ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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四葉のクローバー 第二葉

夜明けを迎え、眠りにつき、夜になり。

四葉のクローバーを探す旅が二日目を迎えた。

 

昼夜逆転の状態のままログインし、ゲフェンの溜まり場へ向かう。

 

ほどなくして溜まり場へ到着すると、

そこには既にログインしているメンバーが集まっていた。

 

「あ、ちーちゃん! こんこんちーっす!」

 

こちらに気づくと目を輝かせ、嬉しそうな声ではしゃぐ女マジが一人、

あぐらをかきながら「よっ」と手を上げ、馴れ馴れしい挨拶をする男剣士が一人、

そして、眠ったように微動だにしない男マジが一人。

 

いつもと変わらないこの溜まり場の様子に「やあ」と左手を挙げて挨拶をする。

するとハルカさんが立ち上がり、そのまま勢いよくこちらの腕をガシっと掴むと

「こっちこっち」と連行され、そのまま腕を絡めとられたまま一緒に腰を下ろした。

 

まだ出会ってから少ししか経っていないはずなのだが、

彼女の積極的なスキンシップには相変わらずドキドキしてしまう。

そんな風に仲良さげにしているところを目の前で見ているリーダーは

不機嫌そうにやぶ睨みをし、「チッ」と舌打ちをするも、聞こえないフリをした。

 

それはそうと、いつものように溜まり場には姿を見せない例の女狩人(リプレ)

今頃、どこで、何をしているのだろうか。

昨日の一件から彼女の動向が気になりはじめ、何気なくパーティーウィンドウを確認してみると、

現在地は"ピラミッドダンジョン4F"と表示されていた。

 

「バカな…早すぎる…」

 

驚いたことに彼女は既にタヌキ山を卒業し、アクティブモンスターがウヨウヨと沸いてくる

ダンジョンに足を踏み入れていたのだった。

 

確かにあれだけ黙々と狩りをしていれば当然の結果であるのかもしれない。

が、それにしても成長スピードが速すぎる。

 

ついこの間まで低級狩場でちまちまと狩りをしていたはずが、

一週間経たずにダンジョンで狩りが出来るぐらいまでに成長を遂げた。

しかも"ピラ4"といえば高難易度エリアの一つで、狩りをしているソロプレイヤーは数えるほどしかいない。

 

約一ヶ月遅れでのスタートにも関わらず、

そのハンデをものともしない驚異的な集中力とスピードで、

見事トッププレイヤーの仲間入りを果たしたのだ。

 

彼女の躍進ぶりに驚きはしたものの、それよりも気になるのはやはり昨日の出来事である。

もしかして、他のメンバーに…ハルカさんにばらしたのではないか?そんな不安が付きまとう。

 

しかし、ログインしてからこれまでの様子を振り返ってみると別段、変わった様子はない。

それはメンバーの態度も、いつものように黙して語らないリプレさんの態度から容易に伺えた。

ひょっとしたら今は"ピラ4"での狩りに夢中でそんな余裕がないのかもしれない。

 

都合のよい論理展開であるが、現状と見比べる限り、あながち間違ってはいなさそうである。

抱いていた不安は杞憂だったと考えるのが妥当だろう。

 

途端に「ふー」と安堵の声が漏れる。

こちらが必死になってる様子をハルカさんや他のメンバーに知られるのは

なるべく避けたいと思っていたので、まずはほっと一安心といったところだろうか。

 

ともあれ、皆が寝静まるまではこちらは動く事はできないため、

しばらくの間は溜まり場でのんびりしよう。

 

なにせ隣にはハルカさんがいることだし。

 

***

 

溜まり場での雑談が弾む。

 

AFKをしていたラヴィさんが戻り、

ユイネさん、ワルキューレさんが溜まり場にやってくると、

最初は三人だったはずのパーティー会話が一気に盛り上がりを見せた。

 

最初の話題は効率のよいお金(ゼニー)稼ぎについてだ。

 

基本は狩りをし、倒したモンスターが落とす収集品やアイテムを

NPCに売却し、ゼニーを得る。

 

もちろんNPCの売却値よりも高く売れそうなアイテムは

商品として露天で販売したり、チャットルームを開き、

個別取引をするのがベストだろう。

 

商人であるユイネさんが熱く語ったのが

狩りをせずにゼニーを入手する方法、

いわゆるリアル世界の不労所得に該当する

代講・代売・転売の三つについてである。

 

商人はディスカウント(DC)、オーバーチャージ(OC)というスキルを持ち、

NPCから購入する際に最大で24%の割り引き、

NPCへ売却する際に最大24%の割り増し、

の恩恵を享受することが出来る。

 

このスキルを使って、商売する方法が代理購入(代購)、代理売却(代売)である。

 

自前の商人を持っていないプレイヤーは

アイテムを購入したり、狩りで入手したアイテムを売却する際には

こうした代購・代売商人に依頼する。

依頼側は売買差益の一部を手数料として渡すことで

商人側は利益を得ている。

 

額は小さいものの塵も積もればなんとやらで

ユイネさんはこの代購・代売を専門にやってかなりのゼニーを稼いだようである。

 

そしてユイネさんが最も熱く語ったのが転売である。

基本的な転売はNPCから購入したアイテムに少しだけ色をつけて

露天販売をすることで利益を得る方法である。

しかし、ポーションなどの回復アイテムはそれほど利益はなく、

数を売っても大した額にはならない。

 

しかし、モンスターがドロップするアイテムとなると話は別である。

露天が立ち並ぶプロンテラでは毎日のように商品が並び、

その中にモンスターが落とすレアドロップ、

そしてカードというアイテムが数多く存在する。

 

基本的にカードはモンスター固有のドロップアイテムで、

そのモンスターと同じ名前のカードが手に入る。

確率はかなり低く設定されており、その確率は5千分の一と言われており、

四葉のクローバーと同等の確率である。

 

そんな超レアアイテムではあるが、

残念なことに何か高い効果が付与されているわけでもなく、

ただのコレクションアイテムに過ぎないのだが、

こうしたカード集めはいわゆる蒐集家に好まれ、高い金額で取引される。

 

相場がまだ確定していないこの世界において

このカードが一体どのぐらいの値段で取引されるのかは未知数であるが、

基本的には数が少なく、強いモンスターであるほど高価である。

ボスモンスターなどは販売額の上限値がある露天では

出品できないぐらい高い値段であるが、

今だに売っているプレイヤーを見たことすらない。

 

ユイネさんはこのカードを商品とし、転売業をしているようで

露天を巡っては相場よりも易そうなカードを見つけて購入しては自分の露天で転売するを繰り返し、

さらには相場がわからない初心者が出している露天や

販売額の桁を間違えた露天があればカモネギといわんばかりに甘い汁を吸って富を得ていた。

 

見た目はとっても可愛い猫耳の女商人ではあるが

正体はとってもアコギな転売屋という側面を垣間見てしまい、思わず少し引いてしまった。

 

とはいえ、最近は同じことをする商人が増えたため、

せっかく仕入れたカードがまるで売れなくて在庫を腐らせていると嘆いていた。

やはり美味しい話というのはすぐに噂が広がってしまうのが難点なのだろう。

 

***

 

その後も溜まり場は会話が途切れることはなく、賑やかな時間が流れた。

中心にいるのはもちろんムードメーカーのハルカさんで、

彼女が興味深々に食いついてくれるものだから

話題を提供する側も調子に乗って口が止まらなくなる。

やはりこのパーティーは彼女が中心で回っているんだなぁと確信する。

 

「ふわあぁぁ……」

 

誰かのあくびを合図に盛り上がりを見せたパーティー会話は

お互い「おやすみ」の挨拶を交わし、お開きとなった。

 

こうしてハルカさんをはじめメンバー全員が寝静まった深夜になり、

ようやく自分の活動が始まろうとしていた。

 

パーティーウィンドウを確認するも、いつもどおりこの時間のメンバーは二人しかいない。

あれだけ盛り上がったパーティー会話に結局、このもう一人のメンバーが加わる事はなかった。

 

何度かハルカさんが話を振るも「今、狩り中だから」と

空気を凍りつかせるような雰囲気に一変させる事態を引き起こし、皆を困らせていた。

 

何故、彼女はパーティーという自身にとって

鬱陶しいであろうコミュニティに入っているのかさっぱりだが、

こうして抜けることもなく、在籍しているのには何か意味があるのだろう。

 

まあ、口が悪いこと以外は特に自分に害をなす存在ではないということが

確認できたので、気にせずに狩りに向かうことにした。

 

この狩りの敵は"睡魔"ただ一人である。

マンドラゴラを倒した数を数えると羊飼いのような催眠効果があることが分かったので

幸運が訪れるよう、ただひたすら祈りを捧げることにした。

 

***

 

ゴラァ森で過ごす二日目の夜が更けていき、瞬く間に明け方を迎えた。

 

昨日とは違い、途中で寝落ちすることなく完走したものの

アイテム取得ログは"植物の茎"に埋め尽くされ、

お目当てのアイテムを入手することはなかった。

 

ゲフェンの溜まり場に戻り、腰を下す。

その瞬間、さすがに疲労が圧し掛かる。

意識のない時間までも狩りを続けていたせいもあるが

ただひたすら一人で狩り続けるという行為に徐々に身体が我慢できなくなっていた。

 

「衰えたものだ…」

 

息を切らし、擦れた声を漏らす。

タヌキ山のナンパ師という孤高を気取っていたあの頃とは違い、

孤独に耐えるのが辛くなっていたことを自覚する。

 

しかし、その変化はむしろ望むべきことであり、

この苦痛こそがパーティーでいることの良さを改めて実感することのできる感覚であると

前向きに捉えることにした。

 

しかしその苦痛を超越した存在がこのパーティーに一人いる。

 

ここまで同じマップで飽きることもなく狩りを続けられる自分もたいがいだが、

彼女は自分より遥かに高いレベルで戦っている。

 

恐らく、矢が切れて街に戻る以外の時間をずっと"ピラ4"に篭り、数多のモンスターを屠ったのだろう。

その集中力には"凄い"という言葉以外は見つからないものの、

どこか中身のないマシーンみたいな無機質な感じがしたため、尊敬という気持ちは芽生えなかった。

 

「まあ、挨拶はいいか…」

 

こちらは先にログアウトするので一応はおやすみぐらいは言うべきなのかもしれないが、

まあ、また狩りの邪魔みたいな態度をされても気を使った分損をしそうなので

さっさと落ちようとしたそのとき。

 

「あ、ちるちるさん。今日はもうおしまい?お目当ては手に入った?」

 

これまで全く会話のなかった二人パーティーの間に

突然、会話ログが流れる。

 

そんな滅多にない彼女の問いかけに一瞬たじろぐも、

弊労にしてるところに一応(・・)メンバーである彼女の言葉は

ほんの少しだけ疲れを癒し、安らぎを与えてくれたような気がした。

 

「いえ、残念ながら今日もノーアイテムでフィニッシュです。」

 

彼女の問いかけに何故か嬉しそうに答える。

お互い、経験値とアイテムという目的意識は違うものの、

パーティーという繋がりによって離れていても同じ時間を共有している戦友という存在に

こうして心配されたことが嬉しかったからだ。

 

「そう。」

 

相変わらず素っ気無い言葉を返してくる。

彼女が何故こちらを気にかけてくれたのか

これまでの振る舞いからは想像もできなかったが、

すくなくても彼女の興味が経験値ではなく、自分に向いてることにも驚いた。

 

その後もこちらから取り留めもない話題を振ると

彼女は素っ気無いながらもきちんと答えてくれ、

明け方のパーティー会話は二人だけのキャッチボールが続いた。

 

***

 

「それじゃあ、私は落ちるよ。おやすみなさい。また明日。」

 

一通り会話の後、彼女はログアウトした。

 

狩り初めて二日目の朝を迎えたが初日と違って

少しだけ清清しい気分で迎えることができ、次もちょっとだけ頑張れる気がした。

 

「…なんだ、ちゃんと挨拶できるじゃないか。」

 

そうぼやくとクスクスと笑いが零れる──なんか似合わないなぁと。

 

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