オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~ 作:コノエス
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております
それは何の変哲も無い、何時もの様にあんぐまーるがユグドラシルにログインし普段どおりにアインズ・ウール・ゴウンの面々ととりとめの無い雑談や次に何を狩りにいくかの相談を交わしたりしていたある日のことだった。
第9階層の廊下を歩いていたあんぐまーるは、ギルドメンバーのウルベルトに呼び止められた。
「あ、あんぐまーるさん。 ちょうどいい所に。 ちょっとペロロンチーノさんを呼んできてくれませんか?」
「承知した」
あんぐまーるは快く快諾し、たしかさっき休憩所に居るのを見たはずだと思い歩みを進める。
果たして、ペロロンチーノはそこに居て複数のメンバーと談笑しているところだった。
あんぐまーるはペロロンチーノに声をかけた。
「ペペロンチーノ様、ウルベルト様が御用にて探しておられる」
「……いや俺、ペロロンチーノなんですけど」
「……」
「……」
一瞬の気まずい沈黙。
あんぐまーるはミスから復帰すべく素直に謝ろうとした。 が。
「失礼致した。 ぺ、ペロロロッチーノ様」
焦りから再び名前を間違え、頭を抱えてその場にしゃがみこむあんぐまーる。
「ペ、ペロンチ、ペペロロ、おちつけ、しっかりしろ我。 ペ、ロ、ロ、ン、チ、ー、ノ、ペロロンチーノ。 ……こほん、まことに失礼を致した。 ペペロンチーノ様、ウル……」
少しの間ぶつぶつと小声で練習したのち、再度立ち上がって最初からやり直そうとしたあんぐまーるは再び頭を抱えてしゃがみこんだ。
流石にペロロンチーノも、その場に居た他のメンバーもいたたまれなくなって微妙な空気が場を支配する。
「あの……ペペロンチーノでいいですから……」
見るに見かねたペロロンチーノのこの一言で、あんぐまーるのみペロロンチーノをペペロンチーノと呼ぶ習慣がナザリック内に定着した。
ナザリックに戻り、第六階層へと移動した私とセバスはそのまま闘技場へと向かった。
闘技場の内部では盟主と、そして見覚えのある懐かしい幾つもの姿が既に集まっている。
私たちはそちらの方へとゆっくり歩いて近づいていく。
盟主が気づいて、小さく手を振った。
「おかえりなさい、あんぐまーるさん」
「我らが盟主、このあんぐまーる只今偵察活動より戻りました。 早速ご報告を……」
「あんぐまーる様」
私の言葉をさえぎり、アルベドが言葉を発した。
「その前に、我ら階層守護者一同、あんぐまーる様のご帰還を祝い、またモモンガ様、あんぐまーる様への忠誠の義を行いたいと存じます」
忠誠の義。 ……何だろう。
私は盟主の方に顔を向ける。 どうしますか、との問いを込めて。
盟主は鷹揚に頷くと、アルベドに許可を出した。
「うむ、よきにはからえ」
……盟主、ちょっとの間にNPCに対する上司、主人としての振る舞いが板についているなあ。
これからはこのキャラで行くのかな。
そう思っているとNPCたちがアルベドの指示で整列し始める。
「では皆、至高の御方々に忠誠の義を」
アルベドが前に、その一歩後ろに下がった辺りに各NPCが並ぶ。
……これ、私も受ける側だから盟主の隣に居ないとダメだよな。
急いで盟主の左後方半歩下がった位置に立って姿勢を正した。 足を肩幅に開き、剣をその真ん中になるよう地面に突き立てて、両手を柄頭に置く。
決まった。 騎士っぽい格好いい待機姿勢だ。
……ちらっとセバスを見ると私と盟主、アルベドたちのそれぞれの間かつちょっと下がった位置にさりげなく控えている。
執事らしいびしっとした、それでいて主張しない綺麗な姿勢で。
パーフェクトだ。 セバス。 アイコンタクトで賞賛する。
守護者NPCたちも畏まった姿勢と表情で儀式らしい雰囲気が漂っていた。
「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン、御身の前に」
「第五階層守護者、コキュートス、御身の前に」
「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ、御身の前に」
「お、同じく、第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ、御身の前に」
「第七階層守護者、デミウルゴス、御身の前に」
「守護者統括、アルベド、御身の前に。 第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御方々に平伏し奉る。
ご命令を、至高なる御方々……我らの忠義全てを捧げます」
……格好いい! 何これ格好いい! 私が盟主に捧げる誓いの義よりずっとセンスあるんじゃないの!?
今まで盟主に忠誠を捧げる側だったけど、忠誠を受ける側もいいなあ!
うわー凄くいい。 後で地味に真似しよう。
勤めて表情や態度には出さないように自制していたけど、私の内心はかなり興奮していた。
……急速に冷める思考。 盟主を見ると、なんだか緊張した面持ちだ。
そうだはしゃいでいる場合じゃなかった。 盟主、彼らに何かお言葉を。
いえ、アイコンタクトで何か訴えられても困ります。
末席に過ぎない私よりも盟主が先に彼らに声をかけるのが順当かと思われますので。
やがて盟主は絶望のオーラを放った後、彼らに威厳ある声音で物凄く格好良く言葉を放った。
「面を上げよ」
おお、なんか凄く演出的にも格好いい。 まさに悪のラスボスという感じだと思う
私もそれに追従してというか真似して錯乱のオーラを放出する。
一気に禍々しい気配をまとった魔王とその片腕って感じがする。 盟主、流石です。
そして盟主の言葉に従って守護者たち全員が頭をあげたところなんかは、アニメか映画になったら絶対映えるよ。
「まずは……よく私の求めに応じ参集してくれた、礼を言おう」
「礼などもったいなく存じます。 我ら、至高の方々に忠義のみならずこの身の全てを捧げたものたち。 至極当然の事にございます」
アルベドを言葉を交わす盟主。 うん、今のところ上手くやれておられますよ。
その調子です。 大丈夫です、何かあっても上手くカバーしますから。
この
あんぐまーるは たよりにならない!
モモンガは つぎのことばに まよっている!
盟主が言い淀んでいるのを察したアルベドが、再び口を開く。
「モモンガ様はお迷いのご様子。 当然でございます、モモンガ様やあんぐまーる様からすれば私たちの力など取るに足らないもの。 しかしながら、ご両名からご下命いただきさえすれば、私たち各階層守護者は如何なる難行であろうと全身全霊をもって遂行いたします。 造物主たる至高の41人の方々……アインズ・ウール・ゴウンの方々に、恥じない働きを誓います」
アルベドの言葉に合わせ、守護者全員が「誓います!」の唱和をする。
盟主の横顔をちらと見ると、感動と衝撃に打ち震えているかのようだった。
私は盟主にそっとさりげなく耳を寄せ、小声で囁いた。
「盟主、この者達は紛れもなくこのナザリックのNPC、その忠誠は本物であると我も確証を得ております。 信用してよろしいでしょう」
盟主が半分こちらに顔を傾け、そして頷く。
その顔は既に喜びと自身に満ち溢れ、そして先ほどまでの迷いや不安、緊張は掻き消えている。
そして盟主は今度こそ、自然な堂々とした威厳で守護者たちに声を発した。
守護者たちの報告ではやはりナザリック内部に異常は見当たらなかった。
彼らが自分の意思で行動できるようになった原因も不明、という点を除いては、だけど。
私も守護者に質問をし、他の領域守護者たちの動向もさりげなく聞いてみたけれど、それも彼らの口ぶりからするとそちらも彼ら同様、自分の意思で動いていることと、そしてまるで「前からそうであった」ように……この事態によって突然意思を持ち始めたと認識しているわけではなく、これが普段の状態だと認識していることが窺えた。
……という事は、数年前に私がまだ頻繁にログインしていた頃も、NPCたちの中では盟主や私たちギルドメンバーと会話を交わしていた認識になっているということか。
なんでもっと前からそうなっていなかったんだろう。 彼らと会話しているのを脳内エミュして小説書いてたというのに。
「では……あんぐまーるさん、地表の様子はどうだったかを話してください」
思索にふけっていると盟主から声がかかった。
はい、と返事をして一歩前に進み出て、わずかに体を盟主の方に向ける。
「まず周辺ですが、見渡す限り広大な草の海が広がっておりました。 <生命探知>による反応があったのは兎か野鼠のような卑小な動物のみ。
なれど上空より見渡したところ、地平の辺りに明かりが灯っているのが見えたため、確認に赴いたところそこは村と思しき場所であり、既に何者かの襲撃を受け壊滅した後でした。
……住民の種族は人間。 いずれも、無残な姿で殺されているか、家屋と共に焼かれえておりました」
<生命探知>を使ったのは帰りしな、まだその辺に生存者か襲撃者が居ないかというのを確認ついでだったけど、これは黙っておく。
「村があったのですか……生存者の姿は無く?」
「はい、みな一様に恐怖と絶望と苦悶の表情を浮かべた死に様にて」
私が答えても、アルベドたちは真面目に聞き入ってはいるがあまり悲しみや同情といった雰囲気は感じられない。
セバスと違ってこいつらは情が薄いのかな、と思う。 私もそれほどは悲しくはない。 所詮は他人事だし。
ただし、この殺戮を行った者達への怒りは別だ。
「……なるほど。 生きていれば話を聞くなどして都合が良かったのですが。 他には……草原は特に何の変哲もないもので? 歩くたびに鋭い草が突き刺さるダメージトラップになっている、という様子でもないのでしょう?」
「御意にて。 そこに生きる小さき獣らと同様に、特に障害となるものもない草原でした」
「天空城などの姿もありませんか?」
「全く影も形も。 空には瞬く星があるばかりで。 盟主も一度御覧になったほうがよろしきほどの美しき星々が輝くほか、何も。 盟主、やはりこれは……」
「そうでしたね、星空でしたか……お疲れ様でした、あんぐまーるさん。 あとで、私の部屋で話したいことがありますので、残りは後ほど」
盟主は残念そうに私に労をねぎらった。
元の位置に戻りながら、確かに残念だったと思う。 あの村に生きているものが見つからなかったのはとにかく惜しい。
一人でも生存者がいれば、それは襲撃者を突き止める大きな手がかりになったはず。
私はナザリックがユグドラシルのゲーム内世界から別の場所に映ったと考えはじめていたけど、どうやら盟主もそのようだ。
でも今は、NPCたちの前ではあまり聞かせたくないのかな。
……あ、そうか。 GMコールと同様NPCたちにはよくわからない話が絡むから後で私たちだけでってことか。
盟主は守護者たちにナザリック内部の警備レベルを上げることや、ナザリックそのものを隠蔽する支持をしたり案を話し合っていたが、私は半歩後ろでちょー格好いい忠節を尽くす騎士の待機姿勢をとりながら、やっぱりシャルティアってロリ可愛いなあとかマーレって実際に喋り始めるとこんな感じだったんだ、まったく美少年は最高だな!とかの思索にふけっていた。
正直難しい話よくわからないし。
「さて、今日はこれで解散……」
話が終わったようだ。 危ない、聞き逃すところだった。
私は忘れないよう勤めていた例のことを意見具申すべく、発言した。
「盟主、その前に申し上げたき事があり」
「えっ。 なんでしょう、あんぐまーるさん」
盟主がこちらを振り返る。 守護者たちも私に一斉に注目した。
そんなに皆に一度に見つめられるとちょっと緊張する。
「先の報告の中で申し上げた、村を襲撃したものたち……これについての調査、そして追討を進言します」
「それは……あんぐまーるさん、少し慎重になった方がよろしいのでは? 確かにこの周辺で何が起こっているのかは気になりますが」
盟主は何かを心配、もしくは警戒しているような表情を浮かべている。
が、私は気にせずそのまま言葉を続けた。
「かの村での惨状、あれは人の行いとは思えず、人面獣心の類なり。 明らかにわざとか弱きものらをなぶり殺しにした形跡が見て取れ、その所業はまさに鬼畜。
かの者らが何者であろうと、我はそれを見つけ出し死を持って所業に報いねばなりません。
……我はそやつらに、我自身が盟主にお助けいただいた忘れもせぬ日の、あの正義騙る愚か者どもと同じ臭いを嗅ぎ取りました」
「……!」
盟主の顔が真顔に変わった。 やはり、盟主は我が心をご理解いただけたようだ。
そう、我と盟主はあのようなかかる横暴者どもを許してはおけぬ。
それは明確な我らの敵。 我らアインズ・ウール・ゴウンの「悪」が討滅せねばならぬ不倶戴天の存在なのだ。
「その正体も未だ掴めませぬが、しかし、奴らがこのアインズ・ウール・ゴウンと友誼を結ぶには値せぬものどもであることだけは明白です」
「わかりました、あんぐまーるさん。 どのみち、付近にいるだろうそいつらの詳細は調べないといけませんしね……。
アルベド、デミウルゴス、両名は協力してあんぐまーるさんとセバスが発見した村を襲撃した者たちの調査を行うことを追加する。
では、これで今度こそ解散だ。 各員は一旦休息に入り、その後行動を開始せよ。
どの程度でひと段落つくか不明であるため、けして無理はするな」
盟主の指示に守護者たちが頭を下げる。 了解の意思表示だ。
私が普段「承知」とか行ってる場面だな。
「最後に……各階層守護者たちに問いたいことがある。 シャルティアから順番に申せ。 お前たちにとっての私とあんぐまーるさんは、それぞれどのような存在だ」
え、何それ盟主。 何言っちゃってんのというか、何でそんな事訊ねてるの!?
自分に忠誠を誓ってる相手にそういうことわざわざ聞く!?
それって恋人に「私のこと愛してる?」って聞くのと同じくらい気恥ずかしいことじゃないんですか。 まあ、聞きたいですけど……聞く相手がいれば……。
「モモンガ様は美の結晶、まさにこの世界でもっとも美しい御方であります。 その白き体と比べれば、宝石すらも見劣りしてしまいます。
あんぐまーる様はモモンガ様に続く美しき魂をお持ちの御方。 その黒きお顔の色の深さは黒曜石よりもなお魅入られます」
「モモンガ様ハ守護者全員ヨリモ強者デアリ、ソシテあんぐまーる様はソノモモンガ様ノ懐刀。 御二方トモニマサニナザリック地下大墳墓ノ支配者ニ相応シキ方々カト」
「モモンガ様は慈悲深く、配慮に優れたお方です。 あんぐまーる様は鋭い見識を持ったお方です」
「モモンガ様は、す、すごく優しい方だと思います。 あんぐまーる様は、かっこいいです」
盟主を褒め称える美辞麗句が続く。
……これ最後に私も盟主をどう思ってるか言わなきゃならない流れかな。
やっぱり言った方がいいのかな。
「モモンガ様は賢明な判断力と瞬時に実行される行動力も有された片。 あんぐまーる様はモモンガ様をさらに補佐し、並ぶ知恵をお持ちのお方。 お二人がおられればこのナザリックは磐石と言っても過言ではないでしょう」
「モモンガ様は至高の方々の総括に就任され、そして最後まで私たちを見放さず残り続けていただけた慈悲深き片、そしてあんぐまーる様は再び私たちの元にお戻りくださった、お優しきお方です」
「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であり、そして私の愛しいお方です。
あんぐまーる様は同じく私どものお仕えすべき素晴らしき主人です」
最後のアルベドがモモンガさんに向けた笑みと、私に向けた笑みが微妙に違うような気がした。
……なんか、引っかかるなアレ。
というか、どうもアルベドだけ態度が微妙に変というか、私の知っているアルベドと違和感がある気がするんだよね。
なんだろう、職場で課長(渋いハンサムなロマンスグレー)と会話してるときのB子の視線みたいな……
NPCたちは本当に私の知ってる限りのNPC当人だと思ってたけど、実は違うのかな?
「……なるほど、各員の考えは十分に理解した。 それでは私達の仲間達が担当していた執務の一部も、お前達を信頼し委ねる。 今度とも忠勤に励め」
守護者たちが頭を下げて拝謁の姿勢を取ると、盟主が振り返って私に言った。
「それでは、一旦戻りましょうかあんぐまーるさん。 まずはレメゲトンへ」
「承知」
私達は順番に転移で移動した。
「疲れました……」
盟主は転移するなり壁にもたれかかって大きく息を吐いていた。
本当にお疲れ様です。 盟主はギルメンたちの前よりずっと頑張ってたよね今回。
私は何時もどおりだったけど。 末席であまり発言権が無くて遠慮しているというキャラクターだし。
「……あいつら、何なんでしょうねあの高評価。 全くの別人のこと喋ってるかと思いましたよ」
盟主はあははは、と乾いた笑い声をあげる。
「……そうでしょうか。 明らかに盟主のことでありましょう。 いずれも正確な評価かと」
「えっ」
「えっ」
……何ですかこの間。 私そんなに変なことは言ってませんよ?
冗談を言う雰囲気でも空気でも無いはずですし。
「そうでした……あんぐまーるさんもそういうキャラでしたね……評価高すぎだろ俺……。 俺なんかよりたっち・みーさんの方が素晴らしい評価されるべきでしょ……。 何てことだ……ここにももう一人伏兵が居たなんて……!」
盟主はなんだか一人でぶつぶつ悩ましそうに呟いているのだが、私は取り急ぎ盟主に問い合わせたいことがあった。
そう、あの違和感の正体だ。
「ところで盟主。 NPCの中でアルベドの様子だけがおかしくあると感じましたが、盟主の側では何かお気づきになったことはございませんか」
「うっ!」
……盟主、その反応はなんですか? 何か隠してませんか?
盟主? 盟主~? なぜ視線を逸らすのでしょうかね?
ちゃんとこっちを向いて話してください。
あんぐまーるは他にも名前が長い(6文字以上)人は頻繁に呼び間違えます。
例外的ですが寝落ち寸前の眠いときにはモモンガ様をムササビ様と言い間違え、以降「盟主」と呼ぶようになりました。