会いたいか?」

 

 

「え…いや、その…」

 

 

「…なに、会いたくないのか」

 

 

「え!?あ、会いたいよ!」

 

 

堪らず大声を出してしまった。羽は頬を染めながら、両手で口を覆う。

何て恥ずかしい事を言ったのだろう…。いや、心の底からの本心なのだが。もし部屋の傍に誰かがいたら…、聞かれていたら…。

 

 

「大丈夫ね。部屋の外には誰もいないよ」

 

 

「心を読んだ!?」

 

 

「顔見れば解るね」

 

 

夜に心を読まれ、動揺する羽。しかし、他人からすれば今の羽の顔を見ればすぐに解るのだが。それは、羽が知る由もなく。

 

 

「もう…」

 

 

頬を膨らませ、不機嫌ですよと言わんばかりの顔でそっぽを向く羽。そんな羽を、ぴくりとも表情を動かさずに眺めていた夜が、不意に口を開いた。

 

 

「会いに行くか?ディアナに」

 

 

「…え?」

 

 

羽も、裏に深く通ずる叉焼会の首領を伊達にやっている訳じゃない。夜が口にしたディアナという単語が何を示しているのか、当然分かる。

 

だからこそ、夜の言葉に驚愕し、振り返る。

 

 

「首領が望むならその願い、叶えるよ」

 

 

「…」

 

 

呆けて口を開けたままの羽と、未だ表情を動かさない夜の視線が交じり合う。

 

 

(陸ちゃんに会える…?)

 

 

夜の言う通り、本当に陸に会えるならとても嬉しい。羽の顔に、笑顔が浮かぶ。

 

 

「夜ちゃん、お願いできるかな?私、楽ちゃんに…」

 

 

「待った」

 

 

堪らず、立ち上がった羽は、この事を楽に伝えるために部屋を出ようとする。

 

学校で楽が、友人たちと集まって陸の事について毎日相談している事を羽は知っていた。だからこそ、すぐに楽に、彼らに陸に会えるかもしれない事を伝えたかった。

 

だがそれに、夜が待ったをかける。

 

 

「首領、本当にそれでいいのか?」

 

 

「え?」

 

 

夜に呼び止められ、振り返った羽は固まってしまう。

 

それでいい、とは何の事だろうか。解らない。…解らないのに、何故か、胸が掴まれたかのような感覚に陥る。

 

 

「それでいいって…、どういう事?」

 

 

「そのままの意味ね。…首領今、皆でディアナに会いに行く思てたね。でも、本当にそれでいいのか?」

 

 

「…」

 

 

何で…、何で言葉に詰まるのか。それでいいというか、それがいいに決まってるではないか。

なのにどうして…。

 

 

「首領、もう一度言う。本当に、それでいいのか?」

 

 

「…」

 

 

頭に浮かぶのは陸の顔。小さい頃、全く感情を表に出さず、無表情を貫いていた陸。だが、成長をして、幼さが残りつつも男らしい顔つきになり、久しぶりに会った陸は、あの頃からは考えられないほど笑うようになっていた。

 

そして、陸が笑う時、一番多く傍に居たのは…

 

 

「…夜ちゃん」

 

 

「…」

 

 

陸の傍で一緒に笑う、一人の少女の顔が浮かんだ瞬間、羽の心は固まってしまった。

 

 

「陸ちゃんに会わせて」

 

 

「…仰せのままに」

 

 

羽の口からは、夜の問いかけ全てに対する答えは出てこなかった。

だが、羽の顔が、その答えを語っている事を夜はしっかり悟っていた。

 

夜が羽に向かって一礼をしてから、障子…からではなく、窓から外へと出ていった。羽は、そんな夜の背中を眺めて…、壁に背を寄りかからせ、ずるずると床へ崩れ落ちる。

 

 

(私…)

 

 

自分でも、先程の言動が信じられなかった。

 

皆で陸に会いに行く、それが一番だと思っていたはずなのに…、どうしてあんな事を言ってしまったのだろう。けど…、止められなかった。夜の言葉に心を掴まれ、気付けば口にしていた。

 

 

(…でも)

 

 

それでも、自分でも羽は解っていた。あれが、心の奥底にあった、本心なのだと。

 

誰かと一緒にではなく、二人きりで陸に会いたい。そんな醜い欲望が、何にも勝る自分の本心なのだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




羽が…、羽が…真っ黒になってしまう…。
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