「うふふ、きょうはなにしてあそぶ?おままごと?おにごっこ?しゅらばごっこ?」
同じ4歳児にしては無駄に饒舌に喋りかけてくる紫髪幼女、レイム。勿論眼に光が無い。
何故か餓鬼らしくない単語が聞こえたような気がするが、他人の事は気にしない。
「寝るのに忙しいから他当たれ餓鬼。」
俺は気の抜けた声でレイムに適当極まりない返事をした。ああ、ねむ。
「がきじゃなくてれいむ、わかる?にいさん」
「どうでもいいが何で俺を兄さんと呼ぶ?お前は三日そこらで出会った奴に親しげに話しかける奴なのか」
「だってにいさんだもの。わたしすくわれたの、だからにいさんってよぶの」
「日本語でおk。お前の兄貴になった覚えはないんだよ」
話になっていないレイムの言葉をスルーして眠ることにした。ああ、何でこんなのに付きまとわれる羽目になったんだか。
公園で遊ぶ子供達の声をBGMに木々の真下の日陰に身を寄せる二人。ただ、騒がしい筈のその場所はどこか静寂を湛えていた。
すやすやと歳相応の寝顔で睡眠を取る光の傍ら、レイムと呼ばれた幼女はそんな光を見つめて歳不相応な母性と狂気をないまぜにした微笑みを浮かべていた。
「ふふふふふふ、……ねむってるにいさん…かわいいなあ。…わたしうれしかったの。どいつもこいつもおばけがみえるわたしのいうことしんじてくれないし
おばけのみえないあいつらはわたしをぶきみだとかせいしんびょうだとかいってくるし……ねえ…わたしひとりぼっちだったのだれもたすけてくれるひとがいなかったの
さびしいよくるしかったよおとうさんおかあさんいやあんなやつらいたところでわたしをたすけてくれるひとなんかいなかった……めいしんなんかじゃないほんとうにいるのに。
いつもいつもわけのわからないおばけにこわくなってみみをおさえてあたまをふせていつもいつもいつも」
恐らく少女の霊感を誰も信じなかったのだろう。
辛かった――そういう風にも取れる寂しげな笑顔にも見えた。
そんな笑顔を少しずつ狂気の方向に傾けていく。零れ出る言葉は呪詛のようなそれだった。
「でも」、と繋げるように眼を柔らかく瞑りながらも、しかし穏やかに呟く。
「そんなときにいさんにであったの。こわかった……いつもみるおばけいじょうにこわかった。むねがくるしかった。そのてでおそわれちゃうんじゃないかって。
でもちがったの…わたしをおそってくるおばけをたいじしちゃった。ふるえてるわたしをめのまえですくってくれたの。
うれしかったそれだけでもうれしかった。だってまいにちまいにちしつこくくるしめるおばけをそのてでかんたんにすくってくれたの。
でもそんなわたしをなにもきかずにいてくれたのがもっとうれしかったの。ぶきみだっていってるあいつらみたいにわたしのわるぐちをなにもいわなかったの。
それだけでうれしかったのうけとめられたきがして。……おうじさま。ほんでみたようにわたしにとってのおうじさま。
だけどおうじさまだととおすぎていつかはなれていっちゃいそうだとおもったの。だからにいさん。にいさんだったらいつもわたしのそばにいてくれるでしょ。
えへへこんなことはなしたらむねがどきどきしちゃった。こいかな?これってこいなのかなうんそうだこいにきまってる。」
優しげな声色から一転、掌を返したかのように狂気を加速させていくレイム。
何も聞かずに救ってくれた、受け入れてくれた。孤独だったレイムにとって光の存在はまさしく救世の光だったのだ。
濁りに濁ったその眼は更に黒く、深く、塗り潰されていく。垂れ下がった前髪は目元を隠し、それが更に狂気的にも見えた。
幼く白いレイムの右手が、木々の隙間から零れ落ちる太陽の光によって神秘的に煌く光の黒い髪を、慈しむ様に撫で始める。
何も知らない第三者が見れば神々しく美麗な幼い子供達が芸術的に映える神話のワンシーンに見えるのだろう。
「…すき」
唐突に囁き始める愛の言葉。声色からして実直で真摯なのだがどこか方向性を間違えていた。
光の頭上を撫でていたその右手は段々と下を目指して這っていく。その手付きは嬲り尽くすように淫靡で――
「すき、すき、すきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき
すきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき。だあいすき。
このきれいなくろいかみも、かわいいみみも、なにもうつさないめも、ほそいおなかも、しろくすべすべなあしも、わたしをすくってくれたこのても、にいさんのみえないところもぜんぶすき。
だれにだってびょうどうにせっしてくれるたいども、なににだってうごかされないこころも、ふしぎなことにたいしてちょっぴりでてくるえっちでこわいにいさんも。
ぜんぶぜぇんぶすき。にいさんのしあわせはわたしのしあわせ。きめたの…にいさんにすくわれたわたしはにいさんのもの。
わたしのぜんぶはにいさんだけのもの。にいさんだけがしあわせでいればいいの。にいさんがしあわせならわたしがしあわせじゃなくなってもしあわせだから。
あいしてる。でもあいされなくてもいい。ほんとうはあいしてほしいけどそれでもにいさんがしあわせならあいされたことになるもの。
ぜんぶぜんぶわたしのぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ。」
遂にその狂気を隠そうともしなくなっていた。溢れていく捻じ曲がった愛を無意識に察知していたのか周囲に人は居なくなっていた。
レイムの右手は光の髪から、耳、瞼、首、胸、腹、足の順に全身を暫く這い回り最終的に腕から左手へと移っていく。
そして更に空いた左手も持っていき光の手を両の掌で包み込むように握り締めていく。
全身を震わせて、しかし未だに眠っている光を起こさぬよう配慮したのか小さく狂笑するレイム。
「うふっ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。
えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ
へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ
へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「うるせぇ」
「あいたっ」
「ったく、五月蝿くて眠れやしねぇ」
無駄に騒がしいレイムに対して俺はデコピンを炸裂させた。勿論その対象は額を押さえて蹲っている。
「う~っ」、と呻きながら涙目で俺を見ている。これでも加減してやってるんだからいいだろうが。
「……きいてたの?」
「ああ、聴く相手のいない痛々しい自分語りから始まりうふえへ笑いの最後までキッチリ全部」
魔人と化しているこの身は数百メートル単位で会話している声も拾えたりするからな。
感覚も冴えに冴えて全身隈なく弄られるのがもう丸分かり。ぶっちゃけこいつが邪魔で全然寝られなかった。ああ、ねむ。
何かに怯えた様な眼でレイムはこっちを見ているが。さっきの独り言からして拒絶されることでも恐れているのか?よくわからないが。
「……」
「お前が何を考えてるのか、それは俺にとってどうでもいい。所詮他人事だ」
ビクリと、それはそれは愉快に体を振るわせるレイム。怯えの色を一層濃くしていく。
随分独り善がりな独り言だったな。まあ勝手気ままな俺が言えた事でもないか。俺は言ったが。
「勝手にしろ、俺の邪魔をしない範囲ならな」
「え?」
許可はやった。だが俺はお前の面倒なんざみない、面倒だからな。やるなら独りで、勝手にやれ、俺は知らねぇ。
呆然としているあいつに背を向け、俺は何時もの様に母親に帰宅の催促をした後、そのまま公園を後にした。
「えへ、えへへ。ありがとう、にいさん」
後書き
黄金ニートです。
今回は謎の幼女レイムちゃんのヤンデレ回です。ヤンデレというかメンヘラチックになったような気がします。
妄想の中ではきっちりヤンデレしてた筈なのに、やはり文章に起こすというのはかなり難しいですね。というか、こんな四歳児はまず居ねーよ。
前回、解説口調のせいで主人公のキチっぷりを表現出来なかったので試験的に三人称を導入してみました。
淡白な性格の主人公の視点では補完出来ない所に手が届くのは良いのですが、かなり難しいですね。ちなみにレイムが紫髪なのはちょっとした伏線です。