一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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第97話 ホシゾラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千棘達が家に来るまで、楽と小咲が電話を掛けてから一時間と掛からなかった。

最初にリムジンに乗った千棘と鶫が来て、千棘が陸の姿を見つけた途端大声で文句を言いながら詰め寄って来た。だが、その目には大粒の涙が浮かんでおり、挙句の果てに嗚咽で文句すら言えなくなり、小咲に抱き付きながら大泣きしてしまった。鶫には何も言わなかったが、呆れたように溜め息を吐いていた。

 

その次に来たのはこれまたリムジンに乗ってやって来た万里花だった。万里花は千棘と違い、落ち着いた様子で陸に話しかけてきた。が、一言陸に掛けた後、すぐさま楽に抱き付きに行った結果、一瞬にして涙が引っ込んだ千棘と揉めていた。そんな騒がしい光景もどこか懐かしく、微笑ましく陸は感じた。

 

その後、るりと集が一緒に来て、陸の顔を見て集が何か言おうとするがその前にるりがジャンピングクロスチョップを陸の顔面に撃ち込んだ後、陸を正座させて説教を始めた。あれ、何でだろう。宮本ってこんな怖かったっけ?等と感じながらるりの言葉に頷いて答える機械になりながら説教を受けている最中に、春、風ちゃん、ポーラの三人がやって来て、るりの説教に春が加わる事になった。

 

小咲を悲しませるな、お姉ちゃんを泣かせるな、今度同じような事をしたら只じゃ置かない等々言われ、三十分程で説教は終わった。先程の千棘もそうだったが、自分達の事ではなく、小咲の事しか自分に言わないのは、まあ、そういう事なのだろう。

 

説教が終わり、立ち上がる事を許可された陸は楽と共に厨房で更なる追加の料理を作ろうとして、ふと気付く。そういえば、羽はどこへ行ったのだろうと。執務室での対談が終わり、部屋を出てから一度も姿を見せていない。千棘達に羽との対談の内容を簡単に説明してから、羽を呼びに向かったが、部屋にいる気配はなかった。家中を手分けして探したが、見つからなかった。

 

皆で合流してから楽が電話を掛けると、外にいるという。羽に早く家に帰るように言ってから、陸と楽は厨房ですぐに料理を始める。大勢分の料理を作っている間に出前を頼んでいた品も次々届く厨房にいてどういう話をしたかは聞こえなかったが戻って来た羽と千棘達も何やら話したようで、完成した料理を運ぶ最中に様子を見れば別に彼らの間に変な空気なんかは感じなかった。

 

準備が完了した時にはもう夕飯には少々遅い時間になっていたが、その分空腹感が増し、食事が始まってからあっという間に料理は減っていった。頼み過ぎたか、作り過ぎたかと思っていたのだがそれとは逆に足りないという事態が起き、再び陸と楽が厨房に入る始末。

 

そうして騒がしくも楽しい、久々の家族の、友人の団欒は続いている。

 

「…疲れた」

 

今、陸は縁側に腰を下ろして星空を見上げていた。現在の心境は、たった今口にした一言で察しが付くだろう。

 

楽しかったのは本当だ。嬉しかったのも本当だ。だが現在、リビングでは誤って口にした酒によって酔った千棘、万里花、鶫が暴れている。楽が必死に止めようとしていたが、勿論できるはずもなく。こういう時止められそうな親父や武闘派の男達は面白がって止めようともせず。三人に楽が押し倒された所でターゲットが移らない内にそっと抜け出してきたのだ。

 

まあ、抜け出した理由はそれだけではないが。

 

「陸君?」

 

体勢を後ろに倒し、両手を背後に突いて星空を仰いだその時、陸の左側。リビングから続く廊下の方から声がした。

 

「…ついてきたのか?」

 

「…うん。突然、出てっちゃうから。気になっちゃって」

 

陸が振り返った方に立っていたのは、風で揺れる髪を押さえて微笑む小咲だった。

陸の問いかけに答えた小咲は陸のすぐ隣で腰を下ろし、先程までの陸と同じように星空を見上げる。

 

「うわぁ、凄いねぇ~!」

 

「うん。ここから見る星は子供の頃から好きだった」

 

感嘆の声を上げる小咲。それ程に、縁側から見える星空は綺麗なのだ。子供の時は良く、楽と一征と、母が海外に行く前は親子四人で空を見上げていたものだ。

 

「…あと何回見れるかなとか思ってたんだけどな。解らんもんだ」

 

空を見上げていた小咲が振り向くのを感じながら、昨日までの自分を思い出す。

長不在の中、多忙の日々を送っていた陸だが、ほんの少し寝る時間が出来ればその前に必ずこの場に来ていた。星を見上げて、かつての団欒を思い出して、もうすぐここから夜空を見れなくなるんだな、と哀愁の念を抱いたりして。

 

でも、もういつでもここに来れるようになった。来て良いのだ。

それも全部、皆のお陰だ。皆がいなかったら、ここにいたいと思う気持ちにすらならなかった。そして、小咲と楽が来てくれなかったら。あの時、小咲と目が合わなかったら――――――

 

「…ありがとう」

 

「え?」

 

「来てくれて、ありがとう」

 

あの時、選択を迫られた時、もうその時から陸の中で答えは決まっていた。今になってからようやくその事に気が付いた。だが、怖かったのだ。その答えを口にする事が。その選択をした瞬間、どうなるのか怖かった。

 

やっぱり駄目だ、と。誰が何と言おうと、そうするべきなのだと思ったその時だった。小咲と視線が交わったのは。その瞬間、恐怖があっという間に流されて、代わりに何故か勇気が湧いてきた。その理由も、今なら解る。

 

なお、一方の小咲は何が何だかわからない様子。何故陸にお礼を言われたのか、サッパリ解らないようで首を傾げている。その様子が面白くて、陸はつい笑みを零してしまう。

 

「え?…え?」

 

「クッ…、クククッ…。いや、何でもない…」

 

手の甲で口を隠しながら笑い続ける陸に更に小咲の戸惑いは深くなり、そしてその様子を見て陸は更に笑い続けるというループを何度か繰り返すまで、陸の笑みは収まらなかった。

 

「…小咲のお陰なんだよ。俺がここにいられるのは」

 

「?私、何もしてないよ?」

 

「…うん、小咲は何もしてない。でも、小咲のお陰なんだ」

 

意味の解らない事を言っている自覚はある。戸惑ってる小咲に申し訳なくもある。

ただ、正直に話すのは恥ずかしすぎる。小咲を見ただけで勇気が湧いたとか、言える訳がない。

 

「ごめん、何言ってるか解んねぇよな。ま、感謝してるって事だけ伝わればいいんだ」

 

「う、うん…」

 

納得し切れてはいないようだが、これ以上陸に話す気はないと解ったのだろう。これ以上小咲は追究しなかった。

 

「…」

 

「…」

 

流れる沈黙。二人が見つめ合う中、周りからは虫の鳴き声が聞こえてくる。

さぞ心地よい時間、という訳ではなく現在絶賛十一月。真冬程ではないとはいえ、夜になればかなり冷える。陸はいつもの和服の上に羽織を着ているためそこまで寒いという訳ではないが、小咲は違う。

 

「くしゅんっ」

 

可愛らしいくしゃみ。ようやく陸は小咲の格好が外へ出るには薄い物だと気付く。

 

この家には制服の格好で来た小咲だが、今は羽から借りたラフな格好でいる。

 

「寒くなって来たな。そろそろ戻るか」

 

「あっ…」

 

今の小咲の格好でここに居続けるのは体に毒だろう。そう思い、立ち上がって混沌の戦場ことリビングへ戻ろうとした陸だが、どこか名残惜しそうな小咲の声を耳にして踏み出そうとした足を止めた。

 

「…どうした?」

 

「えっと…、その…。もう少しここに、居たいかな…?」

 

「?」

 

そんなにここから見える星空が気に入ったのだろうか。しかしそんな物、何時でも見れる。構わず小咲にもう一度戻ろうと提案しようとしたその時、先に小咲が続けて口を開いた。

 

「今戻ったら、皆がいるから…。もうちょっと、陸君と二人で…いたい…」

 

「…」

 

あれ?今って夏だったかな?ていうかさっきまで寒かったのに何でいきなり暑くなったんだ?十一月だよ?冬が目の前だよ?おかしいな。

 

「あ…あの…。違くてその…!」

 

「違うの?」

 

「あ、いや、違くない!あの…、う…」

 

可愛い。何だこの可愛すぎる生物。こんなのこの世界に居ていいのか。

 

顔を赤くしてあたふたする小咲を見続ける。このままじっと観察していたい欲求に駆られるが、陸はぐっとそれを我慢して羽織を肩から外し、小咲の肩に掛けた。

 

我に返った小咲が目を丸くして陸を見上げている。陸はそんな小咲は見ず、黙ったまま小咲の隣に再び腰を下ろした。

 

「あと五分な」

 

「…うん」

 

腰を下ろした陸は、それから少しの間は星空を見上げていたのだが、不意に視線をずらして隣へと向けた。同じように、小咲が陸の方に視線を向けたのも全く同じタイミングだった。

 

視線が交わる。これまで何度もこうして小咲と視線を交わしてきたが、何だろう。今のは何か違う気がした。

 

綺麗な小咲の黒い瞳に吸い込まれそうになる。というより、吸い込まれてる気がする。小咲の顔が近付いて来ている気がする。…こんな事が、以前にもあった気がする。

 

(…そうだ。去年の夏祭りだ。小咲と…その…、キスしそうになった時だ)

 

あの時は、もし猫と猫を追いかけていた楽が来なかったらどうなっていたのだろう。

 

心落ち着かせる虫の鳴き声はもう全く陸の耳に聞こえてこなかった。代わりに聞こえてくるのは、自分の心臓の高鳴りだけ。うるさい、止まれ、と心の中で叫ぶが全く聞く耳を持ってくれない。

 

小咲が目を閉じた。同じように陸も目を閉じる。そして更に顔を近づけて――――――僅かに聞こえて来た物音。そして我に返った陸の勘は、確かにその気配達を捉えた。

 

「…陸君?」

 

いつまでも待っていた感触が来ない事に不思議に思った小咲が目を開け、どこかを見ている陸を見上げる。陸は小咲の背後、廊下の角を睨んでいた。

 

「お、おい…。もう少ししゃがめって…」

 

「ち、ちょっと楽、押さないでよ…」

 

「…それよりも桐崎さん、私に寄り掛からないでくれません?重くて敵いませんわ」

 

「は、はぁ!?誰が重いって!?」

 

「お、お嬢。あまり大声を出されては…」

 

「「…」」

 

さすがに気が付いた小咲も振り返って陸と同じ方を見る。

 

何やら揉めているらしい。おかげで気配に気が付き、羞恥プレイを回避する事が出来たのだが。

 

「…」

 

「あ…」

 

立ち上がる陸。僅かに声を上げる小咲。だがその声は先程の名残惜しそうなものとは違い、何かを悟り、諦めたような、そんな気持ちが込められていた。

 

「大体ねぇ!あんたが邪魔だからこうして寄り掛からなきゃ見えないんじゃない!もう少し前に行きなさいよ!」

 

「そうすると陸様と小野寺さんに気が付かれてしまうではありませんか」

 

「お、おい千棘。橘も落ち着けって。陸に気が付かれる…!」

 

「…楽、もう遅いみたいだぞ」

 

「…私は先に行かせてもらうわ。行きましょう、春、彩風さん」

 

「ちょっ、るりちゃんずるいって!お、俺も!」

 

「は?お、おい宮本?集?」

 

「…申し訳ありません、お嬢。私、この瞬間だけ、お役目を放棄させていただきます!」

 

「え?つ、鶫?」

 

近付いてくる陸に気付いたて逃げ出した集、るり、鶫、春に風ちゃん。まあいい。あの五人の折檻はいつでもできる。それよりもまずは、この三人から始めるとしよう。

 

「随分楽しそうじゃん」

 

「「「っっっっっっっ!!!!!!!!!!!?」」」

 

ビクゥゥゥゥゥゥッ、と体を震わせる三人。そしてギギギギギ、と機械の様に陸の方を見上げる。

 

「りりりりりりり陸…。ぐ、偶然だな。俺達もちょっと星空を見たいと思ってだな…」

 

「そ、そうよ!別に二人で出てったアンタと小咲ちゃんが気になってついてきたとかじゃないのよ!?」

 

「おいばか!」

 

動揺しすぎて楽はどもりまくるし、千棘は墓穴を掘るし、万里花は…こっそり逃げようとした所を陸に襟を掴まれ捕らわれた。

 

「…有罪」

 

「「「…はい」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間ほど経ち、偶然縁側を通りかかった組員に三人は見つかった。何故か三人は気絶しており、敵襲と勘違いした組員は組を混乱に陥らせるのだった。

 

ちなみに残りの五人も陸に捕まった。どうなったのかは…、恐ろしくて何も言えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに楽達が出歯亀してる時、ポーラはリビングで料理に夢中になってます。
最初は楽達と一緒にしてたのですが、ポーラの性格考えたら陸の恋愛模様には興味ないんじゃね?と思いまして。

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