ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】   作:鍵のすけ

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第2話 エンカウント

「――全校集会でも紹介されました片峰と言います。よろしくお願いします」

 

 酷く事務的な口調で片峰は自己紹介を終えると、目だけを動かし、もはやバッドイベントとも言える二人を見やる。そこには高坂の姿はない。

 ――今朝、全校集会が開かれ、南理事長から廃校が告げられた。一瞬でざわつく全校生徒を見て、片峰は即刻耳栓をして、“雑音”を防いだ。こういう時の女は常に騒がしいと経験則で予想していた片峰は迅速な行動で被害を最小限に食い止める。

 その後、片峰にとってのメインイベントが始まった。南理事長からの紹介で、共学化計画が発表され、そのモデル生――つまり片峰がステージ上へ上がることとなった。

 

(あの時の女共の視線がまだ身体に纏わりついて鳥肌が止まらん。後、五分長かったら演台を放り投げていたな……)

 

 全校生徒からの視線がたまらなく不快であった。二の腕を見ると、少しブツブツが出来ていた。痒い。

 全校集会も終わり、今度は自分がこれから勉強をすることとなる教室での自己紹介が始まる。それが、冒頭の挨拶である。

 

(園田に南、ならあの妙な空席は高坂と考えるのが間違いないのだろうな)

 

 片峰は改めて、こちらを見ている園田と南へ視線を向ける。園田は僅かに目を細めていた。明らかに良い感情は持っていないことが伺える。

 そんな事を考えながら、片峰は教室のある点へ目を向ける。ある点――空席は二つあった。一つは確実に自分の席。ならもう一つは。答えは決まっている。園田に南がいるということは高坂がいると見て、まず間違いない。もう一つの空席は高坂に何かかしらのトラブルが起きたのだろうということで片付いた。……正直、どうでも良い。

 

「ねえ片峰君! どこの高校から来たの!?」

「片峰君、何か趣味あるの!?」

「今日はお昼お弁当!? 一緒に食べよ!」

 

 HRが終わって、すぐに女子は群がってきた。女子高にまさかの男子が入ってくればワクワクしない女子はいないだろう。

 ――だが、それは動物園の動物を見に来たような感覚だということを片峰は十二分に理解をしていた。例えば、の話だ。男子校に女子が入ってきたら、どんな容姿だろうが確実に盛り上がれる。それだけ、たった一人の異性と言うのはレア物なのである。

 諸々の感情を理解した上で、片峰は机に群がる女子達へ言い放つ。

 

「やかましい! 全員離れろ鬱陶しい!!」

 

 ビクリとする女子達を尻目に、片峰は立ち上がった。ただでさえ、教室内が甘ったるい臭いに包まれているのに、更に近い距離でそれを嗅がされては堪ったものではない。

 片峰にとって、女子が近づいてくるということは拷問と同義なのだ。

 

「お前らハッキリ言っておく! 俺は女が苦手なんだ! 近づかれるだけで失神しそうなんだよ! 男の匂いをベッタリつけてから出直して来い!!」

 

 片峰は鼻を摘みながらそう言った。女子特有の石鹸か何かのような匂いが非常に鼻について耐えがたい。

 

「おっはよー! 今、おっきな声聞こえたけど、どうしたのー!?」

 

 ガラッと扉を開いて教室に入って来たのは高坂である。その能天気な声は、聞いていて一瞬眩暈が起きてしまった。

 

「……やかましいのが来たか」

「あ! 片峰君、私達のクラスなんだね! これからよろしくね!!」

「はいはい、よろしくよろしく」

 

 片峰は教室を後にすべく、高坂が入ってきた方とは別の扉に手を掛ける。

 

「あれ? どこ行くの?」

 

 後ろから高坂に呼び止められるが、片峰は無視し、教室から出て行こうとする。だが、園田からの視線に気づいた片峰は教室から出てすぐに立ち止まった。

 

「持病だ、保健室へ行く。先生に言っておいてくれ。あと高坂、お前廃校なのに割と元気だな。実に鬱陶しい」

 

 そう言い残し、片峰の“散歩”が始まった――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……割と広いな。回りきれなかった」

 

 昼休み。片峰は屋上で一人、予め作っておいた出汁巻卵を食べていた。甘い卵焼きよりもしょっぱく味が濃い方が好きなのだ。

 片峰は三時限目から授業に復帰した。当然持病なんてものは無い。生まれてこの方健康体の身である。強いて持病を作り出すなら、男成分が足りないことによる落ち着かなさである。

 

「……さっさと昼を食って、早く回りきらなくてはな。練られる対策も練られん」

 

 この学校には何があるのか、一体何が出来るのか、強みは何なのか等など。

 片峰の目的は徹頭徹尾変わらない。

 

「さっさと廃校を阻止して、さっさとフツノキへ帰らなくては……! 七月には水泳大会があるんだぞ!? このままではぁぁぁぁ……!!」

 

 手すりに身体を預け、片峰は心の底から咽び泣いた。照りつける太陽、弾ける水しぶき、引き締まった肉体、男子特有の筋肉の触りっこ……その他考えうる要素全てが片峰にとっての何よりの至福であったというのに。……なのに。

 

「――何一人で騒いでるん?」

「ん?」

 

 振り向くと、そこには見慣れない女子がいた。無駄に大きな胸部が目立つおさげの女子である。

 ふいに、胸についている緑色のリボンが目に入った。片峰は学年ごとの色を思い出す。水色が一年生、赤色が二年、そして緑色は――。

 

「なんだ、三年生か」

「“なんだ”……ってご挨拶やね。一応、君より歳が一つ上の人間なんやからちょっとだけ敬意を――」

「そんな奇天烈な喋り方の人間に払う敬意は一ミリたりともない」

「いっ!?」

 

 女子の表情が固まった。そんな動揺にフォローを入れる気は無い片峰は更に続ける。

 

「なんだそのへんてこりんな関西弁は。本物の関西人が聞けばダッシュで殴るレベルだぞ」

「……ひ、人の喋り方にいちゃもん付けるとは、流石は栄えあるモデル生の片峰一心君って所なんかな……」

「だからどうした。というより、どうしてわざわざここへ現れた。弁当食いに来た訳じゃないんだろ?」

「あはは、やっぱバレた? 実は、片峰君とお話ししてみたかったんよ。それに、コレがウチにお告げを示してくれているしね」

 

 ピッと、女子がタロットカードを片峰に見せてきた。そのカードの柄は手品師のような格好をした男性であった。

 

「正位置の『魔術師』。可能性や想像を示しているんだったな」

「おお、物知り! 片峰君もタロットやるの?」

「一般常識だ。しかし分からないな。何故それを俺に見せる?」

「カードがウチに告げとるんや。このカードは片峰君にこそふさわしいって」

 

 意味ありげな前置きの後、女子が言う。

 

「片峰君はここに来るべくして来た。ウチは、そう思っているんよ?」

 

 ひゅうとそよ風が吹いた。屋上で男女二人きり、そして見目麗しい女子から意味ありげな事を言われるなどというシチュエーションを他の男子に言ったら、確実に羨ましがられるだろう。

 

「……もしかしら廃校の未来が変わるかもしれない。そう言いたいのか?」

「まあ、当たらずとも遠からずということで。解釈は片峰君に任せることにするわ」

「なら下らないな」

「なっ……ええっ!?」

 

 ――だが、片峰はそんなシチュエーションを一切求めていない。

 

「そ、そんなこと女の子に言う普通……?」

「言う。俺は男子に対しては高いレベルで平等に扱うが、女子に対しては最低のレベルで平等に扱う主義なんだ、悪いな」

「え、ええ~……。結構それ、ドン引きなんやけど」

「俺がドン引くのはその喋り方だ。俺の方がもっとマシな関西弁もどきが出来るぞ」

 

 また稲妻が走ったように硬直する女子生徒。それからの片峰はまるで堰を切ったダムのように語り始めた。

 

「へんてこりんな関西弁が許されるのは二次元の美少女だけだ。お前も相当な美少女だが、次元が一つ多かったな」

「う――い」

「取ってつけたように語尾へ“やん”とか“や”とか付けて自分で恥ずかしくならないのか?」

「――さい」

「ん? 何だ? まだ妙な言葉遣いで俺を――」

 

 瞬間、女子が爆発した。

 

「うるさーい! 私の勝手でしょ!? 何、何なの!? さっきからさっきから!」

 

 気付いているのかいないのか。いつの間にか女子の言葉遣いが“普通”になっていた。

 

「何でそう、喧嘩売るようなことしか言えないの!? 片峰君はもう少し言葉選んで喋った方が良いと思うよ!?」

「……良いのか? 俺の基準で言うと、それは“標準語”だと思うのだけど」

 

 片峰の指摘でようやく自分が標準語を使っていることに気づき、女子が自分で自分の口を押さえた。途端、慣れないのかそれとも恥ずかしいのか頬が段々紅くなっていった。

 泣かれるのも困るので、簡単なフォローをしようとした瞬間、屋上の扉が開かれた――。

 

「――ここに居たのね、希」

「あ、エリち……」

 

 出てきたのは、金髪の女子だった。純日本人には絶対に出せない髪の色。それはどこかの国のハーフか、それともクォーターかを片峰に直感させる。

 

「片峰一心君ね。私はここの生徒会長を務めている三年の絢瀬絵里(あやせえり)よ。改めて、音ノ木坂学院へようこそ。歓迎します」

 

 片峰と“希”と呼ばれた女子の間に何があったのかは知らないようで、微笑を浮かべて手を差しだしてきた。そんな絢瀬へ向け、片峰はにこやかにこう返した。

 

「あ、すいません。俺、女子と握手したら全身痒くなるんで遠慮します」

 

 その瞬間、絢瀬の表情が固まったのを片峰は見逃さなかった――。

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