ボクとネトゲと黒歴史   作:ChiRu708

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フェイヨンダンジョンへ

──山岳の都市フェイヨン

 

首都プロンテラより南東に位置し、森の中に囲まれたその都市は

チェンムリン湖という湖に面しており、α版から存在した最古参の都市の一つである。

 

プロンテラからフェイヨンへ歩いて行く場合には

"迷いの森"という緑が生い茂る深い森を抜ける必要があり、道のりは意外と長い。

とはいえ、"迷いの森"とは名ばかりで、その実は初心者(ノービス)達が

レベル上げをするただのフィールドであった。

 

フェイヨン自体は湖に面していることもあり、街全体が豊かな水に囲まれている。

そのため入り口は巨大な木造の橋が架かっており、

橋を渡り門をくぐるとようやくフェイヨンの街並みが見渡せる。

 

西洋風の建築物が立ち並ぶプロンテラやゲフェンとは異なり、

木造の建物が目立ち、若干古めかしくも独特の雰囲気をかもし出している。

 

街の大きさ自体は恐らく、四大都市の中で最も狭い。

とはいえ木々の青々とした緑豊かなその街は

どこかの片田舎のようなゆったりとした景観を好むプレイヤーも多く、

この街を溜まり場にしているパーティーも数多くいた。

 

また、街自体は二つのマップに分かれていて、

奥には弓手村と呼ばれる集落があり、アーチャーの転職場となっている。

そしてこの弓手村の最奥にあるのが目的地である

"フェイヨン地下洞窟"──フェイヨンダンジョンの入り口がある。

 

***

 

フェイヨンダンジョンは、現時点では地下三階まであり、

低レベルから高レベルのプレイヤーまで幅広いレベルで狩りをすることが出来るダンジョンで

特に出現するモンスターのほとんどがアンデットモンスターということもあり、

"アコライトの聖地"とも呼ばれていた。

 

そんな聖地に似つかわしくない、一人のシーフが降り立った。

 

ダンジョンまでの道のりが意外と長いことを知り、

さっさとプロンテラにいるポタ子の力を借りて、道中全てをすっ飛ばしてきてしまったものの、

実はフェイヨンダンジョンに来るのは初めてではない。

 

ナンパ師をやっていた頃に猫耳のヘアバンドを配るため、

アコライトがたくさん滞在する場所はないかと右往左往していたときに

偶然にもこのダンジョンの三階入り口でアコライトがわんさかと座っているという噂を耳にし、

目の保養も兼ねてダンジョン内部の探索に来たことはあった。

 

まず、一階と二階だが主にスケルトン系のモンスターが出現する。

せいぜいソルジャースケルトン程度のモンスターのため、

難易度はさして高くなく、発展途上のプレイヤーがここをメインにしていることが多い。

 

ダンジョン自体はどこにでもあるような地下洞窟になっていて

街の大きさと反してダンジョン内は意外と広く、入り組んでいるものの、

迷うようなことはなく、順路を追っていけばいずれ次層の入り口へ到達する。

 

そして、三階からガラリと雰囲気が変わり、

屋敷のような建物の廃墟がダンジョン内のあちらこちらに点在する。

その荒れ果てた様子から、かつては人の住んでいた名残りが姿を現す。

 

また、ここから出現するモンスターも新たに増え、

ムナックという名称で『硬直した死体』という意味を持つ、いわゆる死体妖怪(キョンシー)が出現する。

中国の民族衣装を身に纏い、モンスターでありながらもその見た目の愛らしさから

"ムナックたん"の愛称で愛称で親しまれ、プレイヤーに人気のあるモンスターであった。

 

とはいえ、ムナックは他のアンディットに比べて、HPや防御力(DEF)も高く、容易に倒すことはできない。

移動を頻繁に繰り返すため、索敵範囲も広く、油断すると直ぐに囲まれてしまうため、注意が必要である。

 

今回も最短距離のルートを通り、二階の出口近くにある水場を抜けて三階へと辿り着いた。

三階の入り口に到着すると、入り口周辺はたくさんのアコライトが座りながら雑談をしており、

さながらゲフェンダンジョンの地下二階と同じような光景がそこにはあった。

 

そういえば、前にここに猫耳のヘアバンドを配りに来たときに

ほとんどのアコライトが"猫耳"を装備していたのでそそくさと退散したのだが、

今はもうブームが終わったのか、ほとんどのアコライトは"うさ耳"を装備していた。

 

やはり可愛いものには目がないのか、レベルが高いこともあって、

欲しいものをいとも簡単に手に入れてしまうのは流石である。

 

可愛いアコライトが一同に介するこの溜まり場には当然、男のアコライトもいるため、

普段は視界に入らないようにしていたが、今日はそんなことをする余裕もないので

気を引き締めてダンジョンの奥へ向かった。

 

***

 

「ぴぃぃぃぃ!」

 

可愛らしい断末魔がムナックから放たれる。

びょんびょん飛び回る姿も可愛らしいのだが、この倒されたときの声も中々のものである。

 

それにしても比較的通路が狭いこともあって、

広場に出たとき以外はさほど苦戦を強いられることもなかった。

 

そうこうしているうちにあっという間にマップのど真ん中に位置し、門構えの建物がある広場に到着した。

恐らく地下四階への入り口であろう、この場所はまだ奥に進むことができないため、

この先は何があるのかはさっぱり分からないが、

この佇まいから恐らく寺院のようなものを勝手に想像していた。

 

また、この場所は三階の丁度中間地点に当たるため、

更にその奥の通路を過ぎると、再び入り口のある広場に戻ってくる。

そのため、ゲフェンダンジョンと同じようにぐるぐると周回するスタイルで狩りをすることにした。

 

***

 

周回を始めて一時間が経過した。

おおよそダンジョン内を三周した後、再び先ほどの広場に戻ってきた。

 

結果、沸きも"ピラ4"に比べた大したことはないし、十分殲滅も間に合うレベルだった。

しかし、自身の低火力のせいでムナック一匹を倒すスピードが遅く、

経験値も対して高くないため、時間効率を考えた場合、

やはり低HPモンスターを数多く倒すほうがより効率的であるという結論に至った。

 

「まあ、結局はキノコ狩りが最終狩場なんだよな…」

 

なんとなく、新たな出会いを求めて、アコライトの聖地に来て見たものの

やはりこんな場所でシーフ一人でいるのは異質なのだろうか。

アコライトが狩りをしている横を通りすぎるたびに、

汚いものを見るかのような視線のようなものを感じていた。

 

結局、ここへ来てまだ誰とも会話をせず、一人空しくソロを勤しんでいたものの

もはや色々と諦めムードだった。

 

「ま、あと一時間ぐらいは狩りをしてからいくか…」

 

いつもなら一時間の狩りなど大したことはないのだが、

色々と疲れが貯まっていたのもあって少しの間、休憩(AFK)をすることにした。

 

アクティブモンスターが出現するマップでAFKをするのは当然だが死ぬリスクが高い。

そのため、安全を考えた場合はログアウトするのがいいに決まっているが、

ログアウトするとせっかく貯めた"フェロモン"がリセットされてしまうため、これを避ける必要があった。

 

そこで登場するのがシーフの持つ、唯一の使えるスキル──ハイディングである。

これは文字通り、敵や他のプレイヤーに見つからないようにキャラクターが地中に潜り、

姿を隠すするスキルである。

 

自分のシーフのハイディングの取得レベルはMAXのため、五分間は敵に見つかることはない。

まさにこのスキルはAFKするためにあると言っても過言ではないだろう。

 

《ハイディング!!》

 

余裕のAFKである。

 

 

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