ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】 作:鍵のすけ
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第0話 全ての始まりは
「……すいません、もう一度お願いします」
向かい合って座っている校長――
「落ち着け。落ち着くんだイッシー……」
「いやいや。今、動悸吐き気息切れが凄まじいのですが……AEDは? AEDはどこですか? AEDを所望します」
「心肺が停止しそうな気持ちは分かる。だがそれは本当に危険な状態の時に使わなければならないものだぞ」
善田校長の何とか平静を保とうとする声色が片峰に更なる追い打ちを掛けた。
「良いんですよ! 殺せ! 俺を殺せー!!」
「ばっ! お前が死んだら誰がモデル生としてオトノ――」
「その名すら聞きたくないんですよ俺は!! ていうか何で俺なんですか!? いますよね他に!? ウチの会長とか!」
「……イッシー。ちょっと聞いてくれるか?」
「一回目はスルーしましたけど、あだ名で呼べるくらいにはまだ余裕があるんですね」
片峰が半目で睨むも、校長はあえて見ないフリをし、応接用の椅子から立ち上がり、窓の方まで歩いていく。今日は日差しも良好で、ポカポカとした非常に良い天気である。
校長はグラウンドで行われているサッカー部の活動を見ながら、ポツリと喋り始める。
「我が符津乃木高校……フツノキはな。音ノ木坂学院とは
「当然ですよ。何せサーフィンは欠かしていませんからね」
「……それが海水なのか電子なのかは今は聞かないでおこう。なら、音ノ木坂学院の“噂”は聞いているな?」
「入学者段々減っているみたいですね。で、このままじゃ廃校も視野に入れなければならないねワー大変! ……程度の知識はあります。まあ、良いんじゃないんですか? 女子高なんて潰れて然るべきですよ」
音ノ木坂学院とは符津乃木高校と姉妹校の関係にある学校――しかも女子高である。
男子校であるフツノキとは対極の位置にあるこの高校には一つだけ穏やかでは無い噂があったのだ。それが先の片峰の発言である。年々入学者が少なくなっていっている。しかも体感では無く、実際に。年が変わるたびにクラス数が減っていけば、嫌でも入学者が少なくなってきている現実を受けとめざるを得ない。
「お前、本当に女子が嫌いなんだな」
「嫌いじゃないですよ苦手なだけです。ただどうしようもなく距離の取り方に困って接するのが面倒臭くなるだけの、可愛い苦手意識ですよ」
「それが可愛いなら君は立派な男尊女卑思考の人間になれるよ。……ああ、もう。お前と話していると話が進まん」
「ええっ!? それ校長が言います!?」
どっちもどっちなのだが、これ以上その事について話し合っているとある時間も無くなってしまう。時間は有限にして金なり。
校長は強引に話を切り替えることにした。
「ええい絡むな絡むな。それで、これは近い内に発表される話だがな。オトノキは乾坤一擲の策として共学化の計画を打ち立てた」
「女子が足りないなら男子を入れる。簡単な発想ですね」
「だが、いきなり『はい共学化になりましたよ、皆おいでね』という話にもならんだろ?」
「どこも同じですよね。予行演習は大事だっていう事には大いに同意です」
「だからその予行演習の為にモデル生を一人、寄越してほしいと言う向こうの理事長からの依頼なんだよ」
ここで話は冒頭にまで遡ることになった。校長も改めて片峰に事態を理解させようと懇切丁寧に振り返ってくれたのは良いが、当の本人はやはり納得出来ずにいた。
具体的には人選に、だ。
「で、また話は戻るけどどうして俺なんですか? そもそもの話、女子苦手な俺が選ばれた理由ってあるんですか?」
その質問に対し、校長は片峰をスッと指さした。
「――だってイッシー、いつも言っているじゃないか。『俺は完全無欠だ』って」
「それは……」
“完全無欠”。それは片峰一心のスローガンにして、最大の目標である。その志を持ったのは丁度小学生にまでなるが、それは今は語るところでは無い。
「イッシーなら、オトノキをどうにかしてくれるかもしれない。……そう思って私が君を選んだのだよ」
「校長……」
校長は片峰が口元に手を当て、何かを考え込む姿を見て、内心胸を撫で下ろした。
(良し良し。あの堅物のイッシー君も、私の選んだ理由に心打たれたようだな……)
上手く説得できた自分を褒めてやりたい。――それが、三秒前に下した自己評価であった。
「校長が後押ししたのかァー!!!」
だが、現実は非情である。
校長室に鳴り響く片峰の声。その声には怒りや悲しみ、そして諦めの色が混じっていた。
「おかしいと思ったんですよ! それで、もちろん変えてくれるんでしょうね!」
「あ、もう片峰君の情報を向こうの理事長に渡しちゃったからなぁ……顔写真も添えて」
「嘘だろ……!」
とてつもなく
こちらは良い。だが、向こうもその気で色々な準備をしていることは間違いない。そもそもの話、杜撰とはいった物の、流石に高校も親の承諾を得なくてはそんなことは出来ない。――ならば、コトは既に両親の承諾を得ていると見てほぼ確定的であろう。
事態はもう一生徒が騒ぐレベルから遥か上のステージへと上がっている。
「期間は?」
「ん?」
「その期間はいつからいつまでですか?」
その発言に、校長は思わず立ち上がった。
「おお、その気になったのか?」
「そういう訳では無いですが、知りたくなったので」
「そうだなぁ……とりあえず一年というところかな?」
「とりあえず?」
「まず一年は試験期間。そしてその後、本人の希望を聞いて、残り一年をオトノキで過ごすかどうかが決まる」
要は一年我慢しろと、そういう話である。だが、片峰は校長のその答えを聞き、むしろ決心が固まった。
「分かりました。なら、行きましょう。行ってやりますよ」
「本当かね!?」
「ですが、一つ条件があります」
「じょ、条件だと?」
片峰はそう言って、人差し指を立てる。
これから話すことはある意味、片峰にとっては最後の希望である。これが呑まれなければ、確実に騒ぐ。早急に窓ガラスを叩き割るなどの問題行動を起こし、向こうからご遠慮願う。簡単な話だ。
これが、この符津乃木高校でいつも“何か”の中心にいた片峰一心の最後の姿である――。
◆ ◆ ◆
「……音ノ木坂学院、ここか」
そこには、片峰を歓迎するあらゆる要素が溢れていた。
左右には春の訪れを明確に告げるかのように咲き誇る桜並木、眼前には学校まで続く割と長い階段。そして――片峰はとりあえずポケットから耳栓を取り出し、それを装着した。
片峰の纏う制服は既に音ノ木坂学院男子生徒用の服となっていた。もちろん女子高である音ノ木坂学院に元から男子用があるはずが無く、完全オーダーメイドである。お値段はプライスレス。
(ああ、いい気分だ……だが――)
そして――片峰の鼓膜を不快に揺らす登校中の“女子生徒”共のキャピキャピした会話会話会話。うるさい、非常にうるさい。今すぐ手当たり次第にぶん殴りたい衝動に駆られる。何より性質が悪いのは――。
(そんなにここへ男子が来るのが珍しいのか!? 見るな! ええーい見るな!!)
四方八方三百六十度から感じる好奇の視線。女子高と言うことも相まって、その視線の数は数えるだけでも億劫だ。
逃げるように、片峰は耳栓を出したのとは逆のポケットから校内の見取り図を取り出す。
(職員室に行った後、理事長室に行くんだったな。……さっさと行こう)
「――――!」
一瞬、視界の端に山吹色の髪の毛が映ったような気がしたが、悪霊の類いだと思い、とりあえず心の中で念仏を唱えることにしておいた。
「――――!!」
(……ん?)
耳栓が僅かに震える。それは何か音がこちらへ向けて発せられていることの証拠で。何となく予想は付いている。
しかし、ここで振り向けば某何度も電話を掛けて来ては自分の位置を教えてくれる健気な美少女に命を奪われる――ようなことになると思い、片峰は無視を決め込むことにした。
「――――っ!!!」
ソレは突然現れた。主に、右側からいきなり。この場合、にゅっと、という擬音が適切だろう。
彼女は先ほどの悪霊――山吹色の髪――を右側だけ結んでいた。
(……何か喋っている?)
口が動いている。それで、やはり自分に話し掛けていたのだなと片峰は観念し、ようやく耳栓を外した。
「ねーってば! きーこーえーてーまーすーかー!?」
「……何だお前は。耳栓をしていたんだ。聞こえる訳無いだろう」
「耳栓してたの!? 何で!?」
やかましい。女子生徒のキンキンとした声が片峰の鼓膜を突き抜け、脳を直に揺らす。当然悪い意味でだ。
(はぁ、男子の匂い嗅ぎたいな……)
女子と一言交わしただけで、気分が悪くなってくる。早く男と話したい。もしくは符津乃木高校を出てくる際に録音させてもらった男友達の声を聞きたい。
不快感を露骨に表しながら、片峰はさっさと本題を促した。
「で、何の用だ。俺は早く職員室へ行きたいんだ」
「海未ちゃんことりちゃん! やっぱりこの人で合ってたみたいだよ!」
女子生徒が自分に、正確にはその“後ろ”へ手を振っていた。嫌な予感もそこそこに、振り向くとそこには更なる女子二人がやってきた。
「全く……合ってたみたいも何も、ここに男子が来るということはそれだけで間違いないとは考えられないのですか?」
「急に走るからびっくりしちゃったよぉ」
長髪二人。内、一人は鳥のトサカのような妙な髪型だ。そんな二人を見ていると、先ほどの女子生徒が声を掛けてきた。
「えっと、片峰一心君……で良いんだよね?」
「合っているけど、女子が気安く俺の名前を呼ばないでくれると嬉しいんですがね」
「え? え、えっと……なら、男の子なら良いの?」
「当然だろう。むしろ耳が癒される」
何故か女子生徒が少し引いたような表情をしているが、理由が分からない片峰は再度本題を促す。
「あ……ご、ごめんね! って言うか、まだ自己紹介もしてなかったよね!」
断じて求めていないが、ここで口を出しても面倒臭くなるのは目に見えているので無言で先を求める。
「私、高坂穂乃果! 片峰君を職員室まで連れてくるように言われてるんだ!」
女子生徒――高坂穂乃果がそう言って、にっこりと笑みを浮かべた。その辺の男子生徒なら心奪われそう、とでもいうのだろうが、片峰の感想は違った。
「あ、なら早く案内してくださいよろしくお願いしまーす」
一切トキメクことなく、片峰は酷く事務的かつ機械的な動作と声色で最低限の礼儀を示すのみであった。