ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】   作:鍵のすけ

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第18話 駆けた先には

 絢瀬絵里と東條希がμ'sに加入してから様々な事が起きた。

 割と大きなことを一つ取り上げるとするのなら、南ことりがアキバを揺るがす伝説のメイド『ミナリンスキー』だったということである。以前、アイドル研究部の部室に置いてあったサインの筆跡に見覚えがあったので、まさかと思えば案の定ドンピシャリである。

 本人としては今まで隠しておきたかったらしいのだが、バレてしまってからは絢瀬の提案により、アキバでのライブを行うために歌詞作りを務めることとなった。全くやったことの無い作業の為、南は相当に苦労していたが、『アキバでやるのだからアキバで考えた方が良い』と言う高坂達の妙案により、無事、作詞が完了しアキバでのライブも大成功となった。

 そのライブが功を奏し、スクールアイドルランキングも順調に上昇を見せている、そんな現状であった。

 そんな日常に、今日も片峰は己の我を通し続けるのだ。

 

「……む」

「な、ななな……!?」

 

 アイドル研究部の扉を開くと、そこには運動着に着替えている途中の矢澤、星空に小泉がいた。西木野はとっくの昔に着替えている。

 片峰は溜め息を一つ吐いた。またである。

 九人と言う大所帯になったのは結構。それについて、何の不満も不服も無い。強いて挙げるなら、たまにこうして部室で着替えている点である。

 そもそもここは女子高だ。根っこのところで、男子が居ないモノ扱いをされていているので、こうして鍵を掛け忘れることもある。

 

「はぁ……お前達、鍵くらい掛けられないのか?」

「片峰!! あんた、何入って来てんのよ!? そして何のんきに椅子に座り込んでんのよ!? 早く出て行きなさいよ! にこや凛達がまだ着替えてんでしょーが!」

「……μ'sが九人になって何週間経ってからの台詞だ。お前達のパンツやブラなぞもう見飽きたぞ。良いからさっさと着替えろ。もう終わるんだろう?」

「にこちゃんのはともかく、かよちんの着替えを見て何も思わないんですかー?」

「凛、あんた後で面貸しなさい」

 

 もう一つ大きく変わったことがある。

 それはμ's内に先輩後輩の垣根が消え去ったことだ。時期的にはアキバでのライブが終わった辺りである。

 夏と言う時期に屋上での練習は命に関わり、尚且つ西木野の『全面的な』協力で合宿に行った高坂達は互いを名前で呼び合う程に親密な仲となって帰ってきた。

 ちなみに片峰はその合宿には参加していない。高坂達から熱心に誘われたが、女子しかいない空間に長時間いるだなんて拷問。もし仮に強行されていたら真顔で切腹できる自信があった。

 行くことは断固拒否だが、一度アイスブレークは必要だと思っていたこともあり、合宿自体は大歓迎の片峰であった。今まではアイドルグループと言うよりは、部活という印象が強すぎたのだ。 

 

「小泉の着替え? ああ、その年にしては相当スタイルが良いが、ただそれだけだ。やはり見るなら男子の着替えに限る」

「……いっし――」

「おい星空、片峰だ。女子から名前で呼ばれるだけで鼓膜から血が吹き出そうなんだ俺は」

 

 そう言いながら、片峰は着替えが終わった星空を睨み付ける。隙あらば名前で呼ぼうとするので、気が抜けない。

 合宿から帰ってきた翌日から、一部を除き、『一心君』『一心先輩』と名前で呼ぼうとするのだ。それだけは頂けない。そんな距離を縮めてくるような行為、断じて片峰は許せない。

 うっかり名前呼びを聞いてしまえば、二日は全身を掻きむしることになること請け合いだった。

 

「ご、ごめんなさい……」

「全く……。お前達の仲が良くなったのは好ましいが、その輪に俺を巻き込むな」

「ねえ片峰、あんた何でそんな頑なに女子と距離を取ろうとしてんのよ? この間の合宿にも来なかったし」

 

 矢澤としては本当に何気ない一言だったのだろう。だが、片峰にとってはそう安易に答える訳にはいかないものであった。

 思えば、こうして面と向かってこのスタンスについて問われたのは初めてだったのかもしれない。そんな事を考えながら、片峰はすぐにやり過ごす。

 

「その歳から物忘れか? 前から言っているだろ。俺は女子が苦手なんだとな」

「……前から思っていたけど、あんたのソレ、徹底しすぎなのよね。苦手ってレベル超えてると思うんだけど」

「……前から思っていたが、お前のその物をはっきりと言う態度だけは非常に好ましいな」

「にこの台詞と似せて誤魔化そうとしないで」

 

 矢澤は続ける。その瞳には断じて逃げる事は許さない、といった様子が込められていて。

 一触即発の空気。だが、絢瀬と東條が部室へ入ってきたことで、いつのまにかそんな空気は霧散することとなる。

 

「どうしたん? にこっちと片峰君睨み合って」

「……もしかして片峰君、また着替えている最中に入ったのかしら?」

 

 東條はともかく、片峰はいまだに絢瀬の態度の変化に馴染めずにいた。

 μ's加入、そして例の合宿を通し、絢瀬絵里の態度の“角”が取れたのだ。今しがたの発言も以前のようなしかめ面では無く、ほんの少し呆れたようなそして“苦笑”である。そう、含まれている感情はともかくとして、絢瀬は“笑う”ようになったのだ。それはμ's加入前ではまず有り得なかったであろうことで。

 そしてその軟化した態度も片峰へ向けられることとなる。何十分の一、と注釈しておくが。

 この思わぬ助太刀を逃す片峰では無かった。

 

「……ああ。こいつらに良く言い聞かせておけ絢瀬。鍵は掛けるためにあるんだとな」

「片峰君も気を付けるのよ? ……前は私と希が着替えている最中だったもの」

「ウチ、片峰君に何回着替え見られたか分からないんやけど」

 

 段々と絢瀬の声にドスが利き、顔に陰が出来る。東條も東條で半目である。

 言われて思い返す片峰。確かに、そんなことがあった。具体的には三日前。その時は二人とも完全に上も下も下着姿である。当然、二人から非難の嵐だったが、片峰は片峰で図書室から借りてきた本を読むためにそのまま居座ってしまった。

 結局本を一冊読み、尚且つ二人がいそいそと着替えを終えるまで、待っていたのが、余計に絢瀬の怒りを深いものにしているようだ。

 

「……そんなに着替えが見られたくないのなら、何か目印のようなものをぶら下げておけ。ちっ……これだから女子高とは悍ましいんだ。見たくない物が不意に目に入る……!」

「これじゃ片峰先輩に憧れてる子達が可哀想でたまらないわね」

「待て西木野、何だそれは?」

 

 絶対に聞き逃せない単語が出た。想像するだけで失神してしまうのではないかと言うレベルだ。

 そんな片峰の問いに答えてくれたのは星空であった。

 

「凛達のクラスの子達が言ってましたよ! 片峰先輩ってすっごく男らしくてカッコいいーって!」

「女子に言われても全く嬉しくない! 何てことだ……それは男子から言われるべき言葉のはずなのに……!」

「これを見たらその片峰君に憧れている子達も目を覚ますんやない?」

「希ちゃんが何だかキツイにゃ……」

 

 東條と片峰は浅からぬ因縁がある。それを知らない皆はただ東條のあまり見ない表情に困惑の色を浮かべているだけであった。

 

「うわああ! 皆、もう揃ってる!」

「穂乃果が先生に呼び出されていなかったらもう少し早くこれたんですよ!」

「皆遅れてごめんなさい~!」

 

 高坂、園田、南の順番で部室に雪崩れ込んできた。言葉通りに受け取るなら、高坂がまた居眠りをして先生に呼び出されたと見て間違いないだろう。現に、先ほど先生が高坂に近づいていく瞬間を見ていたから。

 

「授業中に寝るなど集中していない証拠だ愚か者め」

「ご、ごめんなさい~! よーし! 気を取り直して練習をしよう!」

 

 全員が部室に揃い、高坂の一声で士気を高め、練習に臨むと言ういつもの流れ。今日も今日とて彼女達はラブライブ出場を目指し、汗を流すのだろう。

 ――そんな流れに、一つの“淀み”が加わった。

 

『二年、片峰一心君、理事長室まで来てください。繰り返します――』

 

 突然の校内放送。出頭を命じられたのは片峰自身。自然と皆の視線が片峰へ集中することとなる。痒くなった。

 

「お母さん、どうしたんだろう?」

「片峰、あんた何やらかしたのよ……?」

 

 口々に出る反応。その反応は肯定的なものではなく、どちらかというと“女子関係でなにかやらかした”という類いのものであった。

 非常に不本意とばかりに顔をしかめる片峰だが、すぐに理事長室を目指すことにした。この手の用件はさっさと終わらせるに限る。

 そんな事を思いながら理事長室へ到着した片峰は入室した。

 

「失礼します」

「あら、片峰君。ごめんなさいね急に」

「いえ、それは良いです。さっさと用件を聞かせてもらえますか? ラブライブ出場へ向けて、あいつらを筋肉ダルマにする作業があるのですが……」

「……それにも関係してくるのかもしれませんね」

 

 その理事長の言葉に、片峰は眉を潜めた。そして、彼女の顔を見て、片峰は少しばかり毛色が違う話になるのだという予感を抱く。

 

「要領を得ませんね。単刀直入にお願いします」

「分かりました。では、このペーパーを見てもらえますか?」

 

 理事長に差し出されたペーパーを受けとり、片峰はそれに目を通した。上から下まで読み、その内容を十二分に理解した上で、片峰はあえて聞いた。

 

「……結果は上々のようですね」

「ええ。先日のオープンキャンパスは大成功と言って、良いでしょうね」

 

 本来はまだ見せられないのですが、そう理事長が前置きし、机の上から一枚のプリントを片峰へ手渡した。

 ――『来年度入学者受付のお知らせ』。片峰の手にあるものが、彼にとって喉から手が出るほど……もっと言うのなら、絶対目標と言っても過言では無いシロモノであった。

 そして、それはそのまま片峰の役割が終えたことを意味して。

 

「入学希望者が多かったということはそのまま学校存続を意味する。――つまり、そういう事で良いんですね?」

 

 片峰一心の目的は『廃校阻止』。これを成し遂げ、フツノキに帰還する。それだけをモチベーションとして片峰は今まで懸命に動いてきた。

 僅かに頬が緩む片峰を見て、理事長は言う。

 

「はい。片峰君、今まで皆さんと良く頑張りましたね。約束通り、片峰君はこれでフツノキに帰れますよ?」

 

 ――その一言が、何故か素直に受け入れられなかったことに片峰は首をかしげた。

 理事長の口から出るその言葉をどれだけ待ち望んでいたか分からなかったのに、それなのに。そんな事を考えながら、片峰は返す。

 

「ええ。長かったです……もちろんすぐに帰れるんですよね?」

「そうしてあげたいのは山々なんですが、流石に今日明日で、というのは少しばかり無理な話ですね」

「……最速でどれくらい掛かるんですか?」

「色々な手続きがあるので早くても――」

 

 そうして告げられた期日。それを聞いた片峰は何気なく天井を見上げた。その期日こそ、片峰が音ノ木坂学院に滞在する期間。

 やることは――沢山あるのかもしれない。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 部室へ戻りながら、片峰は考えていた。

 

(……ひとまずあいつらには伏せておくか)

 

 そのまま黙って去ることも視野に入れていたが、彼女達九人には大きな借りがある。そこを忘れる片峰一心では無かった。

 然るべきタイミングで、言う。そう思いながら、片峰は扉を開いた。今度はしっかりと確認して。

 

「……ん? 何だお前ら」

 

 部室に入った瞬間、全員の視線が片峰の方へ向けられる。それだけならまだ良かったのだが、何だか違和感を感じた。それも非常に濃厚に。

 一瞥し、すぐにその違和感を見つけ出した。“一人多い”のだ。具体的には片峰のすぐ目の前、入口付近に追加されている十人目の席。

 絢瀬とはまた違うタイプのセミロングの金髪。見たことのない髪質であった。校内の女子の髪型や髪質を全て記憶している片峰は疑問符を浮かべた。

 だが、そんな事もすぐにやかましい声によって掻き消される。いち早く片峰の姿を確認した高坂が口を開く。

 

「あ、片峰君。この子が片峰く――」

「一心!」

 

 次の瞬間、μ'sメンバーは己の眼を疑うこととなった。今、自分達は夢を見ている、それぞれがそう思うのも無理はないとすら言えるレベル。

 何故なら、セミロングの金髪の子が片峰を見つけるなり席を立ち、そして――彼に抱き着いたのだから。

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