八色の虹   作:溶けた氷砂糖

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こっちは文字数少なくて済むから書きやすいっす。


手伝ってもらうだけよ

 スペルカードルール。或いは簡略的に弾幕ごっことも呼ばれるそれは、妖怪が博麗の巫女に対抗するためのルールであるとも言われる。あくまでも女子供の遊びであるスペルカードルールなら博麗の巫女を打ち倒しても良い、異変を起こしたいが、博麗の巫女を倒すことは出来ないという妖怪のジレンマを解消するまさしく妙案であったと言えよう。またこのルールは同時に民間の人間でも妖怪を相手にして対抗できるようになるという、もう一つのメリットも含んでいた。妖怪は人間から恐れられていなければ存在できないが、同時に人間は妖怪に対して余りにも無力である。博麗の巫女や白黒の魔法使いのような例外を除けば、妖怪に出会った時に、人間は運良く逃げるか食われるかのどちらかしかない。特に相手が大妖怪ともなれば後者以外の選択肢はないと言っても過言ではない。しかし、弾幕ごっこには妖怪、人間としての格はほとんど関係が無い。強い妖怪の方が弾幕ごっこも強い傾向にあるのは確かだが、霧の湖に棲む氷精のように力は弱くとも弾幕ごっこでは強者、といった例も少なくないのである。そのため、人里では大の大人でも自分の命を守るために弾幕ごっこを覚える者が増えた。妖怪の方も弾幕ごっこに勝つだけで相手からそれなりの恐怖を得ることができるので、妖怪と人間の秩序をより安全に維持することにもなる。

 だが、先程述べたように弾幕ごっこは女子供の遊びである。男でもやらない者が居ないわけではないのだが、基本的には馬鹿らしいと一蹴されているのだ。しかし、異変を起こそうと画策するのはけして女だけではない。だったら男はどうすれば異変を起こせるか、実力で起こすしかないのである。特にスペルカードルールの廃止を求める妖怪も多く、肩身の狭い男妖怪が暴走するケースも多い。ルールが適用されないならばどうやって鎮圧するのか。そのために黄緑が居るのであった。

 人間と妖怪の調停者。博麗霊夢の華々しい活躍の影に隠れて闇に潜む脅威を排除する妖怪の巫女。そんな風にも揶揄される少女は、結界の境目に立っていた。

「ほんっと面倒臭い」

 未だ見えない敵に向かって溜息を洩らす。人を辞めてから十以上の冬を数えているとはいえ、黄緑はまだ百も生きていない若輩者だ。妖怪の本分なんてものは知らないしどうでもいいと考える彼女にとって、今回のような案件は理解が出来ない。本来なら説得でもするべきなのだろうが、歴史の薄い黄緑にそんな腹芸は出来ず、たまに試みても鼻で笑われて終わる。それならもういっそ容赦なく叩きのめせば良い。奇しくもそれは霊夢の考え方と近いものであった。だから、来る筈の相手が来ない、というのは暇なくせに動けなくてもどかしい。橙でも連れてきて撫でながら待てばまだ退屈も紛らわせただろうに。

「しかもなんでこんな奴ら相手に私が出なきゃならないのよ」

 愚痴を吐くと同時にその場から飛び退く。空から飛びかかってきた狼の妖怪が空を噛み、背を向けた黄緑目掛けて草場に隠れていた他の妖怪達も一斉に飛び掛る。用意周到な不意打ちには黄緑も全く気が付いていなかった。

「視えてるっての!」

 だが軽々とそれを空に避け、驚く妖怪達に向けて上方から弾幕の雨を降らす。弾幕といってもごっこ遊びに使うような非殺傷用のものでは無い。八雲紫が本気で戦う時にも使う、八雲家伝統の妖力弾だ。大地を削り、木々を薙ぎ倒す威力のそれを的確に妖怪達の逃げる先々に撃ち落とす。それはさながら追い込み漁のようで、誘導され続け、気が付けば妖怪達は一箇所へと纏められる。

「グルルルァ!」

 唯一余裕を持って避けたおかげで免れた狼が唸りをあげながら飛び掛ってくる。ちょっとは出来るのも居たのかと黄緑は驚き、一網打尽にしようとしていた身体を捻って即座に回避行動に移る。そして狼の妖怪を叩き落とそうとするが、右へ左へジグザグに避ける狼は確実に黄緑へ近付いてくる。その隙に呪縛から逃れた他の妖怪達も同時に遠距離から様々な方法で攻撃をしてくるが、そちらの方は全て妖力弾で相殺する。それなりの力があるのは狼の妖怪だけで他は有象無象。そう判断した黄緑は標的を狼一体に絞り、他の木端妖怪には一応の意識を向けるだけにする。しかし、想定以上に苦戦しているものの、黄緑の顔に焦りの色は無い。彼女の能力から考えれば不意打ちなんてものは存在しないからだ。彼女の視界よりも早く攻撃をするか、分かっていても避けられない広範囲の攻撃で吹き飛ばすか。そのくらいでないと黄緑に一撃与えることすら叶わない。狼の妖怪は避ける素早さはあるものの攻撃は直線的で速さもそこまでではない。他の妖怪は言わずもがな、負けるイメージが無い。

「ガゥア!」

「当たらないっての!」

 なお追い縋る狼の首根っこを掴んで投げ飛ばす。ちまちまと嫌らしい攻撃を続ける他の妖怪には目もくれず、追撃を加えるため掌を向けて構える。

 マスタースパーク。風見幽香の編み出した必殺技であり、霧雨魔理沙が見様見真似で作り出し、名付けた収束型のエネルギー砲。もちろん幽香を師と崇める黄緑もその系譜を受け継いでいる。掌から放たれた妖力が眩いまでの光と共に狼妖怪に突き刺さる。この程度でなら死にはしないだろうが、並大抵の妖怪ならしばらく動けなくなるだろう。

「さて、と」

 墜落したのを確認してから有象無象に振り返る。一番の実力者が軽くあしらわれた事実を前にもはや交戦の意思は残ってなかった。それから後は一方的な蹂躙。というまで残酷なものでもないが、ぷすぷすと煙を上げて倒れ伏す妖怪達を前にすればその形容もあながち間違いではない。

 戦いが集結した後、黄緑は襲ってきた妖怪一同を集めていた。人型になれる奴は正座、そうでない奴はお座りの体勢になるように命令する。お座りしている狼が可愛いな、などと考えている黄緑だったが、何も羞恥のためにさせているわけではない。

「それで、あんたらはどうしてこんなんやったの」

 八雲紫は幻想郷の管理者であり、ある種独裁者でもある。しかし、他人の意見を跳ね除けるような狭量な妖怪ではない。このような事態のとき、必ず何故起こしたのか聞くように黄緑は命じられていた。もしかしたら幻想郷の欠陥が見つかるかもしれないからだ。黄緑に言わせれば大抵は鬱憤晴らしでどうせたいした理由などないのだからやるだけ無駄だと思うのだが。

 人型の妖怪の一人が手を挙げる。さっきまでは鳥の姿をしていたが、潜むのに都合が良く、また変化するのに手間がかかるためやっていなかっただけらしい。つまり、人型と妖怪を行き来できるそれなりの存在である。

「我らの地位向上の為です」

「地位向上?」

 まるで初耳であるかのように聞き返すが、黄緑は以前から何度もこの単語を聞いていた。その内ほとんどが結局ただの我侭に近いものであったが、紫も気にかけて入る話題だ。

「スペルカードルールが制定され、妖怪のヒエラルキーは大きく変わりました。弾幕ごっこの強いものが強者。私らのようなやれぬ者、出来ぬ者に対しての風当たりが強くなったのです」

 弾幕ごっこが浸透し、妖怪達が畏れを得る手段はもっぱらそれだけになった。男妖怪は畏れを得ることも出来ず、人を襲うにも人間がそう人里から出なくなったのもあってろくな食事にありつけない。弾幕ごっこを始めようにも男だからと女からは下に見られ、男からは軟弱者と罵られ、どうすることも出来ない。幻想郷の大きな歪みの一つだ。初めは男は意地でスペルカードルールを認めなかったものだが、いつしか女子供の遊びになってしまいやろうにもやれなくなってしまったのだ。

 鳥男は狼の頭を撫でながら訥々と語る。

「こいつなんかはもう数年待てば弾幕ごっこに参加できるというのにこちらの我侭に付き合ってくれまして」

「紫・・・様には相談したの?」

「以前相談しに参ったのですが、お休みだと追い返されてしまいまして。かくなる上は荒事にも出なければならないかと」

「成程ね。まあ言いたい事は分かったわ」

 嘘をついていないのも分かる。正直者が周りに居ないせいで培った勘と観察眼から、相手が嘘を苦手とする性質なのも分かっていた。これが演技なら紫よりも腹黒い。そんな奴はそうそう居ない。黄緑の経験則だった。

 これ以上暴れるつもりも無さそうだし、黄緑はそろそろ彼らを帰してやろうと考えていた。今回のことは紫に伝えておけばいいだろう。自分で解決するつもりは無いし、そもそも今回は彼女が蒔いた種だ。黄緑に解決する義務は無い。

「分かったわ。あんたらはもう帰ってもいいわよ」

「は、しかし私達は八雲様に楯突いたのですぞ」

「そんなこと言う妖怪なら二度目は無いって分かるわよね」

「・・・・・・・・・・・・」

「あっ、でもこいつはちょっと貰っていくわね」

 そう言って黄緑は狼妖怪の頭を撫でた。びくっと身体を跳ねさせるも、抵抗するだけ無駄だと身体に入った力を抜く。

「どうするのですかな?」

 鳥男が僅かに殺気を滲ませながら聞く。仲間意識が強く、仲間のためなら討ち死にも厭わないといった雰囲気だ。

「たいしたことじゃないわ。ちょっと手伝ってもらうだけよ」

 黄緑は笑みを抑えきれずに言った。

 




はい、またオリキャラだよ馬鹿野郎。
オリキャラばかりになると二次創作じゃない、って気持ちもあるんで余り多くするつもりもないんですけどね。どうしてか増えていく。ただ今回は原作キャラじゃ駄目な理由もあったので仕方なしです。
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