ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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ピラミッドダンジョンへ 後編

ピラミッドダンジョンは四大都市の一つである砂漠の都市モロクに隣接している。

また地下にはシーフの転職施設があり、シーフを志す人は一度はここを訪れる。

 

ダンジョンと言えば地下に潜るのがお約束となっているが、

現状、ピラミッドダンジョンは地下が一階、地上が四階の階層構造で、

上に登るにつれてモンスターも強くなっていく。

そして最上階の"ピラ4"が最も難易度が高く、廃人御用達の狩り場となっている。

 

"ピラ4"は最近まではあのトレイン・マジシャン有名なArip(アリプ)がやりたい放題していたこともあり、

ここでまともに狩りするにはそれなりのレベルと、ある程度の傲慢さと強い精神力が必要であるということは

うちのリプレさんを見ていれば明らかであるだろう。

 

ちなみに出現するモンスターはピラミッドの地にゆかりのある"マミー"や"イシス"の他、

王の墓場らしくスケルトン系、ゾンビ系のようにアンデッド属性が中心となるため、

対アンデッドスキルが充実しているアコライトにとっては絶好の狩り場であった。

 

しかし、そんな廃人やアコライトに人気の"ピラ4"ではあるが、

狩り場としての人気で言えばやはり四階よりも三階──"ピラ3"だろう。

 

"ピラ3"は卍型の回廊構造になっていて、道から外れたところは全て奈落である。

そして、中央の入り口から四階へ道の途中に横道のような狭い側道がいくつもあり、

その道に入ると奈落を挟んで他の側道が対岸のように見渡せる。

 

そしてこの側道は遠距離攻撃が可能なアーチャーやマジシャンであれば

対岸にいるモンスターに対して反撃を受けることなく、

一方的に攻撃可能な通称"崖撃ち"が出来る構造になっている。

 

そのせいで、"ピラ3"はこの"崖撃ち"をするために

沢山のアーチャーやマジシャンが側道にずらーっと横並びになり、

対岸のモンスター目掛けて、弓矢やら魔法やらをぶっ放していた。

 

無論、このようなほぼノーリスクで狩りができる"崖撃ち"という手法については

以前にタヌキ山で流行った"撒き餌"と同様にマナーが問われ、

同様にプレイヤー間では議論──という名の舌戦が白熱していた。

 

どんな場所でもこのような"いざこざ"は絶えないわけで──全く困ったものである。

 

***

 

《ソウルストライク!!》

 

ハルカさんの放ったスキルは通称"SS"と呼ばれ、古代の魂を呼び出して攻撃する念属性魔法である。

ネイパームビートと同様に詠唱をほとんど必要とせず、

単体魔法ではあるものの高い威力を誇るマジシャンの取得必須のスキルである。

 

それにしてもハルカさんのINTの高さは見事なもので、

ソルジャースケルトンやアーチャースケルトンといったモンスターであればほぼ一撃で骨クズにしていた。

 

そんなハルカさんはダンジョン内でもいつもと変わらず、はしゃぎながら、

とても楽しそうにしてモンスターを倒していく。

 

緊張感がないのは色々問題だが、今いるエリアは二階であり、大して強いモンスターは出現しない。

わざわざこちらがモンスターのターゲットを取る必要もなく、

彼女がやりたいように後ろから見守っていた──のだが。

 

「うー…、迷った…。」

 

どんどん先に進むもんだから順調かのように見えていたが、どうやらそれは勘違いだったらしい。

意気揚々と先陣を切ったものの、ハルカさんは何度も道を間違えていた。

 

まあ、ピラミッドの一階と二階は迷路のような複雑な構造になっているため、

道順を覚えていないと、当然迷う。 まさにピラミッドの洗礼をまとも受けてしまったわけである。

 

そして見事にはまってしまったことにハルカさんは膨れっ面を見せると、

その表情がなんだかとても微笑ましく思えて──思わず笑ってしまった。

 

***

 

そして、いよいよ三階──"ピラ3"に到着した。

ここからは先ほどと打って変わって強力なモンスターが出現し始める。

先ほどまでは迷路のようになっていたため、通路も狭く、敵のリポップも(まば)らだったが、

ここの卍方の通路は意外と広い。

 

そのため、道を進むと四方からモンスターに囲まれる危険があり、

注意しながら慎重に通路の端に沿って四階の入り口まで移動する。

 

すると、視界にはありとあらゆる髪型や頭装備をしたアーチャーとマジシャンが

側道の入り口から奥までずらりと並び、

モンスターが沸くのを今か今かと待ちわびている光景が目に入った。

 

噂の"崖撃ち"エリアは今日も盛況で、その様子を見ていたハルカさんはそっと自分の耳元で囁いた。

 

「うわー…、なんだか酷いね…。 あれじゃあ対岸にいる剣士さんが可愛そうだよ…」

 

彼女の言い分はもっともで、対岸にプレイヤーがいようがいまいがターゲットを取られる前なら

横殴りではないという理論により、対岸にモンスターが出現するや否や容赦なく弓矢や魔法を打ち込む。

 

こんな事をされたら普通のプレイヤーなら当然腹を立てるだろう。

まあ、自分ならば特に気にしない…というより、

こんなところでは一人で狩り出来ないので気にする必要もないのだが。

 

すると対岸にいたソードマンの一人が腹を立てたようで、

奈落の先にいるアーチャーに向かって声を荒げている様子が伺えた。

そんなプレイヤー同士トラブルがいつも起こっている

この"ピラ3"現状を目の当たりにして予想通りハルカさんは心を痛めていた。

 

元々、こちらもマジシャンとシーフのペアでなので"ピラ3"で"崖撃ち"をする方が

より安全に狩りが出来るかもしれない。

しかし、ハルカさんがこの狩り方を許すわけもなく、

はなっから目的地は最上階である"ピラ4"以外に選択肢はなかった。

 

そしてトラブルに巻き込まれないためにも早々に目的地を目指した。

"ピラ4"へルートは全部で四箇所あり、"卍"となっているそれぞれ先端部分に四階への入り口がある。

どのルートも距離も構造も対して変わりはないのだが、なんとなく北西の入り口を目指し、歩むを進めた。

 

途中、マミーに四体の群れが襲いかかってきた。

一匹はハルカさんの方に向かっていったので落ち着いてハルカさんのターゲットを引き剥がし、

四体全てのターゲットを奪い取った。

当然、FLEEも大分落ちているにも関わらず、マミーの攻撃は見事に空振りし、ほぼ全てを避けきっていた。

 

元々、マミーは必要FLEEも低いため、四体であれば自慢の回避能力はまだまだ健在で、

最大回避確率を維持できてるようだった。

 

《ソウルストライク!!》

《ソウルストライク!!》

……

 

そしてそのまま抱えたマミーをハルカさんは落ち着いて丁寧に一匹ずつ処理していくと、

追加モンスターも出現せず、見事に殲滅に成功した。

 

「やったっ!」

 

思わずひとりでにガッツポーズが出る。

最初は囲まれた数が少し多い気がしたが、この程度ならまだまだ余裕があることが証明された。

また、彼女の殲滅力の高さは素晴らしく、SSを連打して一匹、二匹とあっという間に倒してくれたため、

ほぼ被弾することなく、撃破することが出来た。

 

「なーんだ、これなら"ピラ4"も楽勝だな。」

 

思わずニヤっと白い歯を見せる。

根拠のない自信をみなぎらせる自分とは対照的に

隣にいるハルカさんは何故か不安を抱えている様子だった。

 

***

 

ピラミッドダンジョンに突入してわずか十数分で最上階である"ピラ4"の北西の入り口に到着した。

途中、ハルカさんが道に迷いさえしなければもっと早く着いたということは胸にしまっておこう。

 

"ピラ4"はこれまで通って来たエリアと違い、何故か重く暗い雰囲気が漂っていた。

どこからともなく滴り落ちる水の音が響き渡り、そして臭気のようなもやが辺り一面を覆い隠す。

わずかに一隅を照らす灯火が奥へ奥へと(いざな)うような道標となり、

先が見えない暗闇に対して一層の恐怖を与えていた。

 

「なんか…ここはさっきと雰囲気が違うね…ちょっと怖いから端っこを歩いてこ…」

 

弱々しい口調で彼女は呟く。

確かに彼女の言うとおり、これまでとおり過ぎたマップの雰囲気とはまるで違うことは

雰囲気から察したが、そうは言っても出てくるモンスターは二階や三階とさほど違うわけもなく、

それぞれのモンスターも最大回避率は確保しているのであれば

この"ピラ4"とて余裕で狩り出来るのではないかと考えていた。

 

そしてここは四隅に進入口、そして中央に水場があるぐらいで

あとは障害物もないだだっぴろいタダの真四角のマップである。

 

そのために四方八方から囲まれるかもしれないが、

彼女の殲滅力であればそれほど気にする必要はないのでは?と考えていた。

 

何故、彼女がこれほど不安を抱えているのか分からないが、

どちらかというと自分としては少し拍子抜けしていた。

 

それはゲフェンダンジョンのようにナイトメアといった超強力なモンスターがいるわけでもなく、

噂に聞いていた大量のモンスターの影も見えない。

もしかしたら単にあのアリプが暴れていたせいで沸きがおかしくなって、

難易度を跳ね上げていただけかも知れない。そんな結論に行きつくと、

彼女を不安を解消するために思い切った行動に出た。

 

「端っこじゃ大してモンスター沸かないし、中央のエリアに行こうよ。」

 

「えっ…でも…無理ない方がいいんじゃない…。」

 

「大丈夫! ボクが守って見せるよ!」

 

自信満々に胸を張る。すると彼女は少し悩み、相変わらず不安そうな表情をしながらも

 

「うーん…、わかった。ちーちゃんがそう言うなら…。」

 

と頷いてくれた。

 

そして彼女を連れて中央の水場を目指した。

とは言っても中央に向かってただ歩くだけであるが、

自信たっぷりに先陣を切り、奥へと進んだ。

 

水場らしきものが視界に入る、目の前にマミーの群れが現れ、襲い掛かってきた。

先行していたことが幸いして、ターゲットは全てこちらが奪っていたため、

後から追いついてきたハルカさんが、魔法スキルを叩き込んだ。

 

《ソウルストライク!!》

 

先ほどの"ピラ3"と全く同じパターンである。

お互いに低レベルとはいえ、攻撃と防御に特化したペアである。

 

壁役である自分がターゲットを奪ってしまえば後は簡単である。

 

まあ、注意するのは彼女がモンスターにターゲッティングされないよう、

細心の注意を払うことぐらいで、その程度であれば楽勝である。

 

お互いの弱点を補うことでより強力なモンスターに対抗する。

これこそがペア狩りであり、パーティプレイであり、AGIシーフとINTマジシャンの闘い方である。

 

結局自分の理論は正しいことが証明されたのだ。

ステータスが偏っていようとも、レベルが低くても仲間と協力することで

どんな困難も打ち破ることができる。

結局、"あいつ"の言っていたことは所詮は何でも一人でやろうとする

ソロプレイ思考で凝り固まった考え方なのだと認識した。

 

マミーの群れを難なくと殲滅させると、再び、別のモンスターが後ろから沸いた。

今度はイシスが、ハルカさんの方に向かって襲い掛かってきた。

敵の攻撃が彼女に届く前に素早く反応し、短剣で一撃を加える。

 

「よし!これでターゲットは奪った!」

 

がしかし、すぐにまたマミーが沸き始め、彼女に向かって襲い掛かってくる。

イシスを抱えながら、マミーのターゲットも取る。

 

これぐらいは大したことはない──はずだった。

 

二体目のターゲットをとった瞬間、今度は二体同時にイシスが出現し、

一匹は自分、もう一匹はハルカさんに向かってきた。

 

「まずい!ターゲットを取らなけえれば…!」

 

三体のモンスターを引きずりながらイシスから逃げ回る彼女を追いかけ、

やっとのことでハルカさんからモンスターを引き剥がす。

 

そして彼女はイシスに対してソウルストライクを叩き込むも、

一撃で沈まない。どうやらイシスはマミーと比べて魔法防御力が高く、

彼女の火力を持ってしても一撃では倒せないようだった。

しかし、すぐさま次弾を叩き込むことで、ようやくイシスを撃破した。

 

敵の数が減り、安堵するもすぐにマミーとイシスがすぐ近くに湧き出し、襲い掛かってくる。

ハルカさんはSSを連打し、なんとか応戦するも数の暴力としか言いようがない横沸きに混乱してしまった。

 

「な、なんなんだ…一体!?」

 

彼女はほぼ無言のままに、敵に攻撃されないように逃げ回りながら、SS連発していく。

殲滅力は見事であるため、数は減るもののすぐにおかわりが襲ってくる。

 

肝心の自分はというと、この非力っぷりでは大したダメージを与えることができないため、

ただひたすらにタゲ取りマシーンのように、ターゲットを引き剥がしては抱えるといったことに撤していた。

そうして、四匹までは何とか避けていたものの、ついに殲滅と沸きのパワーバランスが壊れはじめ、

五匹目を抱える羽目になってしまった。

 

すると、今までなんとか避けていたモンスター達の攻撃をみるみる被弾するようになり、

HPがレッドゾーンに向かって減りはじめていった。

 

「このままじゃまずい…回復しないと…」

 

狩り開始前に大量に買い込んだ高級ポーションのおかげで、

なんとか『壁』としての機能は果たしていたものの

もはや身動きすら取れないただのデクの棒のように必至に耐えることしか出来なくなっていた。

 

しかし、このまま耐えればこの沸きもいずれ収まり、凌げるかもしれない。

そんな一縷(いちる)の望みに賭け、残り少ない回復財を必死に使用する。

 

すると彼女はまだ目の前に大量のモンスターは残っているというのに絶望したような表情を見せ、

床にへたれ込んだ。

 

「ど、どうしたの!? はーちゃん、早く攻撃して!」

 

「ちーちゃんも攻撃して! 私、SPが切れてもう無理!」

 

今まで聞いたことがない彼女の悲鳴というよりも怒号のような叫びに、ようやくこの事態を飲み込んだ。

 

ソウルストライクは確かに高威力の詠唱をほぼ不要とする速射型の魔法スキルである。

そしてそんな便利なスキルが何の制約もなしに手軽に使えるわけがない。

そう、このソウルストライクは他のどの魔法よりも消費SPが高く、

そんなSP消費の激しい魔法を連発したせいで彼女のSPはとっくに空になっていたのだ。

 

その瞬間、自分の無力さを痛感した。

ただターゲットを取るだけでまともに攻撃することもできない貧弱なシーフに

彼女を守るすべなんてなかったのだった。

 

そして、火力を失ったパーティーにもはや打開の手段もなくなったため、回復剤を叩くのやめた。

するとレッドとイエローの間を拮抗していたヒットポイントも色を失うと、あっという間に沈んだ。

そして、こちらを取り囲んでいたモンスター達の矛先が肩を落とし俯いているマジシャンに向かうと、

彼女もまたあっという間にピラミッドの床に倒れた。

 

二人が倒れた瞬間にターゲットしていたモンスターが一斉に拡散した。

恐らく十匹近くはいたと思われるその数に

このダンジョンが何故(なにゆえ)最難関ダンジョンであるのかということを思い知らされた。

 

"ピラ4"に到着し、そこから狩りを開始してわずか数分で"強さの証明"は終わりを告げたのだった。

 

「リプレさんは、こんな場所で狩りをしていたのか…」

 

二人の死体の上を彷徨うモンスターの群れに驚愕する。

もはやモンスターハウスと呼ぶに相応しいその数を一体どうやって攻略すればいいのだろう。

 

そんなとき──青髪のロングヘアーをした一人の女アコライトこの群れに突っ込んできた。

 

モンスターの群れは容赦なくそのアコライト向かって攻撃を始める。

まるで嵐のように激しい被弾の雨あられにも関わらず、彼女は涼しい顔している。

 

「なっ……」

 

するとあることに気づく。そのアコライトが受けているダメージはたったの"1"あり、

平然としながら、モンスターを素手で殴り続けていた。

 

この防御力こそがアコライトが持つ対アンデッド用の最終兵器(パッシブスキル)である

デバインプロテクションがある。

 

唖然としながら、そのアコライトの耐久力に目を奪われる。

噂にしか聞いたことがなかったその強さを直に見て、

たかが四、五匹でひいひい言ってた自分の弱さに情けなくなってしまったのだ。

 

そしてこのアコライトはモンスターを溜め込むこともなく素手で敵を殴り続けて次々に殲滅している。

アコライトは素手の場合の基礎Aspdが高いため、

ある程度のSTRがあれば武器を装備しないほうがダメージ効率は高くなるのである。

 

そしてこのアコライトの名前である"Nekoko(ネココ)"の文字を見て気づく。

 

あのフェン=アルバートの日記にも登場する有名なプレイヤーで、

ピラと同じアンデットモンスターが多く出現するフェイヨンダンジョンを

今と同じように"素手"で狩っており、

 

「フェイヨンなんざ素手で」

 

という名言を残した、最狂のアコライトと名高い、

別名"にゃんこ先生"と呼ばれるプレイヤーである。

 

そんな聖職者とは思えない狂気のアコライトが次々とモンスターを撲殺し、

ついにこのモンスターハウスの掃除を完了させてしまったのだった。

 

すると彼女はこちらの方に近づくと。

 

「南無。」

 

と一言だけ残し、あっという間に立ち去ってしまった。

 

この台詞は死んだプレイヤーに対して哀悼の意を込めるものであるが、

今のこの状況では無様に死んだ僕らに対してはネガティブに捕らえることできず、

まるで侮辱しているようにも聞こえてしまった。

そのせいで惨めな雰囲気はより悪化し、ハルカさんに一体何の言葉をかけていいか

分からないぐらいの情けなさで一杯になってしまった。

 

──甘かった。

 

もはやこの言葉しか、言い訳が思いつかない。

この"ピラ4"の沸きは異常である。

推測だが、モンスターがそれほど強くないせいもあり、殲滅力の高いプレイヤーによって

大量に倒されてしまうせいでモンスターが次々リポップしてくるのが原因であると考えられる。

 

そのためには敵を殲滅するだけの火力を"維持"し続けることができなければ

いずれは数の暴力で圧殺されてしまうということを理解した。

 

そんな自分の中の反省とこのダンジョンに対する心構えの考察をした後、

調子に乗ったあげく、彼女を死なせてしまった自分を直視できず、なかなか口を開けずにいた。

 

そして、彼女も床に伏してからというもの何も喋ろうとしない。

もしかして──じゃなくてきっと怒っている。

そんな雰囲気に押されてしまい、こうして沈黙が続いているわけだが、

やはり何か喋らないとこの場が持たない。

そんな気がして卑怯にも自分の失態をごまかすため、

話題をあのアコライトのことに置き換えた。

 

「あの、アコライトさん強いね…きっとレベルも高いんだろうな~…」

 

するとはるかさんは静かに口を開いた。

 

「ねぇ、ちーちゃん。多分ここで狩りするのは無理だよ。もう、帰ろう。」

 

アコライトの話題には触れもせずに今の彼女の心境がありありと分かるほど明確な答えを出した。

 

「うん、わかった。じゃあ、ピラは止めて他のところへ行こうか?」

 

今更感のみが見え隠れするその提案に彼女は。

 

「あー。悪いけど、少し用事ができちゃって、落ちないといけないから、また今度にしよう?」

 

その言葉に唇をかみ締めると、精一杯の気持ちで取り繕った。

 

「あ、うん……分かりました。今日はもうログインしない?」

 

「うん、今日はログインしないかな…また明日ね。」

 

「分かった、また明日。」

 

明日の約束だけは何とか取り付けると彼女は死体のまま、ログアウトした。

こうしてわずか十分足らずのペア狩りは何の成果も得ることなく終了してしまった。

 

彼女の言葉はありありと"嘘"であるとわかったが、

言及することはしなかったし、する権利はどこにもなかった。

 

「かっこいいところ見せられなかったな…」

 

邪な気持ちを今だに抱きつつも自分の弱さを痛感する。

 

『MMOにとって、弱さは無知と同じぐらい罪』

 

昨日、リプレさんの言ってた事は何一つ間違っていなかったにも関わらず、

どうしても認めたくなくて、むしゃくしゃしながら一人、ゲフェンダンジョンへ向かった。

 

 

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