オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております





毛玉野郎様作「オーバーロード ~魔法系スケルトンが居るのなら、物理系スケルトンが居たっていいじゃない!~」
よりサリエル様
ナトリウム様作「オーバーロード モモンガ様は独りではなくなったようです」
よりケイおっす様
雄愚衛門様作「エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~」
よりアバ・ドン様
をゲストとしてご登場させる許可をいただいております


外・1 Dark chest of wonders 

 

 

 

「やっちゃった……」

 

ログアウト直後、私は机に突っ伏して軽く頭をゴンゴンと打ちつけながら悶えていた。

今日は最悪だ。 いつもの様にいつもの狩場でレベル上げに勤しんでいたら忌々しい厨プレイヤーどものPKに逢った。

それだけでもかなり気分が滅入る出来事だというのに、さらに私自身の行動で自己嫌悪にさいなまれる墓穴を掘った。

PKそのものは他プレイヤーの乱入で乗り切ったのだけれど、せっかく親切にも助けて貰ったと言うのにそのプレイヤーさん……モモンガさんとか言ったか。

その人に対してメッチャ失礼な態度を取ってしまった。

私のプレイスタイルはロールプレイ重視、自分で脳内想像したキャラクターの設定通りになりきりをすることだ。

だが、私のプレイしているこいつ……「あんぐまーる」は、ソロを前提とした孤高の悪の騎士というロールプレイなので、対人コミュニケーションを向いた性格をしていない。

例えて言うなら、わが国伝統の…150周年をめでたく突破したスーパー戦隊の、悪の組織の一員でありながら真っ黒なスーツで一匹狼でクールな幹部キャラ居るでしょ?

あんな感じなので、PK連中を8割がた倒してもらったというのに素直にお礼も言わなかったしあまつさえソロでは寂しくありませんかってギルドに誘ってもらったのにすげなく断ったし。

 

「なんでこう難儀なキャラクター作ったんだよお……しょうがないじゃんゲーム内で友達作るとかそういうの全く考えてなかったし、ひゃっほう指輪の幽鬼が作れる!ってもうそれしか頭になかったんだから……」

 

ごめんなさい。 ほんと申し訳ない。

なんかメッチャ高レベルの上級者っぽい人だったのに。 人格できてそうだし。

こっちは絶対痛々しい厨なネトゲプレイヤーだとしか思われてないだろうなあ……。

なんなんだよあの態度。 まるで「余計なことしやがって」とか言ってるように受け取られかねないじゃないか。

本当は全然一人でなんとかできる状況じゃなかったくせに。

というかソロって結構きついというのに。 友達にならないかって誘われたんだから素直に受けて置けよあんぐまーるの馬鹿! ……あんぐまーるは私自身だ。

欝だ。 死にたい。

 

「友達かあ……リアルの友達は何人か居るんだから、ネット上で友達作る必要性感じなかったんだよね。 というかネット上の友達とかしょせん直接顔合わせない上辺だけの付き合いじゃん?」

 

そう思ってたのが今までの私だ。

どこの誰とかわからないし、お互いの自己紹介や喋ってることがどこまで本当か確認も取れない。

そういう「本物ではない」付き合いがネット上の関係という認識だけど、概ね間違っていないでしょ。

とはいえ、リアルの高校・大学時代の友達や幼稚園時代からの幼馴染の付き合いともなんとなく物足りなさを憶えてるのも事実。

 

『ゆっこはファンタジー好きだね。 それ凄い大昔の映画でしょ?』

『ゆっちん家行くといつもこれのフィギュア置いてるよな。 正直、これ不気味で苦手』

『卒論もJ・R・R・トールキンにするの? あんたの人生そのものがもうそれだよね……』

『なんでサム×フロとかレゴ×ギムじゃなくてナズグルなの!? おかしいよ!!』

 

……友達はいる。 でも、趣味を同じくする友達はあんまり居ない。

居てもなんか私の方がその趣味の中では異端であるかのように扱われる。

少なくとも登場人物を掛け算にする方が異端だろうっていうか貴腐人はいい加減にしろ。

わざわざ毎年東京まで出かけて行って私にそういう本を買ってこなくてもいいから。 布教はノーサンキューですから。

 

……ユグドラシルでも、なりきりロールプレイしているプレイヤーは結構見る。

でも、私と同じものを題材にしているプレイヤーに遭遇したことはない。

何万人もプレイヤーが居るんだったら、一人か二人はそういうのが居てもいいだろうに。

あるいは、まだ私が遭遇してないだけかもしれない。

居たとしても、「旅の仲間」のような方での集まりの可能性が高いんだろうな。

私がその輪に入ってるのは不自然だ。 でも風見が丘の襲撃ごっこはさせてもらえるかな?

厳密には私のあんぐまーるは、「アングマールの魔王」とは全然別のものなんだけど。

友達。 仲間。 ギルド。

もういっそ自分でギルド作って、モルドールとかアングバンドとか名づけてメンバー募集してしまおうか。

ソロを諦めることになるけど。

 

「アインズ・ウール・ゴウンか……拠点持ちってことは結構ランキング上位のギルドなのかな」

 

ふと気になった私は、ネット端末を起動して検索ワードをうちこんだ。

……なんかいきなり悪口と中傷と晒しスレが大量に引っかかってくるんですけど先生。

 

 

 

 

『それでね、そのアインズなんとか言う人たちが凄い悪い人たちなんだけどね、今その人たちを何とかしようって集まりがあって話し合ってて、なんだか凄く面白いことになってるから!』

 

「……そうなんだ。 でもさ、今私仕事中なの。 今からゲームとかはできないの」

 

『でもねでもね、色んな人に拡散希望でね、ゆっちーもね、休み時間とかでいいからね、来て欲しいの! 待ってるからね!』

 

そう言って電話は一方的に切れた。 私はため息をつきながら通話終了のアイコンを押す。

幼馴染で幼稚園以来小中高と長い付き合いの依ちゃんは昨年離婚して実家に戻ってからネトゲにはまり、引き篭もり状態で平日昼間からゲームができるのだけど、入社したてでやる事も憶える事も多い私は違うんだから一緒にしないで欲しいものだ。

逆に私のログインしている時間帯はよりちゃんは処方されたお薬を飲んで眠っているので、ゲーム内で絡まれたり強制的につき合わされないだけマシなんだろうけど。

こんな事なら先月顔を合わせたときにたまたま同じゲーム、ユグドラシルをしているとか話さなければ良かった。

久しぶりに会ったよりちゃんはかつての可愛らしかったふっくらした丸い顔がすっかり痩せこけており、肌も荒れているし一日の殆どをゲームのための時間に費やし不健康そうな生活を送っているのは目に見える。

ああいうのを、廃人とか中毒者っていうんだろうか。 でも三年前の……結婚式で見た幸せそうなよりちゃんはあんなんじゃなかった。

よりちゃんは、悪い子じゃない。 これからも幼馴染で友達だ。

でも前のようなよりちゃんに戻ってくることは、無いんだろうな。 

寂しい気持ちになりつつ給湯室から仕事場に戻るため廊下を歩きつつも、私はよりちゃんの言ってた……アインズ・ウール・ゴウンの反抗同盟だかなんだかが少し気になった。

実際、私が調べた限りではモモンガさんのギルドに関する噂や評判は良くない。

ランキングの上位ギルドに対する誹謗や妬みは付きまとうものだけど、アンチスレや晒しスレの尋常じゃない多さやメンバー個別のスレ、注意や対処をまとめたサイトまであるってのはどうなんだろう?

アバ・ドンスレってのがなんか1000に届きそうな勢いだし……メンバーの一人らしいけどこの人一体何やったの。

 

「集会所の入場パスコードは、貰ったけど……どうしようかな」

 

これだけ評判の悪いギルドなのに、でも、あの時助けれくれたモモンガさんは、良い人だった。

気にはなる。 悪評と、モモンガさんの人間性と、どちらが本当なのか。

アインズ・ウール・ゴウンを嫌っている人たちが、どういう人間の集まりなのか。

私は、帰宅したらすぐにでもユグドラシルにログインしようと決めていた。

 

 

 

 

集会場は町の中にある大きめの建物の内部ホールを借り受けて行われていた。

入り口には天井付近から「反アインズ・ウール・ゴウン&被害者同盟レジスタンス決起集会」とか書かれた垂れ幕が下がっている。

これってわざわざ作成したんだろうか? このために?

あと、依ちゃんから聞いていた集会の名称と微妙に違うんですけど。

まあいいか。 もう一度、現在の私の装備外観をチェックする。 輝く白銀のチェインメイルを身にまとい、雪のように白い篭手は指先から肘までを覆い、そして真珠のように白い足防具は膝までを防護し、さらに染み一つ無い純白の外套を羽織る。

腰には冬狼の革ベルトを締め、鞘に六花の意匠を施した純銀の長剣を掃く。

頭は外套のフードを目深に被り、そして顔には真っ黒な仮面を付ける。

のっぺらぼう仮面は左半分にだけ縦に三つ連なる黄金で縁取りされた目の意匠が書き込まれていた。

町なんかで買い物をするときに必要なので時々使う、異形種であることを隠すための装備だ。

異形種が町をウロウロしてると、異形種PKプレイヤーに目をつけられてフィールドに出た途端PKされるかもしれないから、用心のためこういう格好も用意している。

まあ看破系や探知系の魔法使われると一発でバレバレなんだけど、こんな「格好いい正義っぽい」装備してる奴が異形種プレイヤーだなんてあんまり思わないだろう。

9割の人は人を外見で中身もそうだと決め付けるのが人間心理。

その証拠に、集会場に入っていこうとする人たちも私を見ても特に何も言わない。

人間、エルフ、ドワーフ、ノーム、ハーフリング、エラドリン、サテュロス…人間や亜人種でなおかつ雑多な装備や職業のプレイヤーたちの列に混じってても特に浮いていない。

 

「おっと、ごめんなさい」

 

「……失礼をした」

 

入り口に向かう人の数がちょっと多かったので、隣のプレイヤーと肩がぶつかった。

その外装を見て目を見張った。 金銀の入り混じった長い艶やかな髪。 その髪を分けて突き出した数本の角。

背中からは左右非対称の翼が生えており、そして……全体の服装は、エプロンドレスの可愛らしいメイドさんだ。

いいなあ……綺麗だ。 愛らしい。 ああいうキャラも好き。 凄く好き。

でも残念ながら自分にはああいう方面の美的造形センスがないので、自分のキャラで作ることが出来ない。

ロールプレイも難しい。 萌えってどうやればいいの。 見てる分にはわかるけど自分でやるのは全くわからない。

はあ、いいなあ……何の種族だろう。

そんな事を思いながらホールへと足を進めると、そこには既に大勢のプレイヤーが集まり、壇上で誰かが演説をしていた。

 

「……ただ自分達がゲームないで悪行行為を行いたい、現実でできないアンモラル行為をする欲求を満たしたいがためだけに! 自分達より低いレベルのプレイヤーを狙い撃ちにし、嘲笑や挑発などの追い討ちをかける行為によって、ゲームを引退に追い込まれた人たちすら存在するのです! このような行いは、人間種、亜人種のプレイヤーへの被害のみならず、異形種プレイヤーへの偏見も助長させ……」

 

奇声を上げて集まった人たちに熱弁を振るっているその人物を見て、私はげんなりした。

おい、お前この間私をPKしようとした連中に居た一人じゃないか。

自分達より低いレベルのプレイヤーを狙い撃ち? どの口でそれを言うのか。

そして壇の左右に並んでいるプレイヤーたちも何人か見覚えがあるのが居る。

完全にあの時私とモモンガさんに返り討ちにあってPKKされた人たちがこの集会の中心メンバーになっているということなのかな?

うわあ、言ってることとやってる事の不一致さに一気に集会のお題目が胡散臭くなってきたんですけど……。

ねえ、もう帰っていい?

 

「それ故に、私たちはここに総ての種族を超えたプレイヤーによる反アインズ・ウール・ゴウンの旗を掲げ、彼らへの横暴な振るまいへの抵抗と、所業を知らしめ糾弾する組織を立ち上げたいと思うのです! この集いに参加する資格のあるのは、アインズ・ウール・ゴウンに恨みのある人、そしてその行いを許せない、批判すべき、なんらかの制裁を与えてしかるべきだと思う人であれば、いっさいの制限はありません!」

 

壇上の彼は演説を続ける。 もはや人間種プレイヤーだけの問題ではないのだと。

……よく見れば、ホールに居る群集の中にはそこかしこに異形種らしき姿の人たちも居る。

成る程ね、モモンガさんたちを悪質なPK集団だと触れ回ることで、種族関係なく中立の立場でも義憤を覚えた人たちを参加させて、それで数の力でやっつけちゃおうって所だろうか。

これなら私は変装してくる必要なかったかな。

どうしようか。 今からでも普段の装備に着替えて「我を憶えているか? この間はよくもPKしてくれたな」とか言っちゃおうかな。

……よしとこう。 彼らの仲間がどれくらい居るのか、彼らの話を今この場に居るどれだけの人たちが信じているのかわからないから、私一人の証言なんて無視されるか嘘だと多数に押しつぶされて終わりだ。

顔を知られて目を付けられて、PKの的になりやすくなるだけ。 リスクが大き過ぎる。

でも、このまま壇上の聖騎士が「嘘を付いていること」をそのままにしていくのも癪だ。

私は大きく息を吸い込んだ。

 

「私達と共に立ち上がってくれるという方々はどうか……」

 

「質問を、よろしいか?」

 

手を挙げ、ホール中に声が通るようにはっきりとした活舌とともに私は手を挙げた。

周りに居る人たちの注目が一気に集まり、私は無数の視線の矢に晒された。

壇上の彼は演説を遮って発言しようとする空気読まない私に一瞬固まったけど、笑顔のエモーションを出しながら返事を返した。

 

「……どうぞ。 お聞きになりたいことなら何でも」

 

「先ほどから拝聴させていただいている、アインズ・ウール・ゴウンによる行い……一方的なPKについてだが。 言葉だけではなく、何か皆に判りやすく証明できる動画などの証拠は存在するのか」

 

あの時の場面を、動画に記録しながらプレイしているなら、あるかもしれないけどな。

私へのPK部分はうまく編集するのかもしれないが、どう誤魔化すだろうか。

 

「ええ、あります。 私を始め、ここに来ている何人かもその時一緒にいて被害に合いましたから。 証人になってくれます」

 

「それはつまり、動画は後ほど見せていただくという事だろうか?」

 

「……今日は準備してきていなかったので、後日ということになります。 今日のところは説明会と決起集会ということなので」

 

……ちょっと手落ちじゃないかな。

どうせならその動画をどこかにアップロードした上でこういう集会をやった方が人の集まりもいいし、説得力があるだろうに。

証拠はあるけどそれを公開する準備はしてません、ってのはちょっと褒められないよ。

私は「これで質問は終わり」と言われる前に言葉を続けることにした。

 

「では、別の質問になるが、人間種のプレイヤーが異形種をPKし、引退に追い込まれている人も存在することへは、この集まりはどういう見解を持っている?」

 

「……それについては、この集会と直接関係が無い様な気がするのですが。 確かにそのようなノーマナーなプレイヤーも居ることは問題になっています。 ですから、逆に異形種による人間種へのそうした行いも、問題視しなくてはいけません。 アインズ・ウール・ゴウンは悪のギルドを標榜し、そうした反モラル行為を行っている、許すべからざる……」

 

「もしアインズ・ウール・ゴウンの行いが、異形種狩り(PK)への自衛行為や報復行為(PKK)として行われているものだったらどうなのだ?」

 

私は聖騎士の長ったらしい返答を遮ってやや大きな声で言った。

どの口でほざく。 お前が。

お前は人のPK行為を糾弾や非難できる立場に居るのか。

……大丈夫。 私はまだキレてないよ。 私をキレさせたら大したもんだよ。

私の発言に、集会場に少しばかりざわつきが起こり、雰囲気が変化する。

聖騎士は声を張り上げた。

 

「……そ、それが何の正当性になるんだ! アインズ・ウールゴウンは悪だ! あいつら自身が悪を名乗ってPKをしているんです! こんな横暴を許しちゃいけない! 普通の人ならそう思うはずだ!」

 

「貴公らは自分が正義でアインズ・ウール・ゴウンが完全な悪だというのだな? 自分達が加害者の側に回ったことは無く、逆恨みの類もしたことはいっさい無い、完全な潔白であるとここで全員に誓えるのか!」

 

私は勤めて冷静を保っているつもりだったけど、最後の方で語調が荒くなった。

そしてそれに呼応するように聖騎士も感情を露にして叫んだ。

 

「俺が、俺達が正義だ! 正義の名のもとに、アインズ・ウール・ゴウンは潰してやる!」

 

お互い完全にヒートアップしている。 空気がおかしくなりかけたその時、聖騎士の仲間が壇に上がって来て彼を制止した。

そして、さらに別の仲間が代わりに壇上に上がって聖騎士は下ろされた。

 

「えー……時間が押しておりますので、質問はここで打ち切らせていただきます。 このレジスタンス同盟に参加を表明していただける方は、別室で面接と参加にあたっての必要事項を説明いたしますので、そちらへ移動してください。 入室には事前に知らされたパスコードの入力をお願いします。 あと念のため、アインズ・ウール・ゴウンのスパイが入っているかもしれないので、簡単な検査をそちらで実施させてもらいます」

 

ホール内のどよめきに負けないよう大きな声でそのプレイヤーは説明を述べた。

検査か。 魔法で外見を偽装している場合を警戒してるんだろうな。

私はアインズ・ウール・ゴウンのメンバーではないし、この集まりは一応異形種でもメンバーに入れるということだけど、でも聖騎士たちが本当に私の顔を覚えていると色々面倒なことになる。

さっき口喧嘩したばっかしだしね。

やっぱりリスクが大きいから、潜入調査はここまでにしておこう。

ホールの入り口の方へ向かおうとすると、結構少なくない数の人たちも別室ではなく入り口の方に向かっていく。

やっぱりさっきの言い合いが効いたかな。 あんな空気で入りたいって思わなくなる人もまあ、いるだろう。

本当にモモンガさんたちがPKKのギルドであり自衛のためにやってるという確証を掴んだわけじゃない。

そういう話も私が情報を集めた限りでは少しは混じっていたけど、真偽の判定ができるほどのものじゃない。

だけど、少なくともあいつらはモモンガさんへの正当な報復と抵抗を掲げる連中ではないし、正義なんかではない。

私の敵だ。 このあんぐまーるの、悪の騎士の敵だ。

 

「別室に行かないんですか?」

 

ふいに、横から声をかけられた。

見ると、入るときに肩がぶつかったあの可愛らしい種族のメイドさんのプレイヤーが横を歩いている。

私は思わず立ち止まった。

 

「ああ」

 

「あんなに彼らに興味がありそうだったのに? 彼らがどういう目的でこの集会を呼びかけて、アインズ・ウール・ゴウンを倒そうとしているのか知りたくて来たんじゃないですか?」

 

「そのつもりだったがな……もはやそのような空気にはあらず。 奴らの心象を悪くした故、参入しようとしても拒まれるであろう」

 

彼女がやけに突っ込んで訊いてくるので、つい返答をしてしまう。

やめてーあんぐまーるは孤高のコミュ障キャラなんで対人会話とか苦手なんです!

またさっきみたいに喧嘩腰になっちゃうから! せっかくの可愛い子を曇らせたくないからもうこいつに触らないであげてください!

お願いします!

 

「ふーん……じゃあ、今は逆にアインズ・ウール・ゴウンに興味があるのかな? まあ、皆待ってるから何時でも来てくれていいですよ。 それじゃあ、ボクはどうせだから別室の方に行って見ますので」

 

そう言って、彼女は離れていった。

……なんだろう。 なんか違和感が残った。

そもそも彼女は一体何をしに私に話しかけて来たんだろう。 あれか、あんだけ悪目立ちすれば「お前は邪魔しにきたのか」とか文句の一つも言われてもしょうがないか。

いや違うな。 どっちかというとあの聖騎士やその仲間が、不審な私に目をつけて、ここを出たあと追跡して正体を確かめようと接触してくる……でも彼女は別室の方行ったよな。

なんだろう。 謎な人だ。

 

『皆待ってるから何時でも来てくれていい』

 

……待っている? どこで?

違和感の正体に気付いたような気がして私が振り返ったとき、彼女の背中はもう既に別室へ向かおうとする人の群れに飲まれて見えなくなっていた。

 

 

 

 

「うん、ありがとう依ちゃん。 そうだねー時間の都合はついたし私も作戦に参加しできるよ。 うん、じゃあユグドラシルの中でね。 がんばろうね」

 

ケータイの電源を切り、私は眼鏡をはずしてケースにしまい、服を脱ぎながらバスルームに向かった。

レジスタンス同盟がアインズ・ウール・ゴウンへの囮作戦による釣り出しで襲撃をかけるまであと2時間。

この作戦は、少しでも多くのアインズ・ウール・ゴウンのメンバーをキルすることによってデスペナによるレベルダウンを発生させ、戦力を低下させるのが目的だ。

直接彼らの本拠地に乗り込んでも準備万端整ってる相手を倒すのは容易じゃない。

ただでさえ、ナザリックは今までにも何度か襲撃をかけたギルドによって攻略が難しい……最初の階層で撃沈しているものが多いと知られているから、まずは削げるものを削ぎ落としてから、ということになったようだ。

最終的にレジスタンス同盟側は250人くらいの規模には集まった模様だけど、参加しているのはレベル80台後半が過半数、90台に届いてるのが1割ってところで、思ったほどのものに届かなかったらしい。

なので、最初のうちはアインズ・ウール・ゴウンをPKしてレベルダウンを繰り返し、彼らが拠点に引き篭もったら追い詰めるというのが大まかな計画だ。

それを、結局彼らに潜入できなかった私は、依ちゃんを通じて……依ちゃんには嘘をついたけど、入手している。

ごめんね依ちゃん。 依ちゃんがスパイ容疑で追放されたり晒されたら多分私の責任。

……で、だ。

私はこの情報をアインズ・ウール・ゴウンに……モモンガさんにリークするかというとそうでもない。

実際のところ、この期に及んで私はまだアウンズ・ウール・ゴウンが言われている悪評通りのギルドでノーマナーなプレイヤーであるのか、そうでないのか判断がつかなかった。

もう直接確かめに行ってしまえばいいのかもしれないけれど、「潜入」はまだともかくあんぐまーるのキャラ的に「仲間に入ろうとする」のはちょっと難しい、というか二の足を踏む。

そもそもどうやって話しかければいいのだ、彼らに。

この間そちらのモモンガさんに勧誘を受けましたあんぐまーるです。 って?

キャラと一致しないよ。 確実に。

ロールプレイを徹底するのは大事なんです。 途中でやめたら台無しなんです。

このキャラで行くと決めたんですから。 投げ出したらそれこそ格好悪い。

ただ確実なのは……私は蛇口を捻ってシャワーを止めるとタオルで体を拭きながらバスルームを出た。 1時間15分ジャスト。 ムダ毛の処理も完璧。

確実なのは、私はモモンガさんに恩義がある。 あの時助けてもらった恩義が。

だからそれは返す。

私は悪の騎士、あんぐまーる。

レジスタンス同盟には与しない。 アインズ・ウール・ゴウンを正しいと判断したわけでもない。

敵の敵だから、借りを返すために助勢する。 どちらでもない第三者として。

髪を乾かし、三つ編みに編む。 眼鏡をかける。 Eカップのブラを……スポブラにしよ。 楽だし。

パンツを履く。

軽く化粧をする。 戦支度は整った。 レジスタンス同盟の作戦が開始されるまであと20分。

端末の前の椅子に腰掛け、私はユグドラシルへのログインを開始した。

 

 

 

影の雌馬(シャドウメア)に跨り、私は丘の上から広がる砂と瓦礫の平野を俯瞰していた。

滅んだ古代の都市をイメージしたこのフィールドは、隠れ場所が多いので待ち伏せをするにはうってつけの場所だろう。

作戦では、このもう少し先にアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが最近素材狩りに来ているので、囮部隊が軽く襲撃して戦いながら「釣って」来て、この都市遺跡の中に引きずり込んだ上で包囲して数で叩き伏せる。

アインズ・ウール・ゴウンがよく使う手段を逆に食らわせてやるということだが……そんな簡単に釣れるものなのだろうか?

自分たちがよく使う手段なら、勘が良ければ仕掛けられた段階で「自分達の得意技だ」と察知するかもしれない。

だが、「そのくらいはアインズ・ウール・ゴウンも予想はしている」とこちらも思うからこそ、案外「自分達に使っては来ない」と油断しているのかもしれない。

ちょっとした心理戦か。

レジスタンス同盟もそこそこには頭を使う奴は居るんだろう。

開始時刻5分前。 遺跡から、20名くらいの集団が目的地に向け出発した。

既にアインズ・ウール・ゴウンの居場所は確認しているのだろう。 彼らが上手く作戦通りに釣ってこれるのを祈る。

…きっかり5分後、戦端が開いた。 魔法のエフェクトが遠くの方で飛び交いながら、少しずつこっちに近づいてきている。

アインズ・ウール・ゴウン側と見られるのは6名。 案外少ないな。

じゃあ、私もそろそろ突撃準備と行こう。 彼らが遺跡に入り、包囲が始まったら作戦開始だ。

 

 

 

「ぐわっ!?」

 

「くそっ! こいつ火力がやばい!」

 

「当たり前だ、サリエルだぞ!? 間合いに入ったらダメージ受けるのは織り込み済みだ、数だ、数で押すんだ!」

 

湾曲した長大な刃を持つ大鎌が小枝のように振るわれ、空間を薙ぐたびに、その半径内にいるレジスタンス同盟プレイヤーのHPが大きく削られる。

それはまるで暴風。 無人の荒野を行くがごとく、周囲にいる敵の存在など路傍の石に過ぎないかのごとく、死神はまた大鎌を一薙ぎすると、ゆっくりと歩を進めた。

 

「どうした……恐れでもなしたか? たかが死神一匹に。 最初に群がったときのような威勢がないな?」

 

その言葉に気圧され、じりじりと後退するレジスタンス同盟。

包囲した少人数の敵をさらに分断し、一人一人孤立させて各個に撃破するという彼らの手並みは思ったよりも良いものだったが、いかんせんレベル差がありすぎるようだ。

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの一人であるそのスケルトン……いや、死神種の上位種族か、彼一人に30人からの人数で取り囲んでいるのに全く手も足も……一撃当てるのすら困難な有様だった。

それでも、絶え間なく攻め続ければいつかはミスも起こるもの。 綻びが生じればあとは時間の問題だろう。

レジスタンス同盟もそれがわかっているから数を頼みに襲い掛かる。

そこを、横合いから思いっきりぶん殴るのは、私。

 

<霊体化>解除からの<チャージ>を仕掛け、ゼロ距離で最初の一人を背中から轢く。

その次のエルフの弓師のやはり背中を右手の剣で貫き、<生命力吸収>。

さらに、気付いて振り向きかけたオークの戦士の首を左手の短剣で掻き切り、ついでに篭手から立ち上るオーラに仕込んだバッドステータス効果を浴びせる。

三人を轢いてもまだ<チャージ>の効果は終わってない。 そのまま包囲している彼らの中を突き進み、切りかかり、スキルを発動させ、バステをばら撒く。

大混乱だ。 突然乱入されたら普通はこうだよね。 獲物を罠にかけたと思った時が一番油断しているものだ。

獲物が案外強くて梃子摺ってるときはなおさらそっちに集中している。

面白いように奇襲は成功した。 やっべえ。 これメッチャ楽しい。

でも、何人かには避けられた。 やっぱり自分と同レベル帯の相手は簡単には行かないか。

 

「おい、なんだこいつ!」

 

「知らねえよ! 対策wikiに書いてるAOGメンバーには居ない!」

 

「え、今の何、誤爆?」

 

「ちょっとお前なにやってんだよ! 空気読めよ!」

 

「何こっち攻撃してるわけ? 俺の堪忍袋が温まってきたんだが」

 

<チャージ>の通った後には悲鳴と罵倒の嵐。 突然の乱入者に困惑、怒り、反応は様々だ。

全く空気を読まない私はここで高らかに宣言した。

 

「我が名はあんぐまーる。 正義に背をそむけし悪の騎士なり。 故あってアインズ・ウール・ゴウンに助勢する。 貴公、モモンガ様にお伝えせよ。 借りを返すと」

 

セリフの後半は包囲の真ん中で大鎌を肩に担ぐアインズ・ウール・ゴウンのメンバーに向かって言う。

これでとりあえず、彼の敵で無い事は伝わったかな。

そして、レジスタンス同盟にも私が敵だってことは認識されただろう。

 

「……私の友モモンガにしかと伝えよう。 助力感謝する、あんぐまーる殿」

 

そう言って、死神は大鎌を振りかぶった。

<飛翔大車輪>

スキルが発動し、投げられた鎌は回転しながら包囲するプレイヤーたちに襲い掛かる。

5人くらいがそれに巻き込まれ、2名が即死した。 何あれ凄い。

そしてそれで完全に包囲は崩れた。 その機を逃さず、撤退行動に入る私。

 

「さらばだ!」

 

影の雌馬を走らせ、その場を離れる。 後方では死神がさらに猛威を振るい、3人のプレイヤーを屠っていた。

そこでUターン。 もう一度<チャージ>発動。

 

「うわあああああああ!」

 

「また来た!」

 

「来るんじゃねー! やめろお前!」

 

「おいちょっとマジで止めて」

 

「誰かこいつ何とかしろ」

 

私は数名をまとめて轢き殺しながら言った。

 

「さらばだと言ったな。 あれは嘘だ」

 

嘘を付くのは平気だ。 だって私は騎士道に反する悪の騎士あんぐまーる。

背中から襲うのは常套手段です。 正面? 正々堂々? 何それなんか得するの私?

ようやく、誰かが足止めスキルを発動し、地面から湧き出た茨が影の雌馬の足を絡めとろうとする。

が、それをすり抜ける影の雌馬。 残念、この子は拘束無効のデータクリスタルを仕込んでいるのです。

比較的高レベルのプレイヤーが壁役として死神さんにかかりきりなので、折角だから私は同等以下のプレイヤーを狩らせて貰う。

騎兵の突撃を徒歩で止められるものなら止めてみろ。

 

 

 

 

 

「……サリエルさんからの<伝言>は以上。 なんだか面白い子が参戦してきたみたいだよ?」

 

「どこから情報を掴んだのかはわかりませんが、なかなか良いタイミングで彼らの邪魔をしに闖入してきてくれますね、彼」

 

「乱入は驚いたが、こっちの作戦に特に支障は無いな。 悪の騎士ってのは気に入った! いい奴を勧誘してくるじゃないかモモンガさん」

 

「では、あんぐまーるさんへの攻撃はしないように皆さんお願いします」

 

「了解、じゃあ打ち合わせどおりに行きましょう」

 

 

そのやり取りの直後、周辺の空気が変わった。

巨大な魔法のエフェクトと轟音、スキルの発動が連続し、廃墟のあちこちから悲鳴が上がる。

その聞こえてくる方向は多すぎて特定が……いや、これは「総ての方位から」聞こえていた。

レジスタンス同盟が自分達が逆に罠にかけられ、包囲されていたと気付いたときにはもう遅かった。

 

「アバ・ドンだ! あいつにスキルを発動させるな!」

 

「やめろ! よせ……うわあああああああ!?」

 

「トラウマなんだよこれえええええええ!!」

 

無数の虫が密度の濃い、嵐と言うよりもはや巨大な壁のようになって何十人ものプレイヤーを飲み込んでいく。

大小の昆虫が荒れ狂い、プレイヤーのHPを見る間に削っていくそれはまさに地獄と呼ぶに相応しい。

その中心で、アバ・ドンと呼ばれた異形の虫人間は哄笑を上げていた。

 

「あっはははははははは! 素晴らしい! ほら見て御覧なさい! 人がゴミのようだ!」

 

その虫の暴威から逃れようとすれば、ウルベルトの魔法の絨毯爆撃が反対側から追い込む。

どちらに飛び込んでも、死。 逃れるすべは無い。

何人かの上位レベルプレイヤーはどうにかして魔法攻撃を突き抜け、ウルベルトに迫るがそれをぶくぶく茶釜が阻んだ。

有能なタンクと組み合わさった魔法職は難攻不落。 レベルの足りないプレイヤーではどうすることもできない。

そして、ウルベルトの各種魔法の前に沈んでいく。

魔法で蒸発するか、虫に囲まれて何もできない状態で死ぬか。

どこにも逃げ場は無く、そして両者の間はだんだんと迫ってきていた。

 

「くそっ…! くそっ! 何でだ! 完全にこっちの作戦通りだったのに! 勝てるはずだったのに!」

 

拳僧士が悔しげに叫ぶ。 ゆっくりと歩みながらアバ・ドンがそれに答えた。

 

「最初からこちらの手の平の上だったということですよ。 ぷにっと萌えさんに知恵比べで勝とうとは、貴方達は浅はか過ぎる」

 

そして、アバ・ドンが指差すと、彼も虫の大渦に飲み込まれ叫ぶ間もなく死んだ。

 

 

「ダメだ! たっち・みーだ! 俺じゃ勝てない!」

 

「ペロロンチーノが狙撃してる! 誰かなんとかしてくれ!」

 

「弐式炎雷が出た! 助けてくれ、もう持たない!」

 

「誰かこっちに援軍を回してくれよ!」

 

「回復役がやられた……もう終わりだ」

 

「話が違うじゃないか! 俺はもう抜ける……うわっやめて降参するからデスペナだけは嫌だあああああ!」

 

既にレジスタンス同盟は瓦解状態になっており、<伝言>で入ってくる各班からの報告も混乱し全体の状況すらわからなくなっていた。

もう誰が現場の指揮を取っているのかもわからない。 だが、負けた、というのだけは馬鹿でもわかる。

その結果が納得いかない、事実が受け入れがたいだけだ。

その代表格である聖騎士は拳を壁に叩き付け、腹のそこから搾り出すような呪詛を呟いた。

 

「どうしてだ……なぜ負ける! 正義が負けるなんてことあっちゃいけないんだ……正義は何時だって勝つ……こんなの間違ってる! 不正だ! なにか不正なことをしたんだ! そうでなきゃ俺達が負けるはずがない! そうだ、なにか卑劣な手を使ったに違いないんだ! 運営に通報してやる……! 正しいのは俺たちなんだから、悪いのはあいつらに決まってるんだ!」

 

「そうやって他人のせいにする事だけは一人前だな」

 

掛けられた声に、聖騎士ははっと顔を上げる。 視線の先には憎き怨敵アインズ・ウール・ゴウンの首魁、悪の根源モモンガがいつの間にか立っていた。

そしてその周囲には、数名のアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが控えている。

その中に非対称の翼と複数の角を生やしたメイド服の少女が居た。 彼女は聖騎士と目が合うと「笑い」のエモーションを出しながら手を振った。

 

「まあスパイ送り込んだのは卑怯って言えば卑怯かもだけどさ。 うちのギルドで唯一顔が割れてないのがボクだったし、その前にそっちの情報収集がwiki頼みで、あんまり表に出てないメンバーは情報不足だとか、ずさん過ぎるよ。

堂々と集会に混じって作戦聞かせて貰って、あとはこの通り。 作戦自体も相当見通しが甘いものだったんだけど、ぷにっとさんがどうせなら利用してカウンター食らわせてしまいましょうって、あえて引っかかった振りして逆包囲しちゃおうかってなったんだ。

ボク的にはなかなか面白いイベントになってくれて、楽しかったよ」

 

ケイおっすのネタばらしを聞き、呆然となった聖騎士は一拍の間を置いて怨嗟の篭った声で絶叫した。

 

「お前……そうか……集会に来ていたのを憶えているぞ……お前がああああああ!! あいつもだな! あの時いたあいつも! あいつの所為で、余計な口出しをした所為でもっともっと沢山の人が俺達に味方するはずだったのに! あれもお前達の妨害だなあああああ!!」

 

それは完全に勘違いであり、あんぐまーるはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーになっては居ないのだが、しかしモモンガもケイおっすも、他のメンバーも特に否定はしなかった。

否定したところで頭に血が上った彼が信じるわけはないし、訂正して真実を述べたところでどうでもいい瑣末なことだからだ。

モモンガが聖騎士を指差して最後通告を言う。

 

「後は残っているのはお前だけだ。 我々が勝利し、お前達が敗北する。 これは歴然とした実力差によるもので、不正の入り込む余地は無い。

まあ、単純にお前達が雑魚だったということだ。 我々を相手にする上ではな」

 

「貴……様あああああああああああ!!」

 

引導を渡されて激昂した聖騎士が剣を抜き、モモンガに挑みかかる。

しかし、その眼前にケイおっすが立ちはだかって彼の突き出した剣の切っ先をその身で受けた。

そしてカウンターで両手が変形・分裂。 鋭い槍の群れとなって聖騎士の頭部や胴体や手足を串刺しにする。

その攻撃で聖騎士のHPは0になり、死んだ。

 

 

 

 

 

全部が終わり、三々五々に集まってくるアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの中にモモンガさんが居るのを見て私はちょっと嬉しくなった。

なんて話しかけよう。 ……本当になんて話しかけよう。

こういう時「あんぐまーるのキャラ」らしいセリフはなんだろう。

やっぱりクール&ニヒルを気取って黙って去るのが良かっただろうか。

でもそれはあんまりにも失礼だし、何より隣に居るサリエル、という人がじーっとこっち見ているので何となく、何も言わずにこのまま帰る空気じゃないというか、離れるタイミング逃してしまってここに居る。

どうしよう。 部外者が一人いるのってなんか気まずい。 異形種ばかり集合してるのでちょっと百鬼夜行だし。

 

「あんぐまーるさん!」

 

……モモンガさんに見つかってしまった。 やばい。 本格的にどうしよう。

 

「今日は援軍に来ていただき、ありがとうございました。 おかげで助かりましたよ」

 

わかってる、謙遜だ。 社交辞令だ。 実際、私はあんまり何もしていないっていうか、それほど助けになってない。

サリエルさんの周りでちょっと場を引っ掻き回した程度だし、なんかこの結果見る限り

私は居てもいなくてもあんまり影響なかったんじゃないかな。

 

「借りを返しただけだ。 貴公には助けられた。 そしてその時の輩が貴公らに逆恨みした。 元はといえば我の問題、貴公らアインズ・ウール・ゴウンに火の粉が回ったに過ぎない。 ……ゆえに、捨て置けぬから助勢したまで。 他意はない」

 

……なんとか言葉をひねり出して口にする。

ちょっと喋りすぎたかな。 なんだかこれだと言い訳してるみたいだ。 ツンデレか。

え、何なんですか皆さんそのエモーションの反応。 やめて、なんか滑ったみたいだからよしてお願い。

 

「それで、考えてくれましたか? ギルドに入ることを。 ああ、この間は具体的に説明してませんでしたが、うちは社会人ギルドで、見ての通り異形種縛りのあるギルドです。 あんぐまーるさんが社会人であるなら、後はほぼ問題なく入れるのですが……」

 

モモンガさんが私が一番避けたかった話題を持ち出す。

どうしよう、ほんと。 本音を言えば、誘ってくれたのはとても嬉しかった。

助けてくれたことも。 あの時のモモンガさんはとても格好良かった。

最高にいい人だと思った。 そんな人が居るギルドが、悪い人の集まりなわけはないだろう。

でも。

「あんぐまーる」が、そこに居ていいのだろうか。 こんな、何か色々拗らかした私の趣味とエゴの塊のような面倒くさい、何考えて作ったんだかわかんないキャラを。

ロールプレイに沿った受け答えしかできない問題抱えたやつを。

答えられないで居ると、モモンガさんが「ショボーン」のエモーションを出しながら言った。

 

「すいません……どうも一人で先走ってしまって。 もう自分の中ではあんぐまーるさんが入ってくれるものと思ってしまって。 勝手に押し付けがましいことをして申し訳ありません。 そうですね、あんぐまーるさんの方にも都合とか、ポリシーとかはありますよね……だめだな、俺って……」

 

あああモモンガさん別にモモンガさんが悪いんじゃないんですこっちのキャラと中の人の問題なんです落ち込まないでどうしよう何か言わないと微妙な空気になってしまうもう素を露出して本当は凄く嬉しいんです入りたいです社会人でデザイン系の会社に勤めてますって言ったほうがいいんだろうかでもさっきまで思いっきり重篤なロールしてたのにいきなり素を出したら違和感ありすぎて変な子に思われるかもどうしようマジでどうしよう。

焦っててんぱりまくってたら、他のギルドメンバーの人たちが口を開き始めた。

 

「入らないのか? 勿体無いなあ、「悪」をロールプレイしてる感じだから、気が合うかと思ったのに。 あの口上なかなか良かったですよ!」

 

「ウルベルトさんとは似た部分を私もずっと見ていて思った。 もし彼が仲間になるならまた楽しいことになるだろうな」

 

「サリエルさんガン見してたのそれだったんだ。 たっちさんはどう思います?」

 

「悪の騎士、とは言いますが、モモンガさんへの借りを返しに参戦するとは騎士道らしさもある。 もしギルドに入会するなら私は賛成票に入れますよ」

 

「同盟の連中の集会にも潜入しにきてたしね。 そういうアクティブなところとかもボクは好きだな。 ボクも文句なしに一票」

 

「あんぐまーるさんだっけ? モモンガさんが最初、あんたのことメッチャ推しててさ。 昔の自分を見ているみたいで放っておけないって。 入ってくれたらモモンガさん凄い喜ぶと思うんだけどな……」

 

「ツンデレ騎士とか結構萌える」

 

「ま、信用は置けそうな人物でしょう。 私は反対する理由は見当たりませんね。 モモンガさんの人を見る目は確かですし」

 

「うちのギルド結構こういう気さくな感じなんでさ、肩肘張らずに入ってみるのも手だよ?」

 

「そうそう、割と面白い奴一杯居るしな。 るし★ふぁーさんは困り者だけど」

 

……なんだかこれ、「入りません」とか言えない雰囲気になっている気がする。

ハッ!? 外堀埋められた?

 

「あんぐまーるさん……無理にとは言いませんよ?」

 

モモンガさんがじっと私を、あんぐまーるを見る。

……覚悟を決める時だ。 もともと答えなんか決まっている。

ただ、勇気がなかっただけ。 踏み出す勇気が。

 

「仔細なし。 喜んで貴公らの列に序させてもらう。 我はあんぐまーる。 悪の騎士にしてリアル世界においては商会や集団組織の紋章や広告などを製作する生業に職を得るもの。 そして」

 

私はその場に跪き剣を抜いてモモンガさんに差し出した。

 

「受けし恩義に報いるため、我はこれよりモモンガ様に剣と忠義を捧げる騎士とならん。 どうかお受けください、我が主君よ」

 

ええっ!?と驚いて叫ぶモモンガ様。 おおーっ!?と歓声の上がるギルドメンバーたち。

幾つかの冷やかしの声を受けつつ、戸惑いながらモモンガさんは剣を受け取った。

そして、二人のギルドメンバーから助言を受けて(後から名前知ったけど、たっち・みーさんと死獣天朱雀さんと言うらしい)私の肩を受け取った剣の平で軽く叩く。

 

「忠誠を受けよう、私の騎士、あんぐまーるよ」

 

「御意。 今日この日より、この魂が擦り切れて滅びるまでお仕えいたします」

 

わあっと歓声があがり、拍手が打たれた。

こうして、私はアインズ・ウール・ゴウンの一員となり、末席に名を連ねることになった。

それからの日々は夢のようであり……やがて去り行き、遠のいて行った。

私は誓いを忘れ、反故にし、我らが盟主はただ一人ナザリックに残された。

私のただ一人の主君は、玉座で寂しく孤独に最後の時間を迎えようとしていたんだ。

 

 

私がもう一度、夢の詰まった黒い箱を開けようと帰還するまで。

 

 

 

 

外・1 終わり

 

 

 

 




この一件後、レジスタンス同盟は内部にスパイが居る疑惑が出たことと
ぷにっと萌えさんの一計により異形種狩りPK行為をしていたプレイヤーたちが中核に居たことが発覚する流れとなり主張の正当性を巡って紛糾、晒しスレでのお祭りから炎上し自然崩壊しました。
しかし元所属メンバーの中にはその後もアインズ・ウール・ゴウンへの恨みを捨てられずナザリックに1500人規模で挑んだ一件に参加したものもいたようです。

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