ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ウサギのヘアバンド

パーティー"Angel Heart"のメンバーとして正式加入し、一週間が過ぎた。

 

入った当初は個性的"すぎる"メンバーからの洗礼を浴び、

パーティーとはこんなにも軋みが激しいものなのかと酷く後悔してたものの、

ここにはそれを吹き飛ばすほどの衝撃的な出会いが待っていた。

 

孤高を気取り、ずっとソロプレイばかりしていた結果、

多くの仲間たちに囲まれ、楽しい時間を過ごしているプレイヤー達を羨むようになり、

この世界に対して歪んだ感情を持つようになっていった。

 

しかしその出会いはそんな感情すら消し去ってしまい、

この世界にいることが毎日楽しくて仕方ない。

パーティーとはこんなにも楽しいのか。

そんな風に思うようになった。

 

日に日に大きくなっていく存在─

 

愛らしい振る舞いや仕草のどれをとっても魅力的で

自分だけではなくパーティーメンバーをも笑顔にしてくれるそんな存在─

 

それは決して憧れではない身近な存在─

 

そんな初めての感覚をきっと"一目惚れ"というのだろう。

 

***

 

そんなわけでこの一週間──様々な出来事があった。

 

最初はパーティーとしての行事である溜まり場の選定からであった。

てっきり自分が加入する前から溜まり場が存在していたのかと思っていたら

リーダーは勧誘に忙しくて、そこまで考えていなかったとのこと。

まあ、こんないい加減なリーダーであれば当たり前ではある。

 

ということで日夜パーティー会話では溜まり場をどこにするかという議論で盛り上がっていた。

この件については普段、会話に参加しないリプレさんですら手を止めて議論に加わっていた。

 

そして、この傍若無人女王の鶴の一声により

我ら"Angel Heart"の溜まり場は魔法都市ゲフェンに決まった。

 

彼女がゲフェンを推したした理由は─

 

一つは首都であるプロンテラは人が多くて鯖サーバーが重く、

運が悪いと落ちてしまってログインできなくなる可能性がある点、

 

もう一つは、既に多くのパーティーが広場や建物の中といった人気スポットを占拠しているため、

これから探すにしても辺鄙な街の外れになってしまい、

カプラなどの倉庫サービスが使えるNPCからのアクセスが不便である点

 

─である。

 

「なるほど、もっとも」と言わざる得ない理由に反論するメンバーも特におらず、

皆でゲフェンに居を構えることを決めた。

 

次にあった出来事はパーティーメンバーが全員集合したことである。

ハルカさんと出合った翌日にユイネさんとワルキューレさんもログインし、リーダーから紹介を受けた。

ユイネさんはマーチャント、ワルキューレさんはアコライトで、二人とも予想どおり─女キャラであった。

 

しかし、彼女達はメインキャラクターは別のパーティーに所属しており、

"Angel Heart"に加入しているのはセカンドキャラのため、

基本的には露店やポタコをするときぐらいしかログインはしないとのこと。

 

どうせなら、メインキャラで加入してくれる人をメンバーにするべきだと思うのだが、

恐らくリーダーは、単に頭数と全職業を揃えることしか頭になかったのだろう。

 

少し残念に思いながらも、メインキャラで溜まり場に顔を出してくれるのであれば、

それなりに交流は出来るはずだと気持を切り替えた。

 

他にもたくさんの出来事があったが、そのほとんどがハルカさんとの楽しい時間であった。

一緒に狩りにいったり、溜まり場でお喋りしたり、露店を見て回ったり。

 

この一週間、レベルは大して上がらなかったが、充実していた日々を過ごしていた。

 

***

 

──魔法都市ゲフェンの中央にそびえたつ塔、ゲフェンタワー。

 

その塔の最上階には魔術師のギルドがあり、

日々高名な魔術師による魔法研究が盛んに行われている。

 

また、塔の地下には幾重にも重なった広大なダンジョンが存在し、

そこにはかつてこの魔法都市ゲフェンの前身である

エルフの町「ゲフェニア」が遺跡として残っている。

 

太古の昔、このゲフェニアに一匹の悪魔があらわれた。

悪魔はこのゲフェニアを滅ぼそうとするも、

エルフ達の必死の抵抗により、あえなく打ち倒された。

 

そして、この悪魔が再び復活することのないよう、エルフ達はある封印を施した。

その封印こそがこの"ゲフェンタワー"なのである。

 

そして魔法都市ゲフェンのシンボルともいえる"ゲフェンタワー"は

今日もこの街を守っている──

 

…そんなことを知ってか知らずか、

ゲフェンタワーの裏にある我がパーティー"Angel Heart"の溜まり場は

もっぱらとある話題で持ちきりだった。

 

「ふ~。とりあえず、やわ毛100個は集まったけど、まだ先は長いな~」

 

「おー。もう集まったのか、早いな。」

 

「僕、面倒だから全部露天で買っちゃいました。」

 

クリスマスのイベントが始まる頃にとあるモンスターが実装された。

それは"ルナティック"という見た目がどうみてもウサギモップにしか見えない

可愛らしいキュートなモンスターである。

 

そしてこのモンスターはあるアイテムを高確率でドロップする。

それが"やわらかな毛"、通称"やわ毛"である。

このいわゆる収集品と呼ばれるアイテムにどんな意味があるのか。

 

それは巷で話題の装備である"ウサギのヘアバンド"に関係している。

 

この"ウサギのヘアバンド"というアイテムはその名の通りウサギの耳の形をした、

いうなればバニーガールが頭に着けているようなヘアバンドである。

 

その頭装備は見た目もさることながら、ステータスまであがるという優れもので

今や猫耳のヘアバンドを超える人気の頭装備として注目を浴びていた。

 

しかし、そんな"うさみみ"ではあるがそんな簡単には手に入らない。

単純に特定のモンスターがドロップするのではなく、

規定のアイテムを集め、そのアイテムを専用のNPCと交換することで

入手が可能なアイテムなのである。

 

そして、その交換に必要なアイテムを揃えるのにこれまた骨が折れる。

 

まず一つ目のアイテムとしてやわらかな毛が100個必要である。

これはルナティックが高確率でドロップするため、

比較的入手はしやすいものの必要個数が多い。

 

そのため、ルナティック倒して手に入れるよりも

露天で購入したり、買取をしたりする方が早く集まる。

特に初心者プレイヤーは低級モンスターであるルナティックを倒し、

手に入れたやわ毛で当面の路銀を稼ぐといった流通経路が確立されているため、

揃えることはそれほど難しくはなかった。

 

二つ目のアイテムとして"真珠"が一つ必要だが、

これはNPCが販売してるため特に苦労することはない。

 

そしてここからが鬼門である。

 

三つ目はなんと猫耳のヘアバンドである。

数は一つでよいものの、せっかく苦労して手に入れた猫耳を

うさみみに換えるために手放さないといけないという問題に直面する。

 

猫耳とうさみみ、両方好きなプレイヤーにとってはどちらか一方を犠牲にするか、

両方共手に入れたいのであればもう一度あのタヌキ山を登らなければならない。

 

そして最後の四つ目が"四葉のクローバー"というアイテムである。

ドロップするモンスター自体はさほど強くないものの、

ドロップ率がかなり低いせいなのか、なかなか手に入りづらい。

 

そのため、仮に取引で手に入れようものなら猫耳の三倍以上の値段を支払わなければならず、

うさみみを入手する最後の難関とも言えるアイテムがこの"四葉のクローバー"であった。

 

そんなうさみみに思いを馳せながら、今日も溜まり場の会話が進む。

 

「うー。ウサミミのヘアバンド欲しいよぉー。私のマジシャンにぴったりだと思うんだけどな~…」

 

「僕も欲しいですが、四葉が手に入りませんね。かなりドロップ率が低いみたいですよ。」

 

「んー。わたしもウサミミ欲しいですね。だってLUKが10も上がるんだよ? あと見た目も可愛い!」

 

「ゴラァを狩るの面倒くせぇな~。この前、二時間も狩りしたけど茎しか手に入らなかったわ。」

 

うさみみに対する興味はそれぞれ違うものの、皆、なんとしても入手したい様子である。

ちなみに自分はいうと、クリスマスイベントで入手したサンタ帽子が気に入っていたので、

うさみみについては大して興味はなかった。

とはいえ、クリスマスが過ぎたのにこの季節感のなさはまあ問題だが。

 

そんなうさみみを人一倍欲しがっているメンバーが一人。

 

「よぉし!私、ゴラァ森に篭って四葉を探してくる!」

 

ハルカさんはそう言うと、"四葉のクローバー"をドロップする"マンドラゴラ"が出現するフィールドである

プロンテラ北西部の森、通称"ゴラァ森"へ一人で向かったのであった。

 

***

 

一時間後─

 

「うーーー。無理だよー!」

 

すっかり意気消沈した表情で溜まり場に戻ってくると、

しゅんとしながら体育座りをして膝を抱え込んだ。

 

意気揚々とゴラァ森へ乗り込むまでは良かったが、

どうやらその様子からだと森の洗礼を受けたみたいだった。

 

「なんかさぁ、人が一杯で全然狩りにならなかった…」

 

「いやさあ、その前にハルカは猫耳すら持ってないんだから、まずはそこから手に入れないと…」

 

「うー。団長ってばイヤなこと言うなぁ~! 」

 

「だって事実じゃん!」

 

「私はあのタヌキ山の殺伐とした雰囲気は好きじゃないんだよぉ…」

 

「なんでよ?」

 

「なんかあそこで狩りしてる人ってすごく必死すぎて、ちょっと近寄りがたいというか…」

 

今まさにパーティーメンバーの中にタヌキ山で狩りしていること知っての発言なのか、

それともすっかり忘れての発言なのか、真意は分からないものの、

非難された本人はそんなこと気にも止めずに狩りを続けているのだから大したものである。

 

リーダーに言われた一言が効いたのかどうかわからないが、

溜まり場に戻った彼女はしばらくの間、

ぶすーっとした表情をしながら顔を膝にぐりぐりと当てたり、

ときおり顔を伏せ、考え事をしているようだった。

 

「うー……」

 

これだけ頭を抱えるということは彼女の頭の中は

きっと"うさみみ"で一杯なのだろう。

あまりアイテムに執着をしない彼女にしては本当に珍しいことである。

 

そうしてしばらく悩むも、何かを決意したように立ち上がり、

突然、メンバー全員に号令を発する。

 

「よし! 今日はあきらめっ! …ということでみんな狩りにいこ~!」

 

いつもの調子に戻り、明るい笑顔を皆に振りまく。

未練がましい自分とは違い、

彼女は竹を割ったような性格で気持ちよいほど潔い。

そして、そんな彼女のペースに巻き込まれるようにメンバーも反応し出す。

 

「しゃーねーなー。じゃあ、みんなで行くかぁー。」

 

「私も行きますよー。メインキャラ連れてきますね。」

 

「僕も連れて行ってください~。」

 

「んー。私はパスで。」

 

約一名その輪の中に入らないメンバーもいるものの、

いつものようにハルカさんの発言がきっかけでパーティー狩りがスタートする。

そのリーダーシップたるやもはやリーダーのエルドラドより優れているといっても過言ではないだろう。

 

「あ、ちーちゃんも来るよね?」

 

何故か彼女は毎回、個別で誘いをかけてくる。

それは当然「いくよー」という反応を期待しての振る舞いだろうけど、

残念ながら今回ばかりはそれには応えられなかった。

 

「あ、ボクもパスで。」

 

まさかの返答に彼女は「え~なんでー?」と不機嫌そうな表情で駄々をこね始めるも、

理由は何も言わずにすっとぼける。

 

すると彼女は「じゃーいいもんね~」とプイっと顔を逸らし、ふてくされてしまった。

その仕草を見て「ごめんね」と心の中で呟きながらも、ある決意の炎をメラメラと燃やしていた。

 

 

…さて、今回は何日かかるかな?

 

 

ラッキクローバーを探す戦いが始まる──

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