ただ一言、”美味しい”と   作:こいし

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九十三話

 2nd bout出場の全料理人の料理が完成した。

 黒瀬恋と茜ヶ久保ももの品が完成した時点では、既に審査も進んでおり、まずは久我と司瑛士の品が審査される。彼らのお題の品は《緑茶》だ。

 

 そのお題で二人が作った料理は、やはりというか、お互いの得意ジャンルを活かした毛色の違うものになる。

 

 司瑛士は『4つの緑茶によるグラデーションビュレ・スープ』を作り、一方久我は『緑茶黒酢豚』を作り上げた。フランス料理と四川料理、全く違う二つのジャンルでそれぞれ作られたそれは、WGOの審査員達をして想像以上にハイレベル。

 高校生のレベルで出されていいような品では到底なかった。

 

 特に――――司瑛士の料理は、学生の領域を大きく逸脱している。

 

 久我照紀は黒瀬恋のサポートによって、正真正銘全戦力をもって調理に当たっていた。

 二学年と三学年。一年の差がありその研鑽された技量にも大きな差があることは分かっている。それでも十傑である久我の全戦力が発揮されたなら、同じ十傑であろうとも勝ることは難しくなるのだ。それほどの脅威になるのである。

 

 しかし、司瑛士はその脅威を地力で跳ねのけた。

 

 あるいは、徹底して己を消失させ、食材に食材の命をそのまま宿し昇華させるその料理スタイルであったからかもしれない。

 彼は不完全ながらも、恋がサポートに入った時の極限状態に近い集中状態になることに成功したのだ。それはももが恋への恋情からストレスを無視して没頭していったのと同じで、自身の料理を高めようという強い意志で集中が乱れないようになったのである。

 

「これは……!? なんという品だ……これでまだ学生だと……!?」

「4種の緑茶の風味を一切殺さず、極限まで生かし切っている……」

「これが今の遠月の十傑第一席……まさに珠玉の素材ですね」

 

 久我の料理を先に食した審査員達が、一気に司の料理に魅了されてしまう。極限状態の久我と準集中状態の司、その条件下であって司に軍配が上がるということは、決定的な地力の差が明白になったということ。

 そもそも久我と司の間にあった基本的な実力差が、勝敗を分けた。

 

「だが……ふぅ……流石に危うかったよ。黒瀬にばかり意識を向けていたら、足元を刈られていたかもしれない……」

 

 

 だがそれでも審査結果には出ていた。

 

 司瑛士  2

 久我照紀 1

 

「お前の闘志、プレッシャー……けして無視できないものだった。俺も全力以上を出さなければ負けていたかもしれない。前とは比べ物にならない料理だったよ」

「……」

 

 久我照紀という料理人が、過去司と対決した時よりも飛躍的に成長したいたことを。

 この対決が始まった最初、司は久我を相手にならないと思い、料理をしながらもその意識は黒瀬恋に向いていた。黒瀬恋を倒すため、また手に入れるため、司は目の前にいる相手を無視して料理していたのである。

 

 それを強引に向き合わせたのは、久我の放つプレッシャーだった。

 恋によって引き出された極限状態であったのもあるが、それ以上に久我の司を食らわんとする闘志がそうさせたのだ。そしてそれに見合うだけの実力を、久我は身に付けてきていた。

 

 その証拠に司はかなり消耗したようで、厨房に寄りかかる様にして息を整えている。頬を流れる汗は、見る者に久我が勝っていた可能性を感じさせた。

 結果は久我の敗北であり、司の勝利ではあったものの、それでも司瑛士という料理人が才能とセンスで現れた孤高の存在でなく、この遠月の凌ぎ合いで磨かれた末に生まれた存在であることを証明する結果となった。

 

 この時代の遠月は、十傑という枠組みを超えて実力のある料理人が数多くいるのだと。

 

「司さん、次は……勝ちますからね」

「ああ……またやろう。だが、次も負けないぞ、久我」

 

 握手を交わす両者。

 勝敗は決したが、それでも互いに高みを目指す料理人。再び矛を交えることもあるだろう。

 

 その時は、また全力で。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 久我と司の勝負が終わり、続いて葉山アキラと斎藤綜明の審査へと移行した時、恋とももは厨房に並んでその行方を見ていた。

 久我と司の勝負の結果を受けて、二人の表情に動揺はない。敗北に対する焦燥も、勝利に対する安堵もない。ただ粛々とその結果を受け止めている。

 

「……これでこっちの一勝だね」

「ええ、そうですね」

「けど、まさか司があんな風に消耗させられるとは思ってなかったよ。恋君のサポートあっての勝負だと思うけど、あそこまでとはね」

「久我先輩も強くなることに貪欲ですからね。少し環境を用意すれば、一気に伸びましたよ。俺も負けてられないと火が付いたくらいです」

「ふーん……ただの足手まといってわけじゃないみたいだね」

 

 久我や葉山を恋の足手まといでしかないと思っていたももだったが、どうやらそれは違うらしいと認識を改める。あの司瑛士をあそこまで消耗させ、審査でも一点を捥ぎ取っていった実力は認めざるを得なかった。

 

 だが、ももの思考は連帯食戟よりも恋との勝負に向けられている。

 己の作り上げた料理と、恋の作り上げた料理。どちらが上なのか、はっきりさせる瞬間は近い。その勝敗によって、今後恋を独占出来るか否かが決まる。

 料理が完成してしまえば、その審査の時を待つ時間こそ緊張してしまうもので、心臓の鼓動もわずかながらに速くなっているのを感じていた。

 

 自分の品に自信がないわけではない。

 むしろ今までで最高傑作と言ってもいいだろう。闘争心、集中状態、コンディション、アイデア、その全てが一つとなって理想の料理を現実のものへと作り上げたと思っている。

 誰が相手であろうと負けるだなんて欠片も思わない出来だ。

 

「恋君、ももに勝てると思ってるの?」

「勝ちますよ。そうしないと、大事なものを失うのなら」

「ふーん……大事なものって、えりにゃんのこと? それとも遠月学園のこと?」

「うーん……それもありますけど……都合が悪いんですよ、薊総帥のいう学園が実現したら」

「都合が悪い?」

 

 セントラルと反逆者連合の勝負が始まってから、なんとなくリーダーとして認識されていた黒瀬恋。事実そうだし、恋としてもその自覚はあるのだろう。

 しかし恋がどんな目的をもって戦っているのか、何を考えているのかは、深く掘り下げられていなかった。ただ純粋に、新体制での学園生活を嫌がったというだけではないのだろうか。

 

 ももは恋に詳しく話すように促す。

 すると恋はその金色の瞳で会場を見渡してから、気持ちを吐き出すように深い息でその意図を言葉にした。

 

 

「―――この生徒の数だけ、まだ学んでないことが沢山ありますから」

 

 

 その言葉に込められていたのは、この場にいる全ての料理人に対する敬意と、底の見えない向上心。恋が叶えたい夢に必要なことなのだ。彼はこの場にいる全ての料理人から学べることが失われることを嫌がったのだ。

 

 いずれ神の舌に届くように、そして届いた後にも道を迷わないように。

 

 恋は十傑だとか、遠月の頂点だとか、そんなものは見ていない。己の夢、薙切えりなに美味しいと言わせる夢を叶える為に必要ならば、十傑にもなろう、遠月の頂点にも立とう、そういう認識でしかないのだ。

 その立場や権威、名誉には何の興味もない。

 ただ必要だから、彼はそこを目指したにすぎなかったのである。

 

「……そっか」

 

 だから連帯食戟を挑んだ。

 夢を叶える為には、この遠月学園にいる十人十色な料理人達の個性、知識、技術、思考を新体制で潰されてはかなわないから。

 

 とどのつまり、黒瀬恋という料理人もまた……己の夢に忠実なのである。

 

「……ふふ、恋君のこと大人で人が出来てるなぁって思ってたけど、やっぱり年相応な部分もあるんだね」

「?」

「結局のところ、自分の目的のためにこの学園を取り上げられたくないってことでしょ? おもちゃをとりあげられたくない子供みたい。ふふふ」

「はは、そりゃそうですよ。まだ俺も高校一年生ですから―――我儘だって言いますよ」

 

 そう言って恋が破顔する。

 まるで勝負などしていないかのように、おかしいことを可笑しいとただ笑うその姿は、ここまで見てきたリーダー然とした姿とは反対に、高校一年生の少年らしかった。

 

「でも、もも先輩もそうですよ?」

「え?」

「もも先輩だって、まだ高校三年生の子供です。まだまだ俺達、大人にならなくてもいいでしょう。大人じゃない今出来ることをしなきゃ、勿体ないですよ」

 

 高校三年生ともなれば、多少なりとも最上級生としての振る舞いや明確な人格形成が成されてくる。大人になった、と言われる人も出てくるだろう。現場で多くの大人と触れ合う機会が多いこの遠月であれば、なおさら子供じみた一面は失われていくものだ。

 

 しかし、それでもまだまだ子供であることに変わりはないのだ。

 

「その割には、人生を賭けた選択をしてるみたいだけど? 味覚障害を持ってるのに料理人になるとか、ももとの食戟とか」

「大胆な選択も、無鉄砲になれるのは子供だからですよ。まだこの手の中に守るものが少ないから選べる行動もあります。俺はこれから、こんな無鉄砲さに身を委ねられなくなるくらい大事なものを、これからいっぱい手に入れていくんです」

「なるほどね……」

 

 ももは恋がここまで行ってきた全ての行動を思い返し、納得した。

 編入試験の挨拶の時からそうだった。恋の行動は大胆で、無茶で、それでもそこで必ず結果を出してきたからこそ、そのカリスマ性に人が寄ってくる。

 その根幹にあったのは、彼が自分が子供であるという自覚を持っていたことだった。

 

「おっと、今度はこっちの勝ちですね」

「……ふーん、やるじゃん」

 

 見れば審査結果が出ている。

 葉山アキラと斎藤綜明の戦いは、恋によるブーストが掛かった葉山アキラの圧勝であった。斎藤綜明に敗因があったとすれば、黒瀬恋という料理人と接点が無く、その力をよく把握していなかったことだろう。

 普段通り、いや司やももに引っ張り上げられて普段以上の力を発揮したと自負していた彼だったが、この2nd bout、黒瀬恋という存在によって底上げされていたこの食戟のレベルについてこられなかったのである。

 

 もう一度やればきっと相応の勝負を繰り広げるだろうが、この連帯食戟では敗者に次はない。

 

 そして続く恋とももの審査が始まる。

 人生を賭けた食戟の結果に、前の二戦以上の注目が集まっていた。

 

「さぁ、決着を付けましょう」

「そうだね」

 

 互いが自分の皿をサーブする為に、並んでいた二人は反対へと歩き出した。

 

 

 




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