オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております




 

「まずは皆さんと取引をしたい事があるので、少しばかりお時間をもらえないでしょうか?」

 

 

陽は地平の向こうに沈み始め、倒れたものの流した血と夕日によって赤く染まっていた草原には暗い夜の帳が静かに下りて来ようとしていた。

私の隣には盟主が立ち、そして後ろにはアルベドが控える。 そして私たちは警戒態勢でこちらの様子を窺っている法国の兵士達と対峙していた。

彼らの頭上には天使たちが飛び回り、いつでもこちらに襲いかかれる。

でも、今は突然ガゼフと入れ替わって出現した私達の正体と実力が掴めないからか、すぐには刃を交えるつもりはないようだ。

私が倒した天使たちも召喚しなおされて数は元に戻っている。

炎の上位天使は私達には問題にならないレベルの雑魚天使とはいえ、やっぱり召喚者を先に片付けないとキリがないな。

睨め付けるように兵士達を見回すと、視線に圧力でも感じたのか彼らが小さく呻きながら後ずさったのがわかった。

指揮官と思われる男は舌打ちをする。

 

「……取引、か。 既にそちらには我々の任務の邪魔をされた上に攻撃を受けている。 既に敵対は明白なようだが、今更なんの取引だというつもりかね? 命乞いでも?」

 

指揮官が明らかにこちらを挑発するような口調と嘲りのニュアンスを乗せて来たけど、部下を鼓舞するためのあからさま虚勢なのはバレバレだよ。

弱い奴、自信のない奴ほど声を大きくし、一段高いところから人を見下ろしたがる。

リーダーとしては強気に出ないといけない場面だっていうのは理解するけど、でもお前達の実力では……私や盟主とお前達との実力差ではそれは悪手だよ。

 

「相手を見て吠え掛かることだな、野良犬」

 

私が下腹に力を込めて発した低い声、その一言で指揮官を始め、兵士達が突風でも受けたかのように体が揺れ、どよめきが起こる。

ほら、威圧って言うのはこういう風にするんだよ。 チャラ男のバイト君のふざけた勤務態度を〆る時の要領だ。

ポイントは「あんま舐めた口きくとその顔面ボッコボコにぶん殴って素っ裸にして橋の上から突き落とすぞ!」って脅すような気持ちをセリフに込める。

顔はにこやかな超絶スマイルを忘れずに。 さあきみもやってみよう!

 

盟主が手振りで私を制した。 一礼し、半歩下がる。

 

「まず、最初にはっきり言っておかなくてはならない事が一つ。 皆さんでは私たちには勝てません」

 

私とはうってかわって穏やかな口調で盟主は宣言する。

確固とした自信に裏打ちされたその言葉に、私の脅し文句の時ほどではないにせよ有無を言わせないものを感じ取った指揮官はゴクリとつばを飲み込んだ。

きっと、こう考えているだろうな。

気配も察知させず突然最初からそこに居たかのように現れて、そして数体の天使をものの数秒で倒した、ガゼフ・ストロノーフと同等かそれ以上の実力者と、そして同じくガゼフとその部下達と自分らを入れ替えるように転移させて現れたマジックキャスターと重装甲冑の戦士。

相当な強者に違いないし、戦えば自分達にも大きな被害が出るだろう。 何より予定や計画になかった闖入者で、こちらはガゼフたちと戦った後で多少の消耗をしているし、戦っている途中に現れた……最初から参戦してこなかったという事は、自分達の戦いを観察していたということ。

ある程度の勝算や対策を考えたから出てきたわけで、実力の上限が不透明なのもあって不用意に攻撃を仕掛けるのは危険だ。

こちらも情報の分析と対処を検討する時間稼ぎが必要だ、だから相手の会話に乗りつつ、しかし情報は引き出しやすくするために主導権はこちらが握るように進めたい……。

わざと強気な態度に出るのもそのためだね。

こういう時って言い負けたり相手のペースに嵌ってる空気になると味方の士気に関わるから、多少は無理しないといけない。

でもそれは、互いの実力が拮抗してて、私達の方も戦いをできれば回避したいって考えがある時なら、だ。

そう分析考察していると、やっぱりその通りだったようで指揮官と盟主がそんな感じの会話をしていた。

 

「……その私がここにきたという事は、充分に勝てうるという確信を得たから。 もし皆さんに勝てないと判断すれば、あの男は見捨てたと思われませんか?」

 

さすがは盟主。 瑕一つない正論です。

だってさ、こいつら使ってる魔法や召喚している天使からしても、またガゼフ殿を仕留める為に使った作戦を見ても、どう考えてもレベル低いものね。

もしこいつらがもっと上位の実力の持ち主だったら、こんなまだるっこしい手は取らない。 もっと簡単に単純にやってのける。

そう、だから……魔法で離れたところから全部吹っ飛ばせる盟主があえて敵の正面に出てきて問題ないほどに、こいつらは大したことがないんだ。

言葉を返せないでいる指揮官に、盟主はさらに質問を投げかける。

彼らが引き連れている炎の上位天使についてだ。

私はそれほど疑問に思ってなかったし、ガゼフを攻撃していたときの他のやたら低位な魔法もそうだったけど、こいつらは普通にユグドラシルの魔法を使っている。

でも、なんかどうも私達と同様のプレイヤーじゃないっぽいんだよね。

<霊体化>解除して出現するところは見せたのに、反応が明らかに鈍い。 こっちを警戒した防御陣形は一応取っているけど、<霊体化>対策になってない。

こいつらは「スペクター」を……「スペクター使いのプレイヤー」を知らない。

 

「この世界には宗教としてのキリスト教は無いにも関わらず、上位天使と呼ばれる天子の存在は非常に不自然。 それが意味するところは……」

 

盟主、なんだか神話の薀蓄になりかけてます。 長い話で指揮官さんもなんかイライラしてるし。

あとアークエンジェルっていうよりアルヒアンゲロスってルビ振ったほうが格好いいと思うので前々から運営には一言物申したかった。

 

「要領を得ん。 何が言いたいのだ。 独り言はそれぐらいにして、こちらの質問に答えてもらおう。 ストロノーフをどこにやった?」

 

「村の中に転移させました」

 

「……何?」

 

何で不思議そうな顔をしているのでしょう、指揮官さん。

逆にこっちが訊きたい。 どこか知らない遠くの地にでも連れ去ったと思っているんだろうか? 神様じゃあるまいし。

それとも、姿を透明化させてまだここに居ると思ってたんだろうか? 手当てもさせないで? それじゃ助ける意味が無いというか死ぬでしょう。

ナザリックに運び込むわけにも行かないんだから、選択肢なんて限られてるよ。

多分、指揮官さんはあんまり頭が働いてないんだろうな。 正体不明の怪しくて強そうな三名と舌戦してるんだから心の余裕が無くて当たり前か。

 

「偽りを言ったところで、村を捜索すれば分かることだぞ?」

 

「偽りなど滅相も無い。 お聞きになったから答えたまででしたが……率直に答えたのにはもう一つだけ理由があります」

 

「何だ、取引というのはそれか? これ以上無駄な時間をかけさせないというのであれば、考えよう」

 

あ、指揮官さん話の糸口が見えて来たなって思ったね?

得体の知れない連中が相手だものね。 交戦は避けたいし、場合によっては撤退、でもできればガゼフの首だけは確保して帰りたいよね。

……でも、そういうわけには行かないからね。

 

「……それほど手間や難しい話というものではありませんとも。 実は……お前と戦士長の会話を聞いていたのだが……本当によい度胸をしている」

 

それまで丁寧口調で答えていた盟主の口調と雰囲気が途中から威圧的なものに変わった。

 

「お前たちは我々アインズ・ウール・ゴウンが、このモモンガとあんぐまーる両名が手間をかけてまで救った村人を殺すと広言していたな。 ……これほど不快な事があるものか」

 

盟主の言葉に静かな怒りが乗り、その怒りの気迫は物理的な風を伴って盟主の身にまとうローブや私のマントをはためかせ、法国の兵士達を襲った。

そこに込められていた意思は、殺意。 明確に、こいつらを殺すと決定した私達の……アインズ・ウール・ゴウンの意志にして宣告。

 

「ふ、不快とは大きく出たな、魔法詠唱者……。 で、だからどうした?」

 

指揮官はなおも虚勢を張ろうとするが、声が僅かにどもり、震えたのは隠せないぞ。

私からも言わせて貰おう。

剣を持ち上げ、切っ先を指揮官に向ける。 指揮官は引きつりかけた顔で私を見た。

 

「……貴様らはあの村を殺戮しようとしただけに留まらず、昨夜は別の村を襲っていたな? 貴様らに相違あるまい。

 それも、ガゼフ・ストロノーフ戦士長殿を罠にかける囮として、無辜の民を犠牲にした」

 

「……だ、だから何だ」

 

「貴様達の様な人間どもが互いに殺し殺される(PK)のに我は興味などない。 だが、それを無用な殺戮を楽しむための隠れ蓑に利用するのは我慢ならん。

 元より、我は義勇とも仁徳とも無縁、正義に背を向け悪を成すものなれど、貴様ら外道にして鬼畜の徒とともに天は頂かず。

 賊徒討つ(PKK)べし。 慈悲は無い」

 

賊徒と言われ、傷ついたのか指揮官の表情が僅かに歪む。 冷静さを失わないよう勤めているが、丸分かりだ。

不愉快だろうな。 王国戦士長一人を殺すためだけに大掛かりな罠を仕掛けるような奴らだ、自分の行いを正しい行為、村人の犠牲を必要な犠牲とでも心の中で摩り替えて正当化でもしているんだろう。

お前にとっては人を殺す行為は……人は殺していい奴と殺すべきじゃない奴の二つに両極端にわける奴は、殺していい方はいかように無残に残虐に殺しても構わないし罪にならない、殺したところでどうという事は無い、みたいに考えているんだろう。

人はそうやって正当化する。 自分のやったことは正しいことで、正しいから何をしても許される。 そう思いたがる。

正当化し正義を掲げる。 自分の殺したものを悪と決め付け、あるいは目的のための崇高な殉教者だと自分を納得させる。

それに無理やりつき合わされ踏みにじられる人たちの事はお構いなし。

それがお前達の正義だ。 なら、私はそんな正義には背を向ける。 正しさには従わぬ悪逆の騎士となる。

それが私の「悪」のあり方であり……盟主と盟友達が示してくれたアインズ・ウール・ゴウン(悪のロールプレイ)のあり方だ。

 

「先ほど取引と言ったが……正しくは取引にもなっていないな。 こちらの要求は抵抗することなく命を差し出せ、そうすれば痛みは無い、だ。 そしてそれを拒絶するなら愚劣さの代価として、絶望と苦痛、それらの中で死に絶えていけ」

 

盟主が一歩足を前に進める。

その一歩だけで法国の兵士たちが見えない手に体を押されたかのようによろめいて後ろに下がった。

怯えを含んだ小さなうめき声がいくつも挙がる。

彼らは盟主のまとう威圧感に打ちのめされ、目の前に立ちはだかった見える形の「死」に恐怖していた。

 

「これが偽りではなく真実を答えた理由。 ここで死に行く者たちならば語っても構わない」

 

さらに、盟主が一歩。 両手を横に広げながら、まるで幼子を脅すときに恐ろしげな怪物の真似をするごとく。

私もその隣でゆっくりと歩を進める。 切っ先を敵に向け、殺意を込めながら。

一歩ずつ近づいてゆく死の恐怖に耐えられなくなった指揮官が、掠れた声で叫んだ。

 

「天使たちを突撃させろ! 近寄らせるな!」

 

二体の天使が猛然と私と盟主に襲い掛かり、手にしていた剣を突きこもうとした。

が、そのうち片方は突如として後ろから私に頭部を掴まれ……別に<霊体化>を使っては居ない、単純に速度で天使をはるかに上回る私が横を回りこんで背後から逆に襲っただけだ、そして右手の剣で胴体を横薙ぎに両断される。

その上半身を投げ捨てると、盟主に向かっていた方の天使の右肩を掴んで引き寄せ、強引に振り向かせると左わき腹から斜め上に切っ先を突き入れた。

刀身から立ち上る負属性ダメージのオーラエフェクトが内部から天使の体を侵食し、消滅させた。

 

「……下級の天使ごときでは我には止まっている蝿を叩き落すよりも容易い」

 

兵士達の方を振り向きながら言い放つと、一瞬の沈黙のあとに時間差で驚愕と恐怖の悲鳴が上がった。

なるほど、私の動きが早すぎて、何が起こったのか理解が追いつかなかったのかな。

ちょっと本気を出して動くと、速度や敏捷さのステータス差があり過ぎて殆ど瞬間移動したように見えるんだろう。

私の主観からはそんな動きが変わったように認識してないから、というかこいつら全般的に動きがゆっくりだし無防備過ぎる。

殆ど黙って突っ立っている所を切り殺している気分だ。

 

「な、何をしている!? 数で圧せ! 囲むのだ!!」

 

焦り気味の指揮官の指令でさらに、複数の天使が前・左・右から襲い掛かってくる。

兵士たちはまだ威圧と衝撃から立ち直っていないのか、その行動は波状というより散発的で統制が取れていない。

このままでも問題は無いけれど、でもやっぱり召喚者を先になんとかしないと面倒だ。

私は<霊体化>を使用。 次元の狭間に身を置く状態となり、あらゆる干渉を受け付けない状態になって天使たちの隙間をすり抜けた。

背後では盟主に天使たちが殺到する。 一瞬歓声が上がりかけるが、それはすぐに困惑のどよめきと驚愕の叫びに変わった。

 

「言っただろう? 君達では私達には勝てないと。 人の忠告は素直に受け入れるべきだぞ?」

 

複数の天使の攻撃を受けても平然と立つ盟主。 信じられないようなものを見る目で硬直する兵士達。

 

「嘘だろ……」

 

「ありえん……!」

 

「剣が体を刺し貫いているのに!」

 

「トリックだ、何かのトリックに決まっている!」

 

盟主は上位物理無効化を持っている。 私も盟主ほどのじゃないけれど、物理無効をちょっとは持っている。

まあ、最初から防ぐ必要性あんまり無かったんだよね。 

盟主が両手で天使を叩き潰す姿に兵士たちが混乱をきたしているのに乗じ、接近して彼らの背後に回った私は手近な一人に手を伸ばし、<霊体化>を解除してその頭を掴んだ。

 

「ぎゃああああああああああああ!?」

 

悲鳴を上げる兵士に<略奪の接触>を発動。 今度は灰化しなかった程度にはレベルが上の兵士だったようだ。

なので剣で背中から串刺しにして殺す。 これで召喚される天使が減った。

イマイチキャラロストするのとしないののレベル差がわからない……。 あ、経験値ご馳走様でした。

そして、やっぱり<霊体化>対策の陣形を取ってない辺り、こいつらはプレイヤーじゃないのがほぼ確定した。

<霊体化>はあらゆる物理攻撃も魔法攻撃も受け付けない。 壁なんかもすり抜けて移動することが出来る便利なスキルだ。

その代わりとして<霊体化>中はこちらも何も干渉できないことと、少し長めのクールタイムが設定されている。

クールタイムは慣れれば別に問題ない、というかスペクターを極めたプレイヤーには再度<霊体化>するまでの間に倒されないだけの頑丈さやダメージを食らわないだけのプレイヤースキルは持ち合わせている。

むしろこれを使いこなせないと<霊体化>は「奇襲仕掛けたはいいけど敵にボコられて速攻で死ぬ」という間抜けなだけにしかならない。

そして、もう一つの代償というか制限として、<霊体化>が解除される時に他のプレイヤーやモンスター、建物の壁や柱なんかの構造物と重なっていると、解除ができないあるいはペナルティを受ける……下手すると※いしのなかにいる※状態になるということだ。

なので、<霊体化>による奇襲攻撃を防ぐ対策法は二つ。 常に壁を背にしていること。

壁が無い場合、仲間同士で背中をカバーしあうこと。

これで背後に出現したスペクターにぶっ刺されるという事は無くなる。

<霊体化>中はあらゆる感知・看破も通用しないという無敵すぎるスキルに見えるけれど、こういう簡単な方法での一応の対策も可能……という辺り、バランス配慮はされている。

でもこいつらはその対策方法すらしてなかった。 プレイヤーの対死霊系モンスター基本常識を知らない、つまりプレイヤーじゃないって事だ。

そういう事を考えながら、私はさらに二人ほどを<生命力吸収>で屠る。

 

「ひいいいいいっ!?」

 

「死霊、こいつ死霊だ! 対アンデッド……ぎゃあああああっ!!」

 

ようやく気づいたか。

そりゃあレイスやスペクターの種族取得しておいて、前衛系の戦士や騎士の職業取る奴あんまり居ないし、かなり珍しい構成だと我ながら思うけどさ。

種族特性的には暗殺系か魔法職の方が合っている。 ロールプレイ重視のロマン構成だもの、死霊が本来必要も無い鎧着て地面を歩いて剣振ってるとか誰も思うまいさ。

ともかくも、盟主への天使の攻撃が通じず、そして私が接近して直接攻撃により撹乱したために兵士たちの指揮系統と陣形は崩壊し、統制は乱れている。

そこへ、盟主の<負の爆裂>が天使たちを一掃して彼らを一気に絶望の淵へと叩き込んだ。

 

「あり、ありえない……」

 

40体近くの天使が一瞬にして消滅し、指揮官を含む兵士たちは一瞬呆然とし、そして次の瞬間には恐慌と混乱に駆られて魔法による、それぞれ個々のメチャクチャな攻撃に走った。

 

「うわあああああああ!?」

 

「化け物が!!」

 

ある者は言葉にならない悲鳴、ある者は罵り交じりの叫びを口にしながら、ユグドラシルの中で見慣れた低位や中位の魔法を乱れ討つ。

盟主にはもちろんその程度の攻撃は効かないし、私も射線を避けながら立ち回るのは得意だし、<霊体化>を交えつつ回避し、そして再出現して引っ掻き回すのを継続する。

 

「やはり知っている魔法ばかりだ。 ……誰がその魔法を教えた? スレイン法国の人間か? それとも……聞きたい事がどんどん増えていくな」

 

盟主は呟きながら私の方にアイコンタクトを送る。

承知。 少なくとも、情報をたくさん持ってそうな比較的立場が上の人間……指揮官だけは生かして捕らえて尋問することにしよう。

殺すのはその後だ。

何を血迷ったのかスリングを取り出そうとしてもたついている兵士の首を切り落としながら私は盟主にアイコンタクトを返した。

 

「監視の権天使! か、かかれ!」

 

指揮官を確保しようと接近を試みた私に、もはや悲鳴に近い声で恐怖に顔を歪ませた指揮官が、今の今まで側に留まらせていた一回り大きな天使に命令した。

天使がその巨体に似合わぬ俊敏さで手に持つメイスを振りかぶり、私に叩き付けようとする。

それを、後方に跳躍して回避、空中で一回転して着地。

他の天使よりは素早いようだけれど、やはり動きは鈍く感じる。 予備動作の大きさで次になんの行動が来るか丸見えだ。

さらなる追撃が来るが、私は特に避けようとも防御しようともせず、着地したときの膝を屈めた姿勢のまま。

そこへ、天使の胴体に小さな黒い炎が灯った。

次の瞬間には天使の全身を巨大な黒い炎が覆い、莫大な熱量が周囲の気温を上昇させ、巻き起こった熱風が私のマントをたなびかせた。

瞬く間に燃え尽きた天使は粒子すら灰になったかのように跡形も無く消える。

残ったのは暗い夜空だけ。

ナイス連携です盟主。 兵士達には見えないように後ろ手で盟主に親指立ててGJ。

盟主もさりげなく親指立ててGJ。

突き刺さるアルベドの視線。

 

「ば、ばかな……」

 

「一撃だと……!?」

 

「ひいっ……」

 

「あ、あり、ありえるかああああああ!?」

 

混乱に次ぐ混乱、悲鳴、恐怖、そして怒鳴り声。

さあ、どんな気分だ? お前達が私達より弱いってことは、ガゼフと戦っているのを見てよく理解できた。

召喚する天使は下位。 使う攻撃魔法も下位。

それどころか、一撃一撃はガゼフを殺しきれるほどの威力じゃなく、数で押してボコボコにして、弱らせて止めを刺す程度の戦法をあえて取る……村を囲んだ時点で遠距離から範囲攻撃可能な魔法で村ごと焼き払うとかして来なかった事からも、「そういう魔法は使えない、選択肢に入っていない」というのは明白だったものね?

そういうのが使えるなら最初から使っていたはず。

ゲーマーの傾向として、MPを殆ど使って大ダメージを与える魔法よりも、中程度の消費でもっともダメージ効率のコストパフォーマンスを叩き出せる魔法を主力に選ぶ傾向がある。

その方が最終的な相手に与える総ダメージ量と、戦闘を継続できる時間は延びるから。

MP使い果たして戦闘に参加できなくなった魔法職とか無駄だもの。

つまり、逆に言えばそいつがどんな魔法を主力に使ってるかで、最大MPの上限と、習得している魔法階位および職業のレベル帯がおおよそ検討がつくというわけ。

だから、こいつらは私達の脅威たりえるレベルの存在じゃない。

奥の手を用意している可能性はあるけど、でもどのみち「出し惜しみ」して使わず取っておく程度の奥の手なんて、あんまり大したものじゃない傾向にあるのよね……。

得てして最後まで使わずに取っておくか、使う機会を失してせっかく発動したのに不発に終わっちゃったり。

指揮官さんは「そんなはずはない! ありえない!」って喚いているけど、現実を受け入れよう。

自分より強い相手に一方的に踏みにじられる立場になった気分はどうだ?

 

「……貴様らは一体何者だ! 上位天使を滅ぼす奴が無名のはずはない! 貴様らの正体は、本当の名前は何だ!?」

 

私はゆっくりと立ち上がり、振り返って盟主と顔を見合わせた。 そして肩をすくめる。

盟主もどこか呆れ、苦笑気味に指揮官さんに答えた。

 

「何故そんなはずが無いと思った? お前が無知なだけか? それともそういう世界なのか? 一つ答えだけ置こう。 我々はアインズ・ウール・ゴウン。 かつて世界に名を轟かせ、知らぬものの無かった存在だ。 そして私達の名前も決して偽名などではない」

 

兵士達が沈黙した。 

恐怖に彩られた兵士達の泣きそうな表情、夥しい汗の臭い、乱れる耳障りな動悸と喘ぐような小さな悲鳴。 そういうものまで伝わってきそうな重苦しい空気があたりに充満している。

指揮官の複雑な感情に歪んだ表情、あれは生き延びる方策を必死で考えを巡らせている顔だ。

手が懐をまさぐっている。 そこに何かを掴んで居るのを私は見逃さなかった。

 

「防げ! 生き残りたいものは時間を稼げ! 最高位天使を召喚する!」

 

懐からクリスタルらしきものを取り出し、なけなしの勇気を振り絞った声で兵士に命令する。

やっぱり奥の手を隠し持っていたか。 

でも、兵士達を奮い立たせるために大声で叫んで、いかにもな動作で取り出したのは失策だ。

ついでに言うなら、もっと早く……遅くとも権天使が消滅させられた直後に使うべきだった。 そう、機会はとっくに失している。

私は指揮官が叫ぶと同時に影の雌馬を呼び、その背に跨って<チャージ>のスキルを発動、そのまま指揮官に向けて嵐のような突撃を敢行していた。

背後では、盟主がアルベドに防御を命令している。

 

「見よ! 最高位天使の尊き……ひいっ!?」

 

果敢にも前に立ちはだかった兵士を<チャージ>によって跳ね飛ばし、指揮官の眼前に迫った私はそのままの勢いで剣を下から上へと切り払った。

空中へと指揮官が持っていたクリスタルと、指揮官の腕が肩口から斬り飛ばされて放り投げられ、血の飛沫が弧となって描かれる。

 

「ぐあああああああああああーーーっ!!」

 

指揮官は絶叫して片腕で切り落とされた右腕の切り口を押さえ、膝を付いて悶絶した。

その目の前に、クリスタルと自分の腕が落ちる。

激痛を堪え、指揮官はなおもそのクリスタルに手を伸ばそうとした。

その腕を、私は影の雌馬の馬蹄で容赦なく踏み砕かせた。

 

「あぎゃああああああああああああ!?」

 

骨が砕ける嫌な音が指揮官にも周囲の兵士達の耳にも届いたことだろう。

私は泣き叫ぶ指揮官や、固まったまま動けないでいる兵士たちを尻目にゆっくりと愛馬を下り、地面に転がっていたクリスタルを拾い上げた。

絶望の表情で指揮官がそれを見上げる。 クリスタルをしげしげと眺めながら私は呟いた。

 

「……こんなものが貴様の切り札か」

 

魔法封じの水晶。 ユグドラシルのアイテムだ。

魔法だけじゃなくアイテムもこの世界にある……中身が何かは知らないが、本当に最高位天使が封じられて居るとちょっとヤバかったかも。

苦戦するという意味で……私や盟主の種族相性的にはね。

まあ、発動する前に阻止されたから何が入ってようと意味は無かったのだけれど、一応調べて置こう。

<道具鑑定><付与魔法探知>

……その結果に私は衝撃を受ける。 これが? これが最高位天使!? 思わず指揮官さんの顔を見る。 二度見する。

 

「……盟主。 これを御覧ください」

 

私はそれを盟主へと投げ渡した。

放物線を描いてクリスタルは盟主の手に収まる。 そして、盟主もそれを調べて思わず顔を手で抑えた。

 

「これが……この天使が私達に対する最高の切り札? なんということだ……。

 くだらん。 本当にくだらん」

 

盟主、せっかくアルベドにスキル使わせてまで警戒態勢取ったのにね。

私も速攻でスキル使って阻止したのにね。 ちょっと本気になったのに。

これの中身が威光の主天使って……最高位じゃないじゃん! 上から四番目だよ!

私は一気に脱力して、そして生暖かい視線で影の雌馬に腕を踏まれたままの指揮官さんを見下ろした。

指揮官さんは、よく判っていないようだった。

うん、いいよ、もうあなたはそれで。

 

 

 

 




モモンガ様とあんぐまーるはニグンさんに酷いことしたよね(´・ω・`)

あんぐまーるはアルベドに酷いことした(出番を奪った的な意味で)よね(´・ω・`)

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