予想外の展開に何が起こったのか理解できずにいたが、
どうやら千切っては拾い、千切っては拾いを無心で繰り返している際に
いつまにやら紛れていたらしい。
"物欲センサー"なんていうオカルトは信じたくはないが、
現実を見せ付けられるといやがおうにも認めたくなってしまう。
それはともかくとして、四日間ずっと狩り続け、
ようやく手にすることが出来た"四葉のクローバー"
リアルの世界では手にしたものに幸運とされているが、
果たして本当にそんなことがこの世界にも起こりうるのだろうか。
この葉っぱ一枚。されど、ここまで何千いや何万匹というマンドラゴラを屠って手にしたアイテムである。
もしかしたら何か怨念…もとい執念みたいなものが宿り、何かをもたらすのだろうか。
そんな事を考えながら、インベントリからその葉っぱを取り出し、
葉の根元を掴みくるくると回しながら、ゲフェンの塔の裏で一人佇んでいた。
***
さて、準備は整った。いざ行かん!と勢いよく腰を上げようとしたが──
「いや、ちょっと待てよ」とキャンセルされた。
そう、問題はまだ残っている。
それはこの四葉のクローバーを一体どういうシチュエーションで彼女に渡せばいいのかということである。
ここは元ナンパシーフらしく、華麗に軽い感じで手渡しすべきなのか、
それとも四葉のクローバーの状態ではなく、ウサミミのヘアバンドに交換してから渡すべきなのか…
とにかく四葉のクローバーを探す出すことだけしか考えていなかったため、
この先のことはまるでノープランという相変わらずの猪突猛進ぶりを発揮しており、
幾度と無くシミュレートを繰り返したが、
『告白するんでしょう? 頑張ってね。』
その行為を邪魔するかの如く、リプレさんの言葉が頭の中でリフレインする。
いやいやと頭を大げさに左右に振って自己否定するも、何故か勝手に頬がかぁっと赤らむ。
見返りは求めてないただの自己満足であるとは自覚しているつもりなのだが、
客観的に見たら自分の行為はどう見ても"彼女に惚れているがゆえに衝動"である。
彼女…ハルカさんに対する好意は間違いなくあるだろう。
それは飾ったり気どったりせず、ありのままで、無邪気で、見ていて微笑ましくなるぐらい可愛くて。
でも、パーティーのこと、メンバーのことを気にかけて、いつも明るく振舞って、皆を楽しませて。
良いところを挙げればキリがない、そんな彼女を見ているうちに、接しているうちに、
どんどん惹かれてしまったからだ。
そんな彼女が唯一見せた"憧れ"を叶えようとした思いつきによる行動が、
いつしか、"ありがとう!"+"嬉しい!"="大好き!"という妄想も甚だしい
自分に都合の良い、望んだ未来を想像するようになってしまった。
あくまでも"ちるちる"という男シーフが"ハルカ=ラフェリア"という女マジシャンのことが好き。
そこまでの話で、この世界で起こる全ての感情すべてはロールプレイング…のはずだったのだが…
「はぁー」とため息を一つ。
そして自信なさげに小さな声で呟く。
「まあ、こっちの方がいいよなぁ…」
──慌てて準備に走る。
***
「こんばんわー!」
パーティーウィンドウの"ハルカ=ラフェリア"の横の"ON"マークが点灯すると
元気のいい声がパーティー会話に響き渡る。
…とは言っても実際に響いたのは自分だけで、
彼女が来る一時間前にリプレさんはゴールデンタイムの時間帯に突入したことを理由に
AFKすると言い残し、どこかに行ってしまったまま、戻ってきていないため、
恐らく返事はないだろう。まあ、いつもないのだが。
そして挨拶を済ませると、彼女はちょこんと体育座りし、こちらに満面の笑顔を向けてくる。
それにしてもゲフェンの塔の裏は他にパーティーは使っていないので
溜まり場としてはかなり広い部類に入るはずなのだが、
何故こうまでして窮屈に感じなければならないだろうか。
肩が寄せ合うぐらいまで近づくのは色々と何かを期待してしまうので正直勘弁してほしい…
──なんてことは微塵も思っていないが。
「うーん。今日はメンバー少ないね…」
「まあ、いつもゴールデンタイム過ぎたら大抵は集まってくるのに今日は珍しいね。」
彼女の言うとおり、まず、リプレさんはほぼ毎時間いるので置いておくとしても
リーダーとラヴィさんは大体ゴールデンタイムを過ぎたぐらいにログインする。
珍しいことをもあるものだとは思いながらも、二人きりの絶好のチャンスと心の中で思いながら、
何度も話のきっかけを作り出そうとするも足踏みを続けてしまい、なかなか切り出せない。
タヌキ山のナンパシーフはガチになると置物のタヌキのようになってしまう。
必死に言葉を探す横でふと真隣を見ると、ハルカさんも自分と同じように考えごとをしているようだった。
そして彼女は不意にこちらを向き、目が合う。
すぐさま照れしまい、逸らすも。今度は腕を掴まれ
「ねぇねぇ、誰もいないことだしデートしよ!デート!」
と、にこり。
聞きなれない「デート」という単語に思わず、目が丸くなる。
この世界でできること─
それはモンスターを倒し、経験値を手に入れることでレベルが上げること。
そしてモンスターから入手したアイテムを売買することで─「デート……ってえっ、ええ~っ!?」
「うんー!せっかく二人きり…あ、一応りっちゃんはいるけど狩りしてるみたいなので邪魔にならないようにそっとね。」
と、気づくと彼女はいつの間にかパーティー
二人だけの会話をしようという彼女のサインに合わせるように、こちらも切り替えるが、
次に出す言葉が見つからず、どもってしまう。
「あ、いや…えーと…」
「イヤ…かな…?」
彼女は上目遣いで懇願するように近づいてくる。
その必殺の一撃はもう余計なごちゃごちゃを全て頭の中から消し去り、
ふぅしゅぅぅという音共に、恥かしさの臨界点が突破し、
「は、はい…わかりました。」
と一言。もはやなすがままである。
「やったー」と嬉しそうに喜ぶ彼女を見て、
さっきまでの恥かしさはどこかへ飛んでいってしまった。
「─よし、ちーちゃん行こう!」
と、立ち上がり、すぐさまこちらの手を取る。
その素早い行動と手の感触に思わず、
「えっ!?」と反応し、
次に「どこに…?」と言おうとした瞬間、手を引っ張られ強引に立ち上がってしまった。
すると彼女は手を取ったままこちらを笑みを向けると、何も言わずにこちらの言葉を待っていた。
その行為にハッと気づく。きっとこの笑顔の意味は…
『場所はちーちゃんが決めてね』
ということなんだろうと。
彼女の視線を一心に浴びながら、
このパーティーに入る前にソロで各地を転々していたことを思い出していた。
この世界は街のつくりも各地域特徴的だが、フィールドに点在する様々な地形や建造物も見所がある。
その中でデートで使える場所…近くて…綺麗な風景で見える場所で…ドキドキするような…
そんなキーワードを頭に浮かべていると、ふと、ある場所が浮かんだ。
ここならば…と思い、彼女に伝える。
「………っ」
すると彼女は大きく息を呑んだあと、目を大きく見開きながら勢いをつけてはしゃぎ出す。
「えー!行って見たい!いこいこいこー!」
とりあえず、場所の選定にミスがないことにほっと一安心したが、
同時にそれは自分が企ていたプランが全て水の泡になったことを意味した。
「ま、こんなに嬉しそうな姿を見ていたらそれも仕方ないか。」
そう呟くいてから、ふと思う。
もしかしてこれって…これ以上ないシチュエーションでは…?