ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】   作:鍵のすけ

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第9話 最初の一歩は小さく、だが大いなるもので

「えっと……片峰君、今何と?」

 

 園田は恐る恐る片峰へ問いかけた。もちろん聞き取れていたのだが、確認には確認を。これでうっかり返事をしようものなら痛い目を見る。

 

「言った通りだ。三人とも、俺に協力しろ」

 

 やはり間違いなく、間違えようも無く、片峰の口から出たのは“協力”という単語であった。あの女子を毛嫌いしている彼から出たとは思えない単語だったからこそ、園田は聞き返したのだ。

 ならば、答えは当然――。

 

「何故、急にそのような事を言うのですか? 今まで私達へ散々不快な態度を見せていた貴方が」

 

 拒絶。とまではいかないが、それに限りなく近い“警戒”。話し掛けたら常に不愉快な態度を見せてくる片峰一心が、園田は苦手であった。

 ――そう、園田と同じことを片峰も考えていた。

 

「海未ちゃん、まずは片峰君の話を……」

 

 高坂が場を鎮めようとするのを手で制し、片峰は口を開く。

 

「ああ、園田の言う通りだ、警戒してくれるのも分かる。第一、俺は女子が苦手だしな」

「なら、何故ですか?」

 

 答えの代わりに、片峰は高坂を指さした。当の本人は話が飲み込めず、疑問符を浮かべるだけ。

 

「……私?」

「お前――廃校阻止したいというのは本当か?」

 

 片峰はジッと高坂の顔を見つめる。既に全身が痒い。下手を打てば失神もあり得る。だが、彼は彼女から絶対に目を逸らさない。

 逸らせば、明確な“覚悟”を感じ取れないから。

 

「お前は廃校を阻止するために、このスクールアイドルとやらを結成した。これに間違いはあるか?」

「……ううん、無いよ」

「本当に、そんなことが出来るとでも思っているのか?」

 

 その否定と受け取れる発言に、園田が前に出そうになった。しかし、片峰が一瞬だけ睨み付ける。その眼光の鋭さに、園田は一歩も動くことは出来なかった。“黙って見ていろ”、口にこそ出していないがその瞳は明確にそう言っていた。

 そして、片峰は一言一句違わず、そう気持ちを込めて睨んでいた。ここで口を出される訳にはいかないのだ。誰からの口出しもない、純然たる気持ちを高坂自身の口から聞きたかったのだ。

 

「……正直、分からないや。でもね、やってみたいって思ったんだ! もしあんなにキラキラして、楽しそうで、人を惹きつけられるようなアイドルになれたら、そんな私達を見て、入学志望者が増えてくれたらなって、そう思って!」

「誰も見ないかもしれんぞ。自己満足だと、そうせせら笑う者の方が多いだろう。後ろ指を指されるかもしれない、心ない者が馬鹿にするかもしれない、それでもお前は、お前達はやるのか?」

「やるったらやる!! やってみたいから……後悔したくないから!」

 

 射抜かんばかりの片峰の視線に何ら怯んだ様子はなく、高坂は己を通した。その瞳は片峰のもっとも“欲しい”もので。

 他へ視線をやると、二人も高坂程ではないが、“欲しい”ものがあり、またそれは片峰の基準を満たしていた。ならばもう……決まりであった。

 

「俺がここに来た目的もそうだ。この学校の廃校阻止――その奇跡を起こすために俺はここへ来た」

「廃校……阻止? 片峰君には理由が無いはずです。そもそも来たばかり……と言うのも失礼ですが、そう思わせるほど片峰君はこの学校に気持ちは無いはずです」

「当たり前だ。女子高なぞ滅びればいいとすら思っているぐらいだからな」

「なら……!」

 

 海未の発言を遮り、片峰は親指で自分を指した。話がややこしくなる前に、迅速に自分の目的と方向性を示した方が良いという判断だ。

 

「大前提として、俺はお前達女子が苦手だ。そして、お前達はそんな俺に不快感を持っている」

「え? 私、そんな事無いけどなー」

 

 高坂が口を挟んできたので睨んで黙らせた片峰は咳払いを一つ。

 

「……俺はそんな女子共がいる学校から即刻去りたい。そこで、ここの理事長と一つ取引をした」

「お母さんと?」

「ああ、そうか。お前の母親だったか。……まあ、良い。それで理事長へ、廃校を阻止したら即刻フツノキへ戻すことを約束させた」

 

 協力関係を結ぶ上で大事なのは『自分にとって都合が悪いことを先に言うこと』にある。最初は良くても、後でそれが発覚した際、負けるのは自分だ。

 

「フツノキ……って、もしかしてあの男子校の?」

「それ以外にどこがある南。……何もしなくても一年過ぎれば戻れるが、俺は一刻も早くフツノキへ戻りたいんだ」

「だから、私達と?」

 

 園田は今だ懐疑的であった。そんなに女子が嫌いなら自分一人で全てを成せばいい。それだけの自信と凄味が彼にはある。

 そんな彼女の疑問は、他でもない片峰によって解消された。

 

「ああ。悔しいが、今の所、“本気で”どうにかしようと動いているのはお前達くらいしかいなかったからな。練習を見ていたが、それで確信できた」

「え、片峰君、私達の事見てくれてたの?」

「じゃなければ分からんだろう。……そんな事より、まだ答えを聞いていないぞ。どうなんだ? 協力するのか、しないのか」

「……私達のメリットは何ですか? 片峰君は廃校阻止に向けて動ける。なら、私達は?」

 

 片峰は園田と目を合わせる。二の腕を見ると、結構デキモノが出来ていたが、それには構わない。こと女子に負けるのだけは嫌な片峰は、こういう場に限っては自分の事を顧みない。

 そして、片峰は既にこの質問に対する答えを用意していた。

 

「お前達が動きやすいようにサポートしてやる。そしてお前達にとってプラスになるような事をどんどん計画していく。これでどうだ?」

 

 三人が顔を見合わせた。その表情を眺める片峰は若干の手ごたえを感じていた。

 

(まあ、まずはこれで良い)

 

 端から上手く行くとは思っていなかった片峰はひとまず自分の設定していた目標ラインへ到達できたことを喜んだ。彼女達を“揺らがせる”事が出来たのだ。ならば、後は信用を勝ち取るだけ。それだけで彼女達は協力をするだろう。

 ――そう、思っていた。

 

「良いの!? ありがとう片峰君!」

「なっ……! 穂乃果!!」

「あはは……穂乃果ちゃんならそう言うと思ってたかなぁ」

「……何だと?」

 

 むしろ高坂は、片峰のその反応の方が不思議だったようだ。

 

「あれ? もしかして……違うの?」

「ちょっと待ってください穂乃果! 私達はまだ良いと……」

 

 そこで口を出したのは南であった。

 

「私は良いと思うんだけどなぁ」

「ことりまで!?」

「だって片峰君、私達と一緒に廃校を阻止したいって言ってくれているんだし、断るのは酷いと思うかな……」

 

 これで二対一。今、園田がその一である。

 片峰は好機とばかりに三人の会話へ差し込んだ。

 

「これであと、反対しているのは園田だけだ。そこで俺から提案がある」

「提案……?」

「ああ。今、お前達の課題は何だ? それを解決する。そうしたら協力しろ」

「課題、ですか……」

 

 すると、園田がどこか気まずそうな表情を浮かべ、僅かに目を逸らした。その意味を理解できないでいると、高坂が手を上げた。

 

「じゃあ言っても良いかな!?」

「ああ。課題なんてたかが知れているだろ――」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――あいつらは一体どうやって活動を発展させていくつもりだったと言うのだ!! 理解出来ん!!」

 

 翌日、片峰は憤りを隠しきれずにいた。原因は昨日の神田明神で高坂に示された課題の数々にある。

 部員数は当然として、練習場所に作曲、振り付けそして極めつけはグループ名が全く決まっていないときた。むしろグループ名が浮かばないのかと呆れたぐらいだ。

 全部一人でやってやることも可能と言ったら可能だ。だが、今回片峰が解決する問題は『練習場所』である。活動をするのはあくまで彼女達だ、だから彼女達が納得出来るものを納得できる形で掴みとる必要があるのだ。片峰が出しゃばるのはどうしようもなくなった時。

 

「くそっ、苛立ってしょうがない! ……さっさと片付けるとしよう」

 

 そう呟き、片峰は生徒会室の扉へ手を掛け、勢いよく開いた。

 

「邪魔するぞ」

「――へ?」

 

 瞬間、片峰は自分が何か眼病を(わずら)っていないかどうか振り返った。フツノキ会長から勧められ、ゲームやアニメを嗜む時間は多くなり、若干視力が落ちたが、まだ病院へ通うような病気になったことはない。

 ――ならば、こちらに尻を向けて、スカートの鍵ホックを留めようとしている東條は見間違いでは無いのだろう。

 

「……か、かた片峰っ君!?」

「何だ着替え中だったか。そこに座っているから早くスカートのホックを留めると良い」

「な、なななな!?」

 

 これが全裸や下着姿……また、これから着替える直前ならば、まだ片峰は気を遣って出て行っただろう。だが机の上に丁寧に畳んで置かれているジャージを見る限り、もう着替えは終わったという事だろう。

 確か六時限目、外で三年生を見た気がすることもあり、片峰は確信を持っていた。

 

「何をしている? 早くしろ」

「そ、その反応は何か違うんやない!? ていうか、何で出ていかへんの!?」

「ん? これから着替えるのか?」

「い……いや、もう終わったけど……」

「なら良いだろう。たかがスカートを身に付けるぐらいで何をそんなにオタついてるんだ」

 

 東條は片峰の不遜な態度に、危うく自分がおかしいのかと勘違いする所だった。うら若き乙女が終了直前とは言え、着替えをしているのだ。そこに対して何も思わない人間が居て堪るか。

 そんな一心で、東條は片峰を非難した。

 

「か、片峰君デリカシーって言うものが無いの!? 普通出ていくよ!」

「……今日はなんちゃって関西弁が少ないんだな」

「っ! い、良いでしょ別に!! それよりも早く謝ってよ!」

 

 頬をリンゴのように真っ赤にして怒る東條に、申し訳なさよりも気づいたことがあった。

 

「お前、もしかして余裕がなくなると標準語に戻る系のなんちゃってなのか?」

「なぁっ!? 違うよ! そんな訳……ないやん!」

 

 そのなんちゃってが今しがたの裏付けをしてくれた。特にこれ以上突っ込む気も無かったので、片峰は生徒会室をぐるりと見回した。

 

「分かった分かった。これからもそのヘンテコキャラがブレないようにな。ところで絢瀬はどこだ?」

「エリちは今日ちょっと遅れて来るよ。……だから、また来たら?」

 

 いつもなら人に対し、こんな邪険な態度を取らない。だが、今までのやり取りから、東條はこの人にだけは弱気を見せては駄目だと言う事を良く学んでいた。

 そんな彼女の思惑を知らずに、片峰は頭をポリポリと掻くだけであった。

 

「なら、お前でも良いか。聞きたいことが二つある。一つ目は高坂達スクールアイドルグループの練習場所だ。どこか空いている場所はないか?」

「……あの子らに協力するつもりなん?」

「ああ。廃校阻止してさっさとフツノキに帰るためにな」

「……あの子らの力にはなってあげたいけど、片峰君の力にはなりたくないなぁ」

「そんな俺を追い出すためだと思えば、安い物だろう。で、無いのか?」

 

 すると東條は学校全体を思い浮かべ、使われているエリアをどんどんピックアップしていく。時間にして数秒。結果は――。

 

「練習できそうなところは皆、他の部が使ってると思うよ?」

「なら屋上は? あそこで部活動をしている部なんて見たことないし、人がいるときはそれに考慮して練習すれば問題ないと思うんだが」

「屋上……は、大丈夫やね。せやけど、片峰君が言った通り、屋上は皆の物やから、それに気を付けてもらえると何も言われへんと思う」

 

 課題はクリアした。まだ課題は山積みだが、それでも最初の一歩を踏み出せたことをまずは喜ぼう。

 ――そして、ここからが片峰にとっての“本題”。

 

「なら二つ目だ。ここに来る途中、偶然目に入ってしまってな。――『アイドル研究部』とは何だ?」

 

 それはまだ高坂達には言っていないことだった。下手を打てば、高坂達が設立を目指している『アイドル部』と言うモノが根底から覆される恐れのあるモノだったから――。

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