オーバーロード・あんぐまーると一緒 ~超ギリ遅刻でナザリック入り~ 作:コノエス
web版と書籍版の設定・展開をツギハギにしております
「お名前はなんとおっしゃるんですか」
助けた少女に名を問われ、モモンガは一瞬思考した。
ここで、名乗るべきか。 名乗るとしても……本当の名を名乗るべきか。
この世界にいったいどんな存在が居るかわからないし、この世界に来たのが自分たちだけとは限らない。
ユグドラシルにおいて、アインズ・ウール・ゴウンの名は知らないものが居なかった。
もしこの世界に自分たちと同じように、やってきた存在がいるならば……かつてアインズ・ウール・ゴウンと敵対し、また良くない印象を抱いているものも居るかもしれない。
可能なら自分たち同様のユグドラシル・プレイヤーとの敵対は避け、場合によっては同盟を組むことも考えたいが、向こうにその気がないならば、アインズ・ウール・ゴウンというギルド名やモモンガ、あんぐまーると言った名前で自分たちの存在を喧伝するのはリスクを伴う。
だが……もしかしたら、自分たち以外にもアインズ・ウール・ゴウンのメンバーがこちらに来ているのならば。
あんぐまーるさんがギリギリで来てくれたように、ヘロヘロさんのように直前まで居たメンバーや、あるいは別アカウントを取得してログインしていたかもしれないメンバーも……。
その可能性は、充分あった。
ならば、その可能性に賭けたい。 モモンガの思考は、結論に達した。
「我が名を知るがいい。 我らはアインズ・ウール・ゴウン。 その統率者、我こそが……モモンガである」
少女に名を告げ、遠隔視の鏡で見た村の全体図を思い出しならがモモンガは村に向かって歩き出す。
歩を進めるうち、ふとモモンガは思った。 最初、自分はこの村の住人を助けようとは思わなかった。
見捨てるつもりで居たのだ。 だが、あんぐまーるはこちらが何か言い出す前に即座に助けに行こうと……いや、あれは本当に「村人を救出しよう」という意味で言ったのだったのか?
あの時内心、自分は村人を見捨てると考えた自分の精神が「人間として異様」であることに驚いていた。
睡眠や疲労が存在しなくなったのと同様、精神構造も人間を人間と見なさなくなっている……いや、人間を仲間だと思い、同情や哀れみを覚えるようにならなくなって、アンデッドのものになって来ているのでは、と発想に至るのに不自然なところは無かった。
だが、あんぐまーるは自分とは違う選択をした。
それが人間の精神をあんぐまーるさんはまだ有していることによるものなのか、それとも……。
ふと、嫌な予感がした。 何か一、つ小さくない失敗をしたような嫌な感じが。
「アルベド、急いであんぐまーるさんを追う」
「わかりました、モモンガ様」
……と、その前に。 モモンガはアイテムボックスから嫉妬マスクと通称呼ばれている異様なデザインのマスクを取り出し、顔に装着した。
「あんぐまーるさんにも顔を隠すよう……いや、大丈夫かあれは。 フードを目深に被ってて顔が見えないと思われるかもしれないし」
声が爆発となって空気を震わせ、肌を直接打ち付ける感触というものをはじめて騎士たちは体験しただろう。
死の騎士に最初に吹き飛ばされた騎士の一人が、地面に衝突して手足が変な方向に折れ曲がった奇妙な姿勢のまま動かなくなっている。
他の騎士たちは反射的にそう行動してしまったんだろう、よく訓練された行動は体に染み付いて離れない……突如出現した死の騎士に対する半包囲陣形を取っているが、しかし死の騎士の威容に圧されて動けないで居る。
そこに、咆哮だ。 あれは迫力があるだろうな。
案の定、囲んでいた騎士の一人が情けない悲鳴をあげて逃げ出した。 そして、即座に追った死の騎士の持つ巨大な波打つ刀身の剣に両断される。
そこへ、さらに側面に騎馬で回りこんだ私が横合いから<チャージ>を行った。
「う、うわああああああっ!?」
直前で気づいた騎士は、しかし人馬一体の突風となった私に対応する余裕さえ与えられない。
草を薙ぐように私はその騎士の首を刎ねた。 空中で回転しながら切り口から血を撒き散らす頭部。
それが、仲間の騎士の足元に落ちて転がり、刈り取られた首と生者の目が合った。
そのまま駆け抜ける私により陣形が乱れ、そして死の騎士の暴風のような斬逆がさらなる犠牲者を血祭りに上げる。
それでもまだ恐慌状態になって壊走し、散り散りに逃げたりしないんだからこいつらはよく訓練された連中だ。
それどころか、誰も支持しなくても自然と防御陣形をとり、死の騎士への反撃を試みつつ、私が引き返してきて再度突撃するのを警戒する。
これだけ低レベルでも連携した動きができるのは中々居ない。 うん、そこは素直に褒めてやろう。
こいつら相当に集団PT戦を繰り返してきた一団だな。
でも、無意味なことだ。
私は馬を・・そいつらに向かって突入させた。
「来るぞ! またさっきの騎兵だ!」
「まともに当るな! ……いや、違う! 騎手が乗っていない! がはっ!?」
そう、乗り手の居ない影の雌馬は囮。
私は一旦馬から下りて<霊体化>して接近しており、馬が通り過ぎるのを避けた騎士の背後から<霊体化>の解除と同時に奇襲した。
別の騎士が切りかかってくるが、その剣を2~3度適当にいなしてから、相手の構えが崩れたのを見て無造作に左手を突き出す。
そいつの兜ごと頭部を掴み、<
そして騎士の体はまるで砂で作った像であったかのように……崩れ、灰化して着ていた甲冑とともに地面に散らばる。
少し離れた所に集められている村人たちからも悲鳴があがった。
何これ。
ユグドラシルでは単に経験値ドレインするだけの効果だったんだけど、そのおかげであらゆるプレイヤーからはメッチャ嫌がられて居たスキル。
モンスターが使うだけならともかくプレイヤーが使うなよ!という声も度々上がったくらいだ。
……あれか。 こいつら低レベルだから、経験値を奪いすぎてレベルが0かマイナスに突入したからキャラロストしちゃったのか。
ユグドラシルではこの機能無くて本当によかった。
<霊体化>のクールタイムが終了したので、再び発動。 不可視・不干渉の状態になって離脱する。
「ひいいいいいっ!?」
「神よ! 神よぉぉぉぉ……」
正面からは死の騎士。 背後や側面からは神出鬼没に出現する私。
恐怖に耐えられなくなったのか騎士たちが悲痛な声と嗚咽交じりの祈りの声を上げる。
勝手な奴らだ。 救いを求めるなら、なぜ殺しなんかする?
お前たちが殺した人々も、同じように救いを求め、命乞いをしたはずだ。
自分が殺されるときは殺されたくないなんて、そんな都合のいいことを要求するお前たちは……「悪事」を行うものではあっても「悪」なんかじゃない。
ただの卑劣漢というんだ。
「クゥウウウ……」
喜悦の声。
わざと騎士たちを巨大な楯で小突き、逃げようと試みたものからその剣で貫き、叩き潰していく死の騎士が明らかにこの嬲り殺しを楽しんでいるのだと私にもわかった。
お前、後で覚えてろよ?
姿を現した私にとっさに防御しようとした騎士の両手を小手ごと切り落とし、その首を掻き切ってさらに胸を刺し貫いてから<霊体化>で離脱する直前、私は死の騎士を睨みつけた。
後ずさる死の騎士。
「き、貴様ら! あの、あの化け物を抑えよ!!」
引きつった奇妙に滑稽な声を上げた騎士が居た。
その声に他の騎士たちも動揺するのが見て取れる。
「俺は、こんな所で死んでいい人間じゃない! お前ら時間を稼ぐんだ! 俺の楯になれ! 金を、金をやるぞ! 金貨、200! いや500だ!」
……何を言っているんだこいつは。
私は一瞬あっけに取られた。 お金を提供するから仲間に自分を逃がす捨石になれって?
そんなもの、死んでからじゃ金銭なんか何の意味もないだろうに。
私ははあ、とため息を付いて<霊体化>状態のままそいつに向かって歩いた。
死の騎士お前は手を出すんじゃないぞ? 一応視線を向けるが、この状態であいつにも見えているのか、意思が通じるのかは不明だ。
騎士はさらに声を張り上げて喚きたてているが、呆然と見つめる仲間はいても何か反応しようとする奴は居ない。
私は<霊体化>を解除し、正面から騎士の頭部をつかんだ。
「ひぎゃああああああああああっ!!」
そのまま、騎士を宙に吊り上げる。
「金銭か。 貴様の提示できるものは」
そいつの兜の隙間から見える、怯えきった醜い目を睨みつけながら、私は口を開く。
全身を溶けた鉄のような静かな怒りが満ちているのがわかった。
「はい、はい゛! たじゅ、たじゅけで! おねがいじまず、いくらでもおがねだじまず!!」
「金などでは我らの興味を引くことはできぬ。 ……我は死を運ぶもの。 我らが盟主の手足となりて、貴様ら下郎に死をもたらす尖兵なり。 我らが盟主は貴様らの生命をご所望である」
「ひっ……!!」
逃れられぬ死を悟ったそいつの目が絶望の濁りに満ちる。
私はそいつの腹に剣を容赦なく突き立てた。 二度。 三度。 何度でも、繰り返し刀身を内部で捻り、内臓をかき回し、抉って切り裂いた。
切っ先を突き入れるたびに体は痙攣し、手足は苦痛から逃れようとバタバタともがき、そして屠殺される豚のような哀れな惨めったらしい悲鳴をあげる。
「ぎゃああああああああああ!! あぎゃああああああああああ!! おがね、おがねあげまじゅ! だずげて! だれが! おがね! おがねおごおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
悲鳴はやがて血をこみ上げるゴボゴボという音が入り混じり、兜の隙間と腹部の穴から赤黒い液体が零れ落ちて甲冑を伝い、地面に血溜まりを作ると聞こえなくなった。
私は死骸の頭部から手を離した。 重たい音とともに血溜まりに死骸が落ち、少し血が跳ねて飛んだ。
さあ、次は誰だ。 私はゆっくりとまだ残っている騎士たちを、獲物を見回す。
見るからにガタガタと震えている奴もいた。
誰かの消え入りそうな「かみさま」という呟きの声も聞こえる。
だが、誰一人として逃げようとしない。 逃げようと動けば、死の騎士の巨剣が待っている。
しかしそんな中にはまだ勇敢さを保つ者は居たようで、仲間に指示を飛ばす騎士が居た。
「……落ち着け! 撤退だ、合図を出して馬と弓騎兵を呼べ! 残りの人間は笛を吹くまでの時間を稼ぐ! あんな死に方ごめんだ! 行動開……」
流石は訓練を受けた者たち、的確な指示さえあれば体が付いて行く。
だが、それが逆に仇になった。 数歩下がった騎士が剣の代わりに背負い袋から角笛を取り出そうとするが、私はその動作を見逃さない。
<霊体化>から真っ直ぐその騎士へと駆け寄り、解除と同時に騎士の左肩に剣を振り下ろす。
その騎士の着ていた甲冑ごと切り裂いた刀身は右胸を通過、腰の辺りまで一気に食い込んでいる。
鮮血を吹き上げて絶命する騎士が取り落とした角笛を、私は踏み潰して割り砕いた。
あっけに取られる騎士たち。 指示を出した騎士は悔しげに「糞!」と吐き捨てている。
そして死の騎士も立ちはだかろうと前に出ていた騎士数名を一人一人、剣の剛打で吹き飛ばした。
さらに、騎士たちの中から悲鳴があがった。
死の騎士に殺された死骸が蘇り、アンデッドになって立ち上がり始めたのだ。
まだアンデッド化していない仲間の首を刎ねるために、指示を受けて騎士が2人仲間の死骸に駆け寄る。
それを私は後ろから刺し貫く。 そして、気づいたもう一人が切りかかってくるのを適当に相手して、<霊体化>で離脱。
注意を他の事に向けた奴から私の餌食だ。
正直、こいつらを瞬殺するのは簡単だ。 でも、あまりに簡単に終わらせたらこいつらは苦しまない。
自分たちが殺した人のように、今度は自分たちの番なのだから、じっくり恐怖と絶望と苦痛を味わえ。
なんら抵抗できないまま、どのような抵抗も無駄と徒労に終わることをしっかり自覚して嬲り殺されていけ。
それがお前たちの末路だ。 慈悲は無い。
さあ、さらにお前たちに絶望を植え付けるために、あえて使うほどじゃないと思ってオフにしていたバッドステータス効果のスキルも開放してあげようじゃないか。
効果範囲に村人たちが入っていないのを確認し、使用する。
<錯乱のオーラ>
「がああああああっ!」
「いひぃいいいいいいいいっ!?」
「あば、あばばばばばばば」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
……あれ?
今まで生き残っていた騎士たちの全てが口から泡を吹き、白目を向いて膝から崩れ落ち、ある者は笑い続け、ある者は頭を抱えて地面を転げまわり、またある者は剣で自分の喉を突いて自害している。
<錯乱のオーラ>の効果って、恐怖・混乱・命中率低下・一部行動およびスキル使用不能、等の直接攻撃ダメージは無いものだったんだけど……?
もしかして、精神に作用するからこいつらのレベルだとショックが強すぎてSAN値直葬しちゃった?
……ヤバい、ミスったかも。
死の騎士も、何か言いたげにこっちを見ている。
いや、これ私のせいじゃないでしょ。 想定以上にこいつらが低レベルなのが悪いんだよきっと。
もしくはユグドラシルとこっちで効果が微妙に違うからいけないんだよ。
想定外です。
だからこっち見んなってば。
死の騎士の視線から逃れるためにふと上に頭を向けると、盟主とアルベドが<飛行>でこっちにやって来るのが見えた。
……うん、命令及び目的は果たしたし、別にいいよね。
ところで村人たちが私の方を物凄い化け物でもみるかような怯えた視線で見ているんだけど、これは死の騎士がさらに私の後ろにいるからに違いない。
だってほら、レイスやスペクターってユグドラシルだと嫌われ者だけど、ここユグドラシルじゃないし。
残虐非道で卑劣な悪い襲撃者たちをやっつけた、正体不明の謎の騎士だもの、私。
ですよね、盟主。 その仮面格好いいですね。
なんで手で顔を押さえて「やっちゃったよこの人……」って感じの雰囲気になってるんですか盟主?
あんぐまーるの好きな戦術は開幕ピンポンダッシュ連打
ユグドラシルだと攻撃力は他のプレイヤーやギルドメンバーほどじゃないので
バステ効果やHP吸収攻撃したあと一撃離脱を延々繰り返し、あんぐまーるに構っているとメイン火力勢に押され、メイン火力勢に対処してるとあんぐまーるがチクチク攻撃してくる
さらにそこに専門の暗殺者や忍者や盗賊が加わると…という感じです