紅牙絶唱シンフォギア ~戦と恋の協奏歌~   作:エルミン

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第十話 救われる心、クリスの涙

クリスが襲われている、という知らせを聞いた直人は、すぐに天叢雲剣を纏い、翼の方を振り向く。

 

「行ってきます!」

「あぁ・・・!」

 

短く、確かに言葉を交わしあった二人。

直人は前へジャンプし、現場へ急行する。

 

 

 

一人残った翼は、目を閉じて、自分の心を再確認していた。

 

 

「私は、直人と一緒に・・・肩を並べ、共にいたい。では、今の私に出来ることは・・・」

 

 

答えは、すぐに浮かんだ。

 

 

目を開き、松葉杖を捨てた。

 

 

「行こう。直人の為、立花の為、そして・・・生きとし生ける者を護るために!」

 

翼は首にかけているシンフォギア・・・天ノ羽々斬を外し、自分の眼前に構える。

 

 

「直人と共に、戦う!」

その力強い宣言の後、聖唱を歌った。

 

 

 

 

 

時は少し戻る。

 

クリスは、アジトの廊下を歩いていた。

直人から借りっぱなしのハンカチを握りながら、自分の心と、夢と向き合い始めた。

 

 

(私の、争いを無くしたいという願い・・・。今すぐは無理でも、未来で争いを無くすための可能性になる・・・)

 

直人から教えてもらった言葉を思い出しながら、ゆっくりと、確実に。

 

 

(私は・・・パパとママの夢を私自身の手で叶えたくて・・・でも、今のやり方は間違ってて・・・)

 

直人がクリスに伝えたことは、クリスにとって大きな物になっていた。

それこそ、今までの考えが破壊されるほどに。

 

(あいつのせいで・・・ぶっ壊れちまったみたいだ・・・)

 

変わり始めた自分を自覚し、しかし・・・悪い気はしなかった。

 

 

「・・・また、会いたいな・・・」

 

無意識にもらした一言に、クリスは数秒後に気づいて顔を真っ赤にしてその考えを打ち消すように、何度も首を横に振る。

 

 

(いやいや!何考えてんだ私!?別に、あいつの事なんて・・・)

 

心の中で言い訳しつつ、フィーネのよく使っている部屋の前にさしかかったその時・・・。

 

 

「・・・えぇ、そうね。私の計画も、最終段階に入りつつあるわ」

 

「ん・・・?」

 

少しだけ開けている扉から、フィーネの声が聞こえる。どうやら、誰かと電話をしているらしい。

クリスは気になって、扉に近づき、聞き耳を立てる。

 

 

「ファンガイアの繁栄・・・ね。私にとってはどうでもいいわ」

 

「・・・!?」

 

 

「人間の支配?共存の破壊?どうぞご自由に。さっきも言った通り、私にとってはどうでもいいから。

共存反対派・・・あなた達との協力関係は、ギブアンドテイクだし・・・」

 

 

(ファンガイア・・・共存反対派・・・。前にあいつの言っていた!?フィーネの奴、あんな奴らとまでつるんでやがるのかよ・・・!?)

 

 

「・・・え?あぁ・・・紅 直人ね。えぇ、いいわよ。『抹殺』を手伝ってあげる」

 

 

(・・・・・・え?)

 

 

フィーネの言った言葉が、聞こえた瞬間、クリスは一瞬頭が真っ白になった。

 

「今までのほんのお礼よ。ギブアンドテイク、とは言ったけれど・・・それくらいならしてあげる」

 

 

それからも両者の会話は続いているが、もうクリスの耳に入ってこない。

クリスの頭の中で、直人の事ばかりが浮かんでくる。

 

 

自分をデュランダルの暴走から救ってくれた。

自分を優しく抱きしめてくれた。

 

ファンガイアから守ってくれた。

大切なことを教えてくれた。

 

 

その彼を・・・直人を、殺す?

彼に・・・二度と会えなくなる?

 

「嫌だ・・・」

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 

 

 

直人を失いたくない。死なせたくない。その思いが心にわき上がったその時・・・!

 

 

 

クリスは、聖唱を歌いイチイバルを起動。

銃弾とミサイルの嵐で、フィーネを攻撃した!!

 

 

しかし、フィーネは直撃の前に、バリアを貼って防いだためノーダメージ。周りの物を壊していくだけ。

 

 

撃ち終わった後、煙が晴れた後には、無傷のフィーネが立っていた。

 

 

「あらあら。やんちゃねぇ、クリス。それとも、反抗期かしら?それに、盗み聞きは感心しないわね」

 

クリスが聞いていたことはバレていたが、今のクリスには答える余裕はない。

 

 

「・・・おい、本気なのかよ?フィーネ・・・」

 

「?」

 

「あいつを、殺す気かよ・・・」

 

 

「あぁ、紅 直人の事?そうよ、彼は協力者に・・・ファンガイアにとって、最も邪魔だもの」

 

「ファンガイアの、共存反対派・・・」

 

「そういえば、あなたを襲ったファンガイアも、共存反対派だったわね。まぁ、私がけしかけたけど」

 

 

フィーネの言葉に、前に自分を襲ったファンガイアはフィーネによって手引きされた事がわかった。

 

(フィーネにとって、もう私はいらないってのかよ・・・)

 

 

「あぁ、ということは、私はあなたの王子様を殺してしまう事になるわね。ごめんなさいね」

 

 

「やめろ・・・やめてくれぇっ!!」

 

大きな拒絶を示し、再び銃を撃つクリス。

しかし、フィーネは再びバリアを貼って防ぎ、撃ち終わった隙をついて、クリスを殴って外の森まで吹っ飛ばした。

 

 

「・・・・・・っ!!」

 

 

湖に、地面にバウンドして、ようやく止まった。

 

痛む体に鞭を打って立ち上がると、フィーネは木の上に立っていた。

 

 

すると、フィーネは手に持っていたあるものを掲げた。

 

それは、『ソロモンの杖』。完全聖遺物の1つであり、ノイズを自由自在に召喚、コントロールを可能とする。

 

 

杖から光が放たれ、ノイズが沢山召喚される。

クリスは、ノイズを、フィーネを倒すため戦っていく。

 

しかし、倒しても倒しても、ノイズを召喚される為、キリがない。

 

(いくら倒してもキリがない!やっぱり、フィーネを倒すしか・・・)

 

そう思いながら、戦いを続けようとした。その時、横からある人物が乱入して、ノイズを倒していく。その人物は・・・。

 

 

 

「クリスちゃん、大丈夫!?」

「お前・・・!?」

 

ガングニールを纏った、立花 響だった。

 

 

少し前。

 

響はふらわーへ向かう途中、弦十朗から、クリスが戦っているという報告を受けた。

 

現場へ向かうため走っていたが、未来とばったり会ってしまう。

 

しかも、運の悪いことに、ノイズが現れて二人に襲いかかったのだ。

 

未来を護るために、響は聖唱を歌い、ガングニールを見に纏い、ノイズを瞬殺した。

 

 

「ひ・・・響・・・?」

 

「・・・・・・ごめん」

 

 

響は、その一言だけを絞り出すことで精一杯だった。

未来の方を向くことなく、響は爆発音のあった方に向かう。

 

 

未来は、一筋の涙を流した。

 

 

 

 

 

時は戻る。

 

クリスと合流した響は、未来のことで心を痛めているが、今はノイズ、そしてクリスだ。

 

 

話は後にして、今はノイズとの戦闘に集中することに決め、ノイズを倒していく。

 

フィーネは、携帯電話を取り出し、ある所へ連絡を掛ける。

 

 

「もしもし、私よ。さっきはごめんね、急に切っちゃって。かわいい子供の反抗期が来ちゃったの。

 

・・・えぇ、そう。魔術による再生態でいいから、こっちに寄越してくれる?」

 

 

 

 

 

ノイズを倒し終えた二人。すると・・・。

 

「ねぇ・・・」

「な、何だよ・・・」

 

 

「私、立花 響!十五歳、9月13日生まれで身長は175cm!体重は・・・もう少し仲良くなってから、教えてあげる!」

 

 

「え?は・・・え?」

 

「趣味は人助け、好きなのはご飯&ご飯!そして・・・彼氏いない歴=年齢!」

 

 

「何とち狂ってんだお前!?」

 

「狂ってないもん!・・・私はただ、あなたと仲良くなりたいの!」

 

「・・・」

「私達には、ノイズと違って言葉がある。心があるんだから!それに・・・」

 

響の心に、直人の姿が浮かぶ。

人同士だけでなく、人と、人ならざる者達の共存の為にまっすぐ進む人の姿が。

 

 

「私は知っているんだ。人と、人じゃない者達がお互いに手を取り合って、共に生きていることを。

 

その今を、未来でも確かな物にするために、頑張っている人の事を」

 

(!・・・それって)

 

クリスの頭に、直人の姿が浮かぶ。

そして、響も同じく、直人の事を知っているのだと気づいた。

 

 

「だから、ね。私もクリスちゃんと友達になりたい、わかり合いたいんだ。

 

私の言っていることが綺麗事だっていうのはわかってる。

でも、だからって何もしないなんて、絶対に嫌だから」

 

 

「・・・あーもう!あいつといい、お前といい、どうしてそう言えるんだよ!!」

 

そう言いつつも、以前ほどの嫌悪感は無いことに気づくクリスは、内心苦笑してしまう。

 

 

(ハァ・・・全く!私も壊れちまった・・・いや、壊されたんだ。でも・・・)

 

「悪くねぇな・・・」

「え?何か言った?」

 

「何でもねぇよ!」

 

そう言いながらも、クリスは響の隣に立つ。

 

その視線の先には、新しく召喚されたノイズの大軍がいた。

 

 

「少しだけ・・・手ぇ貸せよ」

「・・・!うん!」

 

 

クリスが頼ってくれた事に喜び、笑顔で頷く響。

 

二人同時に駆け出し、拳と銃弾を当てていく。

 

ある程度倒していったところで、一体の大型ノイズが出現。

 

そのノイズは固く、中々攻撃が通らない。

大型ノイズの攻撃がクリスに向かう。

 

避けるのが間に合わず、攻撃を食らったクリスは倒れてしまう。

 

響は助けに行こうとするが、他のノイズが邪魔をして行けない。

 

大型ノイズが止めの一撃を、腕を伸ばしてのパンチを放った瞬間・・・。

 

 

「雪音さんに、手を出すな!!」

 

 

その言葉と共に、大型ノイズの伸ばした腕が細かく切り刻まれ消えた。

 

 

「お前・・・!?」

「直人さん!」

 

「遅くなってごめん!大丈夫!?」

 

「へ、平気だっての!」

強がるクリスに、直人はそっと手をさしのべる。

 

クリスは素直に手をとって立ち上がる。

 

響も自分の周りのノイズを全て倒して、二人と合流。

 

 

「直人さん!」

「響ちゃん、ここはまかせて」

 

直人は剣を構えて、大型ノイズと対峙する。

しかし、このノイズを倒したのは直人では無い。

 

大型ノイズを倒したのは、大きな・・・

 

 

「盾?」

 

「剣だ!!」

 

 

大きくなった天ノ羽々斬のアームドギアで大型ノイズを頭上からぶっ刺して、倒した翼による物だった。

 

 

「翼!」

「翼さん!」

「お前・・・」

 

 

「私も共に戦う!生きとし生ける者を護るために!」

「・・・無理はしないでね!」

「うん!」

 

「翼さん・・・」

「立花、仲間なら共に戦うのは当然だろう」

 

「・・・はい!」

 

 

「あ、あんた・・・その・・・」

「気にするな、雪音・・・だったな。今は共闘しよう」

「・・・甘過ぎだろうが!!」

 

 

こうして、奏者四人の共闘が実現した。

残ったノイズを二本の剣で切り刻み、拳で打ち砕き、銃で撃ち抜く。

 

 

 

途中、共存反対派が再生させた、再生態が十体ほど現れたが・・・。

 

 

「変身!」

 

直人はキバに変身して、一気に接近。

そこから、左足に魔皇力を集中。

 

赤く光るほど溜めた所で、まずジャンプしてからの顔面蹴りで二体を撃破。

 

着地と同時に、さらに左足を軸に回りながら、飛びかかってきた二体を粉砕。

 

足に溜めていた魔皇力を消して、今度は両腕に集中。

右腕を払うように振るい、一体を破壊。

 

正面の二体に両腕で同時にパンチを放って、二体を撃破。

 

 

最後に、右足に魔皇力を集中。

ジャンプしてからの回し蹴りで、三体同時に撃破した。

 

再生態十体を、直人はあっという間に倒してしまった。

変身を解く直人。

 

 

「ふぃ~」

「オツカーレ」

 

「こんなもんかな。にしても、随分と脆かったな」

 

「多分、急造したからじゃね?」

 

 

キバットとそんな事を笑いながら話している直人に、三人は苦笑を隠せなかった。

 

 

その後、全ての敵を倒し終えた後・・・。

 

 

 

 

 

 

 

カポーン・・・。

 

「・・・・・・あぁ、いい湯だぜ」

 

雪音 クリスは、『直人の家のお風呂に入っていた』。

 

 

 

戦闘終了後、翼を病院へ戻して(緒川によって強制送還させて)、クリスは直人の付き添いの元、二課へ。

響は、二課に保護された未来の元へ。

 

クリスは、弦十朗と事情聴取を。フィーネと縁を切ったクリスは、自分の知っていることを全て話した。

 

弦十朗は、その中で一番気になった単語、『カ・ディンギル』について、調べていくことに。

 

また、フィーネはファンガイアの共存反対派と手を組んでいる事を受けて、直人は気を引き締める。

 

 

そして、クリスの処分に関してだが、本人が素直に反省しているし、響と翼、そして直人が彼女を許していることもある為、シンフォギアを返却した上で、『保護観察』ということになった。

 

 

そして、住む場所として、直人は自分の家を提供するという。

 

弦十朗もクリスが良ければと言い、クリスは顔を真っ赤にしながらもそれを了承。

 

こうして、クリスは直人と一緒に暮らすことが決定した。

 

 

ちなみに、クリスの新しい服や生活品を買うため、直人は恵に協力を要請。

 

三人で必要な物を買っていく。

 

直人は恵にクリスと一緒に暮らすことでからかわれたものの、無事に買い物を終えて帰宅。

 

 

そして、クリスがお風呂から出て直人のいる工房へ。

クリスは、直人のパジャマのお古を着ている。

 

 

「で、出たぞ・・・」

「どうだった?家のお風呂。レトロな感じでしょ?」

 

「まぁな。・・・にしても、やっぱここは凄いな・・・」

 

 

クリスは、直人の使っている工房を、興味津々な感じで見渡す。

 

バイオリニストの娘としてか、個人的な興味があってか。

 

 

すると、クリスは飾られているひとつのバイオリンに、吸い寄せられるように向かっていった。

 

 

それは、ブラッディローズ。

直人の父親、紅 音也の最高傑作。

 

 

クリスはブラッディローズに見とれるように見つめていたが、隣に飾られている写真、そこに書かれている名前に、クリスは驚いた。

 

 

「OTOYA・・・KURENAI・・・それにバイオリン・・・!?なぁ!音也ってもしかして、あの世界最高のバイオリニスト・・・紅 音也の事か!?」

 

 

「そうだよ。僕は、紅 音也の息子なんだ。知ってるんだね、父さんを」

 

「あ、あぁ・・・。昔、パパから聞いたことがある。

 

バイオリンの制作・演奏に関しては、紅 音也の右に出るものはいないって・・・」

 

クリスは、その息子である直人を見つめる。

 

 

「紅って名字聞いて、どっかで聞いたことがある、とは思ってたけど・・・まさか、お前が紅 音也の息子だったなんて・・・」

 

 

「あはは・・・まだまだ父さんには敵わない、未熟者だけどね」

 

照れるように言う直人に、キバットとタツロットが声をかける。

 

 

「なーに言ってんだよ。お前はもう、立派なバイオリニストじゃねぇか。

 

音也にも引けを取らないって、真夜も誉めてただろうが」

 

「そうですよ~。直人さんは、もっと自信を持って良いと思いますよ」

 

 

「うわっ!?急に出てくんなよ!」

 

「いやー、悪いな!タッちゃんがお前に挨拶したいってよ」

 

「初めまして~、クリスさん!タツロットと申します!

以後、お見知りおきを~」

 

「あ、あぁ・・・っていうか、龍!?」

「どうですか?私、カッコいいですか?」

 

「おいおい、俺の方がカッコいいだろう!?」

「・・・知らね。どっちもどっちだろ」

 

「「orz」」

すっかり落ち込んでしまう二匹。直人も苦笑していた。

 

すると、直人は表情を引き締めた。

 

「雪音さん。君に見せたいものがあるんだ」

「?何だよ・・・」

 

直人は意を決して、クリスにあるものを見せた。

それは、以前見つけた、バイオリンの楽譜。

 

楽譜を受け取ったクリスは首を傾げたが、上を見てごらん、と言われたので上を見てみると・・・。

 

 

 

 

 

『この曲を、我が最愛の子供に捧げる。雪音 雅律』

 

『愛する我が子への、想いを込めて。ソネット・M・雪音』

 

 

 

 

 

「パパ、ママ!?」

 

そこに書かれていたのは、クリスの両親の名前とメッセージだった。

 

 

世界的バイオリニスト、雪音 雅律。

声楽家、ソネット・M・雪音。

 

クリスの両親であり、外国でテロに巻き込まれて亡くなってしまった二人。

 

その名前が、確かに書かれていたのだ。

 

 

 

「何で・・・パパとママの名前が・・・!?」

 

「これを見つけたのは数日前。それから、ここに父さんの名前も書いてあるでしょう?」

「あ、あぁ・・・」

 

 

「僕の父さんは、雪音さんのご両親と親交があったみたいでね」

「・・・」

 

「それで、その楽譜の事を母さんに聞きに行ったけど・・・。その楽譜は、バイオリンの曲の楽譜。

そして、そこに書いてある通り、君のための曲なんだ」

 

 

音也とクリスの両親が作った、クリスの為の曲。

 

その楽譜が、今、時を超えてクリスの手の中にある。

 

 

「私のための・・・。パパとママが・・・」

「それでね・・・」

 

直人は近くにあったバイオリンを手に取った。

 

 

「この曲、僕に弾かせて欲しい」

「え・・・!?」

 

「この曲に込められた想い、それを・・・僕の演奏で、君に伝えたい」

 

 

直人はクリスを近くの椅子に座らせて、目を閉じ、ゆっくりと・・・演奏を始めた。

 

 

『~~~♪』

 

 

その曲は、どんな曲よりも優しく、どんな曲よりも切ない。

 

そして、その曲を聞いていたクリスは、自分の目の前に、ある光景が映ってきた。

 

それは、両親と幼い頃の自分。バイオリンを弾く父親。ピアノを弾く母親。それに合わせて歌う自分。

 

かつて、両親が生きていた頃。家族皆で楽しく幸せに過ごしていた時の記憶・・・そして、その時に、両親に語った、己の夢・・・。

 

 

『パパ!ママ!わたしね・・・パパとママみたいに、うたやバイオリンで、みんなをげんきに・・・えがおにしたい!』

 

 

「あ・・・」

 

幼いときの、純粋な・・・心からの夢。家族との、かけがえのない時間。それが、心の底から蘇ってきたのだ。

 

 

『クリス・・・夢を叶えてくれ。お前なら、必ず出来る』

『あなたは、優しい子だから・・・。皆を、笑顔に・・・』

 

 

曲に乗せて、両親の声が聞こえた気がした。

 

しかし、それは決して幻聴では無い。それは、心から断言できることだった。

 

 

クリスの心に、光が満ちあふれ、涙が流れる。

両親の残した曲が、クリスの心に光を与えたのだ。

 

 

最後まで弾き終えた直人。

クリスは俯き、涙を流しながら、両親の想いを・・・心でしっかりと受け止めていた。

 

「パパ・・・ママ・・・」

「雪音さん・・・」

 

今の直人には、クリスの「心の音楽」がハッキリと聞こえる。その音楽は、今までの攻撃的で刺々しく、悲しみに満ちた物では無い。

 

 

今までずっと冬だった土地に、春が訪れ、暖かな日差しが差し込んできたように・・・。綺麗で、喜びに満ちた物になっていた。

 

 

「私・・・思い出したよ。歌で、バイオリンで・・・パパとママみたいに、皆を笑顔にしたいって・・・私の夢を」

 

「うん・・・」

 

「でも、力で争いを無くせば笑顔のなる人が増える・・・そう思って、忘れてた・・・とても、大切なことだったのに・・・」

 

 

涙を拭きながら、思い出した夢を再確認したクリス。

直人はしゃがんで、クリスに目線を合わせて、語りかけた。

 

 

「雪音さん。もう・・・大丈夫?」

「あぁ・・・。パパとママとの夢は・・・確かに私の中に戻った感じだ・・・」

 

「その夢は、前にも言った通り、きっと未来で争いを無くすきっかけになるって」

「あぁ・・・」

 

 

「その夢を・・・今はどうしたい?」

 

クリスは、涙を拭ききって直人を正面から見ながらハッキリと口にした。

 

「叶えたい、この夢を!未来で、争いを少しでも減らすため・・・私は・・・夢を、叶えたい!

でも・・・出来るかな・・・。今まで出来なかった私に・・・」

 

 

直人は俯くクリスを、そっと抱きしめた。

 

「なっ!?ちょっ・・・おい!?」

 

 

「雪音さん。一人で頑張ろうとしないで」

「・・・え?」

 

「夢は、一人の力だけで叶える物じゃないんだ。僕たちを頼っていいんだよ・・・」

 

 

「夢は叶えられる。一人では無理でも・・・側にいて、支えとなってくれる存在と一緒なら、必ず出来る!

翼も、響ちゃんもおじさんも・・・もちろん・・・僕もいるから」

 

 

「・・・!!」

 

「だから、自信を持って。雪音さんの夢を・・・両親から受け継いだ夢を・・・皆で叶えよう。もう、一人だけで頑張る必要は無いんだ」

 

 

直人の言葉を聞いて、クリスは心が軽くなっていくのを感じた。そして、再び涙があふれてきた。

 

でも、それは嬉しさから来るものだ。

 

 

そしてクリスは、心にたまっものをはき出すように、泣き出した。

 

 

「うぁ・・・うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!もう、無理だって思ってた!夢を叶えられるなんて・・・思えなくなってた!」

 

「うん・・・」

 

「でも・・・また頑張ろうって気になっちまった・・・!パパとママの夢を・・・パパァ、ママァ・・・わああああああ!!」

 

自分でも何を言えばいいのか判らなくなって、もう泣くことしか出来ないクリス。

直人は、そんなクリスを泣き止むまで、ずっと抱きしめ続けた。

 

 

 

 

数分後。

 

「・・・・・・悪い、もう大丈夫だ・・・」

 

「そっか・・・」

 

 

直人から離れたクリスは、直人を見据えて、あるお願いをする。

 

 

「頼む・・・私にバイオリンを教えてくれ!」

「!」

 

 

「私、パパからバイオリンを習うことが出来なかった・・・。習う前に会えなくなっちまったから・・・」

「あ・・・」

 

 

「だから・・・私に教えて欲しい。パパやお前みたいに、バイオリンを弾けるようになって、ママみたいに歌えるようになって、争いで傷ついてしまった人達を一人でも救いたい!」

 

クリスの真っ直ぐな決意を聞いた直人は、笑顔でうなずいた。

 

「わかった、僕で良ければ!」

「あ、あぁ!よろしく頼む!」

 

「うん!じゃあ、雪音さんには」

「待てよ!」

 

待ったを掛けたクリスは、少し恥ずかしそうにしながらも、自分の要望を言う。

 

「雪音さんじゃあ、ちょっとムズかゆいんだよ・・・。クリスでいい」

 

「・・・うん。じゃあ、僕のことも直人って呼んで欲しい」

「あ・・・あぁ!」

 

 

直人はクリスと握手した。

 

「これからよろしくね、クリス!」

「しょ、しょうがねぇな・・・よろしくされてやるよ、直人!」

 

 

直人とクリスは、お互いを名前で呼び合えるようになった。

 

クリスは、ここで・・・ようやく、心からの笑顔になる事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

その後。時刻は夜。

 

クリスは自分の部屋・・・直人の自室の隣・・・でベットで寝ていた。

 

本格的に習うのは明日からになった。

 

「・・・直人」

 

 

しかし、まだ寝れない。これまで・・・そして今日も。

 

自分は直人に何度も救われた。彼に抱きしめられて、見つめられて、救われて・・・。その度に、胸がドキドキして・・・。

 

 

クリスは、かつて母親が語っていた事を思い出した。

 

 

『クリスもいつか、好きな男の子と出会うのかしらね・・・』

 

『男の子を好きになるっていうのはね・・・女の子にとって、すごく大切な気持ちなのよ』

 

 

 

「好き・・・」

 

その言葉を言った途端、心の中で、ピッタリと当てはまったように思えた。

 

 

「私は・・・直人のことが・・・好き」

 

今この時、クリスは・・・直人への恋心をハッキリと自覚した・・・。

 

その気持ちは、暖かく・・・優しく・・・クリスの心を満たしていた・・・。

 

 

心の温かさに包まれながら、クリスは眠りについた。

 

 

 

 

この日・・・クリスは、直人によって・・・そして、両親の残した曲によって、救われたのだった・・・。

 

 




次回予告


「・・・見つけた!」

「響・・・」

「出血大サービスだぜ!!」


第十一話 未来の想い、わかり合う時

Wake・Up!運命の鎖を、解き放て!



次回は、一期第八話の話になります。
それと、あのフォームも・・・。
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