ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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リプレ

─(Angel Heart)パーティーから加入要請が来ました。

─加入しますか?

 

「我がパーティーにようこそ!」

 

タヌキ山のど真ん中に両手を広げ、招き入れる仕草し、

ニコニコと嬉しそうな顔をしながら突っ立っている金髪の男剣士がいた。

 

その男犬歯(ソードマン)は執拗なまでのストーキング行為や

半ば強引ともいえる密室(チャットルーム)への誘いこみ。

そして、「可愛い子いるよ」などと甘言を弄し、

一人の純粋で純朴な心優しいシーフを洗脳するといった

卑劣極まりない行為を繰り返してきた外道であり、

これからお世話になるパーティー"Angel Heart"のリーダーである。

 

そんな彼からの加入要請を承諾し、

この世界で始めてのプレイヤーコミュニティである"パーティー"に加入した。

 

このままずっとソロで生きていくには何のためにMMORPGをやっているか分からなくなるし、

いつかはパーティには入ろうと思ってはいたものの、

まさかこんなに早くその日がやって来るとは考えもしなかった。

 

思い掛けない勧誘ではあったが、こうして袖振り合うも多生の縁というべきか、

何かのきっかけでこうして機会が巡ってきたのであればそれに流されるのも悪くはないだろう。

 

…とはいえ、加入を決め手はもちろん例のマジ子ちゃんであることは間違いない。

 

***

 

「それじゃあ、自己紹介よろしくな。」

 

 

パーティーに加入すると、様々な恩恵を享受することが出来る。

その一つがこのパーティー会話(チャット)というシステムの利用である。

 

これは通常会話(オープンチャット)と異なり、パーティーメンバーにのみに会話が見えるようになっている。

パーティー外の他のプレイヤーには会話は見えないため、メンバーのみの内緒の話も可能だ。

また、可視範囲外に居ても会話はすぐにログとして表示されるため、

どこに居てもメンバー同士が繋がりを持つことが出来る。

 

他にもパーティーに加入することでパーティーウィンドウが常時表示されるようになり、

メンバーのログイン状況や現在の位置の情報、

そして同じマップにメンバーがいる場合、その位置がマップ上にポインタ表示される。

 

このパーティーはメンバーが七名いて、そのうち現在ログインしているメンバーが自分とエルドラドを含め、四名だった。

 

初めてのパーティー、そして仲間(メンバー)との触れ合いにドキドキとワクワクが入り混じった緊張を感じる。

とにかくまずは第一印象でメンバーのハートをしっかりと掴んでおくことが大切だと考え、大きく深呼吸した。

 

「こんばんわー!はじめまして、ちるちるって言います。

今日からこちらでお世話になることになりました。

どうぞよろしくお願いしますー!」

 

 

大きな声で、明るく元気の良いところをアピールしたつもりであったが─

 

「…………」

 

─全く反応がない。

 

もしや通常会話(オープンチャット)から切替忘れたかと思い、慌ててもう一度挨拶をする。

 

「──です!────お願いしますー!」

 

今度はしっかりとパーティー会話になっていることを確認し、

ドキドキしながら他のメンバーの反応を待つが─

 

「…………」

 

─全く変わりない。

 

少しの間、誰かが反応するか待ってみたものの、

ログインしているはずの他のメンバーから返事はなく、

見かねたリーダーが皆に声を掛ける。

 

「おーい、みんな聞いてくれぃ!今日から新しく加入した─ちるっちだ!」

 

「…………」

 

なぜか、いきなりあだ名で紹介されたうえに、

なんとも微妙なネーミングセンスにずっこけそうになるが、

それでも皆反応がない。

 

「あれ? いないっぽ? みんなAFKかな?」

 

リーダーの呼びかけで誰も反応しないところをみると

やはり他のメンバーは皆、AFKか…と思いきや、

このタヌキ山を動き回っているメンバーがいることに気づいた。

 

すぐ隣にいるリーダーもそのことに気づき、

軽く舌打ちをし、少しイラだった口調で呟いた。

 

「チッ…ったく…あのヤロウは…」

 

どうやら、リーダーの呼びかけを無視し、

堂々と狩りをしているメンバーがこのフィールドにいるようである。

同一マップにいる限り、メンバーの動きは把握されているため、

無視をしているのは明らかである。

 

その態度に相当ご立腹の様子のリーダーはぶつくさと文句を言いながら、

メンバー(あのヤロウ)がいる場所へ向かって移動し始めた。

こちらは新入りで、かつ当事者であるため、

黙ってリーダーの後をついていく。

 

しかし、リーダーに人望がないのか、

メンバーが面倒くさがり屋が多いのかは定かではないが、

自己紹介程度でこんなに苦労しなければいけないなんて、

この先が相当思いやられる。

 

「やはり希望の光はマジ子ちゃんだけか…」

 

はぁとため息をしながら、森の中を進んでいった。

 

***

 

リーダーはかなり苛立っていた。

 

メンバーの元へ向かう道中、

彼はスモーキーを視界に入れる度に勢いよく斬りかかり、

剣士スキルである"バッシュ"を全力で叩き込んでいた。

腹いせのつもりなのだろうか、一撃でタヌキを虐殺していくその行動には意味を感じず、

その行動を遠くから眺めながら、非常に近寄りがたいものを感じていた。

 

そうこうしているうちに森を抜けると、

目の前にはタヌキ山の出口である広場が見えた。

 

この先は残念ながら行き止まりとなっており、

すぐ隣には建物が見えるものの柵が邪魔をして入ることが出来ない。

恐らくまだマップが作られていないのだろう。今後、いけるようになれば楽しみである。

 

「おい、リプレ!」

 

ようやく探していたメンバーと遭遇したらしく、

先を進んでいたリーダーは、こちらにも届くような怒号が飛ぶ。

 

リーダーに追いつくやいなや、

一体、どんな"ヤロウ"なんだと思い、リーダーの後ろから覗き込むと、

なんとそこには猫耳を身につけたピンク髪の女アーチャーがいた。

 

「…えっ?」

 

明らかに見覚えがあるその姿に目が丸くなった。

それはあの憎きフェン=ナンチャラの婚約者であるちかげさんと瓜二つであったからだ。

 

とはいえ、この髪型は"アーチャーデフォ"と呼ばれる、

女アーチャーの公式イラストをモチーフにした髪型で、人気も高い。

この世界では見た目が被ることなんてよくある話だと思い、すぐに動揺も収まったものの、

やはり猫耳の女アーチャーの姿は可愛くて仕方なく、視線は釘付けになっていた。

 

ちなみにリーダーの髪型は男剣士の公式イラストをモチーフとした髪型で、

"剣士デフォ"と呼ばれたり、α版でもボスモンスターと登場していた

"ドッペルケンガー"と同じ髪型であることからDOP(ドップ)とも呼ばれていた。

 

すぐ傍でリーダーが呼び掛けているにも関わらず、

その"リプレ"と呼ばれている女アーチャーは全く応じる気配がない。

彼女は地面にアイテムを撒き散らし、ただひたすらスモーキーが弓の射程圏内に近づくのを待っていた。

 

このスタイルはこのタヌキ山での狩りの基本とも言われる"撒き餌"であり、

彼女は近接型の職業から最も嫌われる狩りの手法を見事なまでに忠実に実行していた。

 

「おーい!リプレ~!反応しやがれー!」

 

普通であれば視認している距離にいるにも関わらず、

彼女は全く気づく素振りを見せずに

夢中になって弓を引き、スモーキーの死体の山を築いていく。

 

「………っ!おい!いい加減にしろよこのヤロウ!」

 

その様子にもはや堪忍袋の緒が切れたリーダーは

彼女がターゲットしたスモーキーを横から斬りつけた。

 

「あ。」

 

タゲっていたスモーキーが倒されてしまったため、弓を引く手が自然に止まる。

すると彼女はようやくこちらの呼び掛けに応じたのだった。

 

「あ。ごめん。」

 

「お前なぁ………」

 

あまりに叫びすぎたのか肩で息を吸いながら、

苦しそうに息を吸うリーダーを尻目に彼女は少しも悪びれた様子を見せなかった。

 

「…ったくようやく反応しやがって…お前は少し、狩りに夢中になりすぎなんだよ。

こっちはさっきからずっと声かけてるんだし、少しは気づいてくれ。」

 

「んー。ごめん。わたし、狩りになると夢中になっちゃって、あまり会話に反応できないんだ。」

 

リーダーから諦めにも似たため息が漏れる。

 

「……もういいや…というわけで、今日から新しくオレらのパーティーに入ることになった、

新メンバーのちるっちだ。よろしくしてあげてくれ」

 

リーダーは大分粗雑な紹介をした後、

怒鳴り疲れたようで、その場にどさっと腰を落とした。

 

対して彼女は紹介を聞く素振りは見せたものの、

そのまますぐ、何事もなかったかのよう狩りを再開した。

 

 

こいつは困った。あろうことか自己紹介するタイミングを逃してしまった。

なにせリーダーは疲れ果てて投げやりになっているし、

このリプレというプレイヤーは話しかけてくるなオーラが漂っている。

 

やっぱりこのパーティーに入ったのは間違いだったのではないだろうか…

いくらマジ子ちゃん目当てとはいえ、早まった選択をしてしまったことを後悔すると共に、

ともかくこの微妙な雰囲気を一体どうすりゃいいんだと頭を抱えながら思案六法し始めた

そんな矢先─

 

「そういえば、ちるちるさんってこのタヌキ山によくいますよね。」

 

彼女は淡々とスモーキーを射殺しながら、話しかけてきた。

突然、声を掛けられたことに驚き、彼女に顔を向けた。

 

すると目に飛び込んできたのは横から見る彼女の弓を射る姿であった。

無慈悲にただ黙々と射るその狩人の姿を見て、声を失うと共に、息を呑んだ。

 

同時にこれほどまで狩りに集中して、他がまったく見えなくなる彼女でも

意外なことに自分の存在を知っていることにも驚いた。

 

とはいえ、こちらもここ一ヶ月の間、毎日のようにスモーキーを追い掛け回していたので、

ここで狩りしているプレイヤーになら、いい加減顔も名前も覚えられたことだろう。

この遠距離攻撃職が有利なこの狩場でシーフが狩りをしている事自体珍しい。

 

それにしてもこうして少しは顔を知られているということは、

なんだか少し有名になった気がして思わず頬が緩む。

 

そんな浮かれ気分のせいもあって少し饒舌にそして得意気に返事した。

 

「いやー、そうですねー。猫耳がほしくて、ここには大分篭っていますね。それにしてもよくご存知で。」

 

すると彼女はこちらを向く素振りすら見せずに、無表情のままとんでもないことを言ってきた。

 

「んー。そりゃ、こんなルートモンスターだらけのマップに近接職で狩りするなんて

何て非効率なんだろうって。頭の弱い人なのかなーと思って見てました。」

 

「なっ…」

 

その傍若無人な言い草に思わず絶句する。

仮に苦言だとしても初対面の相手に対して、ましてやこれから一緒に狩りをすることもあるだろう仲間(メンバー)に対し、

果たして言ってよいものなのだろうか。

 

思わず反論しそうになるものの一応は初対面であることを考慮し、笑って誤魔化そうとした。

 

が、しかしその発言に我らがリーダーが看過できず、

倒れていた身体を強引に起こし、会話に割り込んできた。

 

「おい。ちょっとはっきり言いすぎじゃね? いくらルートモンスターは遠距離職が有利だからってさ。

俺ら近接職を馬鹿にするのも大概にしろや。」

 

寂しいことにどうやら彼は、剣士である自分の職業を批判された事に対して怒りをあらわにしたようで、

直接批判を浴びたこちらのことなど気にも止めてないようであった。

 

目の前にいる二人の近接職に喧嘩を売った形になった彼女であったが、

この物言いに対して少しも反省も訂正もすることなく飄々とした態度を崩さなかった。

 

「んー。今のバランスじゃアーチャーとかマジシャンの方が有利なのは仕方ないんじゃない?

だから文句を言うなら私じゃなくこのシステムを作った人に言ってほしいね。」

 

その言葉にリーダー共々「はあ?」という表情を浮かべる。

責任転嫁というべきその態度には怒りを通り越して呆れてしまった。

 

「そんなのどうすることもできないだろ!」

 

リーダーは至極当然の反論をする。

自分も何か言うべきか悩んだが、自分の気持ちはリーダーが代弁してくれるため、

下手に巻き込まれるのを恐れ、「頑張れリーダー!」と心の中で叫びつつも、黙って傍観していた。

 

「それじゃあ、仕方ないんじゃないかな。まともに出来もしないことを無理にやろうなんていう考えの方が私は間違っていると思う。」

 

リーダーはすぐ傍で拳をワナワナと震わせながら、必死に怒りを抑えてる。

そんな怒りしか買うことの出来ない言葉を平気で投げつけながらも、

彼女は依然として弓を射る手を休めない。

 

そもそも彼女は何故ここまで怒りを買うような発言や態度を取るのだろうか。

これからさらに交流を深めるはずのパーティーメンバーのはずなのに…

 

そんな疑問を感じる前に、リーダーの怒りは既に臨界点を突破し、爆発寸前になっていた。

 

「てめっ…」

 

握り拳が破裂し、怒りの矛が彼女に襲い掛かろうとしたその瞬間、

どこからともなく声が聞こえた。

 

「いい加減にしてください!」

 

突然、パーティー会話に飛び込んできたその声にその場にいた三人はそれぞれの動きを止めた。

その声はこのタヌキ山ではないどこか別の場所から放たれたものであった。

 

「さっき戻ってきて会話を聞いてたら、なんですか。二人とも喧嘩腰で。」

 

「あ、いや…それはコイツが…」

 

「原因はエルさん(リーダー)にもあります。リプレさんが口悪いのはいつものことなのに、

いつも反論して怒ってばかりいて…こんなんだからいつも新しいメンバーが入っても、

怖がってすぐに抜けちゃうんですよ。」

 

「…………すまん。」

 

痛いところを突かれたという具合に、しゅんとした表情で塞ぎ込む。

 

「それと…リプレさんもリプレさんですよ。いい加減、他人のことを思いやる発言を心がけて下さい。」

 

「あ。ごめん。言い過ぎた。私ってば、つい効率重視した発言ばかりになっちゃうんだよね。」

 

「謝るならちるちるさんにですよ。」

 

「うん、そうだね。ごめんね、ちるちるさん。」

 

驚いたことにその声は先ほどまで傲慢極まりない、

不遜な態度をしていた彼女を一変させたのであった。

 

かくいう自分は険悪な雰囲気が漂っていたこのパーティー会話をこうして

元通りにしてくれたのであれば、ここで駄々をこねる理由もなく、

彼女の謝罪を素直に受け入れ、遺恨も消し去ることにした。

 

それにしてもこの声の主は一体何者なんだろう…?

 

***

 

一時は一瞬即発、即解散を匂わせていたこのパーティーも

この神の声によって、少しずつ和やかな雰囲気に変化してきた。

 

突然割り込んできたのでびっくりしたものの、どうやらこの声の主は、

先ほどまでAFKしていたメンバーの一人であることが分かった。

 

パーティウィンドウにはRavi(ラヴィ)という名前が表示されているが、

職業も性別も今は分からない。

 

しかし、見事なまでの仲裁っぷりを発揮し、

この場を収めてくれたことを感謝すると共に、

個性がありすぎるメンバーの中で

少しまともなプレイヤーがいることにほっと肩をなで下ろした。

 

こうして、波乱の幕開けから始まったメンバー紹介であったが、

ラヴィさんのおかげでなんとかまとまりを見せた。

 

残りのメンバーはもう少しまともであることを祈りつつも、

今日のところはメンバーとの罵り合い(コミュニケーション)を体験できたことに感謝しながら、

マジ子さんへの期待に胸を膨らませるのであった。

 

あれ…?もしかしてこのラヴィって人が…

 

 

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