ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】   作:鍵のすけ

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第4話 ピアノの音に誘われて

「……酷い物を見た。頭おかしいんじゃないかアイツら」

 

 自宅へ帰り、私室へ入るなり、片峰はそう言い捨てた。

 事は放課後に遡る。視察も一区切り付き、帰ろうとすると、彼女達――高坂達がいた。それだけならまだ全然無視すればいいのだが、彼女達はどう頑張っても見て見ぬフリを出来ない事をしでかした。

 

「階段の上で立ち止まったかと思ったらいきなり歌い出すとか何なんだあいつら……? 歌えば力が発揮されるギアを纏っている訳でもないというのに……!」

 

 フツノキ会長に薦められ、視聴したアニメが脳裏に(よぎ)る。流石に二次元と三次元を混同するつもりはないが、これは連想するなと言う方が難しい。

 そんな下らないことを考えてしまうくらいには高坂達の行動が予想外過ぎたのだ。いきなり制服のジャケットを脱ぎ捨て、ブラウス姿になったと思えば階段の手すりを滑り降り、歌い出すというミラクル技。幸い、車の行き交いはなかったので交通事故なんて事にはならなかったが、あれは些か神経を疑う。

 

「……会長、か」

 

 しかし終わったことは終わったことであり、片峰はそこまで彼女達に興味を持っているわけでは無い。それよりも、と片峰は今しがた口を突いて出た言葉で思い浮かんだ顔について考える。

 片峰一心は符津乃木高校の副会長である。日々、男共と青春の一ページをめくる為、片峰は生徒会業務に明け暮れていた。……何て崇高な目的意識は持ち合わせていない。

 

「仕事、堪ってるんだろうなぁ……」

 

 符津乃木高校生徒会長はまず仕事をしない。それは全校生徒だけではなく、教師一同も周知の事実。なので、片峰はそのバックアップをやっていたのだ。驚くことに、そんな生徒会長の悪い噂は一度たりとも聞いたことが無い。

 

「まあ他の役員も無能ではない。会長の尻拭いは心配する必要はないか」

 

 会長は一年生の頃から、会長である。彼には誰もが何故か目を離せない不思議な魅力があった。だからこそ彼は生徒会長になり、それはきっと三年になっても会長であり続けるだろう。

 そんな彼の盟友が片峰一心であった。一年生の時、馬が合って以降、彼との付き合いが始まった。

 早速、明日に備えて寝よう。そんな事を思っていたら、スマートフォンが鳴動した。電話先の名前を見て、片峰は脊髄反射で電話を取っていた。

 

「……もしもし」

『イッシー助けて! 仕事がマッハで僕のキャパがマックス!』

 

 ――電話の主は何を隠そう、その会長であった。

 

「一か月後の仕事まで終わらせているはずだぞ? 何がどうなってそうなるんだ?」

『たまには仕事しなきゃと思って、ちょっとイッシーの仕事に手かけてみたんだよね! まずは各部の決算が表計算ソフトに入ってたからチェックしよう! と思ったら全部消えちゃったんだよ!』

「……は?」

 

 片峰は立ちくらみをしてしまい、とりあえず椅子に座った。冗談の類でないことは十二分に承知している。――だからこそ、会長をぶん殴りたくなった。

 

『今日生徒会総出で復旧作業開始したんだけど、間に合わないって! ほんとどうしよう!?』

茂手木(もてぎ)の机の引き出しにUSBメモリがあるはずだ。それに会長が消したファイルのバックアップが入っている」

『ほ、本当!? さっすがイッシー!!』

「念の為バックアップを取っておいて本当に良かった……」

 

 重要ファイルはすべからくバックアップを取っておく主義の片峰はこの時ほど自分の主義を徹底して良かったと思う瞬間は無かった。

 

『やっぱりデキる男は違うねー! イッシー愛してるー!』

「はいはい俺もだ。茂手木には会計業務の全てを叩き込んでいる。アイツに任せておけば決算報告はまず間違いない」

 

 肩と頬でスマートフォンを挟みながら、片峰は自分の机の引き出しからメモ帳を取り出した。そこに書かれていることで何か言っておくことはないか、確認しながら片峰は話し続ける。

 

「後、明後日の全校集会の挨拶だが、会長の机に原稿用紙を入れている。ちなみに、業者に発注した備品もこっちへ来る前に届いたから全部搬入して検品も済ませている。それと生徒からの要望も可否の判断を下して対応出来るものは対応した。詳細はリストにして俺の机に上げているから見てくれ」

『ありがとう助かるよ! ところで……イッシー、そっちはどうだい?』

「地獄だ」

 

 電話口の向こうから、会長のカラカラとした笑い声が聞こえてきた。馬鹿にした訳では無い、本当に心から楽しそうな笑い声。この笑い声が、片峰は好きだった。

 

『イッシーならそう言うと思ってたよ! 何せイッシー、女の子苦手だもんね!』

「会長が行けば良かったんだ。会長なら上手く馴染めただろうに」

 

 すると、会長は笑いながら言った。

 

『――いいや、“一心”が行くべきだと僕も思ったよ』

 

 会長が片峰を名前で呼ぶ時、それは極めて真面目な話であることは長年の付き合いから分かっていた。だからこそ、片峰は聞いた。

 

「何故俺なんだ? 他にも人材はいるだろう」

『音ノ木坂学院の事情は僕も知っているよ。大人の事情だよね。そこの生徒がどんなに学校を愛しても、そこを維持させなきゃならないだけの“理由”が無ければ全部感動的なドキュメンタリーの材料にされてしまう』

「……会長も廃校は避けられないと思っているのか?」

 

 すると、会長は笑ってそれを否定した。

 

『まさか。今僕が言ったのはオトノキが“普通”に日々を過ごしていったらそういう話になるよねってこと。だけどこれはそういう話なんかじゃない』

「どういう話だ」

『――完全無欠の一心が音ノ木坂学院にいる。オトノキがそういうドキュメンタリーにならない“かも”しれないと思う理由はそれだけで十分だよ』

 

 相変わらず人を持ち上げるのが上手い。会長が支持される理由とはこういった一面も備えているからでもある。

 一つだけ悔しいのが、あの東條から言われたことと全く同じ内容だったという点だ。

 

「当然だ、さっさと廃校を阻止してさっさとフツノキへ帰る。それが俺の目的だ」

『ついでに彼女作っちゃえば? あそこの学校、相当可愛い子多いって聞くよ?』

「……彼女はパソコンを立ち上げれば迎えてくれる」

 

 言いながら、片峰はパソコンを立ち上げた。気になっていたアニメが今日放送される日なのだ。

 

『……僕が薦めたアニメやゲームってまだミュートにして観たりプレイしたりしているの?』

「当たり前だ。女の声なんか聴いていられるか」

『確かイッシーって有機物じゃ無ければ女の子も大丈夫なんだっけ?』

「ああ。体温が無くて、声を発さなければ問題ない。可愛い物は可愛いしな」

 

 電話の向こうから、あからさまにドン引いた会長の声が聞こえる。相変わらず失礼極まりない会長がまたあだ名呼びに戻ったことから真面目な話が終わったと判断し、時間も時間だったので片峰は寝ることを決めた。

 

「明日も早い。今日はこれで切らせてもらう」

『あ、そうだね。いきなりごめんね』

「良いさ。久しぶりに男の声が聞けて俺もだいぶ精神的に回復できた」

『イッシー、こっちは心配しなくても良いから、自分がやりたいことを全力でやってきてね』

「当然だ。俺は常にそうしてきたしな」

『うん、実に心強いね! それじゃ!』

「ああ、お休み」

 

 通話が切れたスマートフォンを握りしめながら、片峰は窓から外を見た。星こそ見えなかったが、深い漆黒が片峰の心へすぅっと入り込む。無心で眺めていると、まるで自分が宙へ浮かんだような、そんな感覚に陥る。

 

「……やってやる」

 

 “完全無欠”をこれからも体現していく決意を新たにした片峰はベッドに潜り込んだ――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……ああ、今日もやかましい。頭が痛くなる。特に何だ朝の高坂のテンションは?」

 

 昼休み、また屋上で片峰は昼食を食べていた。今日の昼食はイカゲソである。噛めば噛むほど味が出てくる。

 口を動かしながら、片峰は今朝を振り返る。

 今朝は、高坂が入ってくるなり、園田と南へ奇天烈な単語を話して盛り上がっていたのだ。高坂の無駄に大きい声と、園田と南の相槌が悪い意味でハーモニーを生み、近くの席である片峰の鼓膜へ直にダメージを与えてくる。例えるならば、至近距離でドラを叩き鳴らされるような、そんな爆音だ。

 

「……ん?」

 

 一瞬、何かが聞こえた。それを直感的に表現するのならそう――。

 

「ピアノの音か?」

 

 普段の片峰なら聞き流す。だが、何故かこのピアノは妙に人を惹きつけるモノを感じた。

 故に片峰は音のする方へ向けて、足を運んだ。

 

「……そうか、ココは女子しかいないんだったな」

 

 音楽室の前まで来てようやく片峰はそのことを思い出した。しかし、裏を返せば、それだけ素晴らしい音色だったということだ。

 

「まだ弾いているのか。……まあいい、不本意だが顔だけは拝んでおいてやろう」

 

 扉の窓から中を見ると、すぐに奏者の顔が見えた。ツリ目に赤毛。纏う雰囲気から、どこかのお嬢様といった所だろう。整った顔立ちだ。

 しかし片峰は女子を視界に収めているだけで胃がムカムカしてくるし、ピアノの音も割と聴けたのでさっさと帰ることにした。

 だが――運命は残酷なことに、肘を扉にぶつけてしまうという悪戯を与えた。

 

「誰? そこにいるのは? 覗きなんて趣味悪いわよ」

 

 思わず舌打ちをしてしまった。これでは誰がどう見ても、こちらからアクションを起こしたと見られてしまう。このまま去ることも可能だろうが、制服で確実にバレる。

 

「勘違いするな。音色を辿ったらここまで来ただけだ」

 

 妙な噂が立つのだけは、絶対に避けたい片峰はさっさと言う事を言うため、音楽室の扉を開いた――。

 

「誰、貴方?」

「女子が俺に名前を尋ねるなんて百年早い。知りたければお前から名乗れ」

「なっ……! 貴方、ちょっと失礼じゃない?」

 

 あからさまに赤毛の女子が敵意を表していた。だが、片峰は女子に対して発言を振り返るということは絶対にしない。故に、キッパリと言った。

 

「……音色に敬意を表しても、お前に表す敬意はない」

「音色……って、もしかして私のピアノ聴いてたの?」

「さっきそう言っただろう、人の話を聞け」

 

 更に片峰は続ける。

 

「演奏が素晴らしかった。それだけを言いに来た」

 

 言うや否や、片峰は踵を返し、扉の方まで歩いていく。

 

「――西木野真姫(にしきのまき)よ」

 

 立ち止まり、振り向くと、自己紹介をした西木野はまだ片峰を睨んでいた。敵意は絶やさず、警戒心は十全に――。

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