オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~   作:コノエス

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この作品は、丸山くがね様著、オーバーロードの二次創作です
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております




避け切れなかった。

右肩に神聖属性のエンチャントを受けた鋭い矢を受け、あんぐまーるは崩れ落ちそうになって片膝をついた。

剣を杖代わりにして立ち上がろうとするが、アンデッドにとって最大の弱点と言える属性攻撃を受けた体は一時的な硬直が発生し容易には言う事を聞いてくれない。

HPのゲージが大幅に減少している。 次の一撃を耐えることは難しいだろう。

背後は壁。 目の前には迫る、白銀の剣と華美な装飾を施した楯をそれぞれ構えた聖騎士のプレイヤー。

 

「邪悪なモンスターめ、私がいま止めを刺してやる! 滅びるがいい!」

 

勝手なことを言うものだ。

彼らが「悪の存在を討伐する聖なる正義の戦士たち」をロールプレイしたいなら、その辺でモンスターを狩っていればいい。

それに対して異形種を選択しただけのプレイヤーをPKしてまで無理やり付き合わせていい道理は無い。

あんぐまーるもロールプレイとして異形種を選び、神聖でなはい職種を習得しているが、それは自分の好きなキャラクターを作りたい、演じたいというだけであるし、それに他のプレイヤーを一方的に巻き込むような迷惑行為はしたことがない。

ごっこ遊びをしたいなら、せめて同意のもとでやれ。

あんぐまーるはそう言ってやりたかった。

だが、こういう手合いはそんな事に耳を貸すようなタイプの人間ではないし、言って理解するようなら最初からこんな悪ふざけの過ぎた遊びなどしない。

幼稚な子供だ。 自分が向かい合っている相手が自分と全く同じ心を持つ人間であると理解できる情緒をもたない未熟な幼児。

聖騎士が剣を振り上げる。 その背中越しに、聖騎士の仲間たちが実に楽しそうに笑っているのが見える。

不愉快だ。 実に不愉快だ。 あんぐまーるのはらわたは煮えくり返る怒りで満ちていた。

 

「死ね!」

 

だがとどめの一撃が振り下ろされる瞬間、<短距離転移>の魔法が発動する。

あんぐまーるの体はエフェクトとともに消えうせ、聖騎士の剣は壁にがつりという音を立ててぶつかった。

 

「くそっ! 消えた!」

 

「<霊体化>のクールタイム中だから逃げられないって言ったの誰だよ!」

 

「お前がさっさとトドメ刺さないからだろ! 人のせいにすんなよ!?」

 

「そんな遠くには移動できない、探すんだ!」

 

通りを挟んだ反対側の廃墟の中で、あんぐまーるは一息をついた。

外からは奴らの怒りに満ちた声が聞こえてくる。 せっかく仕留めるはずだった獲物を逃し、さぞや不満なことだろう。

一時しのぎだが、とりあえず虎口は脱した。 だが、今のMP消費で逃走用に残しておいた<騎獣召喚>は使えなくなった。

乗騎を呼び出してこの場を強引に突破するという手段はもう使えない。

建物を利用して見つからないように隠れ、<霊体化>を活用してどうにか逃げ切るか、それとも隙を見て逆襲を試みるか。

後者は難しいだろう。 こちらの<生命力吸収>スキルによって与ダメージ/一定割合分のHPを回復できているから死を何度も免れているだけで、相手側の攻撃……こちらへの被ダメージが高いため、普通に戦っているだけでジワジワとHPを削られ劣勢に持ち込まれる上、弱点属性を突いた攻撃は一発でも避け損なえばもう詰みだ。

加えて、彼らは多数。 一対一ならもう少し戦いようがあるが、同時に多方向から攻撃されれば全てを回避する事は出来ないし、そしてこちらが削ったHPはお互いカバーして回復される。

どだい、最初から勝ち目が無い。

もとから種族特性で防御を補うスタイルな上、各種属性エンチャント武器を揃えるのを優先して防御面での耐性や継戦性は後回しにしてきたツケが来た。

手持ちのカードは少ない。 負けて死ぬこと=デスペナも覚悟しなければならないが、しかしただやられるのも癪だった。

 

「居たぞ!」

 

外で声が上がる。

一瞬、居場所が発見されたと思い驚いて立ち上がるが、しかし様子がおかしい。

そっと外の様子を伺うと、奴らはあんぐまーるが潜む場所とは別の方向を見て、そして動揺していた。

見つけたと奴らが思ったものは、全く別の、そして意外なものだったらしい。

 

崩れた瓦礫を乗り越えてゆっくり歩いて来たのは、豪奢なローブを身にまとい、超級のアイテムで完全武装した禍々しき骸骨の姿。

そのアンデッドは聖騎士とその神聖なる仲間たちをギロリと睨みつけると、言い放った。

 

「どうした、邪悪なモンスターが現れてやったぞ。 滅ぼさないのか?」

 

その声に威圧された彼らがうめく。 彼らはどうみても、新たに現れたこの闖入者の実力、自分たちとのレベルの差、脅威の度合いを前から理解していた。

誰かが、「アインズ・ウール・ゴウンのモモンガ……!」と畏れと憎しみを込めた震える声で呟いた。

モモンガと呼ばれたアンデッドのプレイヤーがゆっくりと手を伸ばす。

<心臓掌握>が発動し、仲間内のやや後方にいた精霊使いが、抵抗に成功し即死こそ免れたものの膝を突いて崩れ落ちる。

仲間をフォローすべくすぐ右隣にいた大司教が駆けよろうとして、直前で立ち止まってああっ!と叫んだ。

精霊使いはいつの間にか背後に忍び寄ったあんぐまーるの剣に刺し貫かれていた。

<生命力吸収>スキルが発動してあんぐまーるのHPゲージが戻るのと入れ替わりに、精霊使いのHPは0になる。

それを見たほかの仲間達が悔しげに呻いた。

 

「さて……そこの方。 ここは共闘と行きたいのですが、よろしいかな?」

 

モモンガがあんぐまーるに向かって声をかける。

二人の視線が交錯し、そしてあんぐまーるはゆっくりと頷いた。

 

「承知した。 貴公の提案を容れ、喜んで手を組もう」

 

最強のアンデッドの魔法使いと、生命を屠るアンデッドの騎士。

二人に前後を挟まれた聖騎士たちを死都の闇夜に浮かぶ紫色の月が美しくも無慈悲な女王のごとく睥睨していた。

 

 

 

 

 

……はっ!?

いけない、現実逃避のために一瞬盟主と初めて出会ったあの日の思い出を回想する行為に浸ってしまっていた。

私は盟主が口にしたその言葉の衝撃の強さは相当な……あまりにも意外・想像の埒外・発想の斜め上過ぎて、上手く受け止めきることができず脳が理解を拒否したようだった。

もう一度、盟主に尋ねる。 聞き間違いでないか確認のために。

 

「……盟主、今なんとおっしゃられました」

 

「その……アルベドの設定の一番最後を書き換えて、『モモンガを愛している』と書き込みました……ごめんなさい、本当に申し訳ありません」

 

何してくれちゃってんのこの人。

普通そういう事しますか? いやもうほんとに何してんのこの人。

なんでアルベドの設定を勝手に変えるの。 タブラさんに無断で。

あれですか、どうせもうユグドラシルのサービス終了してサーバーも停止してデータも何もかも消えちゃうし皆帰っちゃったから、内緒で勝手に自分の好きなようにNPCの設定変えちゃおうって思ったんですか?

いくらギルド長だからってやっていい事と悪いことがあるでしょう……。

無断ですよ? 無断で。 無 断 で 。

しかもよりによって「自分を愛している」なんて書き込みますか。

引くわ。

私だってNPCの設定にそんな事書かないわ。 引くわ。

 

「盟主、それは我ではなくタブラ様にこそ頭を下げられるべきかと」

 

「そうですよね……ほんとなんと言ってタブラさんにお詫び申し上げたらいいのか……俺なにやってんだろうマジで……いや自分でもわかってましたけどね……これでもう最後だっていうのと、深夜テンションで頭おかしくなっていたんです……」

 

盟主が今まで見たことのないくらいに物凄く落ち込んでいる。

反省と自己嫌悪で切腹でもしそうな勢いだ。 骸骨の姿でどこを切るんだろうという問題はあるけれども。

あーもー! だからアルベドの挙動が何か変だったんだ……。

あれ絶対私の知ってるアルベドじゃないもの。 アルベドはそんな事言わない!状態。

 

「でもですね、あんぐまーるさん。 アルベドの設定の最後の行は本来『ちなみにビッチである』だったんですよ。 タブラさんがギャップ萌えなのは承知してますけど、なんかあんまりだなって。 いくらなんでも酷くはないかなって思ったんです」

 

なんか盟主が顔を上げ、言い訳じみた事を訴えてくる。

知ってるよ! アルベドを『アインズ・ウール・ゴウン栄光戦記 ~冥府覇道の章~』で書くために設定を読み込んだんだから!

アルベドは複雑で不憫な過去があったり可愛らしい部分があったりその一方で全部演技っぽかったり笑顔が怪しい裏がありそうだったりちょっと病んでる部分もありそうだったり危ういバランスで保ってそうな所があったりその上で「ギャップ」がトドメ刺してるからあんなに愛らしいのであって、そこを外しちゃったらダメでしょ!

異なる要素が複雑に、それこそ時に相反するもの同士が絶妙なバランスで同居するからこそ美しい魅力的なキャラクターが完成というのに、盟主はギャップ萌えのなんたるかがわかってない!

これリアルだったら確実に正座一時間お説教再教育コースです。

 

……でもようやく理解した。 アルベドのあれは、嫉妬か。

愛する御方の心配をして気遣おうと近づいたのを止めた私はそりゃ気分と印象がよくないだろう。

加えて、好きな人の隣にさも当然という感じで寄り添っているわけだし。

うん……? なんかおかしいな。 私はアルベドの設定を知っているけど、アルベドは私の中の人の事は知らない、知りようがないはずだ。

反感は抱いても嫉妬を向ける必要はないはず。

嫉妬というのは勘違いかな? それとも……気づかれている? そんな馬鹿な。

盟主をはじめギルドメンバーだって私のリアル性別に言及したことはないし、男だと認識して相手していてくれている。

そもそもこの体も異形種で死霊だから性別とかは無い……はず。

よし、気のせいだ。 アルベドは男でも無性でも盟主の側に居る奴は嫉妬しちゃうんだ。 可愛い子。 アルベドマジ天使。 ナザリック一可愛いよ。

納得したところで私はそろそろ次の話にすすめよう、と盟主へ促すことにした。

 

「盟主、過ぎたことはもうどうしようもありません。 それに、話し合わねばならぬ事項は他にも多くあります」

 

「そうですね……。 まず、お互いの状況認識から始めましょう。 とりあえずは私の自室に」

 

 

 

 

盟主と私は盟主のプライベートルームに移動し、卓を挟んでそれぞれ椅子に腰掛けた。

話すべきことは色々あった。

 

「……まず、ナザリックがユグドラシルから別のどこか異なる世界に移動したのは確実で、それにともない守護者たちNPCも『現実の存在になった』と見ていいですよね」

 

「加えるならば、我らのアバターとしての外装もそれを反映した実際の肉体になった、という所でありましょうか」

 

さらにはNPCたちの設定も忠実に反映されており、フレンドリー設定、敵味方の所属判別もそのまま適用されている。

これにより、裏切りや反乱はもうないだろう、というのが私の見解だった。

だが、盟主は少し違ったようだ。

 

「……彼らのあの評価の高さを見ると、それはそれで不安なんですよね。 もしあの評価を崩したら、失望されるんじゃないかって。

 仮に絶対裏切らないにしても、ああまで好意と期待を向けられると、それに応えたくなっちゃうじゃないですか。

 でもそれがハードル高いんですよね……」

 

盟主がまた何か意気消沈している。 盟主、盟主は十分ご立派にやられていますよ?

もっと自信を持ってください。 あんなに威厳に満ちた態度で守護者たちに命令ができるのですから、この先も大丈夫です。

私は盟主を適当に励まし、次の議題に進めた。

 

「魔法は、問題なくユグドラシルの通りに使えますね。 効果範囲やリキャスト時間もほぼ同じままで。 耐性に関する仕様もそのまま。

 特殊能力も保持。 ただ、フレンドリィファイアの解禁など一部の仕様は変更されているようです。

 検証した限りではこんなところです」

 

盟主がきっちり仕事をしてくれている。 すげえ。

私、魔法や種族の特殊能力がそのまま使えるかどうかよく考えないで<上位騎獣召喚>とか使ったよ。

もしちゃんと使えてなかったらあれ私がそのまま無鱗飛竜に食われてた可能性あるのか。

……黙っておこう。

盟主マジ有能。 その頭脳に凝集された叡智はもはや我ごときでは到底及びもつきませぬ。

 

「こちらも、<上位騎獣召喚>によってモンスターが呼び出せることと、完全に制御下におくこと、そして騎乗スキルが問題なく機能することを確認しております」

 

「あとは、<伝言>がやはりGMには繋がらないことと……あんぐまーるさん以外のギルドメンバーには繋がらない事が確認できました」

 

盟主の言葉の最後の方は、明らかに気落ちしていた。

私も少なからずショックだった。 ある程度は予測……いや、考えないようにしていた。

玉座の間に居たのが盟主だけだったから。

やはり、この事態に遭遇したギルメンは私と盟主だけだったのだ。

いや……盟主だけでも居てくれたのは幸いだった。

もし、玉座の間に誰も居なくて……その時ナザリックに居たのが私だけで。

そしてこの異常事態に直面することになったら。

きっと、私は困惑するばかりで、冷静に対処することが出来なくて、どうしたらいいのかわからないから、泣いてしまっていただろう。

でも、盟主が居た。 盟主がサーバー停止の最後の瞬間まで残っていてくれなかったら。

盟主があの時に居合わせてくれなかったら。

……逆も同じだ。 もしも私がギリギリでメールに気づくことなく、そのまま盟主を一人きりであの時あの状態にさせていたら。

いったい盟主はどうなっていただろう。

私は、盟主をじっと見つめて口を開いた。

 

「盟主……このようなかかる事態において妙な話になりますが、盟主が最後まで我をお待ちくださったことに感謝いたします」

 

俯いていた盟主も、私を見て言った。

 

「そんな……あんぐまーるさんこそ、こんな状況の中であんぐまーるさんが居てくれなかったら、私一人ではどうにもできなかった。 ありがとうございます。 帰ってきてくれて」

 

盟主、我らが盟主、我が主君。 そのお言葉をいただき、私は胸がいっぱいになった。

この体じゃなければ見栄も外聞も無く大泣きしていたに違いない。

もうこれだけで私は人生に一片の悔いなし!というくらい幸せで、充分過ぎるくらいだったけど、他に心残りがあるとすれば……

 

「ただ、他の方々にはお会いできなかったのが残念です」

 

「本当に、そうですね……今日来てくれた人たちも、本当にわずかで……ヘロヘロさんなんか、かなりギリギリまで居たんですよ。 あんぐまーるさんが来る少し前まで。 ニアミスでしたね、あははは」

 

ガターン!!という大きな音を立てて勢いよく椅子を後ろに弾き飛ばし、私は立ちあがった。

とても大きなショックに全身を打ちのめされている。

なぜ。 もっと早く。 どうして今朝ケータイを家に、そもそも昨日の時点で気づいてなかった。

皆と会えなかったのは自分だけ、という思いが頭の中をぐるぐる駆け回る。

全身から力が抜け、そのまま私は卓に勢いよく倒れ伏して顔面を強打した。

盟主が驚愕の表情で口を大きく開けている。

私は両手で頭を抱え、しばらくしてから起き上がって盟主に告げた。

既に受けたショックは通り過ぎて急速に心は冷めて行ったが、しかし気力がこれ以上何か考えることを拒否していた。

 

「盟主……もう大分時間も経ちましたし、我は一旦自室にて休憩したく思います。 お許しを」

 

「あ……はい、あんぐまーるさん……お疲れ様でした……ごゆっくりお休みなさい……どうか気を落とさずに……」

 

盟主の言葉を受け、私は挨拶もそこそこにふらふらとした足取りで盟主の私室を退出した。

ちょうど、セバスがやってきて入れ替わりになったが、セバスの挨拶にも上の空だった。

そしてなんとか自分の私室に辿り着くと、そのままベッドに倒れこんで朝までふて寝した。

 

 

 

 

 

 




一方その頃、守護者たちは原作通りにモモンガ様とあんぐまーる様凄いねとか股間から体液を漏らしたシャルティアとアルベドが喧嘩をはじめたりとか
どちらが正妃だとかあんぐまーる様の方にもお妃は必要だとかもしかしたら他の至高の方々もこれから先戻ってくることもあるかもしれないと期待したりとか
コキュートスがモモンガとあんぐまーるのそれぞれの子息に両手引っ張られて「じいはぼくのだ!」とお互い主張しあい喧嘩する最高に幸せな想像をしたりとか
あんぐまーるの発言に一部の該当しそうな守護者たちがあえてそれを話題に出すのを回避したりとか
楽しくやってました

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