ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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四葉のクローバー 第四葉

三日目の朝。

 

目覚めは…最悪である。

そもそも寝ていないのだから目覚めもクソも無いわけだが、

とりあえず朝なのでお決まりの挨拶をしてみたものの、

どうにも気が紛れない。

 

ドッと身体の力が抜けて、疲労という負のエネルギーが注入されると

ディラックの海にでも浸かっているように思えてくる。

 

「よりにもよってこんなハメになるとはなぁ…」

 

このぼやきには理由(わけ)がある。

 

昨晩、いつものように狩りをし、二時間程経ったところで、

ついにアイテム取得ログを埋め尽くす"植物の茎"以外(・・)のアイテムを手に入れた。

 

─マンドラゴラカード一個獲得

 

その取得ログをみた瞬間、思わずクラクラと倒れこみそうになった。

この世界に出現するモンスターのほとんどが自身の名称がついたカードをドロップするが、

その確率は非常に低い。

 

そして何よりも残念なことにこのカードというアイテムは

何も効果もないただの紙切れ(・・・)なのである。

 

もちろん高レベルモンスターがドロップするカードは手に入りづらいということで価値はあるが、

こんな誰でも倒せる低級モンスターの名刺(カード)なんて誰も欲しがるわけもなく、

市場価格でいえばせいぜい一万ゼニーが関の山である。

 

つまり、このマンドラゴラカードは四葉のクローバーの葉っぱ一枚すら買うことができない

─ただのゴミレアである。

 

よりにもよってそんな希少レアがまさか先にドロップしてしまうとは。

しかし、猫耳のヘアバンドを狩りしたときも、

やはりカードは同じぐらい落ちていたことを考えれば、

こればっかりは運も絡んでくるある種の気まぐれみたいなものだと自分に言い聞かせた。

 

一時間後──

 

─マンドラゴラカード一個獲得

 

無心で短剣を振るっていた手がピタッと止まる。

ポロッと落ちたそのアイテムを拾い上げると、身体全体がワナワナと震え出す。

 

「だから、そっちじゃねええええええええええ!」

 

森の真ん中で一人、空に向かって叫ぶ。

この世界の神という存在に向い、慈悲という施しに対するせめてもの反抗を見せるも、

その怒号は悲しいがな、誰の耳にも届かず、空しくこだまする。

 

大声を出した反動は呼吸困難を引き起こし、はぁはぁと大きく息を切らす。

 

一説には5千分の一と言われているカードのドロップ確率ではあるが、

これまで倒したマンドラゴラの数からすれば妥当であり、確率は確実に収束している。

しかし何故それが同じ確率の四葉のクローバーの方に倒れてくれないのだろうか。

 

この時点で今日の狩りを切り上げたい気持ちで一杯になったものの、

「毎日、朝まで狩る!」と掲げた目標がここで途切れてしまうと

後でケチがつくことを恐れ、ひとまずは朝まで狩りを続けることを決めた。

 

一時間後──

 

さすがに二回もカードを引き当ててしまったのだから

今日はもうレアはドロップしないだろうという気持ちになり、

抱いていた期待も希望も願望も全てを喪失した状態で

ただひたすら惰性でモンスターをなぎ払っていた。

 

そんな放心状態のときにこそ、奇跡はいとも簡単に起きるわけで。

 

─マ ン ド ラ ゴ ラ カ ー ド 一 個 獲 得

 

目の前にドロップしたカードを眺めると、両手をついてがっくりと膝を落とす。

怒りよりも先に絶望という重しが圧し掛かり、支えていた両足が崩れた。

 

それからしばらくの間、

土下座の一歩手前のような姿勢のまま、自分の運命を呪った。

 

─そして現在に至り。

 

狩りを開始時にみなぎっていたやる気はすっかりと失い、放心状態となっていた。

 

もし、カード三枚で四葉のクローバーと交換させてくれるNPCが存在するのであれば

両手を挙げて万歳三唱し、今頃、森の真ん中で喜んで小躍りしていただろう。

 

しかし、NPCに売りつけてもこのアイテムはたったの10ゼニーにしかならない。

 

乗り越えたはずの確率の壁はゴールではなくただの障害であった。

 

悪魔の気まぐれ、神の采配、そして運命のいたずらに翻弄されながら迎えた朝は

眠さも相まって危うい精神バランスを保っていた。

そして、こんなにも追い込まれている理由に今更ながら気づく。

 

「ああ、そうか…今日はリプレさんいないのか」

 

***

 

「ちーちゃん、今日は何だか元気なさそうだね? さっきからボソボソ何か言ってるみたいけど…」

 

溜まり場での雑談中に彼女は突然切り出してきた。

 

どうやら今朝の三連続カードの尾を引きずってたらしく、

雑談中に無意識にぼやいているところを聞かれてしまったようだ。

 

ハルカさんの一言で溜まり場にいるメンバーの視線がこちらに集まる。

夜中に狩りをしてることを知ってるのはリプレさんしかいないため、

色々と追及されるのは面倒である。

 

ラヴィさんはともかく、リーダーに知られると厄介なことにしかならないため、

ひとまずは平然を装い、何事もないような返事をする。

 

「いえ、ちょっと考え事をしてたんです。気にしないで下さいな。」

 

しかし、ハルカさんは視線がウロウロと彷徨うのを見逃してくれず。

 

「ほんとにほんとにほんと~?むー…」

 

真っ直ぐとこちらを覗き込む視線の圧力に耐え切れず、

ふいっと目を逸らすと彼女は追求を手を緩めず。

 

「えぇぇぇい!何があったか白状しろ~!」

 

「きゃああああああ!!!」

 

いきなり胸倉を掴まれてしまい、女のような悲鳴をあげる。

それは喉元の窮屈さよりも向き合う格好のまま迫り来る彼女の顔と…

こちらの顔に噴きかかる吐息にやられてしまったからである。

 

嬉しいやら恥かしいやらで──と思っていたら。

突然、彼女は何かに気づくと、掴んでいる両手を緩めた。

 

「あっ…、りっちゃん~、こんばんわー!」

 

彼女はいつも嬉しそうに挨拶をする。

そのおかげでこちらへの攻撃の手はようやく止まった。

 

ハルカさんの挨拶の相手はもちろんリプレさんであり、

おおよそ二十四時間ぶりの帰還(ログイン)である。

 

これだけの時間、彼女がこの世界にいないにも珍しい。

何があったのかは分からないが、とりあえずこれでいつもどおりだと、

何故かほっとする自分がいた。

 

そんなハルカさんの挨拶にはまるで反応せず、

彼女はいつものように一人、狩りに向かったようで、

パーティーウィンドウから分かる彼女の現在位置は

ピラミッドダンジョンが隣接する"砂漠の都市モロク"を示していた。

 

その態度を見ていたリーダーが「ふー」とため息と共に通常会話(オープンチャット)で愚痴を吐いた。

 

「ったく…あいつは溜まり場にすら顔出さないで何考えてんだか…」

 

そして、リーダーに釣られるように、ラヴィさんも小言を重ねる。

 

「確かにリプレさんはちょっと、仲間意識が低いですよね。せめて挨拶ぐらいは…ね…。

それに一人でどんどん先に行ってしまうからみんな置いてきぼりを食らっている気分になりますよね。」

 

「で、でもりっちゃんはアレだけ頑張ってるんだし、しょうがないよ。

ちょっと言葉足らずなところもあるけど…本当は優しい人だと思うよ…」

 

「んでもさ、現にあいつのせいで、俺ら公平組めないわけじゃん。

あいつがレベルいくつか知らないけど、ピラミッドみたいなところで一人で狩ってるぐらいだし、

相当レベルは離されていると思うぜ?」

 

「そうですね、きっと僕らより20レベル…

…いや下手すると30レベル以上は離されているかもしれませんね。」

 

二人の厳しい発言に対して、メンバーの中で唯一、

リプレさんのことを気にかけているハルカさんは精一杯のフォローをするも、

「公平分配ができない」という言葉には彼女も押し黙るしかなかった。

 

その会話をまるで外から眺めるように聞いて、何も言葉は発しなかったものの、

悲しげな表情を浮かべるハルカさんを見て、いたたまれない気持ちになった。

 

もちろん、彼らの言い分にも納得できる点はある。

パーティーシステムにおける経験値の均等配分が可能なレベル帯は±5レベル以内である。

公平設定をしない場合は各自がモンスターに与えたダメージにより取得経験値が決まるため、

火力の高い職業が有利となる。

 

つまり、このパーティーはリプレさん一人が突出したレベルのため、

他のメンバーが公平を組むことができず、パーティーで狩りに出掛けても、

前衛職のリーダーや自分、支援職のワルキューレさんはあまり経験値を得る事が出来ず、

不公平感が出てしまうという問題を抱えているのだ。

 

特にハルカさんはマジシャンという火力職であり、

この状態でパーティーで狩りにいくと経験値を奪ってしまうという立場になるため、

"不公平"という言葉に対して強く言えないのだろう。

 

─ではどうすればいいのか。

 

答えは簡単ではある。それはリプレさんが一時的にパーティーを抜ければいい。

しかし、パーティーという絆はこの世界では重みが違う。

 

仮に一時的抜けたとして毎回パーティー狩りのために脱退加入を繰り返していては

彼女の性格からすれば恐らく二度と戻ってこないだろう。

だからこそ、リーダーがこうして何も言わずに手をこまねいてる現状があるわけで。

 

そんな事情を知ってか知らずか、恐らくリプレさんはレベルがカンストするまで

こちらのことを気にかけることもないし、今はそんな余裕もないだろう。

 

でもこうしてこのパーティーの悩みの種になっていることも事実だし、

何よりもハルカさんの憂いた表情を見るのはイヤだし、彼女にはそんな表情は全く似合わない。

 

解決する方法は思いつかないが、やはり当事者に本意を聞くというのは

今出来る最善の選択肢ではないだろうか。

 

そして、それができるのはやはり、

リプレさんと唯一、まともに会話できる─と自負している自分しかいないわけで。

 

それにしても一つ、気に食わないところがある。

 

そもそも何故、本人に聞こえないように通常会話(オープンチャット)で会話をするのだろうか。

こういう話は本人に対して面と向かって話さなければただの陰口に過ぎない。

彼らに後ろめたい気持ちでもあるのだろうか、真意は分からないにせよ、

そのやり口にどうしても会話に加わる気が起きなかった。

 

もう一つ気に食わないことがある。

 

第一印象は最悪で、傍若無人、傲岸不遜な態度と

普段は素っ気無く、自分の興味のないことにはことごとく無視を続け、

かたや狩りや効率の話になると自分の意見を押し付け、高圧的な態度をとり。

 

悪いところを挙げればキリがない彼女のために

こうして一肌脱ごうとしている自分にだ。

 

思考と行動が一致しない自分に呆れてしまうのだが、

理由が説明できない以上、どうすることも出来ない。

 

「ったく…そもそも今日だって…」

 

そうして愚痴が零れるすんでのところで口を両手で塞ぎ、

自分がまだ溜まり場にいることに気づく。

危うくまたぼやきを聞かれてしまうところであった。

 

それにしてもお目当てのアイテムを手に入れなければいけないというのに

一体、自分は何をやっているのだろうか。

 

まあ、募るイライラはマンドラゴラにぶつけることにしよう。

 

***

 

四日目の深夜を迎えた。

 

パーティー内でログインしているのは一日ぶりに夜を共にするリプレさんだけであり、

再び二人きりの時間を過ごすことになったわけだが、

二人は相も変わらず、ピラミッドダンジョンとゴラァ森の二手に別れ、狩りをしていた。

 

他のメンバーが寝静まってからログインしてきたものの、

まだ挨拶すら交わしていない。話しかけるタイミングを見計らっているのだが、

何かいいきっかけが生み出せずにいた。

 

結局、溜まり場で話題になっていた"リプレさんをどうするか"という話題については

結論が出ないまま、「まあ、いずれは何とかなるっしょ」というリーダーの希望的観測で幕を閉じた。

 

リーダーの言うとおり、"いずれ"というのはリプレさん以外のメンバーが

彼女のレベルに追いつくことだが、果たしてそれは一体いつのことになるのだろうか。

 

狩りへの執着を余り見せず、溜まり場やパーティーでの会話を好む

いわゆる"まったり系"プレイヤーにとっては、

"ガチ系"プレイヤーとのレベル開きに差が出るのは仕方ない。

が、そのスタイルの違うプレイヤーが同じパーティーで共存共栄すると

このパーティーのように様々な問題が出てくる。

 

もちろんそれは現行のシステムにも問題があるわけなのだが、

この世界の神にその文句を言っても始まらないわけで。

 

さて、どうしたものかと考え事をしながらも

身体は勝手に目の前のマンドラゴラを刈り取る。

何千、何万回も繰り返したこの行動は自然と身体に染み付いており、

植物の茎(アイテム)を拾い上げるまでの一連の動作は一部の無駄もない。

さながら自動草刈機のように森の手入れをしていた。

 

それにしてもモンスターを斬りつけるのは得意であっても、

話の糸口を切り出すのはなかなか難しい。

あちらから何か話題を振ってきてくれないかなぁという甘い期待を抱きながら、

二時間以上様子を伺っていたが何もきっかけは生み出せずにいた。

 

***

 

狩りは反射行動(オートパイロット)に任せていたものの、

さすがに休憩が必要になってくる。

 

森の真ん中にあるいつもの木陰に腰を下ろすと。

 

「ふわあ…疲れた…」

 

と欠伸と同時に呟く。

思わず、パーティー会話に漏らしてしまったこの一言が功を奏したのかどうかわからないが

遠くピラミッドの地から返事が返ってきた。

 

「お疲れですね。ちるちるさん。」

 

滅多に聞くことができないリプレさんの激励に感動する暇もなく、

ようやく掴んだチャンスを離さないように話の糸口を切り出す。

 

「いえ、まだ全然大丈夫ですよ。流石にに四日目ですのでちょっと疲れていますけど、

まだまだ頑張らないと。そっちの調子はどうですか?」

 

「ふーん。まだ、四葉のクローバー入手できてないのね。大変ね。」

 

「ええ、まあそのうち出るだろうとは思ってますけど、狙ってここまで出ないのも珍しいのかなぁと。」

 

「んー。ちるちるさんって物欲センサーが強いんじゃないの。」

 

"物欲センサー"、その言葉を久しぶりに耳にする。

元々はPSOが発祥と言われているその言葉の意味は

プレイヤーが欲しいと願ったレアアイテムに対する欲求を検知し、

ことごとくその可能性を奪っていくという迷惑極まりないセンサーのことを指す。

その言葉がプレイヤー間で広まり、欲しいアイテムを狙うときには

ひたすら無欲・無心の仏の心を持って挑むべしと言われるぐらいまで定着していた。

 

無論、こんな非科学的なことを信じているわけではないし、

そもそもPSOのレアアイテムが落ちにくいのは天文学的数字のドロップ率が原因なわけで。

 

「確かに早く落ちて欲しいとは思ってますけど、所詮は確率なので、あんまり関係ないと思いますよ。」

 

「ふーん。ならいいけど。」

 

せっかく、振ってもらった話題があっさりと途切れてしまった。

やらかしてしまったことに気づき、慌ててきっかけになる話題を探そうとしたが、

今日の彼女は何か様子がおかしくて、少し考えるような間を置いた後、再び口を開いた。

 

「あのね。ちるちるさんはこのパーティーのことをどう思っているの。」

 

まさかの質問に「えっ?」と訊き返してしまう。

 

本来、こちらが聞く予定だったはずのその質問をまさか彼女の方から質問されることになろうとは。

こちらがその答えを用意しているわけもなく、

彼女の言葉の意味を必死に理解しようとするも、彼女は再び問い掛ける。

 

「このパーティーは本当にまずいと思う。その危機感を感じていないの?」

 

「え…あの…危機感って…」

 

「正直レベルが低いよ。このパーティー。ログインしてきてもただ雑談だけしてどこにも行かないし、

個人で狩りをしている様子もない。ましてやセカンドキャラの加入を許している時点でオワッテル。」

 

「でもそれはリーダーの方針であり…そもそもパーティーでの狩りが出来ないのは…」

 

「んー。わたしのせいだけにされるのは困るかな。ソロだって経験値は稼げるわけだし。」

 

「いやいや、パーティープレイの方が楽しいから好きって思うプレイヤーだっているわけで、

ソロを強要するのは如何なものかと…」

 

「あまちゃんだね。」

 

ばっさりと切り捨てる。

 

「パーティーっていうのは結局はソロプレイの延長なんだよ。

ソロで出来ないことが何でパーティーで出来るの?」

 

「……っ」

 

言い淀んだ自分に彼女はさらに攻め立ててくる。

 

「そもそもパーティープレイが出来ないわけじゃなくて、

経験値の公平配分ができないから、経験値が入らないから、つまりは美味しくないから

パーティーで狩りに行かないだけで、楽しみたいってのはただの詭弁じゃないの。」

 

言い返せない。

 

「結局、ちるちるさんの言っていることは矛盾しているんだよ。」

 

彼女はいつも本音でしか語らない。オブラートに包むこともなければ、感情を押し殺すこともしない。

あまりにも厳しい言葉で、相手を追い詰めてくる。

 

「そもそもMORPGで楽しいっていうのは一体何? 前にも言ったけど、このゲームはレベルをあげて強くなること以外に楽しさなんてあるの?」

 

「それは…」

 

「結局、自分が美味しい思いが出来ないからふて腐れているだけでしょ。

そんな人達に何で私が気を使わなければいけないの。」

 

「じ、じゃあ、このパーティーが気に入らないなら、いっそのこともう抜ければいいのでは…?」

 

「…………」

 

その言葉に彼女は息を呑んだかのごとく、勢いが止まり、

その瞬間、自分は一体何を言っているんだろうとハッと我に返る。

言うに事を欠くとはまさにこのことである。

そんなことを言いたかったわけじゃない。慌てて取り消そうとするも。

 

「すみません…今のは少し言い過ぎ──」

 

「何を言っているの。」

 

彼女は今までにない強い口調でこちらの謝罪を遮り、感情をあらわにする。

 

「私は私なりにこのパーティーを大切に思っているよ。だから、抜けたりなんかしないよ。」

 

「えっ……。」

 

「申し訳ないけど、私は他人に配慮が出来るほどの余裕がないの。

口も悪いし、思いやりも欠けてるのは自覚している。

だけど、このパーティーに対する思い入れは誰よりも深いし、なんとかしたいと思ってるよ。

だから今は自分の出来ることをする──私に出来ることは強くなることだけだから。」

 

その言葉に驚きを隠せなかった。

一番パーティーに興味がなさそうだった彼女は

実はこれほどまでにパーティーのことを強く意識し、そして誰よりも真剣に考えていた。

その考え方は一見すると横暴と思える言動も多々あり、色々と危うい側面もあるかもしれない。

しかし、真にあるのはこのパーティーのことを思っての行動であり、

そして誰よりもこのパーティーを大切にしたいという想いが少しだけ歪んでいただけなのかもしれない。

 

ふぅ…と息をつき、彼女の真摯な態度に向き合う。

遠い場所に離れて、パーティー会話で話しているにも関わらず、

その距離は何故か近くにいるように感じていた。

 

「そう、だったんですね……。すみませんでした。パーティーを抜けろなんて言ってしまって…」

 

「私は自分からパーティーに入らないし、

エルドラドさんが何を思って私を勧誘してくれたか分からないけど、

一度、私を必要と思ってくれたのであれば、私は自分の意思では絶対抜けないよ。

でも、エルドラドさんが抜けろと言うのなら、私は何の未練もなく抜けれるよ。

だから、ちるちるさんの言葉には決して従わないよ。」

 

「抜けてほしいなんて誰も思ってませんよ。

ハルカさんだってリプレさんのこと心配していつも声掛けててくれてるんだから

少しは反応してあげてくださいよ。」

 

「私はハルカさんは少し苦手なの。だからちょっと距離を置いてるかもしれない。

でも、決して嫌いなわけではないよ。」

 

「…それは何故ですか。」

 

「んー。なんか無理しているところが癪に障るというか、

色々と言いたい事あるのに、それを決して表に出さないところかな。」

 

「言われてみれば…」

 

「周りの様子を伺いながらバランスをとってうまく取り繕うとしてて、

そしてその事に凄く疲れている気がするんだよね。」

 

彼女のハルカさんに対する考察に何故か納得してしまう自分がいた。

それにしても普段から溜まり場に来ないし、会話にすらまともに参加していないはずのに、

彼女はこんなにもメンバーのことを知っていて、理解もしている。

 

それは彼女はこのパーティーのこと本当に真剣な思いで考えていることであり、

その姿勢にはもはや脱帽せざる得ないだろう。

 

「まあ、でも明るく気丈に振舞っているところなんていかにもお姫様っぽいけど、

ちるちるさんもそこが気に入ってるんでしょう?」

 

「えっ…!?」

 

いきなり何を、とうろたえる。

しかし、そのわざとらしい口調からこれはさっきまでの仕返しであるということが容易に想像がついた。

 

「わざわざ、ウサミミのために毎晩こうして狩りしてるぐらいだしね。

女の私からしてみれば少し…羨ましいよ。」

 

その台詞に何故か一瞬ドキっとしてしまう。

 

「あ、いや、それは…」

 

「告白するんでしょう? 頑張ってね。」

 

「いやいやいや、そんなことしませんよ!?」

 

とんでもない話の飛躍に慌てふためくと、彼女は残念そう呟く。

 

「えー。しないの…。でも、ちるちるさんは色々と騙されやすそうだから、気をつけてね。」

 

「えっ…それはどういう意味で…」

 

何か意味深な発言に少し戸惑う。

自覚症状がないのはいつものことだが、

普段からメンバーを観察している彼女の言う言葉には少し重みがあると

ついさっきわかったことだったので、思わず追求するも。

 

「んー。なんでもないよ。じゃ、私狩りに戻るから。またね。」

 

とはぐらかされ、そして彼女は再び狩りへと戻ってしまった。

一度狩りに戻ってしまうとその集中力や恐るべし、

多分、今から何言っても応答はしないだろう。

 

それにしてもからかい半分で弄りたかっただけだったのだろうか、

やけにあっさりと彼女の追及の手が退いたことに困惑しつつも、

 

「まあ、いいか…」

 

と呟くと、頭を二、三度掻き、小首を捻った。

 

***

 

リプレさんとの会話を終え、しばらくぼーっと考え事をしていた。

視線は森の景色をウロウロとしながらも、頭の中では徐々に考えが纏まろうとしていた。

 

まず、今日の出来事で一つの疑問は解消された。

 

それはリプレさんがこのパーティーをどう思っているか…ということだ。

これだけ熱く激論を交わし…というか言い負かされっぱなしだったが。

彼女のこのパーティーに対する熱意は伝わった。

 

しかし、疑問は解消されても問題は解決していない。

このままリプレさんがい続けることで、

パーティーは公平分配にならない──ではどうすればいいのか。

 

それはもう「いずれはなんとかなる」というリーダーの判断に賭けてみるしかないだろう。

 

一見してみれば無責任かもしれないが、

今のこの現状を打破できる革新的なアイデアなんて思いつかない。

メンバそれぞれが主義主張を持っていて、それぞれに理解できる部分がある。

 

であれば、それを無理に曲げることで関係が悪化するよりも、

この世界の神に、システムに委ねる方がよい結果になるのかもしれないと思ったからだ。

 

そう遠くない未来に"ギルドシステム"が実装されるという噂もある。

そうしたら、今よりもっと快適なコミュニティが形成され、今の問題が解決するかもしれない。

ならばその可能性に賭けるのは決して悪いことではないだろう。

 

まあ、狩りは個別に誘えばいくらだって稼げるし、

自分はソロであげるのは苦痛じゃないわけで。

 

そして…ハルカさんと二人で狩りに行くきかっけが増えるともなればこれはまさに一挙両得であろう。

 

そんな邪な願望も抱きつつも、自分の中での整理が終わり結論が出た。

これから自分がどうすればいいのか手探りではあるが、前に進めるような気がして

すっきりと晴れやかな気分になっていた。

 

ただ、これから待っているマンドラゴラ狩りのことを考えると

快晴だった自分の気分に陰りが見え始める。

昨日はカード三枚という悪夢が再び起こらないことを祈りつつ、

少々憂鬱ではあるが重い腰を上げた。

 

そして大きく伸びをして身体の鈍りをとると、

インベントリに見慣れないアイテムがあることに気づく。

 

「ん…?…………ええええええええええええええええええ!?」

 

いつの間か懐に紛れていたそのアイテムは──"四葉のクローバー"だった。

 

 

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