渡と少女の出会いからしばらく経ち、今は四月最後の週。
あれから少女には会えず、渡もこれまで通りの日常を過ごしていた。
昼食時も大学の学食に渡、啓太、拓人、鈴鹿、麻衣の何時ものメンバーが集まり、食事しながら話をしていた。
「というわけで、来週からのゴールデンウィークは温泉旅行って事になったし、後は準備するだけだな」
「まぁ温泉旅行と言っても、特別凄いって所じゃないけど」
「学生の身ですから、限界はありますよ」
話の内容はゴールデンウィークに行く旅行についてである。五人は長期休暇には旅行に行くのが多い。
啓太と鈴鹿の言う通り、今年のゴールデンウィークは温泉旅行で決まっていた。
「でもこういうのは値段とか豪華さじゃなくて、安くても楽しけりゃそれで良いって事だろ」
「啓太、たまには良いことを言うね」
「おい、たまにって何だよ!この名言製造機の俺に向かって!」
「「「「?」」」」
「四人共首を傾げるなぁ!」
そんなやり取りがありつつ、温泉旅行の計画は練られていく。
ーーーーーーーーーー
大学からの帰り道、渡は一人で歩いていた。渡はふと気になり少女と初めて出会った花畑へと向かっていく。
夕日が照らす道を歩きながら、少女がこいでいたブランコのある場所に着いた。
そこに少女の姿はない。ここに来ればもう一度会えると思ったが、宛が外れた渡は残念に思いながらも帰ろうと引き返す。
「私に会いに来たの?」
すると、少女の声が背後から聞こえる。振り向くと、確かに少女の姿があった。
以前会った時と変わらない姿で、渡の後ろにいた。
「ひ・・・久しぶりだね」
「そうだね」
「い、いやぁ~こんな天気のいい日に会えて嬉しいなぁ〜」
「もうすぐ夜だけど」
「・・・な、なななななな納豆にはネギ入れるタイプ!?」
「何言ってるの?」
会話が尽く滑る。渡も緊張のあまり変になってしまい、少女は意味がわからず首を傾げるが表情が笑いに変わっていく。
クスクスと笑う少女、その笑顔は本当に愛らしく見る者を魅了して離さない。
渡も微笑みに見惚れているが、そんな渡に少女は近づいてくる。抱きしめられる距離まで近付き、渡を上目遣いで見上げる少女は渡への興味に満ちている。
「変なの・・・あなたみたいな人は初めて・・・」
「あ・・・ありがとう、ございます・・・」
「何で敬語?」
「ええと、その・・・何でだろう?」
「「・・・・・・アハハハハハ!」」
やがて二人共笑い出す。二人のやり取りがちょっと可笑しくて、でも楽しさも感じられる。
「えっと・・・そうだ、良ければ君の名前を聞いても良いかな?僕は紅 渡って言うんだ」
「私の名前?無いよ」
「・・・・・・え?無い?」
「うん、無くても不便に思った事は無いから。よろしくね渡」
名前が無いという少女の言葉に呆然とする渡。少女は特に気にせず渡の名を呼ぶ。
「渡、こっち来て」
少女は渡の手を繋いで走り出す。少女の方から手を繋いできてきた事に驚きながら着いていく。
着いたのは、少し離れた所にある湖。色とりどりの花々に囲まれた円形状の湖だ。
夜になり浮かび上がった月の光が湖に反射し、綺麗な光景を作っている。
「少し前にここを見つけてね、綺麗だから渡を連れてこようと思って」
「わぁ・・・!」
美しい光景に渡も見惚れる。少女は渡から離れ、湖の前で歌い踊る。
渡も知らない歌に踊りだが、少女の綺麗な歌声と上手な踊りに加えて花々や月光や湖が合わさり少女自身の可憐さを更に引き立てる。
(本当に、綺麗だ。まるであの子自身の美しさと周囲の美しさが見事に調和しハーモニーを奏でているみたいだ・・・あ!)
心の中で感想を考えていると、渡はとある事を思い付く。そして、歌い終えた少女が言う。
「どうだった?」
「うん・・・凄く良かったよ」
「それは良かった」
「あ、あの!」
「何?」
渡は勇気を出して、先程思いついた事を言う。
「君が良ければだけど・・・さっき君の名前を思いついたんだ。奏っていう名前で呼んでも良いかな・・・?」
「かなで?」
「うん・・・さっきの君自身の美しさと周囲の美しさが見事に調和しハーモニーを奏でているみたいって思って・・・。
そこから奏って名前を思いついて・・・それで君が良ければ奏って呼ばせて欲しいんだ」
渡の勇気を出した申し出に、少女はうーんと考えて・・・。
「まぁ・・・無くても困らなかったけど、渡が呼びたいなら良いよ」
了承した。渡は自分で考えた名前が受け入れられた事に安心する。
「ええと、もしよければまたこうやって会いたいな」
「良いよ。渡と一緒にいるの、何か楽しいし」
こうして渡と少女・・・奏は再会を約束して帰路についた。
渡は今日だけで勇気をたくさん出した事を実感しつつ、自宅に戻っていった。
一方、奏は拠点でファンガイアの友人である浅間 美穂と話をしていた。
「美穂、これから私の事は奏って呼んでね」
「はぁ?急に何よ」
「私の名前。無いよりあった方が良いかなって」
「・・・まぁあなたがそう言うなら良いけど、どういう風の吹き回し?」
「何となく」
「・・・・・・そう」
美穂はそれ以上追求せず受け入れたが、急な申し出に疑問を抱いていた。
奏は美穂の様子を気にする事無くベッドに横になるが、目を瞑ると渡の事が浮かんできていた。
不思議と、それを受け入れている自分がいる事を感じながら・・・。
今回で女神が奏という名を得ました。
本編に比べると「普通の女の子」という感じですが、これが本来の性格です。
悲劇を経て、本編のような感じになってしまいました。