後輩の俺と先輩の私   作:大和 天

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こんにちは大和 天です!

投稿遅くてすみません(。-_-。)
ゆっくりでも最後までしっかり書きたいと思っているので気長に待っててもらえれば幸いです(>_<)

センター試験まであと1ヶ月程ですね……
作中では前日なのですが笑
頑張れ鹿波先輩!それと三神先輩(笑)

そんな34話ですどうぞ!


彼は彼女を応援する。

 

 

 

 

 

読んでいた本からふと顔を上げ、時計を見ると時計の針はもうすぐ正午を回ろうとしていた。

 

 

今日は土曜日で学校も無く、朝からベッドの上でダラダラと本を読んで過ごしているのだが、内容が全く頭に入ってこない。

 

理由はわかっている。今日は先輩のセンター試験初日なのだ。

自分のことでもないのに妙にソワソワしてしまうあたり、俺もあの人と決して短くはない時間を過ごし、彼女との距離を少しでも縮めることができたということだろうか?

 

 

 

俺は本を閉じ、寝返りを打って天井を見上げると、ふぅ、と小さく息を吐き目を瞑る。

 

 

先輩のことが心配だから、なんて理由だけでソワソワしてるんじゃない。

きっとこの心の中の騒めきは、あの時の先輩の一言のせいだ。

 

1日たった今でも、まるで今その場にいるかのように思い出せる。

呼び止められ振り返った先にいた、口から白い息を微かにこぼし、少し潤んだ目で俺を見つめる先輩。

そして彼女は言ったのだ。

万年ぼっちの俺には全く縁のない、何があっても一生言われることのないような一言を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレンタイン空けておいてね!」

 

 

べ、別に動揺なんてしてないんだからねっ!

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 

 

玄関の戸を開け、靴を脱ぎながら誰かに言う訳でもなくただ習慣のように口にする。

 

やっとのことで5連勤(学校)を終え、疲れた足取りでリビングに向かう。

就職したら平日夜遅くまで働かされた上に休日まで会社に引っ張り出されるのかと思うと、とても就活なんてできそうにない。

だいたいお金を払っている学校ですら行きたくないのに、お金も払ってない会社になんかいけるはずがないのである。働かない、ゼッタイ。

 

 

しかしそんな憂鬱なことを考えてはいるが、今は学生なのだ。

今日は金曜日。ということは明日はもちろん土曜日な訳で、翌日も休みというウルトラハッピーな1日が待っているのである。

 

明日は何をしようか、などと妄想を膨らませながらリビングの戸を開けると、何やら冷たい目線が俺に突き刺さってきた。

 

 

他でもないマイエンジェル小町である。

愛しの小町がじーっと、まるでゴミでも見るかのような目で俺のことを見ていた。

 

 

 

「えっと、どしたの小町ちゃん?」

 

 

 

目線に耐えきれなくなった俺が思わず声をかけると小町は、はぁ〜、とわざとらしく大きなため息を吐いた。

 

 

 

「あ・の・ね、お兄ちゃん。明日何の日か知ってるよね?」

 

「え?普通に土曜日じゃねぇの?」

 

 

 

それかプリキュア放送日の前日、と言おうとしたが凍えるような小町からの目線に思わず口を噤んでしまった。

 

答えを教えて貰えるのかと思って暫く黙って待っていたのだが、お互い見つめ合ったまま時間だけが過ぎていく。

小町と見つめ合うとか八幡的には超ポイント高いのだが、小町ポイントは猛スピードで減少しているので、それを阻止するべく、ごめんなさい分かりません、と素直に謝る。

すると小町はまたもや大きなため息を吐いた。

そんなにため息吐いてたら幸せ逃げちゃうよ?

 

 

 

「センター試験でしょ!明日は香奈先輩試験なんだから頑張れ!って言いに行かなくていいの?」

 

「あのな小町。考えてみろ、試験日前日は見直しとか最後の詰め込みとかで忙しいんだから、そんなこと言いに行ったらかえって迷惑だろ?」

 

 

 

しかしそれだけでは終わらない。

実体験を交えることで情報は信憑性を増すのだ。

俺はさらに追い打ちをかけるように言葉を続ける。

 

 

 

「大体あれだ、俺が受験の時に友達とか後輩とか来たか?来てないだろ?つまりはそういうことだ」

 

 

 

ふっ、どうだこの完璧な理論は!

 

そんな思いで小町の顔を見ると、なんだかものすごく残念なものを見るかのような目で俺のことを見ていた。

 

 

 

「お兄ちゃん……来年友達できるといいね」

 

「……ほっとけ」

 

 

 

そんなに本気で心配されたら本当に悲しくなっちゃうでしょうが!

 

大体、受験という制度が交友関係に大きな亀裂を生むのだ。

友達と一緒に受験して片方が落ちたりしたら話しかけづらいし、恋人と一緒に受験して別々の進路になったらほとんどの確率で別れてしまう。

 

その点、ぼっちは誰が落ちようが自分が受かれば関係ないし、恋人と別れるどころか恋人を作るために告白して振られるまであるから何も問題はない。いや、振られちゃうのかよ。

 

 

 

そんなことを考えながらも小町に言われたことを思い返す。

 

さっきはあんなことを言ったが別に応援がしたくないわけではないのだ。

 

ただセンター試験終わるまで会わないと言っていた先輩のことを考えると、試験前、よりによって前日に会いに行くというのは少し気がひける。

それとほんの少しの羞恥心が、先輩に『がんばれ』のひと言を言うことを邪魔していた。

 

 

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

 

 

突然の小町の声で俺の思考が遮られた。

見ると小町の顔は優しそうな、それでいて悲しそう、そんな形容しがたい顔をしていた。

 

 

「お兄ちゃんが香奈先輩を少しでも応援したいって思うなら応援していいんだよ?お兄ちゃんはなんでも行動にはちゃんとした理由がいるって思ってるかもしれないけど、小町はそんなことないと思う。

自分がしたいから、って思いだけでも十分だと思うよ」

 

 

 

突然の事に呆然としている俺の顔を見て、小町はいつもの様にぱっと優しい微笑みを広げた。

 

 

 

「でもまぁ、どうしても理由がいるっていうなら小町からのお願いってことでもいいよ!」

 

 

 

エヘヘ、と照れ笑いを浮かべながら頬をかく小町を見ているとなぜだか俺の頬まで緩んでくるのだから不思議である。

 

小町の頭に手を置いてワシャワシャすると、きゃあきゃあ言いながら体をよじって俺の手から逃れようとする。

 

 

 

「……ありがとうな」

 

 

 

ポツリと呟いた俺の一言に小町はううん、と首を振る。

 

 

 

「お兄ちゃん、そこは『愛してるぜ小町』で良いんだよ」

 

「愛してるぜ小町」

 

 

 

とびっきりの笑顔で言った渾身の一言に、小町も俺にとびっきりの笑顔を向けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうお兄ちゃん!小町はそうでもないけど!」

 

この後泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

自転車のペダルを漕いでいると、いつの間にか先輩の家の前に着いていた。

 

自転車を側に止め、かじかむ手に息を吐きながら門扉の前まで行きチャイムを鳴らす。

機械音が鳴り、寒さからか緊張からかわからない膝の震えに耐えて待っていると、ガチャリとドアが開いた。

 

 

 

「はーい……うわっ!」

 

 

 

バタンッ!と目の前で扉を思いっきり閉められ呆然としていると、中から小さくうわぁー!という悲鳴と共に、バタバタと走る音が聞こえきた。

 

受験の前に縁起でもないもの(俺)を見て悲鳴をあげたんじゃないか、などと心に大ダメージを負っていると、ポケットに入っているスマホが震えた。

 

見ると先輩からのメールで『5分待って』と書かれていた。

 

返信を返そうか悩んでいるとガチャっと扉が開き、間からソロソロと先輩の顔が出てきた。

 

 

 

「あ、えっーと……こんにちは」

 

「や、やぁ、比企谷くん……どうしたの一体?」

 

 

 

寒さのせいか少し頬を染めた先輩が、上目遣いで俺の方を見上げてくる。

久しぶりに見る先輩に少しドキッとしながらも、できるだけ平静を装って先輩からの問いに答える。

 

 

 

「えっと、先輩明日センター試験って聞いたから、応援できたらな、と思って」

 

 

 

全然平静は装えなかったが、伝えたかったことは何とか言えた。

そう思って横に向けていた目線を先輩の方に戻そうとすると、胸の辺りに軽い衝撃が走った。

 

見ると先輩が俺の胸に顔を埋めて抱きついていた。

お腹のあたりに何やら柔らかいものが当たっていて、普段の俺ならきょどりながら意味のわからないことを言った挙句、罵倒されるくらいがテンプレなのだが、なにやら先輩の様子がおかしかった。

 

 

嗚咽を漏らしながら服に顔を埋める先輩の頭を恐る恐る撫でると、俺の背中に回していた手にキュッと力が入る。

 

きっと不安だったのだ。

親も遅くまで帰ってこず、友達と呼べる人も少ない。

少ない友達だって同じ受験生で、心の中の不安を言うこともできずに前日になってしまったのだろう。

そこにたまたま知り合いが来て、今まで誰からもかけられなかった応援の言葉をかけられたりしたら、張り詰めていたものが溢れてもおかしくはない。

 

 

俺がそんな先輩に出来るのは、精々落ち着くまで一緒にいてやることくらいだ。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

微かに赤くなっている目を擦りながら俯いている先輩は、なんだかとても脆いものに見えてしまう。

 

 

 

「どうぞ。良かったらこれ明日にでも食べてください」

 

 

そう言って差し出したのは、ただの市販のチョコレートである。

かの有名なGoogle大先生に聞いたところ、チョコレートなどが無難だと教えてもらったため、チョコレートにしたのだ。

 

 

渡したチョコレートをしげしげと見つめる先輩がクルリとチョコレートをひっくり返した。

裏面を見た先輩は一瞬ぱっと目を見開いたかと思うと、柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

なぜだか恥ずかしくなり、それじゃ、と別れの挨拶を言って帰ろとする俺の手を温かいものが包み込む。

 

 

 

「比企谷くん」

 

 

 

振り返ると再び目を濡らした先輩が俺のことを真っ直ぐ見つめていた。

 

 

 

「いつもありがとう」

 

「……真似しないでくださいよ」

 

 

 

俺がチョコレートの裏に書いた言葉をそのまま俺に言ってきた先輩に、照れ隠しの様なことを言う。

 

そうだね、と言って笑う先輩は何かが吹っ切れたようだった。

 

 

 

 

 

それじゃあ、と言って帰ろうとすると今度は比企谷くん!と元気のいい声で呼び止められた。

 

振り返ると、先輩は久しぶりにみるあざとい笑顔で俺に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレンタイン空けておいてね!」

 

 

変な声が出た。

 

 

 




いかがだったでしょうか?

さて、私事なのですがセンター試験も近いため年内の更新は出来て1、2回だと思います(。-_-。)
更新は今くらいのペースで遅いとは思いますが気長に待ってもらえれば幸いです

それと以前リクエストしてもらって書いてない話はちゃんと書きたいと思っているのでもうしばらくお待ちください(>_<)

感想や評価、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

読んでいただきありがとうございました(*^^*)

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