一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

9 / 103
講義中に投稿ですww


第9話 クロトラ

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、職員室へと続く廊下がざわめいていた。

通る人通る人が、見事な姿勢で歩く、凡矢理高校の制服とは違う制服を着た人物に目を奪われる。

 

 

(ここが、お嬢の通っている学校か…)

 

 

辺りが転校生か?と囁いている中、その人物はまわりに目もくれずにただ歩く。

 

 

(待っていてください、お嬢…。必ず、あなたを救い出して見せます!)

 

 

本当に、ただの転校生なのだろうか。

この転校生が、騒ぎを引き起こす━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?今日転校生が来るの?」

 

 

「こんな時期にか?」

 

 

楽と千棘が、席の前に立つ集を目を見開いて見ながら問いかける。

集は、何故か憂鬱そうにため息を吐きながら答える。

 

 

「らしーよ…。何か突然決まったことらしくて、生徒には通達が遅れたんだけどさ…」

 

 

「つーか集。何でお前、そんな憂鬱そうにしてるんだよ」

 

 

集が楽と千棘の問いかけに答えている中、陸がこの場にやってくる。

やけに集が憂鬱そうにしている。転校生が来るのだから、普通はテンションが上がるはずなのだが。

 

 

「だってよ、その転校生は男子って話だ…。しかも美男子!あ~、テンション下がるわぁ~…」

 

 

分かりやすい。転校生が女子でないというだけでなく、男子、それもイケメンという事実が集のテンションを滝のごとく流れ落としていく。

 

 

「私は楽しみだな~。どんな子なんだろ!」

 

 

「俺は転校生に良い思い出がないからな…」

 

 

「何か言った?」

 

 

「いえ何も」

 

 

チャイムが鳴り、集が席に戻っていくと千棘が不意に口を開いた。

楽が千棘に相槌をうつが、うち方が行けなかった。いつもの、楽が千棘に尻に敷かれている光景がそこはあった。

 

楽がげんなりしていると、教室の扉が開いてキョーコ先生が中に入ってくる。

 

 

「おーお前ら。今日は転校生を紹介するぞー。入って、鶫さん」

 

 

「はい」

 

 

キョーコ先生に呼ばれ、入って来た人物に教室中がざわっ、と震える。

 

 

「初めまして、鶫誠士郎と申します。どうぞよろしく」

 

 

きりっ、としたつり眼に長い睫。制服の着こなしも見事。

 

女子の歓声が沸き上がる。まさにザ・イケメンというべき人物だ。

 

 

(あれ…?あいつ…)

 

 

女子どころか、男子もざわめく中、陸はその転校生に違和感を抱いていた。

いや、それと同時に既視感というか、どこかで会ったことがあるような、そんな感覚を抱いていた。

 

訝しげに陸が眺める、鶫という転校生は自分に割り当てられた席に向かうために楽の付近を通る。

だが、楽とすれ違うその時、どこかこれ見よがしにふっ、と微笑んだ。

 

それに気づいた楽。不思議そうに鶫に目を向けるが、その鶫が楽の横を通り抜けようとした時、隣の千棘ががたっ、と席を鳴らしながら立ち上がった。

 

 

「つ…、つぐみ…!?」

 

 

「お嬢…!」

 

 

目を揺らし、わなわなと震えている千棘に、目を輝かせ、感激しているのか、どこか後光が差しているように見える鶫。

 

鶫は、すぐ横にいる千棘に飛び込んだ。

 

 

「お嬢ーーー!お久しぶりですーーー!!!」

 

 

飛び込んだ鶫は、千棘の腰に両腕を回して抱き付いた。

再び、クラス中に衝撃が奔る。

 

 

「て、転校生が桐崎さんに抱き付いだぞ!?」

 

 

「な、何だこの二人!どんな関係なんだ!?」

 

 

クラス中が千棘と鶫の関係に疑問を持つ。そしてそれと同時に、鶫と楽の修羅場かと期待を持つ者もあらわれる。

そんな中、陸だけは全く違うことを考えていた。

 

だが、目を向けるのは皆と同じ、今も千棘に抱き付いている鶫。

 

 

(桐崎さんをお嬢と呼んだということは、多分ビーハイブのメンバー…。あ)

 

 

鶫について、絞り出すように思考を続けると、鶫に感じた既視感の正体にたどり着く。

 

そうだ。会ったことはないが、見たことはある。そう、集英組の要注意人物たちの写真に写っていた一人の人物。

 

 

(黒虎<ブラックタイガー>…)

 

 

ただの転校生ではない。

ビーハイブきってのヒットマンが、この学校に転校してきたのである。

 

 

 

 

 

授業が終わり、今は合間の休み時間。

机に頬杖をついている陸の視線の先にいるのは…。

 

 

「彼!この人が私の恋人なの!」

 

 

「あ…。ど、どうも…」

 

 

「おお…!名前はかねがね聞いてはおりましたが、こうして直にお会いすると、何とも頼りがいのある方ではありませんか!」

 

 

(うわっ、白々しい…)

 

 

陸の視線の先にいるのは、楽と千棘、鶫の三人である。

先程まで千棘と鶫の二人が話していたのだが、千棘が鶫に恋人(仮)である楽を紹介したのである。

 

その時の鶫の反応を眺めていたのだが、陸は鶫の言葉を鵜呑みにしていない。

本人はあれでばれていないと思っているのだろうか。

 

 

(マジであいつ、優秀なヒットマンなのか?殺気が駄々漏れ…。何だ?桐崎さんに関しては感情移入しちまうのか?…まあ、そうなら桐崎さんの護衛失格だが)

 

 

感情に流されるようなら、対象の護衛などできるはずがない。

常に対象を守るために冷静な判断を下さなければならない、護衛という立場。

見ていると、鶫がそれをできるとはどうにも陸には思えなかったのだ。

 

陸が思考している間にも、楽たち、というより千棘と鶫のやり取りは続いていた。

特に、必見は昼休みの時。鶫が千棘の弁当に入っていたステーキの一切れをフォークに刺し、千棘にアーンをさせようとしている。

さらに、どこから取り出したのかアッサムティーを千棘に渡し始める鶫。

 

…どこから出した?謎だ…。

 

 

「あぁそうだ。一条さん。一つ聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

「へ?」

 

 

そこからも鶫は千棘にくっつき続けていると、ついに千棘は教室から逃げ出してしまった。

だが鶫は千棘を追いかけようともせず、傍にいた楽に話しかけている。

 

楽と鶫は、二人で教室を出て行った。

 

 

「…」

 

 

陸も席から立ち上がり、教室を出る。前を歩く二人に気づかれない様についていくのだった。

 

 

 

 

二人がやって来たのは屋上だった。陸は扉の陰に身を隠し、耳を澄ませて楽と鶫の会話を盗み聞く。

 

 

「なんだよ、わざわざ場所まで変えて」

 

 

「いえ…。一つだけハッキリさせておきたいことがありまして…」

 

 

何故、屋上まで連れ出したかを問いかける楽に、口を開く鶫。

 

 

「お嬢の事、あなたは本当に愛していらっしゃいますか?」

 

 

「っ…っ…!あ、あったりめえよ!」(あぶねえ…思わず否定するところだった…)

 

 

危ない所ではあったが、鶫の問いかけに答える楽。

内心ではひやひやものだったが、鶫は楽の答えに笑顔を見せる。

 

 

「どのくらい愛していらっしゃるんですか?」

 

 

「そりゃもう、とんでもなく愛してるよ…」

 

 

「お嬢のためなら死んだって良い?」

 

 

「おう!その覚悟だ!」

 

 

楽の演技にも力が入る。

拳で胸をどん、と叩きながら鶫の問いに答える。

 

 

「そうですか…、安心しました」

 

 

鶫は、本当に千棘と付き合っているかを怪しんでいるだけだと思っていた楽。

だが、それは違うと次の瞬間思い知らされる。

 

 

「なら、死んでください」

 

 

穏やかな笑顔を浮かべたまま、鶫は袖から拳銃を取り出した。

あまりの出来事に、楽は反応どころか表情を動かすことすらできない。

 

だが、不意に鶫の姿が消えた瞬間、楽の中で時が再び動き出す。

 

 

「え、どぇえ!?ちょ、ちょっとまっ…!」

 

 

今、鶫が取り出したのは間違いなく拳銃である。

そんなものをもった鶫が視界から消えた。次に鶫が何をするかなど容易に想像できる。

 

 

「…っつ!」

 

 

楽は急に奔った痛みに顔を顰める。

顎から感じた痛みの正体を確かめるために顔を下げようとすると、何か筒状のものに押さえつけられ顔を動かすことができない。

仕方なく、視線だけを下に移してその正体を目にする。

 

自分の懐に潜り込んだ鶫が、手に持っている拳銃を楽の顎に押し付ける。

拳銃を突きつけられるなど初めての経験である楽は、身動きを取ることができない。

 

それだけでなく、下手に動けば撃たれるのでは?という恐怖にも襲われる。

 

 

「…ガッカリだな」

 

 

そんな楽に気づいたのか、鶫が先程とは打って変わって敵意むき出しの声で楽に告げる。

 

 

「お嬢の恋人と聞いて、どんな人かと思って来てみれば…。注意力は散漫、反応も鈍い、おまけに無防備…」

 

 

口を開けば楽への罵言しか出てこない鶫。

 

 

「今わかったよ。お嬢は偽りの愛に縛られ、貴様に騙されているのだとな…!」

 

 

(はぁ!?)

 

 

偽りの愛?騙される?

真実どころか偽りの愛すら存在せず、さらに騙しているのは両方である。

 

だが、それを口に出すことは出来ず鶫は言葉を続ける。

 

 

「貴様の狙いは何だ。我らの縄張りか、それとも組織の乗っ取りか。惚けても無駄だ、吐け」

 

 

鶫から発せられる殺気の濃度が増す。瞬間、陸は動き出していた。

 

 

「へえ。かの有名なブラックタイガーさんがいると思ったら…。無力な人間に銃を向ける野蛮人だったとは」

 

 

「っ!?何だ、貴様は!?」

 

 

影から姿を現す陸。その陸に向かって鶫は持っていた銃を楽から陸に向け直す。

 

瞬間、鶫と楽の視界から陸の姿が掻き消えた。

 

楽には何が起こっているのかわからなかったが、鶫は陸の動きを目に捉えていた。

身を構え、陸の突進に備える。

 

だが、鶫の眼前まで迫った所で陸のスピードはさらに増した。

これには鶫も陸の姿を見失ってしまった。

 

陸の姿を探そうとする鶫だったが、途端、背中に衝撃を受ける。

 

 

(後ろ…!?)

 

 

陸が後ろにいると確信した鶫は振り返ろうとするが、その前に陸は鶫が銃を持っている方の腕を捻り上げる。

さらに残った一方の手で鶫の首を掴み、その顔面をフェンスへと叩きつけた。

 

 

「がっ…!」

 

 

痛みに思わず声を漏らした鶫だが、陸の拘束から逃れようと身を動かす。

だが、陸の力は凄まじく拘束から逃れることができない。

 

 

「…ガッカリだな。反応は鈍いし無防備だし、それにスピードも遅い。ブラックタイガーだと思って期待してたんだがな」

 

 

「っ!」

 

 

その言葉は、先程鶫が楽に言い放った言葉。

その言葉を丸ごと言い返された。しかも、こんな無様な状態を押し付けられたままで。

 

今まで自分を高め続けてきた鶫にとって、その言葉は今まで培ってきたものが崩れさるには十分なものだった。

 

 

「そういえば、楽に聞いてたな。俺たちの目的は何だ、て」

 

 

鶫の拘束はそのままに、陸は口を開く。

 

 

「ビーハイブなんかの縄張りもいらないし、乗っ取りなんかもするつもりはないよ。時間の無駄だ、そんなもの」

 

 

「な…、にっ!?」

 

 

「大体、お前らは自分たちが置かれてる立場ってのがわかってない」

 

 

鶫が激昂していることには気づいている。だが、そんなものは関係ない。

 

まさか、楽の存在が気に食わないとはいえこんなものを寄越してくるとは思っていなかった。

これがあのボスの差し金でないことはわかっている。クロードの独断だ。だから、あの眼鏡にもわからせる。

 

 

「今、ここでその気になれば、ビーハイブは三日で壊滅させることができる。ちょうど日本にボスもいるしな。三日もいらないかもしれない」

 

 

「き、さまぁああああああああ!!!」

 

 

叫びながら、暴れ出す鶫。

 

この男は何と言った?組織を侮辱するどころか、三日で壊滅させることができるだと?

 

 

「まず、今ここでお前を殺す。そして、恐らく今もどこかで様子を窺っているだろうクロードを殺す。…ここにはいないみたいだな。お嬢様の様子でも見てるのか」

 

 

「っ…」

 

 

何故だろう。できるはずがない、とは思えない。それどころか、この男ならばできるかもしれないとまで思う始末。

 

背後から感じる殺気が、少しずつだが無尽蔵と思えるくらいに膨れ上がっていく。

 

どこまで…、どこまで伸びる…?

 

 

「さて、お前は今、集英組の二代目候補に銃を向けた。ということは…、そういう事と捉えていいんだろうな?」

 

 

「っ…!」

 

 

冷や汗が止まらない。それだけでなく、体が震えだす。歯がガタガタと音を鳴らす。

 

怖い…、怖い。怖い…!

 

 

「ま、冗談だけどね。とりあえず、持ってる武器全部出してくれたら離してあげる」

 

 

「…え?」

 

 

立ち込めていた殺気が一瞬にして消え、陸の声も明るいいつもの調子に戻る。

 

急な陸の変化に、鶫は呆然と声を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これで、全部か?」

 

 

「…」

 

 

陸の問いかけに、こくりと頷いて返す鶫。

 

嘘をついている気配はない。鶫の懐から出てきた大量の武器を没収して、陸は口を開く。

 

 

「さてと楽。本題に入るぞ」

 

 

「え!?今までのは何だったわけ!?」

 

 

ここからが本題、ということはさっきの陸と鶫のやり取りは何だというのか。

遠くから眺めていた楽には、二人とも、当然陸も本気に見えていたのだが。

 

 

「さてブラックタイガー。お前は桐崎さんの恋人として楽は相応しくない。そう思ってるんだな?」

 

 

「…」

 

 

「…あぁ、もういいから。あんなことしないから、正直に答えてくれ」

 

 

先程のあれがトラウマとなっているのか、陸を見て震えるだけで鶫は何も答えない。

だが、陸はもうあのようなことを鶫に二度とする気はないので何とか安心させようとする。

 

 

「…そうだ。一条楽を…、お嬢の恋人として認めるわけにはいかない」

 

 

陸の笑顔を見て、ようやく少し震えが収まった鶫はそう答える。

その答えを聞いた陸は、少しだけ頷いてから口を開く。

 

 

「だよな。ま、ブラックタイガーの言う通りだよ。楽の強さは一般人の域を出ないしな」

 

 

「え…」

 

 

正直、そんなことはないと言い返されるのかと思っていた鶫。

だがそんな予想と反して、陸の答えは鶫の言葉を肯定するもの。

 

 

「お、おい陸!」

 

 

「何だよ楽。事実だろ?」

 

 

「…まあ、そうなんだけどよ」

 

 

陸の言葉に、楽が言い返そうとするが結局、何も言うことができない。

陸の言う通り、それは事実なのだから。

 

とはいえ、ストレートに言い過ぎだと心の隅で反感を持つ楽だったのだが。

 

 

「でもブラックタイガー。桐崎さんを守るためには確かに強さも必要だと思うけど、強さだけじゃ守ることは出来ないとも俺は思うのよ」

 

 

「…だからなんだ」

 

 

遠回しな言い方をする。率直に言ってほしい。

鶫は陸を睨んでその本題というのを引き出させる。

 

陸は鶫の鋭い視線を受けて、肩を竦ませてからある言葉を口にする。

 

 

「楽、ブラックタイガー。お前ら、放課後決闘しろ」

 

 

「なに?」

 

 

「…はあああああああああああああ!!?」

 

 

鶫は目を見開いて呆然と口を開き、楽は少し間を置いてから驚愕に声を上げる。

 

そんな二人を見ながら陸は笑みを浮かべる。

 

陸の思惑とは、一体何なのか。

この時の二人は、そんなもの知る由がないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。