多分101話か102話で終わると思われます。さすがにそれ以上にはならないかと。(笑)
「陸ちゃん、財布は持った?ハンカチは?念のためにポケットティッシュも持って行った方が良いよ?」
「あー、うん。全部持ってるよ、大丈夫だよ」
「陸ちゃん、トイレは済ませた?待ち合わせ場所は間違えて覚えたりしてない?知らない人についてっちゃ駄目だよ?」
「なぁ羽姉、俺もう17歳なんだが。小学校低学年のガキじゃないんだが」
あたふたと慌ただしく家を出ようとする陸を心配する羽を窘める。その心配の仕方が完全に5、6歳の子供を持つ母親だ。せめて自年齢程度の心配の仕方が良いのだが。
というより、現在陸はそんな事よりももっとツッコみたい事がある。
友人と出掛けるだけで羽や楽や、更には一征までもが玄関まで見送りに来てるのかも盛大にツッコみたい所だ。だがそれよりも何故…、何故だ。
「いってらっしゃいやせ!若頭!」
「くぅ~…。若頭が娘と逢引きしに行くなんて…、いつの間にか大きくなって…うぅ…っ」
「…っ」
敬礼してる者。
涙を流す者。
無言で親指を立てる者。
…何故こいつら皆、見送りに来てるんだ。数が多すぎて後ろの方では陸を見ようとジャンプしてる者までいる始末。何なんだこいつら。
「咲子よぉ…、陸も男になるぞ…。おめぇに見せてやりてぇなぁ…」
一征はしみじみと虚空を見上げながら何か言ってる。まるで母が死んでいるみたいな感じになってるが断じて違う。母は生きている。
「弟に先越されるのは兄としちゃ複雑だけど…、頑張れよ、陸!今日はお前のご飯はないからな!」
「あ、うん。夕飯も一応外で食ってくるつもりだけど」
サムズアップで言葉を掛けてくる楽に当たり障りのない返事を返すが、何だろう。何か話が食い違っている気がしてならない。どう食い違っているのかまではさっぱり解らないが。
「陸ちゃん。お昼も夜もお寿司とかラーメンとか食べに行っちゃ駄目だからね?ちゃんと小咲ちゃんとお店を選んで入るのよ?」
「…」
もう返事する気も失せる。というより、約束の10時まで時間がない。本当はもっと早く出るつもりだったのだが、思わぬ足止め(玄関にいる奴らに)を喰らったせいで時間が掛かってしまった。もう構わず出る事にしよう。
「じゃあもう行くわ。…一応言っとくけど、尾行とか止めろよ」
「「「「「…」」」」」
「おい」
何で一斉に視線を逸らした?まさかそのつもりだったんじゃないだろうな?
一応、少し辺りを警戒しながら行く事に決めた。小咲と一緒に歩いてる時にサブリミナル竜とか嫌すぎる。
羽の言ってた事が引っ掛かり、一応ポケットの中を確認してから横開きの扉を開けて眩しい日差しが射す外へと足を踏み出すのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
現在9時55分。休日且つ、クリスマスイブなのも相まって凡矢理駅前は多くの人達が集まっていた。そのまま通り過ぎる人もいれば、駅前の広場で立ち止まっている人もいる。ただそのほとんどに共通しているのが、その誰もが誰かと一緒にいる。男達の集団も居れば、男女のカップルと思われる二人も。一人で歩いてる人はほとんど見当たらない。まあ陸の様に待ち合わせの為に一人で歩いてるという人もいるのだろうが。
待ち合わせ時間まで残り五分。もう小咲は来ているのではなかろうか。少し歩く足を速めて進む。本当ならもう十五分くらい早く来れていたのに。あいつらがマジあいつらが。
「…やっぱり先に来てたか」
駅前の広場にある犬の銅像。そこを小咲との待ち合わせ場所に指定していたのだが、やはり小咲はすでに銅像の前に立っていた。時刻9時57分。時間にはギリギリ間に合ったのだが、マナーとしては余裕でアウトだ。相手を待たせてしまってる時点で完全にアウトだ。
周りの人が多いため走る事は出来ない。速足のまま歩き、そして10メートル程にまで接近した時、小咲の目がこちらを向いて、笑顔で手を振って来た。こちらも手を振り返し、小咲の目の前まで辿り着く。
「悪い、待たせたか?」
「ううん。ついさっき来た所だから」
定番の答えが返ってきたが、小咲の頬が赤い所を見ると結構前から待っていたのが解る。
昨日までは暖かかったのに、今日になっていきなり冬らしい寒さが押し寄せてきた凡矢理市。
「…嘘つけ、顔赤いぞ。ずっと待ってたんだろ」
「えっ?そ、そんな事…」
優しい小咲はそんな事はない、と言おうとしたのだろう。が、軽く睨み付けて無理やり言葉を止めさせる。
「…悪かった。寒かっただろ」
「…ううん。これからの時間が楽しみで、あまり気にならなかったから」
「…」
…そう、思ってもらえてるのならこちらとしても嬉しいが、面と向かって言われるのは少し照れるというか何というか。とりあえず、これ以上追及するのは野暮というものだろう。しかし小咲に寒い思いをさせたのは事実。この償いは…、まあ、今回のお出掛けで楽しく過ごす事で償わせてもらうとしよう。
そう、胸の中で決意しながら改めて小咲の格好に目を通す。
白のコートを身に纏い、赤いミニのフレアスカート。視線を更に下に向ければ黒の二―ハイソックスが目に入り、そして白のロングブーツを履いている。視線を上に戻せば首元には桃色のマフラーを巻いている。頭の上には可愛らしい帽子。肩にはこれまた可愛らしいショルダーバッグが掛かっている。
「…えっと。変、かな…?」
陸が何を見ているのか察したのだろう。一度自分の格好を見下ろしてから、不安そうに見上げてくる小咲。まずい、全くそんな事はないのに。
「変な訳ないだろ?…似合ってる」
「…そっか。なら、良かったな…えへへ…」
ここで恥ずかしがって言い澱めば小咲がもっと不安がってしまう。即座に、胸の奥の本音を口に出す。それは正解だったようで、小咲は嬉しそうにはにかんだ。
…うん、やっぱり可愛い。
「じゃあ…、行くか」
「…うん」
口に出そうになった更なる感想は今度は抑え、身体を駅の方へと向け、小咲に声を掛ける。これ以上ここに立っていても仕方ないし、むしろ周りの人の邪魔にもなる。頷いた小咲と一緒に広場を横切り、南口から駅へと入り券売機で切符を買う。路線図で目的の駅とどの路線に属してるかを確かめてから、電光掲示板で何番線に電車が来るかを見る。
そして、電車が止まる発車番線に着いたはいいのだが―――――――
「これ…、全員乗るのか…?」
「凄く混んでる、ね…」
余り電車を使わないため普段この時間帯、どの程度の人数がこの電車、路線を使うのかは知らないが、これは異常だと陸も小咲にも解る。だっておかしいもん。通勤ラッシュかよ。そうツッコみたくなる程だ。
ただ普通の通勤ラッシュとは違い、列には多くの女性も交じっている。それだけで、彼らの大体の目的は察せる。
「これ…、皆イルミネーションが目的なのかな…?」
「…まあそうだろうな。ただ時間帯も早いし、直接モールに行く人は多くないんじゃないか?」
あのショッピングモールの中には映画館やレストラン街、ゲームセンターとかなりの娯楽施設が整っているが、さすがに今からモールに行って、イルミネーションが始まるまで過ごすには少々時間が長すぎる。まあ陸と小咲は直接モールに行こうと決めていたのだが。先程も言ったがあそこは施設が充実している。映画を見るのはもう決まりとして、後ゲーセンや色んな店を覗いてる内に時間なんてあっという間に潰れるだろうという陸の楽観的な考えである。
事実、小咲と一緒にいると本当にあっという間に時間が過ぎていくので、この楽観的な考え方が後にあんな事を―――――――とかいう展開はない。
更にショッピングモールの周りには動物園や遊園地もあり、この集団はそれなりに分散されると思われる。最終的にはモールのモミの木に集まるのだろうが。
二人が列の最後尾に並んですぐ、陸と小咲が乗ろうとしていた電車がやって来た。が、陸と小咲が乗る前に車両は満員になり、二人が乗る事なくその電車は走り去っていった。次の電車が来るのは五分後。
やはり周りにいる多くはカップルなのだろう。彼氏、彼女と楽し気に話す声が聞こえてくる。
一方の陸と小咲は男女の組み合わせとはいえ、カップルではない。互いに気付かず好き合ってはいるが、カップルではない。むしろ好き合っているからこそ、この空間が居心地悪く感じられてしまう。
周りからはどう見られているのだろう。彼らと同じようにカップルに見られていたりしてるのだろうか。そんな考えが過り、互いに話に踏み込めない。…彼らに見えてるのは彼らのパートナーだけなのだという事にも気付かず。
そうこうして…いやしてないのだが、電車が到着し、今度は陸と小咲も乗り込む事が出来た。ただ、今回は列の前の方に立っていたため、後から乗り込んでくる人達にどんどん押し込められていく。気付けば壁際まで押しやられていた。
「「…っ!!?」」
小咲と視線が合った。間近で。
今、陸は壁に両手を突いて体を支えている状態なのだが、小咲はその陸の両腕の中にいた。しかも小咲の顔は陸の胸元の間近にあり、傍から見たら陸が小咲を抱き締めている様に見えなくもないというか、というより少し陸が腕を曲げたらまさにそうとしか見えないような体勢である。
バッ、と同時に視線を避け合う二人。その顔はこれでもかと真っ赤に染まっている。
(あー、マジであの時から小咲の事意識しちまう。小咲が好きだって自覚した時もここまでじゃなかったのに…!)
陸が心の中で喚く。あの時、とは言うまでもなく、縁側であったキス未遂事件である。
去年の夏祭りの時も同じ事はあったが、その時も出来事の直後はともかくここまで長引きはしなかった。
好きなのだから意識するのは当然なのだが、感情の大きな揺れについ戸惑ってしまう。
前までは別に目が合っただけでここまで胸が高鳴ったりしなかったのに。
『この先、車内が揺れる事がございます。ご注意ください』
互いがこれまでにない程の近い距離にいる事を意識し、全く会話がないままおよそ十分。目的地まで後二駅という所まで迫った時、車内にそんなアナウンスが響いた。それから何秒くらい経っただろうか。
大きく車内が揺れた。
両手を突いていた陸の体勢がぐらつくほどに。
「っと―――――――」
「っっっっっ!!!!!!!?」
ぐらついた陸の身体は陸から見て前方に倒れる。すぐに両腕に力を込めて離れるが、結論から言うと僅かながらでも陸の身体は前方に倒れた。別に転ぶ事もなかったし、体勢が揺れる程度、普段ならどうでもいい事なのだが…。
今、陸のすぐ前には小咲がいる。僅かに倒れた陸の身体は小咲の身体と密着する。それはもう盛大に。しかも同じように体を揺らした背後の人がこちらに寄り掛かる。すぐに向こうから離れたが、陸が小咲から離れようとすると、その背後の人が妨げになった離れられなくなってしまった。
全力で無理やり離れる事も出来るが、そんな事をすれば多くの乗客を怪我させてしまう。
「…悪い。もう少しで着くからそれまで我慢してくれ」
「…」
小咲は何も返事しない。ちらりと視線を下げて小咲の様子を見ると、その顔は真っ赤に染まり、羞恥の余り小さく震えてすらいる。
(出来るなら離れたいけどできないし…。ベベベベベ別に伝わってくる感触が心地いいからとかそんなんじゃないからな!?)
陸も相当混乱しているようだ。心の中の独り言がまさにそれを物語っている。一体こいつは誰に言い訳をしてるのだろうか。
結局、次の駅で更に人が乗り、陸と小咲の密着度も更に増し、目的の駅で降りた時は二人共グロッキー状態だった。駅を出る前に、休憩スペースで十五分程ベンチに座ってから、ようやく外に出るのだった
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
思わぬ攻撃に遭ったせいで考えていたより十五分程遅くなってしまったが、陸と小咲は例のショッピングモールに着いた。着いた途端、小咲がパンフレットを取って来ると言ってすぐにどこかへ走り去ってしまったのだが、それが陸にはありがたくもあった。この時間を使って、心を落ち着かせる事が出来る。きっと小咲も同じ理由で一度、別行動をしたんだと思う。
浮ついてた心も落ち着き、小咲を追おうかとも考えたがすれ違ってややこしくなっても面倒臭いので店内に入ってすぐの所で小咲を待っている。
「陸君!パンフレット持って来たよ!」
そこに、小咲がパンフレットを片手に戻って来た。小咲の顔からはもう羞恥の感情は感じられない。陸と同じく、落ち着いたようだ。
「よし。…じゃあ、少し早いけど昼にしようぜ。そんで食いながらパンフレット見てどこ回るか決めよう」
「うん、そうしよっか」
小咲がパンフレットを開き、そこに描かれたモール内の地図を小咲と一緒に除いてフードコートの場所を確認し、まずはそこを目指して歩き出すのだった。
現在の時刻、11時ジャスト。
陸と小咲のデートが今、本格的に始まったのである。
原作で楽ママの本名出てきてないんで適当に付けました。
楽ママって小咲ママ、千棘ママ、万里花ママと同級生で、三人の名前が菜々子、華、千花と花の関係で共通してるので咲子と付けました。最初は蕾、と考えたのですが皆咲いてるのに一人だけ蕾って…と思い咲子にしました。
飽くまでオリジナルです。原作の設定ではないので悪しからず。