ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ハルカ=ラフェリア

「職業はマジシャンで、性別は…"男"です。」

 

ラヴィさんの自己紹介が始まるとがっくりと膝をつく。

先ほどこのパーティーの窮地を救ってくれた神の声の主であり、

救世主(メシア)ことラヴィさんはお目当ての"マジ子"さんではなく、"マジ男"さんであった。

 

「まだまだ、未熟なマジシャンですがよろしくお願いします。」

 

彼が男キャラだったのは非情に残念で仕方ないことではあるが、

こうした謙虚で礼儀正しい態度やメンバーに対してはっきりと物申せるところを見る限り、

やはり彼が今のパーティーにおける唯一の人格者(いい人)であると言えるだろう。

 

それにリーダーはまだしもリプレさんのように傲岸不遜なプレイヤーにも

躊躇なく文句を言ったり、ましてや説教までできるのはもはや尊敬に値するレベルである。

 

「こっちもへっぽこシーフですがよろしくです~。」

 

そんな彼に合わせるようにこちらも謙虚で差し障りのない挨拶で

特に大きな問題もなく、すんなりとお互いの自己紹介を済ませた。

 

本来、自己紹介なんてものは、これが当たり前の事なのだが、

さっきは何故あんなにも上手くいかなかったのか甚だ疑問ではある。

まあ、こちらに非があるとは到底思えないのだが。

 

とはいえ、やはりお互いの顔を合わせずに

離れた場所でのパーティー会話で自己紹介ってのもなんだか味気ない。

 

"いい人"とは積極的に交流をするのが大切であり、

これが後々パーティ内で有利な立場を築く土台作りになるかもしれない。

 

「あ、せっかくですし、こっちから会いにいきますよー」

 

と提案するも。

 

「すみません。これから作業があるのでまたしばらくAFKします。」

 

拙い目論見はあっさりと潰れてしまった。

流石に無理に引き止めるのも申し訳なく、

「ではまた次の機会で」とこの場は諦めることにした。

 

***

 

「それじゃあ、また後ほど。」

 

そうして彼は一通りの用件を済ませると、

再び別の世界へ旅立ってしまった。

 

リーダーいわく、ラヴィさんはAFK率が高くて

キャラクター自体は存在しているものの中身は別の世界にいることが多いとのこと。

せっかくまともな人が現われたのに、交流を深める機会が少ないのもなんだか残念である。

 

「んじゃ、面通しも済んだし、オレもちょっと露店を見てくるわ。」

 

リーダーはまるで自分の責務を全うしたと言わんばかりの態度で

さっさとキャラクターチェンジしまい、

 

気づくといつの間にかリプレさんまでもがいなくなっていた。

 

こうしてさっきまでパーティー会話を賑わせる原因を作っていた二人は

"いってらっしゃい"や"お疲れ様"の挨拶を言わせることなく、

新入り一人を残し、どこかへ旅立ってしまった。

 

ラヴィさんはパーティーウィンドウ上はログイン中にはなっているため、

なんとかパーティープレイとしての体裁は成立しているものの

実際に魂の入っているキャラクターは自分ただ一人で、

ソロプレイの時となんら変わらない状態になってしまった。

 

「なんだかなぁ…」

 

呆れ気味にため息を吐くと共にポリポリと頭をかく。

 

いつも賑やかで会話が途絶えることのない、

そんな楽しいパーティーを夢見ていたが、

今、こうして現実とのギャップを目の当たりにして戸惑を隠せずにいた。

 

それにしてもこのパーティーって…

 

─リーダーシップのない男ソードマン

─やたらと口の悪い女アーチャー

─人格者だが中身がいない男マジシャン

─迷走する男シーフ

 

今のところはまともなプレイヤーはいないようである。

 

***

 

タヌキ山で一人取り残されてしまい特にやる事もないので、

下山して拠点(セーブポイント)である魔法都市ゲフェンに戻っていた。

 

この街は生まれ育った場所でもあり、

何よりも首都の喧騒と比べ、とても落ち着いた雰囲気が気に入ってる。

 

灰色の石畳を歩き、街の北西部に向かう。

復活地点から離れた街の外れであるここには腰を掛けるベンチが並べてあり、

狩りで疲れた身体を癒すときはいつもこの場所を好んで使っていた。

 

「ふー疲れた。」

 

近くのベンチに腰掛けると、どっと疲れが押し寄せてきた。

先ほどの騒動が変にこじれずに済んだことで、一安心したせいもあるだろう。

 

相変わらずラヴィさんが戻ってくる気配はなかったが、

頭の中は既に他のメンバーのことで一杯になっていた。

 

パーティーウィンドウには

まだログインしていないメンバーが三人いる。

 

一人目はValkyrie(ワルキューレ)さん、

二人目はyuine(ユイネ)さん、

そして三人目がHaruka=Rafelia(ハルカ=ラフェリア)さん。

 

いずれも職業、性別などは不明であるが、

このログインしていない三人のいずれかがリーダーの言う"マジ子"ちゃんのはずである。

 

三人とも性別は女キャラと思わしき名前をしているが、

残念ながらこれ以上の推測は実際会って見ない事には分からない。

 

そんな悶々とした思いを抱えながらパーティーウィンドウを開き、それぞれの名前を眺める。

何度見ても名前の横に記されている"ログイン中"を示す"ON"というマークは

自分とAFK中のRaviさんの二つしかない。

 

「はぁ…はやく会いたいな…」

 

そんな祈りにも似た呟きが届いたのか、三つ目の"ON"マークが点灯した。

 

***

 

「大したもの売ってなかったわ~」

 

露天巡りのため商人にキャラチェンしていたリーダーが戻ってきた。

 

「…………」

 

「よう、ちるっちただいま。」

 

「…………お帰りなさい。」

 

「いやー最近の露天はみんな渋くてさー、まともに装備も買えないわー。」

 

「……そうですね。」

 

「あっれ~?ちるっちなんか不機嫌?」

 

「…いえ、別に大したことはないですから気にしないで下さい。」

 

「そ、そう?やっぱさっきの事で怒ってる?」

 

「いえ、全然。」

 

「そう…ならいいんだが…な、なんかしたかな…?」

 

祈りは必ず届く。思いは必ず実現する。願えば必ずかなう。

そんなことは幻想であることを実感した。

 

とはいえリーダーに非はなく、ただの八つ当たりなのだが、

それぐらい空しさを感じてしまったということだ。

 

「……はあ~っ」

 

ゲフェンの空の下、ベンチに腰掛けたまま思いを馳せ、

パーティー会話には届かない一回目のため息をつく、

そして今度はもっと長いため息をつこうと大きく息を吸い込むと…

 

「ぱんぱかぱーん!」

 

突然の声がパーティー会話を駆け抜ける。

その声に思わず咽び、ゲホゲホと咳が止まらなくなってしまった。

 

何が起こったのか分からないままでいたが、

その声にリーダーは何事もなかったように反応した。

 

「よー。ハルカ、今日も元気だなー。」

 

「うん、元気よー!今日もバリバリ狩りしちゃうからね~っ!」

 

二人のやり取りからどうやら声の主は"ハルカ"さんであることが分かったものの、

呼吸を整えるのに必死になっていたため、反応が遅れてしまった。

 

その隙にハルカさんはこちらの存在に気づいた。

 

「あー!またメンバー増えてる!?」

 

「そうそう。ハルカにも紹介するよ。

今日勧誘してきた加入ほやほやの"ちるちる"こと"ちるっち"だ。」

 

こっちが苦しんでいるのを知ってか知らずか─いや知らないのか。

リーダーは遠慮することなく話をこちらに振ってきたため慌てて息を整える。

 

「えー…あー…ごほん…、んっんっ…うん。

えーと、今日からこのパーティーに参加することになりました。

ちるちるといいます。職業はシーフやっています。どうぞよろしく。」

 

ひとまず当たり障りのない挨拶を済ませると、ハルカさんは嬉しそうに声を弾ませ、

リーダーこと団長に話しかけた。

 

「えー!シーフさんなの!? 団長やったね!これで全部の職業揃ったんじゃ?」

 

「そうそう。まあ、これで一応、全職業揃ったかな。 シーフはソロ多いから捕まえるのに苦労したんだぜ。」

 

「あはは。団長のことだからてっきりまた女の子を捕まえてくるのかと思ってたのに~」

 

「いやー。さすがに男女比は調整しないとバランス悪いしさ、女の子の方がよかったかな?」

 

「私は別にどっちでもいいけど──────」

 

「…………………」

 

その後も二人の会話は続き、新メンバーである自分ことはすっかり置いてきぼりにされた。

それにしてもこのテンションの高さと天真爛漫な無邪気な振る舞いから察するに

きっと、リーダーの言っていた"マジ子"ってハルカさんのことなんだろう。

 

確かにリーダーの言うとおり、元気で明るくて、

このパーティーの中心には違いない。

それでもやっぱり期待してた"マジ子"と違ったことに力を落とした。

 

とはいえ、勝手に期待したあげく、勝手に落ち込んでも仕方ない。

そんな何ともいえない気持ちを抱えたまま、一人でふて腐れていた。

 

***

 

「あ~あ」

 

ベンチに座りながら、つまらなさそうにパーティー会話を眺める。

二人の会話はその後も続き、そのほとんどが他愛のないリアルの雑談に変わっていた。

そんな二人の話題に割り込むこともできず、ただ呆然とその様子を眺めていた。

 

何故かモヤモヤした気持ちを抑えることが出来ずに

その場をウロウロしてはまたベンチに腰掛けるいった動作を度々繰り返す。

 

自分の情けなさとなんか仲間はずれにされたような喪失感で

気分は目一杯落ちていた。

 

チャットには相変わらず、楽しそうな会話が続く。

気づくと、AFKしてたはずのRaviさんもいつの間にかその会話に加わっており、

三人共、仲良く会話をしていた。

 

「なーにやってんだろ…」

 

再びベンチに腰掛けると、頭を伏せ、はき捨てるように呟くも

その言葉を聞くモノはいない─

 

─はずだった。

 

「ふふふ。みーつけた!なーにやってんですか~?」

 

「───っ!───!?」

 

ふいに掛けられた声の方に視線を上げるとそこには

金髪のショートボブ…あのパッフェルベルさんと全く同じ髪型をした

女マジシャンが上から覗き込むように視線を合わせてきた。

 

「えっ…?えっ…?」

 

「はじめまして。ちるちるさん。私、ハルカ…ハルカ=ラフェリアって言います。会いに来ちゃいました。」

 

あまりにも唐突の出来事に、ありとあらゆる状況判断が乱され、

頭の中が整理できない状態になってしまっていた。

 

ついさっき…いや、今もこのときも

彼女はパーティー会話でリーダーとRaviさんと楽しい会話を繰り広げている。

そんな彼女が何故こんなすぐ近くにいるのだろうか。

しどろもどろになりつつもトリックのタネを聞き出す。

 

「えっ…だって、今もさっき…会話…えっなんで…?」

 

「も~そんなに驚かないで下さいよ~!団長と話してるのはパーティー会話。

そして今ちるちるさんとこうして話しているのは通常会話(オープンチャット)ですよ?」

 

その言葉でようやく理解する。

 

「あ…」

 

そのトリックはいとも簡単であるということを。

 

「あ、そ、そうでしたね…!な、なんかすみません。わざわざ来てもらって…本来ならこっちから挨拶に伺わなきゃいけないのですが…」

 

「ううん。私はちゃんと挨拶するときはひとりひとり会って挨拶したいの。せっかく仲間(メンバー)になるんだし、

挨拶はフェイストゥ~フェイス!じゃないとね。」

 

失礼ながら、無邪気で明るくちょっと天然の入ったどこにでもいるようなプレイヤーを想像していたが

こうした礼儀を重んじた行動をとれる意外な一面に偉く関心してしまった。

 

「いや、なんというかありがとうございます。突然の出来事でしたので少し動揺していますが、

とても嬉しいです。わざわざありがとうございます。ハルカさん。」

 

丁寧な対応をしてくれた彼女に対して誠意を込めた御礼で返すも、

何故か彼女の顔はみるみるうちに険しくなって行き、

 

「もー!なんか、かーたーいー!それとなんで敬語口調なのよー!」

 

と言いながら、ぷくぅと頬を膨らませる。

その仕草に思わず、「うっ…可愛い」と思ってしまうも、どうやらそんな状況ではなく。

 

「それに"さん"付けは禁止だよ!私のことは"ハルカ"って呼ぶように!団長もそう呼んでるよ!」

 

「は、はい…!?呼び捨てですか…?それはちょっと…厳しいです。」

 

いくらメンバーとはいえ、まだ出会って間もない女プレイヤーのことを呼び捨てで呼ぶのは

これまでに経験がなく、そんな突然の禁止令にどうしたらよいかわからなかった。

 

「あ、でも、私もちるちるさんのこと、"さん"付けだね。何って呼べばいい?」

 

「いえ、何でもいいですよ…リーダーはボクのこと"ちるっち"って呼んでますし…」

 

「うーん。そうだね~…ちるちるさんは栗毛の可愛いタイプの顔をしてるから"ちゃん"付けがいいかも?」

 

「…ちゃん? えっ?」

 

「うん…よし! "ちーちゃん"にしよう!決定ー!」

 

僅かな抵抗すら与える隙もない彼女の強引な押しにより、

ほぼなし崩しに自分の呼び名が決まってしまった。

 

まあ、"何でもいいと"言ってしまったからには仕方ない。

そんな諦めにも似た覚悟をしていたところに彼女のさらなる要求が続く。

 

「じゃ、せっかくだし、私のことは"ハルカ"じゃなくて"はーちゃん"って呼んでね♪」

 

「はいっ?はぁぁぁいっ!?」

 

「簡単でしょ~?じゃあ、私のことを呼んでみて?ちーちゃん?」

 

「いやいや…ちょっと流石にそれは恥ずかしいというかなんというか…」

 

唐突にハードルを上げられて、慌てふためいてる自分に

追い討ちをかけるように彼女は嬉しそうな顔を近づける。

 

至近距離からの無言のプレッシャーに思わず視線が彷徨うも、

脅迫めいたその笑顔はこちらの退路を徐々に奪っていく。

 

目と鼻の先にいる彼女の向かって、

そして心の中で、言い聞かせるようにして何度も何度も落ち着かせる。

そして、意を決して決断する─言うしかないと。

 

「えーと…じゃあ、は、はーちゃん…」

 

震えるように言い放ったその呼び名に対して

彼女は余韻を楽しむようにそっと目を閉じ、考え込むような仕草をする。

 

「うーん…まだまだぎこちないけど。まあ、合格!これからどんどん仲良くなろうね。ちーちゃん。」

 

嬉しそうに笑みを見せるその表情からは先ほどの圧はすっかり抜け、

残った彼女の微笑みに思わず胸がキュンとなっていた。

 

…これはもうダメかも知れないね。

 

***

 

こうして突然訪れた、ハルカさん…いや、はーちゃんとの邂逅は

終始、彼女のペースに巻き込まれながら進み、

最後の最後まで圧倒されっぱなしのままだった。

 

嬉しいやら困ったやら複雑な感情を抱きつつも、

屈託のない笑顔や仕草を見せる彼女にいつの間にか魅了されている自分がいた。

 

それにしてもいとも簡単にイニシアティブを奪われるなんて

自称ナンパ師が聞いて飽きれるものである。

 

 

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