ラブライブ!~再び男子の園へ戻るために~【完結】   作:鍵のすけ

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第6話 与えられた火種

 怒涛の展開であった昼休みが終わり、時間は既に放課後。片峰は中庭で一人考え事をしていた。

 先日、学校内の視察に一区切りを付けた片峰は次のステップへと上がっていた。議題は当然、廃校阻止。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 正直に言うと、この学校はあまりにも平凡すぎた。手軽な所で部活を推していけたら、そう思うも大して結果を出していない部ばかりである。

 中途半端にその点を推しても逆効果になるだけだったので、これは即刻却下となった。

 

「進学率が凄まじい訳でも無いとくればどの方面でこの音ノ木坂学院をアピールしていけば良いのだ?」

 

 そう言いながら、片峰はポケットから取り出したちくわの袋を破った。そして一本齧る。この庶民的なしょっぱさが片峰の舌にはぴったりなのだ。たまに笛のように吹くのもまた乙なものである。

 

「……何て、悩んでいる時間はないな。アピール点に乏しいのなら作り出していけば良い」

「あっ! 片峰君!」

 

 二本目のちくわに手を伸ばしたまま、片峰は声のする方へ顔を向けた。そこには相変わらずの能天気面をさげた高坂とその他愉快な仲間たちがいた。

 南が空になったちくわの袋を指さした。

 

「片峰君、何食べてるの?」

「見て分からないのか、ちくわだ」

「な、何故学校でちくわを食べているのですか……?」

「園田の中では放課後に食べるモノすら決まっているのか? 素晴らしいプロ生徒ぶりだな」

 

 いきなりの一触即発の空気。水と油の関係である片峰と園田が鉢合えば、常に緊張感が漂ってしまう。南が二人を見やってハラハラしている。

 

「ねえ片峰君ってスクールアイドルって知ってる!? これ見て!」

 

 そんな三人の空気を切り裂くように、高坂がそう言って、雑誌を片峰へ押し付けた。

 

「何だこれは?」

「良いから! 読んでみて!」

 

 舌打ちを一つしながら、片峰は雑誌を受け取り、パラパラとページをめくっていく。そこに載せられているのはそれなりにレベルの高い女の子たちの写真写真写真。

 紙という無機物に、可愛い女の子の写真。これは片峰にとって、非常にストレスの無い女子の眺め方であった。声を発さず、体温も無い。ただ可愛い物として眺めることが出来るから。

 

「どう!? この子達どう思う?」

「……何故俺がお前にそんな事を言わなくてはいけない?」

「男の子の意見も聞きたいなーって思って! ね、キラキラしていると思わない!?」

「写真だけ見れば良いとは思うがな。実物は視界にすら入れたくない」

 

 片峰が興味なさげに雑誌を高坂に返すのを見ながら、園田は思った。

 

(……穂乃果、聞く相手を思い切り間違えているような気がしますよ)

 

 人選ミスも甚だしい。よりにもよって腹立たしい対応しかしない男子を聞く相手に選んだ高坂を非難する視線を送り続ける園田。

 これ以上、親友二人に不快な思いはさせたくない。その一心で、園田は話を切り上げに掛かる。

 

「――そもそも、この雑誌に載っている『スクールアイドル』とは何なんだ?」

「片峰君、もしかして興味あるの!?」

 

 高坂が嬉しそうに声を上げた。彼女は目を輝かせて片峰へ一歩近づく。

 開きかけた口を閉じ、園田は再び見守る立場に戻った。興味なさげに雑誌をめくっていたと思ったら、意外と良く見ていることに小さな驚きを感じつつ。

 『スクールアイドルとは何なのか』。そんなミニ講義を一割程聞き流しつつ、片峰はカチカチと積み木を積み上げるように話を己のモノにしていく。していき、片峰は立ち上がった。

 

「まだ無いな。第一、お前達がそれを知ってどうするつもりなんだ?」

 

 すると、高坂が南と園田の肩を抱き寄せ、高らかに宣言した。

 

「私達――スクールアイドルになるんだ!」

 

 その時の片峰は『頭でも打ったのか』程度の感想しか抱かなかった。アイドルと銘打つぐらいだ、思いつきでなれるほど簡単なものではないのは確定的に明らか。

 夢とやる気に溢れた高坂の目を見て、片峰はすぐにそれから背を向けた。

 

「そうか。夢見るのも程々にな」

 

 初対面からここまでのやり取りで、高坂穂乃果と言う人間が感情に任せて動く人間ということは何となく把握出来ていた。故に、片峰はその“熱意”へ唾を吐きかけた。

 ――どうせ、中途半端なやる気なのだろう。

 そう結論付けて。

 

「あ、片峰君!」

 

 高坂達が呼び止めるも無視し、片峰はその場を離れる。もはや話すだけ無駄だと感じたのだ。

 第一、そんな時間の無駄は片峰には一秒たりとも無い。もっと有意義に物事が考えられる場所へ、片峰は向かった――。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ちっ。やはりここしか落ち着く場所が無いな……」

 

 やって来たのは屋上である。さっさと帰ればいいのだが、物事を考えるにはそこに関係する場所で、と決めている片峰は誰も来なそうな場所を選んだ。

 

「スクールアイドル、か」

 

 スマートフォンを取り出し、『スクールアイドル』で検索を掛けてみた。想像以上の検索結果数に少しだけ驚き、目に付くページ全てを閲覧する。

 

「……なるほど、要はアマチュアどころかそれ以下の、アイドルの真似事なんだな」

 

 一通り知識として吸収し、それを己のモノとした上での感想だった。非常に馬鹿馬鹿しいコンテンツである。動機は様々で、廃校になるから思い出作りのために結成した、なんてグループもある。

 

「相当注目されているようだな。……ん、ニュースにも取り上げられているのか」

 

 片峰は顎に手をやって、目を閉じた。

 

(これは……いや、流石にこれを真面目に取り組む方が馬鹿らしいか……?)

 

 一瞬だけ浮かんだ考えを、すぐに片峰は消し去った。これでは高坂と同じである。良い話を鵜呑みにするほど愚かでは無い。

 

「いかん。判断材料が圧倒的に足りない。もう少し判断材料を――」

 

 もう少し対策について考えようとしたが、今日は“不純物”が片峰の思考を大いに乱す。こういう時はすっぱり考え事を止めて、また考えた方が良い。

 そう思って、屋上を出るべく、扉の方へ向くと丁度誰かが入ってくるようだ。扉が静かに開かれる。

 

「かよちん! ここ屋上なんだね!」

「か、勝手に入っていいのかな……?」

「大丈夫だよ! 確か他の子もここでご飯食べたことあるって――」

 

 入ってきた二人を見て、片峰は目を細めた。睨んでいると言い代えても良い。いつぞやか見た短髪と眼鏡の女子。

 向こうも片峰に気づいたようだ。

 

「あ、ああっ! 片峰先輩!?」

「……誰かは知らんが、歩行の邪魔だ、どけ」

「片峰先輩……ですよね? この前、子猫を助けてくれた……」

 

 眼鏡の女子がおっかなびっくりと言った様子で、そう言った。何に怯えているのか、上目遣いの目にはうっすらと涙が溜まっていた。

 

「……子猫。あいつは元気に生きているのだろうか」

 

 何気なく呟いた一言に、目ざとく反応したのは短髪の女子だった。

 

「やっぱり覚えているじゃないですか!」

「……だから何だ?」

「あの時はありがとうございました! 子猫を助けてくれて!」

 

 そう言いながら、短髪は頭を下げた。そんな短髪へ、片峰は言う。

 

「何でお前が頭を下げるんだ」

「えっ、あの……凛、いや私が頼んだから……」

「言ったはずだ。お前の頼みで動いた訳ではない。あいつがオスだから動いた。それで完結しているし、お前の礼を受ける筋合いはない」

 

 ぴしゃりと短髪の言葉をシャットアウトし、片峰は屋上から出て行こうとする。――前に、二人の前で立ち止まり、顔を眺める。

 

「え? えっと片峰せんぱ――」

「喋るな黙れ」

 

 困惑した表情を浮かべながらも、片峰の要求に従い、口を閉じる短髪と眼鏡。その二人の顔を更にジッと眺める。

 やはり喋らなければ多少は三次元の女子を眺めることが出来るらしい。……それでもほんの少しだけ、もう身体が痒くなって来た。

 二人から視線を逸らし、片峰は痒くなって来た右腕を掻きながら言った。

 

「……やはり選択肢の一つとしてなら、真面目に考えても良いのかもしれないな」

「え……っと、何の話ですか?」

「全然話が見えないにゃ……」

 

 思い出すは、『スクールアイドル』という単語。部活で結果を出すには長期的な練習が必要だし、進学率もすぐに上がればどこの学校も苦労しない。

 

(……客寄せパンダとしては最適なのかもしれんな)

 

 フツノキ会長の言った通り、この学校の女子のレベルは割と高い方である。歌やダンスは分からないが、ルックスと言う点ではまず合格と言って良いだろう。

 

「お前達が気にする話では無い。ここの女子は総じて可愛いと思っただけだ」

 

 その瞬間、二人が挙動不審になり始める。一体自分の発言のどこに、そんな要素があったのか不思議でたまらない。

 そんな疑問を短髪がぶつける。

 

「あ、あのっ!」

「急に高い声を出すな、やかましい。……あのトサカよりはマシだがな」

「何で、片峰先輩はそんな……その、私達の事えっと……あの、『可愛い』とか言うんですか……!?」

 

 顔を真っ赤にし、そんな事を言う短髪に対し、片峰は露骨に呆れ顔となった。

 

「可愛いと思ったものを可愛いと言って何が悪い。それに、それだけだ。前にも言った通り、俺は女子が苦手なんだ。お前達の声を聞いているだけで頭が痛くなってくる。……特に眼鏡」

「わ、私ですか……?」

 

 片峰が指さすと、眼鏡の女子がびくりと肩を震わせた。短髪が心配そうな表情で見守る中、片峰は言った。

 

「お前の声を聞いているとイライラしてくる。もっとはっきり喋れないのか?」

「それは……」

「か、かよちんをいじめないでください!」

 

 俯いてしまった眼鏡を庇うように、短髪は前へ飛び出した。

 

「わ、私の事はいくらでも馬鹿にして良いですから、かよちんのことだけはいじめないでください! それと! 私達は短髪でも眼鏡っていう名前でもありません! 星空凛(ほしぞらりん)と、小泉花陽(こいずみはなよ)って名前がちゃんとあるんです!」

 

 お姫様を守る騎士といった所だろうか。足が震えている辺り、可愛い女騎士といった所だが。

 二人の姿を見た片峰は特に、いじめているつもりも無かったのであっさりと引き下がった。これ以上、付き合っていられない。

 

「女らしいのに女の子っぽくないという馬鹿がいたり、声がとても綺麗なのに喋らない馬鹿がいたり……この学校はどうなっているんだ」

 

 そう言い残し、片峰は屋上を後にした。

 

「かよちん、大丈夫だった?」

「うん……ありがとう凛ちゃん」

 

 すると、星空は既に閉じられた屋上の扉へ顔を向けた。

 

「もうっ! あの人許せないよ! かよちんのこといじめるなんて!」

 

 久しぶりに本気で怒ってしまった。この間はすごく優しい人なのかもしれない、と少しでも思った自分を引っ叩いてやりたい気分だ。

 そんなヒートアップした星空を諌めたのは他でもない小泉である。

 

「でも凛ちゃん、最後の先輩の台詞聞いてたよね?」

「そ、それは……」

 

 片峰の言葉で憤慨したのなら、複雑な気持ちになったのもまた片峰の言葉のせいである。

 

「ま、また凛のこと女の子っぽいって……もうっ! あの先輩、ぜんっぜん何考えているのか分かんないよー!!」

「私も、声綺麗だなんて初めて言われちゃった……」

 

 でも、腹立たしいのもまた事実であった。片峰一心と言う男が益々分からなくなり、この複雑な感情の行き場に困った星空と小泉は一緒にご飯を食べに行くことで解消することにした。

 怖いのに、褒めてくれる。褒めてくれるのに、けなしてくる。そんな片峰の事が、今日の出来事でほんの少しだけ強く頭の片隅に刻み込まれた二人であった――。

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