展望台でのデートから一夜明け──
「あれ? ハルカ、そのウサミミどうしたの?」
溜まり場にログインして来たリーダーが真っ先に彼女の変化に気づいた。
「えへへ、いいでしょ~。 昨日、突然頭から生えたんだよ~。 どう、似合ってる?」
リーダーはウサミミを身に着け、嬉しそうに喜ぶハルカさんの姿をじろじろと嘗め回すような視線で見る。
「ふぅん…まあ、俺は生涯グラサンだから別にウサミミなんて興味ないしなー。」
リーダーは「けっ」と気に入らない素振りをしながら不機嫌そうに吐き捨てた。
その態度にさっきまではしゃいでいたハルカさんの表情が少しだけ曇る。
普段、どのメンバーに対しても明るく接し、優しく、元気付けてくれるムードメーカー的存在の彼女だが、
こうして不貞腐れたり、文句を言ったりするメンバーが原因で
溜まり場やパーティー会話の雰囲気が悪くなるといつも対応に苦慮している姿を目にする。
主な原因となるのはリプレさんとリーダーぐらいなものなのだが。
しかし、彼女が落ち込むのは一瞬で、すぐに何かを思いついたようにしてこちらに視線を向け、
下から覗き込むようにして首を傾けてきた。
一瞬たじろぐと、彼女は嬉しそうに自慢のウサミミを動かし、片目をまばたいてウィンクをした。
「じゃあ、ちーちゃんにも改めて聞いてみようっかな~。 ウサミミ、似合ってるかな?」
そのわざとらしい質問に戸惑うも、
可愛らしい彼女のウサミミ姿に思わず本音の感想が零れる。
「え、えっと…とても良く似合ってる…と思います。」
その言葉にふふふと嬉しそうに笑う。
「でしょー! 実はこのウサミミ素敵な方からプレゼントしていただいたものでー」
その言葉に「えっ…」となると同時にリーダーも反応し、
声を荒げてハルカさんに問いただす。
「おい、ハルカ! 誰なんだよ。そいつは!」
「うーん、誰何でしょう?」
「な、なんだそりゃ…?」
一瞬、自分のことをばらされるのではないかと思いきや、
まんまと肩透しをくらいリーダーと共にずっこけた。
「実は…昨日、隣のフィールドで気晴らしにポリンを叩いたら、なんと…ウサミミがポロリと!」
すると彼女は再びこちらを見て目配せを送る。
その仕草にようやく状況を理解すると、彼女の作り話に慌てて対応する。
「へ、へぇ~…誰かがポリンに食わせちゃったんですかねぇ…勿体無い。」
「うーん、もしかしたらちーちゃんみたいなナンパ師さんが仕込んだサプライズの可能性も…むむむ。」
「ボクみたいな変人もいるんですかねぇ…」
そんな二人の芝居に思わずリーダーから鋭いツッコミが入る。
「おいおい、ウサミミなんてレアを簡単にポリンに食わせるわけねーだろーが。」
「いやいや、リーダー、もしかしたら引退した人が捨てたのかもしれませんよ?」
「う、うーむ…まあそうかもしれないけどさー。」
ハルカさんも「うんうん」と頷き、リーダーを丸め込もうとする。
二人の力説に腑に落ちないながらも少しずつ態度を変える──あと一歩だ。
「なので実はこのウサミミはプレゼントじゃなくて落し物で、一時的にお借りしているだけなのでーす。」
「借り物か…それなら、まあいいか。 でもちゃんと持ち主が現れたら返却しろよ。」
「はーい、任せて!」
リーダーは少しだけ腑に落ちないと感じつつもそれ以上は言及はしなかった。
ハルカさんの作り話が上手かったのか、それとも自分のフォローが良かったのかどうかはさておき、
どうやら上手くいったことに安心したのか、彼女はちらりとこちらをみて「やったね!」と合図を送ってきた。
実はあの展望台で出来事の後、ウサミミの出所については
メンバーには内緒にしておいて欲しいという御願いをしていた。
やはりパーティー内で特定のメンバーだけを贔屓することは軋轢を生みやすいし、
カップルや相方のような目で見られることで、
メンバーから不要な気遣いや冷やかしされることを避ける意味もある。
こちらとしては独占は望まないし、何よりも彼女自身も同じ気持ちだろう。
そんな、贔屓した側がこんなことを言える立場ではないのは重々承知のうえで
お願いをしたところ「ちーちゃんがそれでいいなら」と二つ返事で了承をもらった。
なのでこのやり取りは彼女なりのストーリーを作り上げ、リーダーに配慮した形を取りたかったのだろう。
変な揉め事になる前にこうして互いの感情を丸くおさめる彼女のバランス感覚は流石である。
それにしてもついこの間まではリーダーもウサミミを手に入れるために
東奔西走していたくせにメンバーに先を越された途端、
こんな態度をとるなんて全くもって器の小さい男である。
それと事情を知ってるもう一人のメンバーについては特に口止めなどはしなかった。
彼女のことを自然と信頼するようになっていたし、
そもそもメンバーとあまり会話もしないので下手に手を回す方が逆効果と判断したからだ。
何はともあれ、一瞬険悪なムードが漂うところだった溜まり場は
彼女の見事な立ち回りで落ち着いた雰囲気を取り戻したのだった。
ところで結局のところ自分とハルカさんとの関係って一体どうなったのだろうか?
相方? 婚約者? それとも…恋人?
少なくてもこちらの好意は伝えているわけだが、実は今だにはっきりしていない。
一抹の不安がよぎるも、こうして秘密を共有してるだけで十分満足だし、
あまり肩書きにこだわって焦る必要もないと自分に言い聞かせた。