オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております


十五

翌朝、(アドゥナ)盟主(ムササビ)は宿の部屋を出て階段を降りる途中でいかにも「今朝食を終えて部屋に戻るところだった」という風の冒険者ナーベ(ナーベラル・ガンマ)とごく自然にすれ違った。

さりげなく頭を下げたナーベは小声で、私達にしか聞こえない音量でそっと呟いた。

 

「ご命令通り、影の悪魔(シャドウデーモン)2体と八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)を1組とし三交代制で常時リィジー・バレアレの工房に張り付かせております。 何か動きがあれば即座にご報告が上がるでしょう」

 

私は特に反応を返さず、仮面を付けているので唇の動きを読まれないで済む盟主(ムササビ)が「ご苦労」とだけ短く、ナーベにだけ聞こえるようやはり小さな声で労う。

酒場に屯しているほかの冒険者にはけして私達の関係を悟られることはない。

せいぜいが、ちょっと縁があった顔見知りの冒険者同士。 それだけだ。

そのまま酒場を真っ直ぐ突っ切って出入り口の扉に向かうと、幾つかのテーブル客がガタガタ、という音を立てて腰を軽く浮かせて座っていた椅子をを引き寄せ、私達の通行を邪魔しないように通路を作る。

いやあ、この冒険者の宿の客たちも随分とマナーが良くなった。

……良い事だよ、うん。

 

特に何事もなく朝のすがすがしい空気を楽しみながら冒険者組合へ向かう。

組合の扉を押し開けると、そこには既に私達よりも早く出向いて仕事の依頼を求めにきた何人かの冒険者の姿が見えた。

装備も職も様々な彼らは組合の窓口カウンターで受付嬢たちと何か話している。

私たちが用があるのは、その左手の方にある大きなボードだ。

 

「バレアレや、『ポーションを持ち込んだ者』の動向も気になるが、冒険者としてエ・ランテル(この町)に来ている以上はそれらしく振舞わないともいけない。 情報収集という本来の目的もあるしな」

 

「どうせ一日二日ですぐ動きがあるわけでも無いし、向こうから出張って接触する事もあるだろうな。 ま、適当に依頼をこなして地位を挙げつつ、気楽に待とうや」

 

そう呟くような声で言葉を交わしながら、私たちはボードの前に立つ。

昨日は無かった羊皮紙の依頼の張り紙が何枚か増えているそれを、(アドゥナ)盟主(ムササビ)はしばらく無言で吟味するように眺めていたが、やがて盟主(ムササビ)が私の耳元に顔を寄せてそっと囁いた。

 

「……あんぐまーるさん、文字、読めます?」

 

「……否。 確か盟主は異言語解読のアイテムをご所持なされていたと存じますが」

 

「セバスに渡して送り出してしまったんですよね、それ」

 

「それでは如何なされるので……我はろーるぷれい上この身に合致せぬアイテムは所持しておりませぬぞ」

 

「どうしましょうかね……」

 

どうしましょう。 マジで。

地味に失態だ。 盟主もいつになく焦って困り気味の声音をしておられます。

私もかなり素でこの世界の文字が読めないのを忘れていた。

ほら、なんというか、つい、流れとか雰囲気でボードの前に立っちゃってさ。

そういう事あるじゃん。

どうここから挽回しよう。 いつまでもボードの前に立っていると変な目で見られるかもしれないし。

というか、何か視線を感じる。 こっちを値踏みするような、他の冒険者達の視線が。

もしかして、彼らも依頼を取りたいのに私たちが邪魔で迷惑してるのだろうか。

ごめんなさい、すぐどきますんで! この状況の解決策が思いついたらすぐどきますんで!

あ、そうだ。 素直に受付のお姉さんに字が読めませんって言えばどうかな?

……メッチャ恥ずかしいだろうな。 流石に字が読めないというのはいくらなんでも「無い」だろう。

チラ、と振り返って受付の方を見ると、盟主(ムササビ)もそっちを見た。

そして、ポツリと

 

「……ちょっとそれは」

 

と呟く。 同じ事考えてたみたいだ。

ですよねー。

あ、ナーベだ。 ナーベが受付に歩いてくる。 そういえばナーベも今日は依頼を受けに組合に来るはずだったんだ。

ちょうどいい、ナーベに助けてもらおう!

ナーベ、ちょっとこっち来て! ボードの方に!

……あれ? 受付のお姉さんと話してる。 そんで、受付のお姉さんは、近くに居た四人組の冒険者に声をかけて呼んで居る。

そしたら四人組がナーベに話しかけて、お互い挨拶が始まった。

んで、一緒に扉の方に歩いていく……え、ちょっと、そっち行くと外に行っちゃうよ?

依頼を受けに来たんじゃないの?

ああっ!? もしかしてナーベは昨日のうちに依頼を受けるのを済ませてた!?

そんであの四人組の冒険者は一緒に仕事するように組合に斡旋されたか誘われたかした人たち?

だめだ、これじゃナーベラル・ガンマにも頼ることはできない。 ……完全に誤算だ。

手詰まりです。

助けて、ぷにっと萌えさん! ギルド1の策士として何かいいお知恵を!

 

(うん、流石にこの状況から打開するのは自分でも無理。 諦めたら?)

 

……試合終了です。

ぷにっと萌えさんの幻影に冷たく突き放されてあんぐまーるは深い悲しみに包まれた。

はあ、と隣で盟主が大きく息を吐くのが聞こえる。

 

「しょうがない、開き直りましょう」

 

そう言うと、盟主(ムササビ)は軽く息を吸ってから意を決したように手を伸ばし、ボードに張られている中から一番大きくて、字の書体が整ってて、立派そうな印や縁取りも入っている羊皮紙を剥がすと、くるりと受付の方に体を翻して大股で歩いた。

 

「あ、おいムササビ……!」

 

それを、(アドゥナ)も追うが、盟主(ムササビ)は既にカウンターに羊皮紙を叩き付けて受付上に言い放っていた。

 

「これを受けたい」

 

受付嬢は、困惑の視線で羊皮紙と真っ黒な出で立ちの仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)を見比べた。

 

 

 

……結果的に言うと盟主の思い切った策は功を奏し、盟主(ムササビ)が突きつけたミスリル級冒険者への依頼は受けられなかった代わり、銅級の冒険者の中では一番難易度と報酬が高いものを見繕ってくれる事になった。

流石です、盟主。 あの状況から奇跡の逆転の一手を打つとは。

まさしく我らアインズ・ウール・ゴウンの統率者たるに相応しい知恵と決断力、そして交渉術の持ち主。

さらに、盟主が受付のお姉さんとの押し問答の流れの中で盟主(ムササビ)が第三階位という、この世界の魔法の使い手の中では結構高い位置になる魔法が使えることと(アドゥナ)もそれに釣り合うくらいの剣の達人であることが喧伝されたため、周囲の視線が随分といい感じになっています。

一手で二つも三つも効果を生み出すとは……このあんぐまーる、より一層の盟主への崇敬の念を新たにしてございますぞ!

というわけで、今は受付のお姉さんがボードに出ているもの以外のも含めて一番いいのを探してくれているので、待ち時間中だ。

私たちは適当な椅子に腰掛けて大人しく呼ばれるのを待っている。

 

「……ああいうクレーマー染みた事は避けたかったですけどね。 はあ、自己嫌悪ですよ。 嫌な顧客とかかなり見てきたのに」

 

盟主が小声で呟く。

ああ、わかります。 なんか知らないけど割と横暴な要求してくる顧客っていますもんね。

うちは大企業なんだぞとか俺はそこの部長でエリートなんだぞとかやたら権威振りかざすタイプとか特に。

それ実家に帰ったとき愚痴ったら、翌日から顧客側の担当者が別の人に変わってて全然クレーム行為入れなくなったという不思議なことも一回あったけど。

 

「なれど盟主は相手に悪印象を抱かせぬ際のところでご素直に引き下がっておられる。

無理を通すため道理を捻じ曲げるのと、互いの妥協点を見極めるためにあえて圧をかけるのは異なりましょう。

あれも交渉の範疇であるとわかる者には盟主の真意は正しく伝わったかと」

 

私はそう盟主をフォローする。 あとちゃんとしっかり謝ったしね。

結果的にはベストが得られたんだから、あんまり気にしてくていいと思う。

 

「だといいんですけどね……」

 

そんな事を話しながら時間を潰していると、受付のお姉さんがこっちに歩いてきたので立ち上がる。

いい依頼が見つかったかな?

 

「ご指名の依頼が入っております」

 

受付のお姉さんの口から飛び出た言葉に周囲が少しざわついて、空気が変わる。

私もちょっと驚く。 つい昨日登録したばかりの冒険者に、ご指名? そういうものあるの?

あれかな、さっき私と盟主がメッチャ強いってことアピールした効果かな。

それにしたってすぐ飛びつくようなもんなの? これ?

 

「我々にわざわざ指名とは……一体、どなたが?」

 

盟主(ムササビ)が尋ねるその受付のお姉さんの後ろから金髪の少年が歩いてきているのが見える。

あの子、どっかで見たな。 そう、昨日あたり。

 

「はい、ンフィーレア・バレアレさんです」

 

ビンゴ。 やっぱりね。 ほら、今度は向こうの方から接触してきた。

まあここからは大体予想が付くよね。 バレアレ嫗の関係者だし、十中八九あのポーションがらみだろうな。

 

「初めまして。 僕が依頼をさせていただきました」

 

そう言って前髪の長い少年はニコっと愛想笑いを向けてきた。

 

 

 

別室に通されると、ンフィーレア少年とテーブルを挟んで私と盟主が席につく。

まず先に口を開いて挨拶をしはじめたのは少年の方だった。

 

「先ほど受け付けの方に紹介されましたが、僕の口からも名乗らせてください。 僕はンフィーレア・バレアレ。 この町で薬師をしています」

 

「私はムササビ。 今はしがない冒険者だ」

 

「俺はアドゥナ・フェル。 この真っ黒づくめなのの相棒だ」

 

互いに自己紹介をしあうけど、少年が笑顔を絶やさず浮かべて愛想良くしているというのに既に室内の空気が剣呑だ。

お互い何が目的で来たかなんてわかり切ってるゆえに、腹の探りあいな雰囲気を醸し出している。

昨日の第2ラウンド開始。 バレアレ嫗は居ないけど。

 

「えっと、依頼の内容は、僕はこれから近場の森まで……」

 

「余計な御託はいいよ。 あんたらが知りたいのは赤いポーションの出所とか製造方法とかそんなもんなんだろ?」

 

「そのために依頼という形で接点を持ちに来た。 予測どおりだが、早速次の日にというのは意外だったな」

 

少年の口上を遮って、私と盟主は単刀直入に本題に入る。

嫗と少年の思い切りの良さと行動力は嫌いじゃない。

嫌いじゃないから、こちらも話を進めやすくしてあげよう。

少年は、ちょっと虚をつかれたような表情をしてから、また笑顔を作った。

 

「……教えてもらうわけには、行きませんか?」

 

素直な聞き方をするね。

私は両手を頭の後ろに組んで、椅子の背もたれに寄っかかってバランスを後ろに傾ける行儀の悪い仕草をする。

心理的余裕があると見せつつ、同時に相手に対して敬意や好意をあまり持ってないことを示すジェスチャーである。

そして「アドゥナはこういうキャラですよ」、とアピールすることで、私の本心(あんぐまーる)を隠す心理的な衝立(ロールプレイ)でもある。

一方の盟主は、仮面で顔を隠してることが相手への心理的威圧として効果を発揮している。

 

「こちらもそちらに訊きたい事はある。 交換条件でも良いが、我々の間にはまだそれをする信頼関係がなされていない。

おいそれと明かすことの出来ない情報であることは昨日話したばかりだ」

 

盟主(ムササビ)の返事に、少年は難しい顔をする。

まあね、交換条件って言っても、お互いどのくらいの情報を持ってるのかわからないしね。

対価として釣り合うものじゃないと割に合わない。

こちらとしてはバレアレ嫗の所に下位治癒薬(マイナーヒーリングポーション)を持ち込んだのがプレイヤーかそうでないのか、もしくはせめて遡って足取りを追う事でプレイヤーにまでたどり着けるのか……

理想的なのはそのくらいの有力情報だけど、まあ少し難しいかなってのが私と盟主の話し合いの結果でもある。

簡単に足が付くような流し方はしないだろうしね。

なので当然、ここで無効が欲しいだろう情報を渡すことはできない。

 

「とはいえ」

 

盟主(ムササビ)が再び口を開き、私と少年の視線が仮面に向く。

 

「まずはそのための信頼関係の構築と、少しでも情報を得るための試みとして、こうしたコネクションを築きに来たのは評価できる。

今は、そちらが欲しいものを開示することはできない。 だがそれは「今は」という事だ。

これからそのような関係にならないとは限らない。

……今は冒険者とその依頼者で充分だろう。 それで、依頼の内容は何だったかな。

その話の続きに戻ろうか」

 

少年の表情に笑顔が戻り、(アドゥナ)も笑みを浮かべて姿勢を戻す。

だいたい予定通りに事が進んだ。

もともとバレアレ嫗とある程度の接点を持つのは私達にも好都合。

「エ・ランテルでも高名な薬師バレアレ嫗と懇意にしており、依頼を受ける関係の冒険者」ってのは、「バレアレ嫗が何かの理由で執着している冒険者」とか噂が立って注目を集めているよりはずっといい。

こちらも堂々とバレアレ嫗やその工房を監視することができるし、デメリットが無い。

結論は先延ばしにしつつ、相手にも交渉の余地がまだありと期待を持たせるのはなかなかにベストな結果ではなかろうか。

他にもここで依頼もお断りしてたら、組合や冒険者達に変に思われるとかもあるし、話し合いが物別れに終わるって選択肢は最初から無かったしね。

前向きに見れば大きな進展こそ無いものの一歩前進というところか。

まあ、お互いに妥協できる状態ってことで、明るさを取り戻したンフィーレア少年の依頼内容の説明が進み、私たちはそれに耳を傾けた。

 

 

 

エ・ランテルからカルネ村に向かう東寄りの道を、馬車の左右に立って警護しながら(アドゥナ)盟主(ムササビ)は進んでいた。

馬車の御者隻にはンフィーレア少年。

荷台には薬草を入れるための瓶や樽が積まれ、私達との接点作りのためだけの依頼というわけでもなく、本当に薬草を採取する必要あっての依頼でもあるようだ。

森沿いに進む道はいつゴブリンなんかのモンスターが出て来てもおかしくない。

まあ、森の外に姿を現すことは少ないという話だったけど、注意は向けておく。

枝を大きく多く広げた木々が幾重にも連なる森の奥は薄暗く、日の光を嫌っているかのように見通せない。

だけど、私はその鬱蒼とした光景をどこか幻想的で美しいと感じていた。

この森の深部のどこかで、大樹の姿をした老いた古巨人が歩き回っているのを想像する。

 

「大丈夫ですよ、実はこのあたりからカルネ村の近辺まで、『森の賢王』と呼ばれる強大な力を持つ魔獣がテリトリーにしているんです。 ですから森に入らない限り、滅多なことでモンスターは姿を見せないんですよ」

 

私があんまり森を凝視しながら歩いているので、ンフィーレア少年がそんな事を言ってきた。

 

「森の賢王か」

 

盟主と一緒にカルネ村の住人から聞いた話を思い出す。

そいつが私達の脅威になるのかどうかはわからないけれど、そこそこ気に入っているあの姉妹(エンリたち)の生活が脅かされないのなら、そいつが意味も無く娯楽のために弱者を虐げるような外道で無いなら、私の方から喧嘩を売る理由は無いかな。

盟主の方をちらっと見ると、何か思案しているような雰囲気だ。

また何かこれから先に起こりそうな展望に関して二手も三手も先のことを色々考えているに違いない。

気付けば随分と太陽が高い位置に昇り、やや強めの日差しで私達を照り付けていた。

エ・ランテルを出発してもう随分時間が経過したんだな。

別にアンデッドだからって太陽光線でどうこうなる体ではないのだけど、森の方をもう一度見てその暗さを見るとあっちの方が涼しげだなって思う。

別に疲れては居ないけどそろそろ小休止でも入れたいかな、なんてぼんやり考えていたとき、ふと前方から掛け声や叫び声のようなもの混じって武器を打ち合わせるような音が聞こえてくる。

前に出て目を凝らすと、やや遠くの方で複数の人影が入り乱れているのが見えた。 幾つかの影は明らかに飛びぬけて大きな体格をしている。

 

「誰か、襲われています!」

 

少年が叫ぶのと同時に、私は反射的に駆け出していた。

後方から、盟主(ムササビ)が少年に馬車を道から外れたところに避難させるよう指示しているのが聞こえ、どんどん遠ざかる。

全力でダッシュすると、次第に襲われている方が5人くらいの人間で、それを取り囲むようにしている小柄な人影、ゴブリンだな?が15、そして異様に大柄な……オーガか、あれは。 それが6体居るのが判別できるようになってきた。

オーガのうち1体が、人間のうち一人の掌から発せられた一条の電撃で撃ち抜かれて倒れる。

魔法……<雷撃(ライトニング)>か!

その使い手の容姿には確かに見覚えがあった。 冒険者ナーベ(ナーベラル・ガンマ)

ナーベは多勢に無勢の中、他の4人を援護するように上手く立ち回りながら襲い掛かるゴブリンを剣で殴りつけている。

 

「なんでここに居るんだろうなっ!」

 

私はちょっと面白くなって思わず叫んだ。

 

 

 




更新随分と遅くなりました。 申し訳ありません。
このツケはいずれ後ほどクレマンティーヌちゃんに支払ってもらいます。(八つ当たり)

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