ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】   作:鍵のすけ

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第3話 子猫と女子二人

「あ、すいません。俺、女子と握手したら全身痒くなるんで遠慮します」

「……そ、そうですか。それは失礼したわね」

「顔が引き攣っているぞ、顔面神経痛か?」

 

 絢瀬が笑顔のまま表情を固めるが、片峰にしてみたら出会う者達全てがそういうリアクションを取るので、若干飽きてしまっていた。

 特に屋上にいることに拘ってはいないので、絢瀬を横切り、片峰は屋上の扉に手を掛ける。

 

「おい、なんちゃって」

「誰がなんちゃってや」

 

 先ほど片峰が言い切った“下らない”。たったこれだけでは後々妙な誤解をされてしまうと踏んだ片峰はそんな可能性を潰すため、したくもないフォローを入れておくことにした。

 ……正確に言うなら、ただの補足である。

 

「さっきお前は馬鹿馬鹿しいことに、俺を廃校回避の未来へ行くためのキッカケと、そう言ったな」

「……確かに、言ったけど」

「奇跡は口を開けて待っていればやってくるとでも思ったか? 違うな。奇跡は自分の手で無理やりにでも引き()り込む物だ」

 

 一瞬、絢瀬が目付きが鋭くなった。それに気づいていたが、藪蛇(やぶへび)になるのは目に見えていたので、知らないフリをした。

 

「俺は常にそうしてきたし、これからもそうするつもりだ。じゃあな、なんちゃって」

「希や!」

 

 立ち止まった片峰の背中へ、女子は改めて自らの名を投げつける。

 

「ウチの名前は東條希(とうじょうのぞみ)! なんちゃってなんて名前じゃないんやからね!」

「そうか。三歩歩くまでくらいは覚えておいてやる」

 

 女子――東條希がまた何かを言ったが、既に片峰は聞く耳なし。扉をバタリと閉めた。

 

「……時間を相当無駄にしたな、くそ」

「片峰君、ここに居たのですね」

 

 階段の下で、園田が少しキツイ眼つきで片峰を見上げていた。どうも覚えのない恨みを買われているらしい。

 

「何だ園田か」

「……本当に失礼な事しか言えないのですね。そういう敵を作る態度は慎んだ方が良いと思いますよ」

「今しがた同じことを言われたばかりだ。で、何だ? 俺を探していたのか?」

 

 この園田海未という女子は、片峰的には比較的やり過ごしやすい相手であった。どう見ても、明らかに不快感を露わにしている。高坂や南とは違い、ズケズケと距離を縮めてくるような心の広さは無いらしい。

 だからこそ、片峰も事務的にやり過ごせる。

 

「私が、というよりは先生ですが。さっきから校内放送を流していたはずなのですが、聞いていなかったのですか?」

「機械加工された女の声なんて悍ましくて無意識に聞き流していたんだろ。時間は……まだ若干余裕があるな」

 

 言いながら階段を下りた片峰は、園田を横切った。その瞬間、背中から園田の声がした。

 

「片峰君。私はまだ良いです。ですが、穂乃果やことりに対してあまり酷い態度を取らないように努力してもらえませんか? あの二人は私と違って繊細なのですから」

「ならあの二人……というより、高坂へ俺に構わないよう言い聞かせておいてくれ」

「……分かりました、なら片峰君もよろしくお願いします」

 

 返事をすることなく、片峰は歩き出した。向こうから関わってこなければ辛辣な態度を取る必要はないのだ。言われるまでも無い。

 

「――失礼します」

 

 片峰はそう言って、職員室へ入った。目的地は当然、担任の先生だ。

 

「遅かったわね片峰君。さっきから何回も放送を流していたのに」

「すいませんね。それで、何でしょうか?」

「ええ、その件だったんだけど、貴方生徒会入る気無い?」

「ありません」

 

 余りの即答に、つい担任も目を丸くした。そんな担任の心境なんて微塵も興味が無い片峰は言葉を続ける。

 

「何故急にそんな話を?」

「音ノ木坂学院の事をより良く知ってもらうには生徒会に入るのが一番だと思ってね。だから男子枠を設けたのよ」

「女子が沢山詰め込まれている部屋になんて全く入りたくありません。ということで、この話終わりにさせてください。それでは授業がありますので。さー勉強勉強」

「あっ! ちょ、待ちなさい片峰君!」

 

 これこそ本当の時間の無駄であった。そんな寄り道をしている暇があるのなら、一秒でも早く廃校を阻止する為の一策を打ち出した方がよっぽど有意義である。

 そもそもの話、その生徒会には先ほど話した東條と絢瀬がいる。絶対に関わりたくない片峰であった。

 とりあえず昼休みの“視察”を終えた片峰は放課後の“視察”に向けて、ルートを構築することにした――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……授業が退屈すぎる。もうとっくに予習復習した所だぞ」

 

 ペースが若干遅い音ノ木坂学院の授業は片峰にとって非常に退屈なものであった。そもそもの話、男子共の注目の視線を浴びるため、日夜勉学に励む片峰にとって、この学校の授業の“温さ”に寒気すら覚える。

 半ば聞き流すように午後の授業を終えた片峰は早速、視察を再開していた。

 

「しかし……見回れば見回るほど、何故生徒が入ってこないのか分からないな」

 

 校舎の設備がボロいとか、制服が可愛くないとか、悪評が流れている……なんて理由だったらまだ分かる。しかし、設備は非常に綺麗だし、制服もデザインが悪いとは思えない、おまけにこの音ノ木坂学院の悪評は全く聞いたことがない。

 

「……単にレベルが低いのか? まあ、良いさ。ここがどこだろうとやることに変わりはない」

 

 辿りついた運動場もそこそこに大きく、芝生も丁寧に整備されている。これほど恵まれた設備があるならおよそ色々なことが出来るだろう。

 だが、見れば見るほど、知れば知るほど、片峰に一つの課題が降りかかってきた。否、あえて見て見ぬふりをしていた課題である。

 

(手駒が足りない。考えるだけならいくらでも出来るが、それを実行するための現実的な人員が)

 

 ジレンマ。女子が苦手なのに、この学校にはその苦手な女子しかいないという事態。

 

(適当に見繕うだけなら、不本意だがその辺の女子全員に声を掛けるだけで済む。しかし……それだけなら当てにならん人材ばかりが集まってくる)

 

 そしてもう一つの条件とは、廃校を阻止したいと、“本気”で思っている人材だ。ただ人数が多くても、中身が伴っていなければ何の役にも立たない。

 一先ず歩きっぱなしで疲れた身体を癒すため、片峰は中庭へ立ち寄った。ここに植えられている樹の陰は割と涼しくて、考え事をするにはぴったりの場所であった。

 

「……ん?」

 

 その樹の下で騒いでいる女子二人組がうっかり目に入ってしまった。短髪の女子と眼鏡を掛けた女子である。

 

「ど、どうしようかよちん! 先生呼んできた方が良いよね!」

「でも凛ちゃん、今、先生達職員会議をしているはずじゃ……」

「ああーっ! そうだったよー! なら、凛が樹を登って……」

「だ、駄目だよ凛ちゃん、危ないよ」

 

 ぎゃあぎゃあ馬鹿みたいに騒いでいる二人を見て、耳が痛くなって来た片峰は立ち止り、踵を返した。もっと違う場所で考え事をしよう。しかし、行動に移すには些か行動が遅すぎたようだ。

 

「あ、あの! すいません! え、えと……かよちん、名前何て言う人だっけ!?」

「か、片峰先輩……だったような?」

「そうだ! 片峰せんぱーい!」

 

 ピタリ、と片峰は立ち止まった。

 

「……気安く俺の名前を呼ばないでくれると嬉しいんだけどな」

「ひっ……ご、ごめんなさい! でも! 謝るから、助けてください先輩!」

「……助ける?」

 

 短髪の女子が樹の上を――正確には枝を指さした。見上げると、そこには小さな猫が震えていた。降りられなくなったのだろう。そんな事を考えていると、短髪の女子が本題を告げた。

 

「あの猫ちゃん、登ったのは良いけど、降りられなくなったみたいで! だから助けてあげてください!」

 

 片峰は二人の女子に気づかれない様に、周りを見渡した。この騒ぎを聞き付けて、ギャラリーが徐々に増えてきた。この状況は非常に面倒くさい。

 悩んでいる時間は無かった。片峰はしばし猫を凝視し、何かを確認するや否や、素早く動く。片峰は片峰のポリシーに従って、行動することを選択したのだ。

 

「……二人ともどけ、邪魔だ」

 

 するすると、まるで猿のように素早くかつ迅速に樹を登り、子猫を腕に抱いた。そして、一気にそこから飛び降りる。

 

「きゃっ!」

 

 思わず叫んだのか、眼鏡の女子の悲鳴に似た叫びが聞こえた。だが、眼鏡の女子の心配なぞどこ吹く風と言いたげに、片峰は無傷で着地を終え、地面に子猫をそっと置いた。

 

「よし、行け。強く生きろよ」

 

 片峰の言葉通り、子猫はそのまま力強い足取りで走り去って行った。その後ろ姿を見て、先の幸福を心の中で祈る。

 

「あ、あの! お願いを聞いてくれて、助けてくれてありがとうございました!」

「俺が女子のお願いを聞く? 止めてくれ何の冗談だ、割と鳥肌が立ってきた。くそっ痒い」

「なら、何で子猫を助けたんですか……?」

 

 眼鏡の女子の声があまりにもか細く、ヒアリングが非常に困難だったが、何とか聞き取れた片峰はその愚問を鼻で笑う。

 

「あいつが“オス”だったからだ。猫とはいえ、久しぶりの“男”に会えて、あまつさえその男が一大事と来たら、動かずにはいられないだろう」

 

 片峰が苦手とするのは女だけである。それは動物にも当てはまる。今回、片峰が積極的に動いたのはその猫がオスだったから。これ以外に、何も理由はない。

 

「じゃあメスだったらどうしたんですか?」

「見捨てるだろ、普通」

「め、滅茶苦茶だにゃ~……」

「俺にはその語尾が滅茶苦茶に聞こえるぞ。全く、貴重な時間がガリガリ削られていく……!」

「あ、あのお礼を……!」

「あ……そうです! 何かお礼をさせてください!」

 

 眼鏡の女子と短髪の女子がそう言うが、片峰は一切そんなモノを望んではいなかった。ヒーロー気取りではない、ただ一秒でも早く女子から離れたかったのだ。

 

「いらない。ただでさえ女クサイ奴二人に絡まれて、寒気しているんだ。風邪引くレベルだ」

 

 その片峰の言葉に、短髪の女子が少しばかり声のトーンを落として、反論してきた。

 

「……凛、そんなに女の子らしくないです。だって髪もこんなに短いから何だか男の子っぽいし……」

 

 “凛”と名乗った短髪の女子の言い分に、片峰は正直苛立ってしょうがなかった。“凛”という女子は、片峰にとっての地雷を踏んだ――という表現が正しかった。

 

「髪の手入れが行き届いていて、制服、スカートそれにリボンへしっかりアイロンを掛けていて、なおかつそんなに整った顔立ちの奴が男っぽいだと? 笑わせるな、お前のような美少女が男であって堪るか」

 

 片峰は男子に対しても女子に対しても、“事実”しか言わない。男子の側にいると落ち着くし、女子はいられるだけでも苦手。こういったように。

 それに倣い、容姿も自分が思ったことしか言わない。可愛いと思ったら可愛いと言う、だが女子は苦手なので、ただ言うだけで終わるが……。東條の時もそうだが、この学校は割と容姿が整った女子が沢山いる。それは片峰が認める“事実”。

 故に、先ほどの“凛”の言葉は最大レベルの“煽り”となって、片峰へ襲い掛かって来たのだ。

 

「えっ……ええっ!?」

「時間を無駄にした。二度と話し掛けてくれるなよ。正直、今にも窓ガラスを割りそうなほどイライラしている」

 

 そう言い捨て、片峰は歩き出した。これだけ言えば、もう二度と話し掛けてこないだろう。数多いる女子だが、確実に二人の女子と話さなくても良くなったことに、片峰は密かにガッツポーズを決めていた。

 

「り、凛ちゃん……大丈夫?」

「…………」

 

 そんな歩き去っていく片峰の後姿を、“凛”は無言で見つめていた。隣の友人が心配してくれるなか、“凛”はポツリと呟いた。

 

「……かよちん」

「どうしたの? やっぱりちょっと傷ついちゃった?」

「……凛、男っぽくないって初めて言われたかも……」

 

 完璧に遮ったと思われた片峰と女子二人の“壁”には若干の隙間があったことに、彼はまだ気づく様子はない――。

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