後輩の俺と先輩の私   作:大和 天

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やあ、ようこそ、最新話へ。
このお話はサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい。

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
なにせこの小説が始まってから今日最新話が投稿されるまでに鬼滅の刃が始まって終わったんだ。きっともうこの小説のことは忘却の彼方だとは分かっているんだ。

でも、この小説をお気に入り小説リストの1番上で見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
コロナで殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この最新話を書き上げたんだ。

じゃあ、最新話をどうぞ。

(意訳)遅れて超ごめんなさい!!!!!


彼と彼女は交差する。

 

 

 

 もう真っ暗になった部屋の中で、布団を被り一人で天井を見上げる。

 

 ここ何日か眠れない日が続いている。

目を瞑っても、どんどん頭のが冴えてくるのだ。

 

 浮かんでくるのはあの日からずっと同じ。

 

 それほど印象的だったのだ。

 あの人があれほど感情を露わにしてこぼした言葉は、ふと気付けばいつの間にか脳内で何度も何度もリピートされる。

 

 それを掻き消そうと本を読み、勉強をして、テレビを観るが、一向に頭に入ってはこない。

 何をしてどこにいようとも、三神先輩に呼び出されたあの日のことが、頭の中でぐるぐると渦巻いていた。

 

 

 

「だから比企谷くんも自分のことを騙さないで、君の言葉を香奈に伝えてあげて?」

 

 

 

 頬を濡らしながら薄ら微笑んでそう言った彼女の顔が、頭の中にずっと残っている。

 

 自分を騙してなんかいない。いつも自分に正直に、やりたいことをやっている。

 そんなことをしてなんかいやしないのだと声を大にして叫びたい。

 

 

 

 だが、なにかが胸の奥に引っかかり気持ちが悪い。

 ドロドロとした嫌な感情などでは無く、もっと単純で簡単なナニカ。

 

 

 この胸のつっかえの正体は分かっている。

 

 

 それはかつての俺が確かに捨て去ったものであり、しかし今なお胸の奥深くで、僅かに残された欠片となりながらも燻り続けているものだ。

 

 

 

 

 

 そんなものは絶対にないと分かっている。

 

 

 

 

 でも、でももしそれが本当にあるならば、と考えると、俺はその欠片を踏み躙り、火を消すことができないでいる。

 

 

 幼く、未熟だった頃。捨てようと、消し去ろうとしたものは、微かにだがまだ確かに残っている。

 

 

 

 先輩は、鹿波香奈は、そんな俺が無意識に心の片隅で探し求めているものの切っ掛けを見つけたのだ。

 それが柄にも無く羨ましく思ってしまう。

 

 仮に、懇切丁寧に手取り足取り教えてもらい彼女が見つけたものを手に入れることができたとしても、それは決して俺の求めているものとは何かが違う。同じものであるはずは無いのだ。

 

 

 鹿波香奈は悩み、苦しみ、否定と肯定を繰り返し、そして最後に残ったのは他人には見せられない醜いもの。

 それを求めた。渇望した。

 

 

 俺は知ってしまった。知ってしまったのだ。

 

 

 

 

 ── 俺がかつて欲したものは確かにあるのだ、と。

 

 

 

 

 

「……はっ、ある訳ねーじゃねーか」

 

 

 自分に期待をさせたくなくて、否定的な言葉を口にした。

 

 しかし言葉とは裏腹に、口許には自分でも見たことがないような笑みが浮かんでいるのが感覚でわかった。

 いつぶりだろうか、こんなにも嬉しくて笑ったのは。

 

 

 

 気がつけばカーテンの隙間から薄い光がか細い線となって部屋を分断している。

 

 布団から片足を出すと予想よりもずっと部屋は冷え切っていた。

 思わずブルリと身を震わせながら、冷たい床をあまり踏まぬようにそっと体を動かす。

 

 

 ガラス越しに窓から忍び込む冷気に一瞬、手が止まった。

 それでもそっとカーテンの端を摘み、窓から入る光を大きくする。

 

 

 

 空には今にも溶けて消えてしまいそうな月が、淡く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

 見れば、空から何かが降っている。

 

 別に「親方っ!空から女の子がっ!」なんてファンタジーなものではなく、雨にしては僅かに動きが緩慢で、雪にしては重たく湿っぽい。

 

 そんなどっちつかずの何かが、音も無く教室の窓ガラスに当たっていた。

 そして、まるで何事も無かったかのように、一切の痕跡をも残さずに消えていく。

 

 

 授業中だというのに、ここ数日、教室内はどことなく落ち着きがない。

 きっとそれは、時折体育館から微かに聞こえてくるマイクの声であったり、ピアノの音色のせいなのだろう。

 

 

 2月ももう明日で終わる。

 

 この一年、思い返せばあっという間だったように思う。

 しかし、こんな高校生活があと2年もあると思うと果てしなく長く感じてしまう。

 

 彼女との間にある2年という歳月は、どうしても俺の中で確かな隔たりとして存在してしまう。

 

 30や40になれば2歳差などたいした事では無くなるのだろう。

 

 

 しかし今、この時に限れば、その差はどんなに足掻いても越えられない高く聳え立つ不可視の壁となる。

 

 足りない。全てが大なり小なり足りないのだ。

 経験が、知識が、余裕が。俺の場合、常人なら本来持っているものも色々欠けている自覚がある。

 

 

 だが、そんな俺をあの先輩は好きだと言ってくれた。

 

 

 一目見て、将来性が、なんとなく。そんな言葉を使ってくれたならば、逃げ道はいくらでもあった。勘違いだと言い切ることができた。

 それでもあの人は、一緒に過ごしたから、俺のことを知ることができたからこそだと伝えてきた。

 

 

 

 

 いつもなら、とらしくない事を考えてしまう。

 

 

 

 俺ではない誰かのため。そう言って自分の願った未来へと舵を取る。

 そこに感情は介入しない。

 

 

 きっとこれまでもこれからも、俺はこのやり方を変えることはほぼ間違いなく不可能だろう。

 

 

 

 しかしそれでも、今回だけはこのやり方は許されない。

 

 支えてくれた、助けてくれた、教えてくれた人がいる。

 見えないところでもたくさんのことがあったのだろう。

 

 でも俺はそんな人に報いる為に、などと欠けらも思わない。俺の為なんかではなく、各々が自分の為に勝手にやったことだ。

 

 

 

 いつだって俺は俺のために。

 

 

 

 結局のところ、俺は嫌なのだ。

 

 

 初めてちゃんと正面からあの人に向き合うのに、他人から言われた物事程度で思考を、過程を、なによりこの気持ちを綺麗にされたくはないのだ。

 

 この気持ちは女の子が憧れる御伽話に出てくるような綺麗なものなんかじゃない。

 

 浅ましくて独善的で、いっそ傲慢だとさえ思う。

 

 こんなぼっちで最下層の人間が抱くには烏滸がましいとすら思う。

 

 

 

 それでも、あの人が、鹿波香奈が欲したものに応えるとするならば────

 

 

 

「比企谷、問の答えは?」

 

 

 

 一瞬で意識が覚醒した。授業中だというのに考え事に集中する余り、周りのことを意識していなかった。

 

 見れば何人かがチラチラとこちらに目を向けてきていた。どうやら早く答えろということらしい。

 

 

 

「どうした比企谷、この問題の答え、わからないか?」

 

 

 

 国語の教師だというのに白衣を着ている先生と目が合う。その目にはなぜか、ただ生徒に教科書の問題を問う以外の何かがあるように思ってしまった。

 

 余り時間もないのでさっと問題に目を通す。

 あぁ、成る程ね。オーケーオーケー。これでも国語は学年三位を取るくらいには優秀なつもりなので、この程度の問題なら何とかなる。

 

 ガラガラと音を立てながら椅子を下げて立ち上がる。

 

 

 

 Q.傍線部における主人公の心情を的確に表している言葉を文章中から抜き出し、六文字で答えよ。

 

 

 

 

 人は度々、他人の気持ちを己の願望を以ってして己の都合にいいように解釈したがる。

 

 そうして他人に押し付けるのだ。

 

 

 あなたはこう思っている。

 こう思っていてくれ。

 

 あなたはこんなふうには考えないでしょう。

 こんなふうに考えないでくれ。

 

 あなたらしい。

 あなたはこうあるべき。

 

 

 他人から押し付けられた、他人から見た自分が無垢だった自分と混ざり合っていく。

 

 

 それは良いことなのか悪いことなのか、分岐点に立たされるまで解らない。

 しかしもし悪い方へ進んでしまった時、取り返しもつかず、責任は全て己に押し寄せてくる。

 勝手に失望され、好き勝手に去っていく。

 他人を変えてしまうという自覚無くして、他人を少しずつ変質させていく。

 

 そのままを肯定してやれず、少しの粗が致命的な欠陥だと罵る。

 

 

 それでもそれが他人と関わるという事ならば。

 

 けれども、もし、互いの関係のその先が

存在しているのならば、いや、存在してくれるのならば──。

 

 

 比企谷八幡は僅かばかりの「熱」を持ってこう答えよう。

 

 

 

 

 「わかりません」

 

 

 

 

白衣を着た教師はその美しい顔に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

 ベストプレイスに腰を落とし、手の中でまだ温かい缶を転がす。

 見上げれば先程より少し晴れ間が広がってきたように思う。

 

 季節柄寒いことは仕方なのないことだが、今日という日は少しでも暖かい方がいいと思ってしまう。

 

 

 昨日はあれから放課後に職員室に呼び出され、卒業式が迫る中忙しいであろう先生に一言二言「次は無いぞ」と釘を刺された後、少しいつもより騒がしい校内を後にした。

 

 普段の俺なら学校が休みだなんてウキウキワクワクするところなのだが、生憎今日ばかりはそうもいかず、いつもより遅めに、しかし時間には間に合う様に家を出た。

 

 

 昼も近づいてきた校内で、といっても屋外だが、一人缶コーヒーを飲みながら人を待っているのだ。

 

 どこかの教室からは時折拍手や歓声が上がっているのが聞こえてくる。

 あの中の何人が別れを惜しみ、何人が別れを惜しむことなく新天地へと思いを馳せているのだろうか。

 

 

 

 昇降口や校庭から生徒の声が聞こえるようになってきた。

 

 泣いたり笑ったり。

 抱き着いたり手を振ったり。

 囲まれたり眺めていたり。

 

 一人、また一人と旅立っていく。

 

 穴が空いていく様に人が疎らになっていく。

 

 

 

 

 三本目のコーヒーが空になった頃だった。

 

 後ろから微かに足音が聞こえる。

 

 

 振り返らなくてもわかる。

 もう何度も何度も聞いてきたのだから。

 

 

 

 あぁ、手が震えている。

 歯が噛み合わず小さくない音を立てる。

 

 

 できることならばここからすぐにでも逃げだしてしまいたい。後ろなんて振り向かず、走って家まで帰るのだ。

 多分そうすればかつてない程の安堵を得られる。

 

 そうして一生を後悔して生きていかなければならなくなる。

 

 

 

 足音が止んだ。

 

 

 

「こんにちは、比企谷くん」

 

 

 

 振り向けば、彼女は目尻を少し赤くして、でもそんなことが気にならないくらいに美しく微笑んでいた。

 

 

 

 「……うっす」

 

 

 

 なんだか気恥ずかしくて目を逸らしてしまう。

 目を逸らした先で空を見上げれば、雲の隙間から幾筋かの光が柱の様に降り注いでいた。

 

 視線を戻すと彼女もまた空を見上げていた。

 

 ぼんやりと景色全体を、まるで焼き付けるかのように眺めていた。

 

 強張っていた体から力が抜けていくのが自分でも分かった。

 

 

 

 

 その横顔に声をかける。

 

 

 

「先輩」

 

 

 

 顔をこちらに戻した彼女と視線が交わった。

 

 

 

 

 

 

 

「答え合わせをしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しだけ笑えた気がした。

 

 

 

 




次話はいつ書き上がるか未定。

すまない……本当にすまない…………

あいるびーばっく(小声

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