ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】   作:鍵のすけ

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第17話 我が儘を言え

「もうちょっとだけ待ってください! あと一週間……いや、二日で何とかします!!」

「いえ、高坂さんあのね? 廃校にするというのはオープンキャンパスの結果が悪かったらって話よ?」

 

 そして理事長が先ほど片峰と絢瀬にしてくれた話をそのまましてくれた。最初こそ泣きそうな表情だったが、話すにつれ、段々表情が安堵の色へと染まっていく。

 

「な、な~んだ……」

「何を安心している……!? オープンキャンパスは二週間後の日曜日。そこの結果が悪ければ全てが終わるぞ、廃校確定だ……!」

 

 いつもの数倍は厳しい表情を浮かべる片峰。その言葉の強さがこの事態がどれだけ切迫したものかを如実に表していて。高坂達は思わず唾を飲み込んでいた。

 対する絢瀬は理事長へきっぱりと言う。

 

「理事長。オープンキャンパスの時のイベント内容は生徒会で提案させて頂きます……!」

「止めても聞く気はなさそうね」

 

 一礼し、絢瀬は理事長室を出ていった。その後ろ姿を見送りつつ、片峰は高坂達へ言う。

 

「お前達部室に来い。全員だ。提案がある」

「提案……? あ……」

「園田は気づいたか。なら行くぞ。もうのんびりしている時間は本当にないのだからな」

 

 片峰は気づいていなかった。入り始めの片峰ならば、それも廃校確定になるのもやぶさかでは無かった。すぐに戻れるのだ。何も苦労することはない。

 だが、片峰は“焦っていた”。その意味を自覚しないまま、彼は部室へ急ぐ――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……本気なの片峰?」

「矢澤、俺は笑えん冗談を言うつもりはない。で、今しがた見てもらった動画を見てもらったうえでもう一度提案する。――俺は絢瀬絵里にダンスを教えてもらえるよう頼むつもりだ」

 

 部室へ入るなり、片峰はすぐに携帯で東條からもらった動画を皆に見せた。園田は既に見ているが、そのパフォーマンスに改めて息を呑む様子が見られた。

 そもそも園田も提案するつもりだったのだろうが、片峰は絢瀬にダンス指導をしてもらう腹積もりで居た。彼女の実力は既に疑っていない。

 あれだけ自分達の活動に否定的でいられるのも納得できる。だからこそ、片峰と園田は彼女にダンスを一から教わりたかったのだ。

 確実なレベルアップを求めて。

 

「……園田、客観的に見て自分達のダンスをどう思っている? このままでいいか?」

 

 すると、園田はポツリポツリと語り出した。

 

「私は……あの人のバレエを見て、今のままでは人を感動させる事は出来ないと思いました。私達は……まだまだです」

「で、でも……生徒会長、私達の事……」

「嫌ってるよねー絶対!」

「つーか嫉妬してるのよ嫉妬!」

 

 小泉、星空、矢澤の順番で否定的な意見だった。この三人がそうなのだ。案の定、西木野も反対した。

 

「私も反対。潰されかねないわ」

 

 その意見に同調する皆。小泉に至っては絢瀬に恐怖を感じているようだ。

 ――だからこそ、片峰は口を挟んだ。

 

「潰されるならお前達はそこまでだと言うことだ」

「なっ!? 片峰、あんたね!」

「特に矢澤。お前の本気はその程度なのか? あのアイドルに情熱を注ぐ矢澤にこの本気は、絢瀬にちょっと厳しくされる程度で折れるヌルいものだったのか?」

 

 押し黙る矢澤へ片峰は更に続ける。今度は西木野へ。

 

「そして西木野。温室育ちのお前じゃ本物のスパルタには付いて来れないか、やっぱりお嬢様だな、家で紅茶でも飲んでいろ」

「は、はあっ!? 意味わかんない! いつ私がそんなこと言ったのよ!?」

 

 矢澤と西木野に対する物言いに、流石に見ていられなかったのか園田が口を出した。

 

「片峰君。何故今、そんな喧嘩を吹っかけるようなことを……? これでは……」

「お前達が俺を苦手としているのはとっくに分かっている。俺もお前達が苦手だしな。……だからこそ、俺だけに不快な感情を向け続けろ。絢瀬に何か言われても俺のせいでこうなったと思い続けろ。それでもって奴に喰らいつけ。死ぬ気でな。そうじゃなければ、オープンキャンパスは失敗する。確実にな」

 

 それがまごうこと無き片峰の本音であった。全ての女子から不快な感情を向けられても良い。そうすることで全てが上手く行くなら喜んで距離を保ち続ける。

 すると、高坂がぼそりと呟いた。

 

「私は良いと思うけどなぁ」

「あんた、何言ってんのよ!?」

 

 矢澤の言葉に、高坂が不思議そうに返す。

 

「だって、ダンスが上手い人が近くにいて、もっと上手くなりたいから教わりたいって話でしょ?」

「……ああ、その通りだ」

「だったら、私は賛成! 頼むだけ頼んでみようよ!」

 

 流れが変わった。やはり高坂が皆の指針であることを確信した瞬間である。そこからは全てが丸まり、その結果が『会長にダンスを教えてもらう』となった。

 善は急げ、片峰達は早速生徒会室へ向かうことにした――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「――全然ダメじゃない! 良くこれでここまで来られたわね!!」

 

 絢瀬の厳しい声が屋上へ響き渡る。

 結果として、絢瀬はダンス指導を了承した。どういう風の吹き回しか、彼女はこう言った。

 ――活動は理解できないけど人気があるのは間違いない。だが、やるからには自分が許せる水準まで頑張ってもらう、と。

 そう言って、早速絢瀬コーチによる特別レッスンが始まったのだ。

 まず絢瀬がやらせたのは片足立ちでバランスを取ること。小手調べ、といったつもりでやらせたのだろうが、その結果は推して知るべし。早速全員が脱落したので、思わず絢瀬が声を荒げたのだ。

 

「昨日はばっちりだったのに~!」

「基礎が出来てないからムラが出てくるのよ。ほら、足開いて」

 

 地面に座った星空が開脚をすると、すぐさま絢瀬は星空の背中を押した。身体が固いのか、星空は悲鳴を上げる。

 その様子をぼんやりと眺めていた片峰は小さく呟いた。

 

「なるほどな……やるからには、か。随分懸命にやるじゃないか」

 

 口調こそ厳しいが、練習内容に全く文句はない。基礎を重視する、片峰の理想ともいうべきものである。

 注目するべきはその顔である。皆のレベルの低さに呆れているようだが、その中に垣間見えるものがあった。それは――。

 

(良い顔じゃないか。廃校云々の問題を考えている時より、よっぽどいい顔をしている)

 

 それを口にすれば絢瀬に睨まれることは確実だったので、片峰は心の中で思うだけにしておいた。

 

「きゃっ……!」

「かよちん!?」

 

 少しだけ状況が変わった。

 片足立ちでバランスを取る訓練をしていた時、小泉がバランスを崩して倒れてしまったのだ。片峰は小泉へ駆け寄り、抱き起こした。……ざっと小泉の身体を点検し、片峰は一言。

 

「良かったな。かすり傷一つ無いぞ。疲れが出たか?」

「あ、ありがとうございます……。で、でもまだやれます……!」

 

 練習着に付着した埃を払ってやり、立たせた片峰は絢瀬の顔を見た。絢瀬は目を閉じており、首を横に振った。

 

「もう良いわ」

 

 その瞬間、一斉に絢瀬へ降り注ぐ非難の雨。μ'sの気持ちは分かっていた。

 ――これではまるで、小泉が練習について来れなくなったから見限った。そう思われても仕方ないだろう。

 しかし、片峰も同じ判断を下す。無理して壊れても困る。

 

「ああ。もう良いな」

「片峰先輩、生徒会長の肩を持つんですか……!?」

「……どこの世界に限界を超えた者を更に酷使する馬鹿がいる? 履き違えるなよ西木野。絢瀬の指導者としての素質は間違いない。従え」

 

 その言葉に一番驚いていたのは他でもない絢瀬であった。言葉こそアレだが、自分を庇ってくれたのは間違いなかったからだ。

 それを悟られぬよう、絢瀬は感情の温度を下げる。

 

「片峰君の言うとおり、冷静に判断しただけよ。今日はお終い。自分達の実力が少しは分かったでしょう」

 

 そして絢瀬は背中を向けた。

 

「今度のオープンキャンパスは文字通り学校の存続が掛かっているの。出来ないなら、早めに言って」

「待ってください!」

 

 高坂の一言で絢瀬は止まった。少しだけ片峰は目を細めた。これで高坂がまだ勘違いしているようなら、今度こそハッキリ言うつもりでいた。

 だが、片峰の心配は杞憂に終わった。

 

「――ありがとうございました! 明日も、よろしくお願いします!!」

「……っ!」

 

 それが信じられないと言うように、まるでその瞳から逃げるように、絵里は屋上を後にした。

 その後ろ姿を見送りながら、片峰は皆の方へ顔を向ける。

 

「各自、身体を休めておけ。明日からは更にキツくなるぞ」

 

 そう言って、片峰は空を見上げた。吹く風はとても穏やかで。そんな風に晒されていると、何とかなりそうな予感が片峰にはあった。

 こうして絢瀬をコーチとした初練習はこうして終わりを告げた――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……俺としたことが遅れたな」

 

 今日も今日とて絢瀬コーチによる練習がある。少しばかり屋上へ行くのが遅れた片峰は、廊下を歩いていた。

 そして曲がり角に差し掛かったあたりで――ソレは聴こえてきた。

 

「――エリちが頑張るのはいつも誰かの為ばっかりで、だからいつも何かを我慢しているようで……!」

 

 片峰は背中を壁に着け、目を閉じていた。たまたま通りかかったら東條と絢瀬が言い争っている場面に出くわしただけ。断じて、聞きたくて来た訳では無い。

 そこから東條が絢瀬へ語り出した。それは今まで彼女が溜め込んでいた気持ちで。

 

(ちっ……相変わらず立ち回りが下手な奴め)

 

 だからこそ、このタイミングで東條が何も言わない訳が無いのだ。むしろ、もっと早くても良い。

 

「エリちの本当にやりたいことって何!?」

 

 そして東條は絢瀬が最も面と向かって言われたくないであろう一言を言い放った。東條希とは絢瀬絵里が最も信頼している人物であり、その彼女にその事実を突き付けられて、揺らがない絢瀬では無い。

 絢瀬の声に震えが生じる。

 

「何よ……。何とか……何とかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!!!」

 

 片峰、そして東條ですら初めて聞くであろう絢瀬の剥き出しの感情。そこから彼女は、堰を切ったように感情をぶちまけ始めた。

 

「私だって、好きな事だけをやってそれで全てが何とかなるならそうしたいわよ!! 自分が不器用なのは分かってる! だけど――今更アイドルを始めようなんて、私が言えると、思う……!?」

 

 そう言って、絢瀬はこちらの方へ走り出した。顔を伏せていたので、こちらには気づいていなかったのだろう。

 絢瀬が完全に去って行ったのを確認すると、片峰は東條の前に姿を見せる。

 

「苦労だな、なんちゃって」

「片峰君……聞いてたの?」

「ああ、たまたまな」

「今ウチ、片峰君と喋りたい気分じゃ――」

「俺だってそうだ。俺もお前にかまけている余裕はない。何せこれから勧誘活動だ」

 

 背中を向ける片峰へ東條が呼び止めた。背中越しでも分かる。今の東條は心の中で“泣いている”。

 

「片峰君は女子が苦手なんでしょ? どうしてそこまで出来るん? どうしてそこまで苦手な相手へ真っ直ぐ向き合えるの?」

 

 その問いかけに対する片峰の答えは実に単純であった。

 

「俺が苦手な物は二つある。一つは女子。そしてもう一つは、やりたいことがあるのに義務感で仕方なく動いている奴だ」

「……片峰君はいつからエリちの事を分かっていたの?」

「一目見た時からだ。あの自分への生真面目さは中々どうして、自分自身を見ているような気がして嫌になっていた」

 

 それだけ告げると、片峰は歩き出した。居場所は何となく分かる。そしてその勘に走って行った方角をぶつけると、自ずと道は分かる。

 たどり着いたのは三年生の教室。今のこの時間、誰もいないような場所だ。一人で居たいときにはうってつけだろう。

 

「邪魔するぞ」

 

 絢瀬は机に座っていた。全てに疲れたような、そんな顔だった。だからこそ、片峰はあえてそれを笑い飛ばす。

 

「随分黄昏ているじゃないか生徒会長様。心境を吐露して一息ついたか?」

「……笑いに来たんでしょう? 私が、スクールアイドルを始めたいだなんて聞いたから」

「笑って欲しいのか? それならばいくらでも笑ってやるが……生憎、今の俺はそんな気分じゃない」

 

 絢瀬は少しばかり驚いていた。いつもならここで憎まれ口を叩くはずの片峰だったのに、そうじゃないことに絢瀬はペースを崩されてしまった。

 

「なら、どうしてここへ来たの?」

「……トップに立つ者は大変だ、と俺は常にそう思っている」

「何の話?」

「聞け。生徒達の上に立ち、学校の為に常に邁進する。そして自分の裁量一つで守るべき者達に迷惑を掛けてしまう……重責だろうな」

 

 突然語り出す片峰。その言葉を何故か聞き流せなくて。

 絢瀬はその言葉を黙って聞くことにした。

 

「フツノキの話になるが、ウチの会長はな、本当は俺や他の生徒会役員なぞいらんくらい一人で何でも出来てしまうんだ。だが、現在は……いやこれからも俺や他の役員が死力を尽くしてポカをやる奴のフォローに当たるだろう。何故か分かるか?」

「……分からないわ」

 

 その答えが返ってくることを片峰は分かっていた。力があるなら一人でやって然るべき、そう答えるのが絢瀬絵里なのだろうから。……自分もそう答えていただろうから。

 

「『一人でやっても限界があるんだよね。やりたいこと、やらなくてはならないことを皆でやるから楽しいんだよ』、とな」

 

 本当にやれる人がいなければ本気を出すが、やれる人達がいるのならその人達の輪の中で共にはしゃごうとするのがフツノキ会長なのだ。一人でやれることなぞたかが知れていると理解しているからこそ、並ぶことの大切を知っている。

 

「さっき東條に言われていたな。自分のやりたいことを押し隠して、常に誰かのために我慢している。高坂達とお前の決定的な違いはそこにある」

「違い……?」

「あいつらは何の打算も無く、馬鹿みたいに廃校を阻止したいがためにガムシャラに動いているからこそ、理事長は認めていた。だが、お前は違うよ。『やらなければならない』というロボットのような義務感で動いているのを見抜いたからこそお前のやることを認めていなかった」

 

 絢瀬はその言葉を少し考え、そして言う。

 

「私がやりたい事……我が儘がもしかしたら皆に迷惑を掛けるかもしれない。それでも、良いの?」

「それが受け入れられないような周囲ならそんなもの切って捨てろ。そして理解しろ。お前の我が儘を聞きいれない者なんて、この学校にはそうは居ない」

 

 そして片峰は言った。長い前置きであったが、ここから本当に言いたい事。

 

「少しは我が儘を言え、そして周囲に甘えろ、馬鹿会長。いつまでもその綺麗な顔を歪めているな」

「い、いきなり何を言っているの……!?」

「本題は高坂達μ'sと共に活動しないかという誘いだ。……お前の顔立ちの良さと、スタイルの良さ、そしてダンスのキレは間違いなくアイドル向きで、そして俺自身がお前に輝きを見た。理由はこうだ」

「と、突然そんな事を……! 第一、あの子達が何て言うか……!」

 

 すると、片峰は教室の扉を振り向き、少しばかり声を張り上げた。

 

「だと言うことだ。お前達、いい加減入って来い」

 

 絢瀬は少しばかり目を見開いた。次の瞬間には、自分の親友を含めたμ'sメンバーの全員が教室へ入って来たのだ。

 高坂と目があった片峰はアイコンタクトで感情を伝えた。『後は頼む』。その意思を間違いなく受け取った高坂は絢瀬の所まで歩き――そして手を差し伸べる。

 

「生徒会長――いえ、絵里先輩。お願いがあります」

「練習? ならまず言われた課題を――」

「絵里先輩! μ'sに入ってください! 一緒にμ'sで歌って欲しいです! スクールアイドルとして!」

 

 園田が東條から全てを聞いた旨を話す。そこからの皆の言葉はばらばらであったが、その気持ちは一つで。

 ――やりたいなら、やった方が良い。

 それを口にする矢澤に関しては完全にブーメランだったが、片峰もまさに同じ気持ちであった。

 立て続けに皆から言葉を掛けられる絢瀬は一旦皆を止め、困惑した表情を浮かべた。

 

「ちょ、ちょっと待って! 別にやりたいだなんて……! 大体、私がアイドルだなんておかしいでしょ!?」

「おかしくはないだろう。そんなに可愛いんだ。やらない方がおかしいぞ」

 

 途端、皆から『また始まったにゃ……』『……片峰君は相変わらずオブラートに包まなさすぎて』等など、ボソボソと声が聞こえてきた。何でそんな事を言われているのか分からないが、突っ込めば面倒な気がして片峰はあえて突っ込まない。

 東條が片峰の言葉を引き継いだ。

 

「特に理由なんか必要ない。やりたいからやってみる。本当にやりたいことって――そんな感じで始まるんやない?」

 

 既に、絢瀬の顔に暗雲は掛かっていなかった。晴れ晴れとした快晴を思わせるそんな顔。

 高坂が改めて手を差し出した。そこから始まるのだ。義務でも何でも無い、純然たる絢瀬絵里の“本当にやりたいこと”が。

 絢瀬がその手を――確かに取った。

 

「これで八人!」

「違うな南。これで――九人だ」

 

 皆が首をかしげる中、片峰は東條へチラリと視線をやった。

 μ'sと言う名が与えられた時点で気づくべきだったのだ。μ'sとは九人の音楽の女神。その女神が八人になった瞬間に、もう一人がいる。つまり――最初からそういう事だったのかもしれない。

 その最後の一人――東條が一歩前に出た。

 

「片峰君の言うとおり……九人や、ウチを入れて」

「希先輩!?」

「占いで出てたんや。このグループは九人になった時、未来が開けるって」

 

 ――だから九人の歌の女神、μ'sと名付けたと、そう東條は言った。

 

「なるほどな。そう言う理由だったか。思った以上にロマンチストだったな東條」

「片峰君は知ってたの?」

 

 南の質問に片峰は頷いた。

 

「ああ。高坂からあの投票用紙を見せてもらった段階でな」

「ええ!? 言ってよ片峰くーん!!」

「やかましい高坂。ほら、絢瀬が行くぞ」

「え、絵里先輩どこへ!?」

 

 すると、絢瀬は振り向いて、当然かのようにこう言った。

 

「決まってるでしょ――練習よ!」

 

 並行していた線がとうとう交わった。絢瀬と東條と言う線が。そして彼女の言った通り、いよいよこれから奇跡が開かれようとしている。

 それは同時に、片峰にとっての“選択”の時がやって来たことを意味していて。

 ここからはいよいよ片峰一心にとっての佳境。廃校を阻止するため、自分が正しいと思ってきた行動をとり続けてきた片峰にとってのリターンの時。

 それを――この時の片峰はまだ知らない。

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