ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ウサミミの行方

どのぐらいの時間が経ったのだろうか。

一時間?二時間?そのぐらい長い時間の経過を感じるぐらい

ただ待っているだけの時間は猛烈な反省と耐えがたい苦痛を与えた。

 

しかし、実際は彼女が黙ってから次の言葉を呟くまではほんの僅かの時間であった。

 

「どうして…なのかなぁ…」

 

か細く、囁くような小さな声にこちらの反応が遅れる。

 

すると彼女は顔を上げ、そのままの体勢で、

まるで展望台から見える景色に向かって話しかける。

 

「ちーちゃんからのプレゼント…ホントなら喜んで受け取りたかったなー…」

 

「だったら受け取って…─」

 

「でも…ちーちゃん素直じゃないし、誤魔化すからなー…」

 

「そ、そんなこと…」

 

その言葉に反応した彼女はこちらを向き、対峙するようにまっすぐと視線を向けると

先ほどよりも厳しい口調で言葉を投げつけた。

 

「だったら私、言葉どおり受け取っちゃうよ?」

 

「えっ…?」

 

「余ったからとか、女マジシャンに似合うとか、いらないアイテムだからとか、

そんな気持ちの入ってないプレゼントなんて…私…いらない!」

 

「…………っ!」

 

語気を強めた彼女の言葉は自分の心をえぐると共に、

自らの言い放った台詞の一つ一つのあまりの酷さを浮き彫りにし、後悔の念を膨らませた。

 

一体、自分は何を考えていたんだ。

 

寝る間も惜しんで、ただひたすら狩りを続け、あれだけ苦労して…

 

必死になってるところを悟られるのがイヤだったから?

自分の気持ちを露呈してしまうことで、

もしかしたら拒絶されるかもしれないという不安から逃げたかったから?

本当に、何のため誰のために何がしたかったのだろう。

 

疑心暗鬼のまま、最後に逃げた先が軽口を叩くナンパシーフというキャラを演じることだった。

自分の本心を消すことができる便利な隠れ蓑を使うことで、

何のリスクも変化も生じず、そつなく目的が成し遂げられる──そんなことを考えていた。

 

でも、そんな甘い考えなんてすぐにひっくり返るし、簡単に見透かされてしまう。

既に結果が示している通り、これはもう軽率を通り越して、

もはや呆れられるレベルの甘さであることは言うまでもないだろう。

 

結局、自分を欺いてまで彼女の喜ぶ顔が見たいなどというおこがましい押し付けは

嘘だらけの自己満足へと飛散しただけであった。

 

***

 

「ごめん…」

 

この世界で最も空に近い場所で頭を下げる。

 

せっかくのデートも、この素晴らしい景色も、全て自分が台無しにしてしまった。

さらに普段、誰に対しても優しく接してくれる彼女をここまで怒らせてしまったことを

悔やむより先に謝罪の言葉がポツリと漏れてしまった。

 

しかし、たった一言の謝罪では彼女への誠意として示しがつくわけもなく、

陳腐な言葉しか思いつかない語彙力ではあるが、それでも懸命に彼女へ謝罪の意を伝えた。

それはもう今にも消えてしまいそうな情け無い声で。

 

「さっきの態度はハルカさんに対してあまりに不誠実だった…謝って済む問題じゃないけど…

ちゃんと謝らせてほしい。ごめんなさい。」

 

しばらくの間、沈黙が展望台の周囲を包み、支配する。

頭を下げたまま、ただひたすらに彼女の言葉を待った。

 

「─ちゃんの馬鹿…」

 

長い長い時間が過ぎ、ようやく沈黙が破られた。

一瞬、聞き逃してしまいそうな小さな声に頭を上げ反応すると、

彼女は複雑な表情を見せ、小さく息をついた。

 

「もういいよー。 じゃあ、この話はもうおしまい。 そのウサミミは…ちーちゃんが使ってね。」

 

そのプレゼントはもう受け取らないという彼女の意思表示に色々な想いが巡ったが、

ついに口を出すことはせず「わかった」と頷いた。

 

そして、ウサミミは本来、目の前にいる彼女の頭の上に乗る予定が、

小汚いシーフの懐に再び戻ってきてしまった。

 

***

 

「じゃあ、そろそろ戻ろっか。」

 

望遠鏡の目の前にいた彼女はこの素晴らしい景色に別れを告げると、

広がる景観を背にし、スキップを刻むように軽やかに浮島の階段へと向かった。

 

その小さな背中をそそくさと追いながら、こちらも下山する。

彼女の喜ぶ顔が見れると思ったサプライズも

自らの過ちにより、あえなく水の泡とかして消えてしまった。

 

これにてゲームオーバーである。

 

「これまでか…」

 

諦めと後悔を残しながら一つ一つ浮島の階段を下りる。

そして連続する浮島の丁度、中間地点にたどり着いたとき──

 

「んー。 いらないなら私に頂戴。」

 

突然、飛び込んできたその言葉は足元に矢が打ち込まれたかの如く、身動きを封じられた。

そして前を歩いていたハルカさんもその言葉に動揺し、歩みを止めた。

 

「「えっ…?」」

 

二人してあたりを見回すも他にプレイヤーはいない。

だが、どこからともなく声が聞こえ、

それまで自分とハルカさんの二人だけ埋め尽くされたパーティー会話(チャット)のログに

この聞きなれた口調の主が割り込んできた。

 

「ん? …パーティー会話(チャット)?」

 

すると、ハルカさんは「あっ!?」と声を上げ、慌てふためいた様子でこちらを見てきた。

どうやら彼女も気づいたようである。

 

さっきからずっと深刻な話をしていたせいで二人ともまるで気づいていなかったのだが…

最初からずっとパーティー会話(チャット)で話をしていたため、

さっきの会話は全てメンバーにまる丸聞こえだったのだ。

 

「ひぃぃぃぃい! り、りっちゃんどこから聞いてたの…!?」

 

「んー。"なんかデートみたいだねー"ってところからかな。」

 

その返答にハルカさんは顔を覆い隠すようにしてうな垂れた。

 

二人きりの会話を他人に聞かれるほど恥ずかしいものはない。

もちろんリプレさんには全くもって非はないが、

そこは空気読んでもらって…もう少し早く教えてくれればいいのだが。

 

そしてハルカさんが自らの恥部を晒してしまったことに悶えている姿を知ってか知らぬか

リプレさんはさらにアピールを続ける。─いや知らないんだが。

 

「まあ、あれだけ頑張って手に入れたのに使われないなんて可愛そうだと思ってね。

装備すればLUKが10も上がるのにさ。」

 

フォローなのか単に自分が欲しいだけなのか意図はまるで読めないものの、

その言葉にさっきまで恥かしがっていたハルカさんが我に返り、途端と食いついてきた。

 

「えっ…? りっちゃんって、ちーちゃんの持っているウサミミについて何か知ってるの…?」

 

「んー。 なんか最近ずっと、ゴラァ森で狩りをして四葉のクローバーを探してたしねー。

私も毎日ピラで朝まで狩りしてるけど、同じぐらい狩りしてたかな。」

 

「えぇぇぇ!? りっちゃんと同じぐらいって…」

 

驚きと共にハルカさんはこちらに顔を向け、目を丸くしながら視線を送る。

その表情は信じられないといった顔つきに変わっていた。

 

「あ、あは…あはは…」

 

その様子にいかんともしがたいような苦笑いを浮かべ、

片手は頭の後ろをポリポリとかきながら、送られてくる視線をかわしていた。

 

そもそも自らの必死さをあまり知られたくないという思いから

これまでひた隠しにしてきたのだが、その秘密もこうしてあっさりとばれてしまった。

 

"優雅に泳ぐ白鳥も水面下では激しく足を動かしている"という

美学を好む自分にとってはこれも大事な"こだわり"なのである。

 

そんな自分のこだわりなど当然知らないリプレさんはそれでもなお、

 

「まあ、いらないなら私に頂戴。いいでしょ? 」

 

持ち主である自分の意向をまるで無視して強引なドリブルで迫ってくる。

そんな突然現れたライバルの出現に対し、ハルカさんは…

 

「だ、だめぇぇぇぇ~!」

 

我が子を奪われそうなるのを懸命に阻止する母親のように

強い態度と意思でリプレさんの横暴を跳ね返すと。

 

「んー。 まあいいけど。じゃあ私、狩りに戻るね。」

 

そう言い残し、リプレさんはあっさりとから引き下がった。

 

そして突如勃発した、ウサミミ争奪戦は

持ち主の意向をまるで無視して開始され、

そして何事もなかった如く、ハルカさんの不戦勝で幕を閉じた。

 

降って湧いた彼女の登場は

結果的に助け舟を出してくれた形になった。

 

さっきまでの重苦しい雰囲気から一変してくれたことに、

戸惑いつつも有難いと感じていた。

 

さすが持つべきものは戦友であると思いながら、

横目でチラリとハルカさんを見ると…

 

彼女はプルプルと震えながら一際殺気づいた視線をこちらに送っている。

そして顔全体から耳までが紅潮させ──睨んでいた。

 

あれ…もしかして悪化させた…?

 

***

 

見事に悪者を追い払った彼女は自分の傍に近づいて目の前にちょこんと座ると

 

「ちーちゃんもここに座りなさい!」

 

と指を指して強制的に"お座り"を促す。

その力強い抑揚になすがままにその場に腰を下すと

彼女は物凄い殺気立った眼でこちらを睨みつける。

そして今度はきちんと通常会話(オープンチャット)であることを確認すると。

 

「恥ずかしいぃぃぃ! もー! 全部、ちーちゃんのせいだからね!」

 

「ごめん…まあ、でも聞いてたのはリプレさんだけだし…」

 

「まあ、りっちゃんも女の子だから別にいいといったらいいんだけど・・・でも恥ずかしいの! きゃー!」

 

そうやって再び顔を塞ぐとハルカさんは目の前で悶え苦しみ出した。

感情表現は豊かなのは彼女のいいところだが、

こんな姿をみたのは正直初めてである。

 

それにしてもリプレさんのおかげで、最悪だったさっきの雰囲気は

無事に解消され、こうしてお互い面と向き合って会話が出来るようになったのは

本当に感謝しなければならない。

 

それにしてもパーティー会話で話してたのは自分だけじゃなくて…

と言いかけようとしたところで胸に仕舞い込んだ。

 

「ところでちーちゃん!」

 

「あ、はい…」

 

顔を覆い隠していた両手の指を広げその隙間から目をぎろっとこちらに向ける。

追求がこれから始まることはその態度から明らかではある。

 

「どんだけ頑張ったのさ!白状しなさい!」

 

「えーと…リプレさんがもう全部言ってたと思うけど…」

 

「もー! 頑張りすぎぃぃぃ!」

 

「いや、まあ、猫耳のときも大体このぐらい狩りしてたから、そんな大した事じゃ─」

 

「ちーちゃん!」

 

こちらの言葉が遮られると、彼女は覆い隠していた手を外し、真剣な表情を向けてきた。

 

「ちーちゃんは…私のためにこんなに頑張ってくれたの?」

 

その問いに一瞬で心が奪われる。

その美しい眼差しと、今にも触れそうな彼女との距離だからではなく、

こんなダメなヤツにこうして再びチャンスを与えてくれる彼女の優しさにだ。

 

だから、今度こそ確固たる意思を持って踏み込み、彼女に対する想いをきちんと伝えようとした。

 

「うん、ボクはただハルカさんが喜んでくれたらいいなと思って…

それにこのウサミミはハルカさんに絶対に似合うと思って。それに…」

 

「それに…?」

 

「ボクは…ハルカさんのことが…好きです。だから…好きな人が喜んでくれることをしたいと思って…

本当の本当にそれだけです。」

 

「………………っ!」

 

この痛い台詞に彼女は声を抑えながら押し黙ってしまった。

 

「あっ…好きっていうのはその…えーと…」

 

慌てて弁解に走る。

 

「………………」

 

「えーと、えーと、そのなんかごめんなさい。やっぱり言い過ぎたかも…」

 

「…ううん」

 

と口を開くと彼女は突然立ち上がり、

再び展望台の方に向かって、トトトと走りだした。

 

「こっちこっち~!」

 

と手招きする彼女に誘われるがまま、後姿を追いかけた。

 

そして、再び、浮島の行き止まりである展望台に着いた。

背中を向けていた彼女がくるりと振り返り、なにやらかしこまった態度を見せると次の瞬間──

 

「よろしい!ではこれからウサミミの授与式を行います!」

 

「えっ?」

 

まさかの展開に一瞬何が起こったかわからなくて、硬直したままでいると。

 

「はやく取引要請頂戴ー!」

 

彼女はせかすようにしてファイヤーウォール(FW)をぶつけて来た。

とはいってもキャラクターにはダメージは発生しないため、何の効果もないが、目の前に火柱があがる。

 

「はやく、はやくー!じゃないと燃やしちゃうよー!」

 

無邪気にいたずらをする彼女を見て、ようやくいつもの彼女の姿に戻ってくれたことに安堵する。

慌てて彼女に近づくと一言。

 

「受け取ってくれますか?」

 

と今度はちゃんと真剣な表情で彼女に向き合って取引要請を出した。

すると彼女はこくりと頷き、取引要請に応じた。

 

そして…その取引窓を通じてウサミミは彼女のインベントリへと渡った。

 

「わぁ……」

 

彼女はウサミミを受け取った後、しばらく動かなかった。

しかしその顔は本当に本当に嬉しそうに心から喜んでいる満面の笑顔だった。

 

その瞬間、ようやく目的は達成され、胸を撫で下ろした。

 

しばらくすると、彼女の頭装備がリボンからウサミミのへアバンドに代わり、

さながらファッションショーのように展望台の周りをうろうろと歩きながら、

色んな角度からお気に入りのその装備を眺めているようだった。

 

そして満足したのか、ぴたっと立ち止まり、こちらを向くと。

 

「…っしい」

 

「うれしいーーーー!ありがとーー!ちーちゃん!」

 

うさぎみたいにぴょんと飛び跳ねたのか分からないが、

彼女は本当に嬉しそうに笑顔を振りまいていた。

 

「本当にありがとう。実は…最初見せてもらったときからホントはとっても嬉しかったんだよ。

でも、ちーちゃんが素直じゃないから…つい…」

 

つっけんどんな表情をし、ダメ出しもするも、その様子はさっきとはまるで違っていた。

同時に何故もっと素直に彼女に対して真剣に接してあげられなかったのかという後悔が深まった。

 

「いや…ボクもダメダメでした。あんなんだからいつもツメが甘いんだよね。

もう、ナンパ師も引退かなー。」

 

「もー。そうやってまた軽口を叩くー。 でも、好きだって言ってもらって嬉しかったよ。

でもー…呼び方間違ってたから減点~!」

 

「えっ…いやそれはその…すみません…緊張しちゃって…」

 

「まだ言うか~!」

 

と再びFWをぶつけて来たので必死に逃げ回るも。

 

「あっそうだ。」

 

何かを思い出したように、彼女はこちらに近づく。

目の前でぴたっと止まり、少し照れくさそうに微笑む。

 

「私からの答えがまだだったね」

 

「えっ…」

 

そう言って彼女は…キスをした。

 

「えへへ。みんなには内緒だからね」

 

残念ながらこの世界でのキスは…アイコン表示(エモーション)である。

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