一条家双子のニセコイ(?)物語   作:もう何も辛くない

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少し時間が掛かってしまいましたが、最新話です。

それでは、一条家双子のニセコイ(?)物語、最終章の始まりです。









第98話 オサソイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずずずず、と音を鳴らしながら咥えたストローを吸い、お茶を飲む。テーブルの上には空になった弁当箱が二つ。向かい側には自分のものではない席に着いた上原が。上原は爪楊枝で歯の間を弄っている。そんな姿を見ながら、本当にこいつ高校生か?と疑ってから窓の外を見上げる。

 

もうすっかり冬真っ只中だというのに穏やかな空模様で、教室で暖房を焚いてはいるが窓側に座っていると暑くすらある程だ。

 

「平和だなー」

 

「そうだなー」

 

「…先月に友人関係が崩壊しそうだったなんて思えないなー」

 

「…本当にな」

 

ポカポカと暖かい日差しを受けながら間延びした声で言う上原に相槌を打つ。

実際に平和そのものだからそうだとしか返せないし、上原の皮肉にも何の反論も出来ないので一言で返す事しかできない。

 

あの集英組と叉焼会のいざこざが解決してからもう一か月が経とうとしている。その間、全く事件はなく、上原の言う通り本当に平和に日々は過ぎていった。陸も休んでいた学校に再び行くようになり、以前までの日常に戻って来たのだ。

 

「…ホントに、何にもなかったなー」

 

「…何なんだよ、言いたい事あるならハッキリ言えよ」

 

「べーつにー」

 

「…」

 

ぐでーっと陸の机に体を倒した上原が見上げながら含みのある言い方で陸に言う。その視線を見返しながら陸が問いかけるも、素っ気なく問いは流される。

 

「この一か月、一条と小野寺さんの間に何にも無かった事が信じられないだけだよ」

 

「あんじゃねぇか言いたい事」

 

と思いきや、溜め息混じりで返って来た返事に即座にツッコミを入れる。

いや、これも揺るぎない事実なので何の反論も出来ないのだが。

 

「とっとと告白しろよな。いつまで掛かってんだよ」

 

「いや…、その…。機会が、ないというか…、何というか…」

 

「へたれ」

 

「…」

 

グサッ!と鋭い刃が突き刺さる音がした。現実に何かが刺さった訳ではないのに陸の身体は仰け反り、思わず胸を押さえて蹲る。

 

既に陸は上原からずっと抱いていた気持ちを教えてもらっていた。その上で、陸もまた

胸の奥の本音を上原に吐いていた。自分は、小咲が好きだと。そして上原から応援するという友として嬉しい言葉ももらい、いざ告白へ―――――――と、なるはずだったのだが。

 

先程までの会話で解る通り、この一か月、陸は何の行動も出来ていない。上原からへたれと言われるのも当然である。

 

だが、陸の機会がないという言葉もあながち間違いとは言い切れないのだ。現に陸はこれまで何度か告白しようと、思いを言葉にして告げようと試みた事はあったのだ。だがその度に邪魔が入り、微妙な空気になって告白はお流れになって来た。

 

ある時は、二人の傍にあった藪から猫が飛び出してきた。

ある時は、二人の傍にあった公園で遊んでいた子供のボールが二人の間を横切った。

ある時は、告白を口に出そうとしたその瞬間にお婆さんから道を聞かれた。

ある時は、家の周りに掛けていた水を掛けられた。

ある時は、上から植木鉢が落ちてきた。

 

もう後半二つはワザとなんじゃないかとすら疑ってしまう。

というより神様が告白させまいとしてるのではないかと陸は本気で考えそうになる程だった。それ程までにこの一か月、邪魔が入り続けた。

 

「俺だって、頑張ってはいるんだよ…」

 

「…」

 

今度は陸が机に体を倒しながら呟いた。これまで邪魔され続けてきた憂鬱やら鬱憤やらが、この一言に全て込められていた。

 

上原はブツブツと不貞腐れている陸を見下ろしながら一つ、溜め息を吐いてからゆっくりと口を開いた。

 

「一条、 今日の日付言ってみろ」

 

「…は?いきなりなに―――――――」

 

「いいから言え」

 

「…12月23日」

 

「明日は?」

 

「12月24日」

 

「その日は何だ?」

 

「…何だ?」

 

「死ね」

 

「意味解らん」

 

12月24日が何だと聞かれて、何なのか聞き返したら死ねと言われたでござる。理不尽でござる。

 

「12月24日といえばクリスマスイブだろうが!」

 

「あぁ、そうだな」

 

「…お前、マジで言ってる?」

 

「いや、だから何なんだよ」

 

上原に言われるまでもなく、12月24日がクリスマスイブだという事くらい陸も解っていた。ただ、上原が聞いているのはクリスマスイブだからこそのその先の事だ。うん、サッパリ解らない。何が言いたいんだこいつは。

 

「はぁ~~~~~~~~~~…」

 

「何で俺、こんなでかい溜め息吐かれてるの?お前の言葉が足りなさすぎるだけだろ?俺が悪いの?」

 

というより上原ってこんなキャラだったっけ?いきなり死ねとか口にするような柄悪い奴だったっけ?

 

親友の新たな側面を目の当たりにして戸惑う陸を余所に、溜め息を吐き終えた上原は続ける。

 

「凡矢理から何駅か行った所にでかいショッピングモールがあるのは知ってるよな?」

 

「…?」

 

「…あるんだよ。でかいショッピングモールが」

 

何かまた呆れられた気がした。しかし知らないものは知らないのだから仕方がない。

ないったらないのだ。

 

「そこにはな、中庭に伝説のモミの木ってのがあってな。そこで行われるイルミネーションを男女二人で一緒に見ると、一生幸せでいられるという伝説があるんだ」

 

「…何でお前、そんな事知ってんの?相手もいないのに。チョットキモイゾ…」

 

「うっせぇ!てか最後、聞こえてるからな!」

 

理不尽な仕打ちに対する陸のちょっとした仕返しである。効果は覿面だったようで、顔を赤くして怒る上原を見て少し溜飲が下がった。

 

「で?その伝説のモミの木が何なんだよ。…まさか、一緒に行こうとか言い出すつもりじゃ」

 

「んな訳ねぇだろうが馬鹿!…小野寺さんと一緒に行ったらどうだって言ってんだよ」

 

「小咲と?」

 

僅かに顔を覗かせた上原ホモ説…いや、前まで小咲の事が好きだったのだからバイ説か。は、上原本人に真っ先に否定された。まあ当たり前だが。もし本当にそうだったとしたら縁を切るべきか考えるところだった。

 

ではなくて、本題は小咲とそのイルミネーションを見に行けという事だ。別に伝説が本当だとか信じる訳ではないが、告白のシチュエーションにはうってつけではある。クリスマスイブという日付もまた告白にはぴったりと言える。

 

「告白して、イルミネーション見て、そして夜は二人でホテル行け。そんで大人になって帰って来い、一条」

 

「なぁ、お前ってそんなキャラだったっけ?ホントにお前上原か?実は集の変装とかじゃねぇよな?」

 

目の前で良い笑顔を浮かべながらグッ、と片手でガッツポーズしている男が上原かどうか怪しくなってきたが、先程の戯言はともかくイルミネーションに関しては本気でどうするか迷っている。というか行きたい。小咲と二人で。ただ―――――――

 

「そういうのって、カップルが行くもんだよな…。付き合ってもない俺と小咲が行きたがるか…」

 

「は?付き合ってるとかそうじゃないとか関係ないだろ。多分、付き合ってない男女もたくさん行くだろうよ」

 

「…そうか?」

 

そんなものなのだろうか。いや、別にそういう世間体の事を気にしてる訳じゃない。問題は、小咲が陸と行きたいと思うかどうかであって――――――

 

「そんなの聞く前からぐだぐだ考えてんじゃねぇよ。だからお前はへたれなんだよ」

 

「…」

 

再び迷いの渦に呑み込まれそうになったその時、上原の容赦ない口撃が陸を襲った。

だが一理ある。余り気にしすぎると機会を逃すのは身をもって経験してきた事だ。

…機会を逃してきたほとんどの理由は人間の力ではどうしようもない理不尽なのだが。

 

「…放課後、誘ってみる」

 

「おう、誘え」

 

…背中を押してくれたのは本当に感謝しているが、あの容赦ない口撃は止めてほしい。

ていうか何でそんな偉そうなんだ。人の椅子で何でそんなにふんぞり返れるんだ。別にその椅子は陸の椅子でもないのだが。

 

 

 

 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 

 

 

 

「って事で小咲。あなたには私と春のぬいぐるみを貰ってきてもらうわ」

 

「…何がて事でなのか解らないよ、るりちゃん」

 

陸が小咲をイルミネーションに誘おうと決意するほんの少し前、こちらでも何やら話が始まっていた。小咲とるりは陸と上原の様に一つの机で対面して椅子に座っている。

 

どうやら何の脈絡もなくるりが話し始めたようで、野菜ジュースのストローを咥えている小咲は戸惑っている様子だ。

 

「あんた、ここから何駅か電車で行った所に大きいショッピングモールがあるのは知ってるわね?」

 

「う、うん。知ってるけど…」

 

「あー、知ってる!そこの中庭にあるモミの木に伝説があるのよね!」

 

小咲とるりの二人で昼食を摂っている訳ではなく、二人の周りには千棘、鶫、万里花の三人が机は違えど集まって一緒にいた。そしてるりの言葉に反応したのは千棘で、その千棘が発した伝説という単語に小咲が反応する。

 

「伝説?」

 

「うん!モミの木のイルミネーションを男女が二人一緒に見ると、一生幸せなカップルでいられるっていう伝説!」

 

「あら、あの木にそんな伝説があるなんて…。明日、楽様を誘って行こうかしら」

 

「ちょっ!万里花、あんたねぇ!」

 

いつもの如く揉め出す二人を苦笑を浮かべながら眺める小咲の耳に、涼しいるりの声が届いた。

 

「二人には悪いけど、明日…というより、今回は小咲に譲ってもらえるかしら」

 

「へ?」

 

「「「?」」」

 

るりの正面に座る小咲、揉めていた千棘と万里花、そして二人を止めようとしていた鶫が疑問符を浮かべる。

 

「あそこのイルミネーションは年に一度…、クリスマスイブの日にしか行われないのよ。だから今年は、小咲と一条弟君に譲ってほしいの」

 

「あら、別に私はダブルデートでも…」

 

「ゆ ず っ て も ら え る か し ら」

 

「もう桐崎さん、駄々を捏ねないで頂けます?今年は小野寺さんと陸様に譲って差し上げましょう」

 

「私、何も言ってないんだけど!?」

 

るりの只ならぬ気迫に負けた万里花は言いかけていた言葉を止め、罪を千棘に擦り付けようとする。目を見開いて即座にツッコミを入れる千棘には素知らぬ顔で、万里花はつん、とそっぽを向いている。

 

「…私も楽と一緒に行きたいけど…、うん。今年は小咲ちゃんとあいつが二人で行くべきよね」

 

「千棘ちゃん…」

 

千棘は、モミの木の伝説を知ってから好きな人と一緒にイルミネーションを見に行きたいと思っていたのだ。その気持ちを押し殺してでも、千棘は小咲の背を押してくれる。万里花も同じだ。きっと、どうしても楽と行きたいと思ってるはずだ。先程はるりの気迫に圧されて引き下がったかのように見えたが、千棘の背後で微笑んでいる姿を見て、小咲はそうではないと悟った。万里花も、千棘と同じように応援してくれているのだ。

 

「皆…」

 

「小咲。…行くわよね?」

 

これまで、何度もるりにアプローチを強要されてきた。それを彷彿とさせる言い方ではあるが、雰囲気がまるで違う。るりも、千棘も、万里花も、これまで何も言わなかった鶫も、小咲を応援している。

 

「…うん、行く。今度こそ私、陸君に告白する」

 

つい一か月前も、同じ様に宣言して結局告白する事が出来なかった。…まああの時は思わぬ邪魔が入り、別に小咲が尻込みしたとかそういう訳ではないのだが。あれは違う。

 

決意を固めて宣言する。小咲の目に迷いはない。小咲はきっと、やり遂げるだろう。

 

(…まあ、謎の修正力が働かなければだけどね)

 

そんな頼もしい小咲の姿を見ながら、上原から陸が告白しようとする度に何が起こったかを聞いていたるりは一抹の不安を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 

本日の全ての授業が終わり、帰りのホームルームも終わり、陸は今日は掃除当番ではないため鞄を持って廊下を歩いていた。上原は傍にいない。一人で行け、と陸に言い残して他の友人とさっさと帰ってしまった。まあ、元から一人で行くつもりだったし、付いて行くとか言い出したら殴ってでも止めるつもりだったが。

 

陸が歩みを進めている方向は当然、小咲達がいるクラスである。今日は小咲達は陸と同じく掃除当番ではないはずだ。恐らく、教室の前で陸が来るのを待っている。そう考えながら歩き、目的の教室の前までもう少しという所で、廊下を歩く他の生徒の間から、こちらに向かってくる小咲の姿が見えた。

 

「小咲?」

 

小咲の周りには誰も居なかった。ほとんどの時間、共にしている親友のるりの姿もだ。怪訝に思いながらも、誰もいないのなら誘うのに好都合だ。陸は体の向きを変えながら生徒を避け、尚もこちらに歩いてくる小咲に近づいていく。

 

「小咲」

 

「あ、陸君っ」

 

手の届く距離まで近づき、軽く肩を叩きながら名を呼ぶと、小咲は弾けるように笑顔を浮かべながらこちらに振り向いた。

 

「…皆は?いないのか?」

 

「う…、うん」

 

るりや楽達の事を聞くと、何故か小咲は頬を染めながら俯いてしまった。理由が解らず首を傾げるが、ともかく先程も思ったがイルミネーションに誘うには好都合だ。まずは校舎から出て、他の生徒に話が聞かれない場所に行く事に決める。

 

「なら、今日は二人で帰らないか?皆どこ行ったのか知らんけど…、ちょっと、小咲に話したい事があってさ。あまり皆に聞かれたくないんだ」

 

「え?…うん、いいよ」

 

絶対に誘う、と決意したのは良いが、改めて顔を合わせると気恥ずかしさが浮かんでしまう。だがこの感情にはもう慣れたものだ。失敗続きではあったが、告白しようとする度に経験してきた感情なのだから。

 

小咲の了承を得て、二人で校舎を出る。何気ない会話をしながら帰路を歩き、友人や家族とも話してる時すら感じない温かみを覚え、やっぱり好きだな、と惚れ直しつつ歩き続ければ、陸と小咲の周りには生徒の姿は見えなくなり、いるのはただの通行人と時々通る車だけ。

 

もうすぐ陸と小咲がいつも別れている交差点に差し掛かる。

その交差点が目視できる所まで来た時、陸は口を開いた。

 

「なあ、小咲。…明日って、予定あるか?」

 

「え?…明日?」

 

「あぁ。何か、家の方で用事あったりとか…」

 

「ううん。ないよ?」

 

第一段階クリアー。イブの日、小咲に予定はない。なら、もう誘うのに躊躇う理由はない。

 

「凡矢理から何駅か行った所にショッピングモールあるの知ってるか?」

 

「え?うん、知ってるけど…」

 

「…明日、さ。…一緒に、その…、行かないか?」

 

途中、言葉に詰まりながらも言い切った。逸らしたくなる視線は真っ直ぐ小咲に向けて、返答を待つ。

 

小咲は目を見開いてこちらを見上げる。そして、ゆっくりと口を開いて―――――――

 

「私も…」

 

「え?」

 

「私も、誘おうと思ってたの…。陸君と一緒に、行きたいって」

 

「…」

 

言葉が出なかった。偶然…じゃ、ないのだろう。多分、仕組まれていた。どちらかが尻込みして誘えなくても、残った一方が誘う、と狙いを付けて。どちらも誘えなかったというパターンは残ってるが、その場合はどうせ夜にメールで誘えと促すつもりとか、そういう所だろう。

 

「そっか…。小咲も同じか」

 

「うん。…陸君、一緒に行ってくれますか?」

 

「当たり前だろ。てか、最初に誘ったの俺だぞ?断る訳ないだろ」

 

「ふふ…、そうだよね」

 

微笑む小咲と並んで再び歩き出す。もう、誘う前の緊張は全部消えていた。

ただあるのは、明日が待ち遠しい、もどかしい気持ち。

 

早く明日になれ。

 

早く明日にならないかな。

 

同じ気持ちを抱きながら、陸と小咲は手を振り合いながらそれぞれの家路へと別れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




デートの始まりじゃあああああああああああああああああああ!!!
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